男性専科クリニック Part 2.5

その8

 

08 最後の課題

 

「はっ、はっ、はあっ。先生、田畑君、どうして……?」

 

 イかせてもらえないのか?

 その疑問をきちんと言葉にして尋ねることさえ出来なくなっていた私だった。

 

「どうですか、山崎さん。快楽をこれほどコントロールされ、何度も寸止めされて、どんな気持ちでしたか?」

 

 野村医師が尋ねてくる。

 

「あっ、は、はい……。とにかくもう、イきたくてイきたくて、どうにかなりそうでした。その、もうイかせてもらえないんでしょうか……」

 

「大丈夫ですよ。ご心配かもですが、山崎さんにはこの後、快感の極みで射精してもらおうとは考えてます。

 ここでは先ほどと反対に『快感を支配された快感』というものを味わってほしかったので、とにかく寸止めで山崎さんをいじめ抜きました。リングをして敏感になられてる状態で、よく我慢されたと思います」

 

 さすがにこの状態で施療が終わるとは思っていなかったのだが、事前の話では私が田畑君をイかせるように、との指示だったはずで、セッションの、特に後半の流れに少し疑問を持っていたのは確かだ。

 

「その、田畑君をって話だったかと思うんですが、それはこの後ですか?」

「ええ、セッションの最後は田畑君と自由に絡んでいただき、互いに刺激しあって十分に快感を感じた上での射精を経験してもらいたいと思ってます。

 ここまでを田畑君と山崎さんと分けての性感刺激は、山崎さんに刺激を与える側と受け取る側の双方をはっきりと区分した上で経験してほしかったからでしたが、ここから先はそれを同時に行っていただくというわけです」

「それは、田畑君と私が二人で絡み合うってことでいいんですか?」

「はい、その通りです」

 

 分かってはいたことだが、これまでは寝っ転がっていた相手にこちらが手や口を使って感じさせるばかりだったわけで、ある意味、病院で何かの治療を受けている状態と同じだったわけだった。

 それを「互いに」という言葉を文字通りに受け取れば、やるやられるという役割を固定せずに、刺激をしあう、責め合うという関係になるのだろう。

 そしてそれは「一方的に責められているのだから感じてしまうのは仕方が無い」という、どこか心の中で言い訳にしていた前提を崩してしまうことに他ならない。

 

「ただ、最後のセッションではありますが、一つだけ条件を付けさせてもらいます」

「え、はい、その条件って……?」

「それについては、田畑君、君自身の口から言ってみたまえ」

 

 野村医師が田畑君へと話を振る。

 

「はい、ちょっと恥ずかしいんですが……。山崎さん、僕と互いの気持ちと感じることをやりあって、最後には山崎さんと僕が同時に射精出来るようにしたいんです」

「同時って、同時にイくように、ってことですか?」

 

 何を言ってるんだ私は、と自分でも恥ずかしくなるような質問だ。

 顔を赤く染めている田畑君に代わり、野村医師が答えてくれた。

 

「ええ、そうですね。山崎さんと田畑君が二人でイくタイミングを合わせて、同時に射精する。これが最後のセッションでの課題になります」

「年も違うので、難しそうですね」

「そこがこの課題のポイントなんです。

 射精のとき、ペニスは相手のもの、そう、山崎さんは田畑君のものを、田畑君は山崎さんのものをしごいているわけです。

 その状態で同時にイくたまには、常に相手の状態を顔や喘ぎ声、握っているペニスや触れあっている全身の動きから察知しながら、自分の興奮度合いもコントロールしなければなりません」

「確かにそうですね。ただそう言われると、ますます難しそうだ……」

 

 不安なことは事前に尋ねておくにこしたことは無い。

 

「だからこそ、うまくやり遂げたときは山崎さんに取って、肌を合わせている相手、この場合は田畑君と、山崎さん御自身の快感を自分がコントロール出来たという、大きな自信に繋がることかと考えています」

「なんだか、どうしても達成しないといけない気持ちになってきました」

「深く考えすぎたり、『こうしなければ』と義務感が強くなってしまうと勃起が継続しにくくなるものですが、今回はそれを二重リングをすることでかなり回避出来るのではと思っています。田畑君も協力しますので、安心して取り組んでみてください」

「はい、分かりました。頑張ってみます」

「頑張る、だけじゃなくて、楽しんでくださいね。私は二人の交わりを見ながら、自分でしごいてイくようにしますから」

 

「先生、山崎さん、早く始めましょうよ。もう、僕、我慢出来ませんよ」

「ああ、すまんすまん。田畑君もずっとおっ勃ててるんだからな。じゃあ、山崎さん。ここから先は私は口を出しませんので、田畑君と二人、互いに相手のことも気遣いながら楽しんでください」

 

「はい、分かりました」

「先生、了解です!」

 

 いきおいよく返事した田畑君。

 まずは最初のセッションのようにしっかりしたハグから始めよう。

 そう思った私は田畑君に手を伸ばし、一緒にマットの上に立ち上がった。

 

「田畑君、よろしくお願いします。いっぱい楽しんで、最後は一緒にイこう」

「はい、山崎さん。こちらこそよろしくお願いします。二人で最高の射精にしましょう」