縄の味

岐跨村の男達 Part 2

その3

 

 留吉と雷蔵、二人の肉体への縄が掛け終わり、亮造の手によって両名の逸物がくびられる。

 細縄で竿とふぐりの根元がきつく括(くく)られ、ぼってりとした双玉が一つ一つ引き絞られていく。

 下腹部の体毛を剃り上げている留吉と違い、雷蔵のふぐりをくびる亮造の手元の動きは、生い茂った体毛を巻き込まないようにとの慎重さが見て取れた。

 最後に太棹の根元を再び幾重にか巻き止めれば、亀頭の膨らみは暗紅色にと色を変え、針でつつけば一瞬にして破裂してしまいそうなほどの昂ぶりを見せている。

「縛られることで触れられるだけの刺激でもより感じやすくなり、さらには少々の扱きでも噴き上げることも無くなるのでな。

 縛られる側にとっては弄られる愉悦がどれほど高じても、なかなかにイくことが出来ぬという二重の責め苦になるというわけよの。

 まあ、これだけであれば神代殿達もすでに経験していることではあろうが、これと全身の縛りから来る縄酔いが合わされば、もう地獄と極楽を同時に味わうようなものじゃ」

 亮造の言葉は実際に縛られる側である留吉と雷蔵の顔に交互に浮かび上がる、苦悶と愉悦の表情で証明されていた。

 

 留吉と雷蔵の縛りが完成し、いよいよ男達が釣りへと向かう。

 集会所としても使われ村内の家屋の中では特に頑強に出来ている社殿には、頭上を渡る梁も太く立派なものが使われていた。

 その梁に井戸の揚水用にと使われる滑車の丈夫なものが用意されているのは、歴代の神代達に取ってもこのような準備が必要な相穿の要望が多かったということの反映か。

 あらかじめ通してある縄を四本取りにし縄頭にしっかりと結ばれていく。

 目方三十貫を越す留吉の巨体が、亮造を中心とした男達の手によっていよいよ中空へと浮かぼうとしていた。

 

 それまで緩やかに留吉の下半身を結わえていた縄を引き締めると、肩から背中に回した縄とともに滑車からの縄と結び付けていく。

「腕や胸に下げる、もしくは頭を下にての釣りもあるが、今日は留吉殿の逸物をいたぶりたいのでな。

 この図体の重さとも考えてこのように平らな釣りにしておるが、これだと釣り上げた後はどのような嬲りでも出来ますしな」

 釣り上げられた留吉の肉体が極力水平になるようにと、縄にかかる荷重の均衡を宗平と重吾に亮造が示しながら教授する。

 幾重にも渡された縄がまだまだ初心者である重吾にも「ここまでしっかりせねばならぬのか」という覚悟と、「ここまでやることで初めて縛られる側も責め側へとその身を預けることが出来るのだ」という思いを呼び起こす。

 

 滑車が鈍く回り、ギシギシと縄の軋む音が社殿内に響いた。

 頭ほどの高さで引きを止め、留吉の顎に手をかけた亮造がぐいとその頭を上げる。

 にやりと笑う亮造の視線の先には、一抹の恐れとそれを凌駕する被縛の喜びをありありと表した留吉の瞳があった。

「さて、これから雷蔵ども含めてお主の責めを行うこととなるが、何か言うことはあるか」

 これまでは異なる亮造の言葉の冷たさもまた留吉の官能を刺激するのか、臍に張り付こうかとする逸物の先端から垂れ落ちる先汁はビクビクと嘶く本体に合わせ、床までの長い糸を揺らしている。

 

「ああ、もうこの高さがたまりませぬ。皆様方には、きつき責めをお願いいたします」

 

 留吉の返事に満足したのか、亮造が宗平へと声をかける。

「宗平殿よ、ここからまずは好きに責めてみよ。雷蔵殿にも気を向けねばならぬぞ」

 

「はい、ではここからは私宗平が責めさせていただきます。

 まずは雷蔵殿は留吉殿の釣られた下にて、その太き逸物を口で責め、しかし決してイかさぬようにゆるゆるとした嬲りをなさってくださいませ。こちらは私がよいと言うまで口を止めてはなりませぬ。

 重吾殿はぬめり汁を使い、雷蔵殿の棹と玉を嬲ってくださいませ。こちらもすぐにはイかさぬよう、それとても先端をきつくいたぶる責めでお願いいたす。

 私は留吉殿の胸を少し責めさせていただきましょう」

 このような大掛かりな釣りは初めてなのか、宗平の返答もまた、どこかぎこちない趣ではあったが、それでも居並ぶ男達皆に配慮したものであった。

 

 雷蔵が留吉の下に縛られたその身体を潜り込ませると、中腰になりトロトロと流れ出る透明な液体を舌に受ける。

 後ろ手に高く戒められた雷蔵にとって、中腰上向きの姿勢そのものがきついものではあるのだが、宗平の指示もまたそこを見越してのものなのだろう。

 見事な逸物を口に出来る喜びと、きつい体制から来る苦しさが雷蔵の頭を掻き乱す。

 それでもなお勃ち上がった肉棒が先汁を撒き散らしながら震える様は、汁止めの細縄のせいばかりでは無い。

 

 自らと同じく細縄によってパンと張り上がった子どものこぶしほどもありそうな留吉の玉を、雷蔵の分厚い舌がねろねろと舐め回す。

 縛られたことでその表面の敏感さをはるかに増したふぐりは嬲りに逃げることも出来ず、肉棹を伝い落ちる先汁と雷蔵の唾液に濡れ光った。

 

「うう、うん……」

 微かに漏れる呻き声が、社殿内を淫靡な空間へと染めていく。

 板張りの床に対角に二基置かれた香炉からは細い白煙が立ち上っていた。そのゆらゆらとした糸筋は少しばかり上方への線を描いた後に、ゆっくりと男達の間へと流れていく。

 神代に代々伝わるその秘香は幾つかの生薬薬草を練ったものか、その香を聞くモノ達になかば強制的とも言えるほど、身の内にある欲情に火を注ぎ、触れられずともその男としての中心をそそり勃たせてしまう効能を持つ。

 

 齢(よわい)半分ほどの宗平に充血した乳首を弄られる快感は、脊髄から全身に伝わりその巨体を振るわせてしまう。通常の寝間の行為であれば、いっそ快楽をむさぼるためのその反射的な動きは、全身に縄を打たれ背中に一纏めにされた手足で釣られた肉体を、容赦なく圧迫してしまう。

 100㎏を越す巨体に似合った、いや、比率で見ればそれ以上にも思える留吉の巨大な男根は、雷蔵の窮屈な姿勢からの舐り上げを強制的に味あわされている。性技に秀でる神代のアトのモノとしてすでに3年の経験を持つ雷蔵の口中は、突き入れた逸物の快感を煮詰める坩堝(るつぼ)となっているのであろう。

 喉を反らし長大な肉棒を一定の部分まで呑み込む術すらが、神代としての経験からのものなのだった。

 己の目方が全身に打たれた縄目にかかるその苦痛と、年若き相棒にくじられる乳首、熟練した口接の技に翻弄される逸物から得られる快感は、渾然一体となり留吉の脳髄を溶かしていく。

 通常であればすでに幾度も噴き上げてしまっているだろうふぐりからの精汁の流れは、細紐のくびりで止められてしまい、沸々と煮えたぎる乱流となり、その巨体の中を轟々と音を立てて駆け巡っていた。

 

「胸を宗平にいじられ、逸物は雷蔵殿の口中にてじゃぶりあげられておる。

 ここに尻までとろとろといじられたら、留吉殿もさぞや嬉しかろうて」

 楽しそうに言う亮造の手には小降りの張り型がにぎられていた。

 長さにして5寸ほどとはいえ、竿周りのうねる血管や張り出した鰓と亀頭の艶やかさ、おそらくは参考にする実物があったに違いないと思えるほどの絶妙の反り具合はかなり手の込んだ細工物としても通用するほどのものである。

 当初は材料となった樹木の木理(もくり)を見せていたはずの表面の色目も、長年の使用に男達の体液と唾液など様々な粘液に曝されたためか、落ち着いた茶褐色のものへと変じていた。

 

 とろりとしたぬめり汁が、張り型の表面に塗布される。

 吊された留吉の後方に回り込んだ亮造が、宙に浮く膝をぐいと左右に開き、留吉の肉厚の尻肉と相対した。

 手足をまとめて吊された留吉の巨体のせいか、十分に尻穴を広げることは困難と思われていたためか、亮造の手にある木製の逸物は比較的小振りのものが用意されていたのであろう。本来、この村の男達にとってはより太く長いそれが好まれるはずであった。

 

「ほれ、留吉殿の尻をくじるぞ。

 まずは胸と逸物をいじられながら、儂の指を味わってみよ」

 

 海藻からとられたとろみのある液体をすくいとった亮造の指が、留吉の後穴の近辺をぬるぬると這い回る。

 新たに加えられた刺激に、留吉の唸り声が一層の昂ぶりを示す。

 身を捩ることも出来ぬほどに拘縛された全身に、それでも一瞬の震えが走ったのは体内に差し込まれた指先のせいだったのか。

 

 いつの間にか二本の指を飲み込んだ留吉の尻肉が、抜き差しにかすかに前後に揺れ始めていた。

 100㎏を越す巨体を支える縄目がきしみ、その1音1音がさらなる留吉の快感へと昇華されていく。

 

「そろそろ馴染んだ頃よな」

 亮造は金玉の裏側を撫でさすっていた指を抜き取ると、張り型をでっぷりとした尻の間へと差し込んでいく。

 小振りとはいえ指とは違うその太さと質感が、留吉の窄まりをえぐり、雁高の亀頭がぷつりと音を立てて突き入れられていく。

 当然、腸壁に加えられる摩擦も、男の汁を吐き出させる部分への刺激も、存分に快感へと転ずる経験を経ている留吉にとり、適切な異物の挿入は悦楽の炎を燃す焚き物となってしまう。

 縄にかかる己の重量に酔いつつ、充血した乳首、汁止めをされた肉茎と睾丸、快楽の壺と化した後口と三処を同時に責められ、もはや留吉の意識はあらぬ方向へと飛び続けていた。

 

 神代と選ばれてまだ数ヶ月にしかならない重吾に取って、このような釣りをも含む本格的な縄縛(なわからげ)の経験は初めてのことであった。

 年も近く、労役や作業を共にすることも多かった留吉とはよく日頃より話もしていた間柄であった

 その端々に聞く縄の肌当たりの快感の様や、縄を打たれた際のなんとも言えぬ酔い心地、さらには高揚した状態で縛られ、その捕縛感のみで射精してしまうなどという話に興奮は覚えたものの、実際に目の当たりにするまではどこか信じられない世界の話と思っていたことも事実である。

 徳造と吉佐の棒達組との相穿のときにもいくらかの縛りは経験していたものの、そのときの縄の効用はあくまでも「抵抗出来なくするための拘束」の域を出ておらず、今回の留吉が味わっているような「縛りそのものを悦楽とするためのもの」とはまた違うものだった。

 

「雷蔵殿もそろそろきつくなって来る頃よの。重吾殿、雷蔵殿の逸物はいかがな具合かの」

 

 留吉と雷蔵は縄を打たれ、あまつさえ留吉にいたってはその巨体をぎしぎしと軋む縄で天井と通る太い梁に釣られている。

 しかし、重吾が想像していたような罵声やいたぶりはこの社殿の中には存在せず、淡々と留吉を静かに責め続ける男達の少し荒くなった息遣いの方が大きく聞こえる瞬間すらあるほどだ。

 

 後ろ高手に縛り上げられた雷蔵も、中腰で上向きという苦しい姿勢を取らされてはいたが、決してそこにあるものは精神的肉体的、ともにその場で与えられるようないたぶりがあるわけでは無い。

 縄での縛りから来る圧力による制動と、その乳首、股間、尻肉の間(あわい)へと施されるとろ火で炙るような愛撫は、あえて苦痛と快楽の狭間にその身を置き考え得る中でも最大の悦楽を施すための措置であるのだろう。

 

「ふぐりも逸物も縛られその血流を止めているとはいえ、私の手にするところの雷蔵殿のそれは如何ほども萎える様子は見せませぬな。乳首もぷっくりと膨らんだままでございますし、身体の方は喜んでいるかと思われますな」

 雷蔵も留吉も轡をかまされているわけではないのだが、留吉は宗平、亮造、雷蔵3人からの三処責めにすでに声を出す余裕すら無くなり、雷蔵もまたその口を留吉の山椒木(さんしょうぼく)の摺り子木のような逸物に塞がれており返答も難しかった。