雄志社大学柔道部

副主将の受難

その6

 

3回生

 

 内柴が食堂の片隅で衆目に晒されながらの生活を始めてから、一ヶ月近い日々が過ぎていた。

 それまでひたすらに全身を嬲られ、あらゆる性感帯をほぼ一日中にわたって責め立てられながら射精を禁じられてきた肉体は、もはやその首筋に誰かの指先が触れた刺激だけでも小さな悲鳴を上げさせるほどに滾り勃っていた。

 内柴自身、講義や練習という毎日の生活はなんとか周囲の支えでこなしてきてはいるものの、本人の頭の中は、もう射精したいという雄としての本能に支配されているような気配もあり、同学年の部員達しか話しかけられない雰囲気をまとい始めている

 

「シバの奴、そろそろイかせないと、やばいんじゃないか?」

「このまま射精させないと、逆に試合のときとんでもないことになりそうだな」

「練習のときでもあいつの『待った』、すげえ多くなってきてるし、なんなら畳に上がる前からおっ勃ててやがるからなあ……」

「本来の目的は刺激に対して安易に勃起しない、射精しない耐性をつけるためにはずだったんだがなあ……。どっちかというとちょっとした刺激でより勃ちやすくなってんじゃないか、あいつ」

 

 寮の一室に、内柴を除く3回生9名全員が集まっていた。

 先月に開始された内柴の肌鍛錬について、当初は試合まで禁欲させつつの責めを行う予定であったのだが、一ヶ月経過した段階での様子から、1度溜まりに溜まった汁を抜いておいたがいいのではという意見が出始めていたのだ。

 団体戦レギュラーは3回生の中の4名だが、他の者たちも幹部学年としての自覚はあるのだろう。主将である古賀1人に考えさせるつもりではないようだ。

 

「あんな感じだと、たとえ射精解禁にしたとしても、到底1度や2度の射精じゃおさまんないだろう。そこらへん、どうするよ?」

「逆に何回イケるか、連続射精させてみるか?」

「肌への刺激と射精がシバん中で結びついちまうと、逆効果なんじゃないか?」

「つーことは、やっぱり扱いてイかせるってのが一番いいんかねえ」

「ただ、自分がもしやられてる側って考えると、いっそチンポの刺激抜きにイかせてほしくなってるんじゃないかとも思うがな」

「それって、いわゆるフリーハンド射精って奴かあ??」

「それもいいが、やはり射精をある程度我慢出来たインセンティヴとしての射精にしないと、意味がないんじゃないか?」

「うーん、たとえば平均的な試合時間、直接的な責めに耐えて射精を我慢出来たら、褒美として射精解禁するとか?」

「それ、いいかもな。4分+延長考えて、7分×3試合分とかどうだ?」

「だとすると休憩とかロスタイム考えて、30分耐え抜いたら、ぐらいか?」

「耐えるより途中でイッちまった方が楽って考えもあるぜ」

「ああ、そう考えるとそうか……。となると、途中でイッちまったら何かペナルティ発生させないとバランス保てねえな……」

「ペナルティったって、今の状況がもう思いっきりそれっぽいわけで……」

「練習での約束稽古、受け200本とかやらせても、あいつもともと根性はあるから受けきってしまいそうだしな」

「去年の夏稽古、吐きながらこなした奴だぞ。たいていのことじゃへこたれるどころか、いい練習が出来たってなるだろうよ」

 

 全員が頭を抱える。

 そんな雰囲気の中、ぽつりと呟きが聞こえる。

 

「あまりいいやり方では無いとは思うんだが……」

「ノム、なんか考えあるのか?」

 

 それまで口をつぐんでいた野村が語り出す。

 

「その、時間までに堪えきれずにいっちまったら、内柴の寮内での上学年としてのすべての権利というか権威というか、それを全部剥奪する、なんてのはどうだ?」

「どういうこった?」

 

 体重では部内一を誇る斉藤が声を上げる。

 

「お前らも溜まったら下の奴ら使って色々やってるだろう。アレって暗黙の了解っつーか、あくまで『上が下に対して命令してヤってる』ワケだ……。上野もんの健胃を侵させないためもあるが、下の奴に対しては『自分からヤりたいわけじゃないが、命令だから仕方ない』って言い訳を用意するもんでもあるよな」

 

 野村の説明に他のもの達も合点がいったようだ。

 

「なるほど! ぶっちゃけ言うと、俺達が下の学年にしごかせたりしゃぶらせて性処理してるのを、あいつを下の奴らが自由にしていいってことか!」

「かなりえげつなく無いか、それ?」

「今の状況そのものが、あいつの中では「部のため、自分のためにやってくれてる」ってのがプライドを支えてるはずだ。そいつを崩壊させることになるわけで、あいつとしてもそこは譲っちゃならないってなるんじゃないかと俺は思う」

 

 今回の内村への鍛錬にはあまり積極的に関わってこなかった野村ではあったが、これまでの濃厚な付き合いの中、内柴の性格はよく理解しているのだ。

 その話を聞いた主将の古賀が、重い口を開いた。

 

「俺も野村の案に賛成だ。あいつのプライドなら、それだけは必死になって耐えるだろう」

「それでももしあいつが途中でいっちまったら、マジでそれ、やるんかよ? 俊彦……」

 

 心配そうに言う飯田健志郎(100キロ級)は、やはり同じ学年としての情が湧いているのだろう。

 

「そう考えとかないと、マジもんだってことがあいつや部内の連中にも伝わらんだろう。実際、明友の寮じゃ、それをシステム化してやってるってことだからな」

「『寮僕』って奴か。あれ、マジらしいな」

「ああ、この前も向こうの主将とちょっと話しててな。柔道部はレギュラーになれそうに無い1年の中から指名するらしいが、他の部だと上の学年の奴がやることもあるらしい。当然下の学年の奴に『使われる』ことになるそうだ」

「たまらんな、それ……。しかもあっちの奴ら、けっこう上下厳しいって聞くから、逆転したらかえって凄いことになるだろう」

「うちはその点、割と緩いからな。校風っていうか、部毎にだいぶ違いはあるんだろうが……」

「まあ、俺達としてみるとあいつがその『シゴキ』にまずは耐えて、無事に射精解禁となること祈るしか無いワケか……」

 

 野村の案に主将である古賀が賛同したことで、幹部学年としての意思も固まりつつあった。

 

「具体的にはどうするんだ? 正直、俺はそこまでの責め、シバの野郎に出来るかといったら自信無いぞ。そりゃ天然なところもあって反感買うことも多いが、あいつも悪気があって色々言ってるワケじゃ無い」

「それなんだが……。2年の連中にやらせたらどうだろう。1年じゃビビっちまうこともあるだろうし、2年の奴らなら、シバに対してどっか反感つーか、うるせえ先輩ってイメージもあるだろう。俺達も2つ上と1個上の先輩達には、イメージ違ったろ?」

「確かにな……。100超級の鈴木あたりをけしかければ、けっこうマジでやってくれるだろう。それに耐えてこそのシバってことか……」

 

 だいたいの意向は会合参加者の中でまとまってきたようだ。

 2回生、100キロ超級の鈴木桂三は、団体レギュラーの井上とも仲がいい。

 軽いノリをした若者でもあるが、むっちりとした肉感の体躯とその重量をイかした攻めは同学年の重量級の中でもピカイチだろう。

 

「で、誰が言う? 俊彦だと完全な命令になっちまうだろう?」

「そりゃあ、俺の役目だな……」

 

 吉田が口を開く。

 どちらかと言えばこれまでの内柴への責めに同学年の中では積極的に関わってきた男だ。神妙なその様子には、これまでを見てきた周囲も不思議な感覚を覚えた。

 

「吉田、お前……?」

 

 古賀にしても少し意外だったのだろう。

 いぶかしげな主将の声に、吉田が思い詰めたように答えた。

 

「俺があいつにはあまりいい感情持ってないことは、お前らもなんとなく分かってるだろう。

 あいつ、シャワーや風呂んときも、自分の逸物デカいってのがナチュラルに自慢しやがるしな。俺みたいなそうでも無い大きさのもんからすると、とにかく鼻につくんだよ。

 そんなのもあって、今回の件ではかなりまあ『いじめる』側に立っちまってるってのは確かにある。だがな、そんな俺だって、あいつが下の連中に馬鹿にされるようなことにはなってほしいワケじゃ無い。

 あいつがそういうとこ、ちょっとでも反省してくれりゃいいっては思うんだが。そんなのもあって、汚れ役っつーか、そういうのぐらい、俺がやらなきゃなって思ってな……」

 

 一気に喋った吉田。

 その肩の力がふっと抜けたように感じたのは古賀だけではあるまい。

 

「そうか……。頼んでいいか、吉田。ホント、その汚れ役というか、お前が声掛けたってシバに分かったら、あまりいい気持ちにはなれないことだとは思うが」

「あいつもそのあたりはどうせ薄々思ってるだろう。桂三の奴に上手く焚きつけてみるさ。あっと言う間にイかせちまうぐらいの勢いでやれってな」

「タイミング的にはどうする?」

「そうだな、明友大学との次の練習試合は二ヶ月後だ。前回からは三ヶ月空きだから、間とって2週間後、期間の真ん中ってのはどうだ? あとはまた、1ヶ月半、シバに取ってはイかず勃起続けてもらおう」

「分かった。この件は吉田に頼もう。皆もそれでいいか?」

 

「異議無し!」

 

 男達の野太い声が響いた。

 これを機に、射精解禁に向けた内柴への男試しが、さらにすさまじい内容となっていくのだろう。