くまどん作

深夜残業

その1

 

金曜日午後 18時30分

 

「お疲れさん」

「どう、明日は土曜日だし、ちょっと一杯付き合えよ」

 同僚の山岸から声をかけられて、俺は振り返った。

 山岸は俺と同期の38歳。歳も同じなら背丈や体型も似ている。お互いにずんぐりむっくりというか、手足が短く腹が出て、豆タンクのような感じである。

 

 俺は、谷口健太。168cm86kg。

 山岸のやつより少しだけ背が低い。

 だが、山岸より毛深くて胸毛から腹毛まで、もっさりと毛が続き、チンポに至っている。

 山岸と俺は似たもの同士というわけで、周りからも「たぬきの兄弟みたい」などとからかわれている。

 

 入社したときからお互いのことを意識していたが、偶然トイレで一緒に用をたしたとき、お互いのチンポを見ていることに気づき、互いの性癖がわかってしまったのである。

「お前も男が好きなんだな」

 山岸の一言で一気に緊張がほぐれ、それ以来、セックスフレンドとしても仲良く仕事をしている。

 恋人同士じゃないから、お互いに別の男とやったり、二人で発展場に行って複数て楽しんだり、かなりオープンな関係だ。

 

 一緒に飯を食うことは度々あるが、今日は珍しく、山岸の方から飲みに行こうと誘って来たことに少し驚いた。

 

「サウナじゃなくて、飲みにか?」

「ああ、ちょっと面白い話があるんだ。坂本部長のことで…」

 

 何い? 坂本部長のことで?

 それは興味がある、いやめちゃくちゃ気になる話だ。

 俺も山岸もこの会社に入った時から坂本部長の大ファンになったんだ。

 

 精力絶倫な中年親父を絵に描いたような風貌の坂本部長。

 少し禿げ上がっているがその分髭が濃くて、夕方になると青々とした不精髭が浮かび上がる。肉厚の胸のシャツからは胸毛が少しはみ出している。夏なんか腕を上げると半袖シャツの中から黒い茂みが強烈に目につく。親父特有の臭いが立ち上り、俺たちはそれだけで勃起もんだった。

 それでいて、噂によると結婚せずにいまだに独り身らしい。社内の女の子からは慕われているが、浮いた話など聞いたことがない。そんな部長だから、毎日気になって仕方がなかった。

 いつだって話題といえば、「坂本部長とやりてえなあ」ばかり。

 

 椅子に腰掛けたときに見えるぶっとい太ももから股間への膨らみは、さぞかし太いちんぽとでかい金玉がそこに収まっているに違いないと確信できるほど肉感的なんだ。

 

 

金曜日午後 19時20分

 

 俺たちは駅前の居酒屋にしけ込むと、ビールと枝豆を注文した。ビールを注ぐ手ももどかしく、俺は坂本部長の話を急がせた。

「坂本部長が何だって?」

 すると、わざと勿体ぶったふりをしながら、

「この間、俺が会社に忘れ物をしてなあ。

 11時過ぎだったと思うんだ。大事な書類だったから家に持ち帰らなきゃならなかった。

 それで、会社に戻ってみたら、まだオフィスに明かりがついてるだろう?

 まだ。誰か仕事をしてるんだと思いながら恐る恐る覗いて見るとだな」

「うん、うん、」

 俺はまたビールを注いだ。

 

「何と、坂本部長が」

 

「何だよ、勿体ぶらずに話せよ」

 

「全裸、丸裸で」

 

「おおっ!」

 

 期待に胸とあそこが膨らむ。

 

「パソコン見ながらセンズリしてたんだ!」

 

 わあ、す、凄いもん見ちゃったなあ山岸。

 

「そ、それで?」

「まさか、中に入るわけにもいかんだろ?

 ドアのガラス越しに見ていたさ。

 だって坂本部長のセンズリだぞ?

 見て見ぬ振りでそっと帰るなんてできるわけねえよな」

 

 そりゃそうだ。

 きっと俺だって食い入るように見ていたに違いない。憧れの坂本部長の全裸センズリ。

 

「それから?詳しく話せよ。ここは俺がおごるからさ。

 すんませえん! ビール追加ね、あと、あたりめも」

 

 すると、秘密めいた感じのささやくような声で山岸は部長の様子を話し始めた。

 

 ちんぽの扱き方、金玉の大きさ、片方の手は乳首を弄っていること、喘ぎ声、そして射精の瞬間まで。細かく描写して話した。

 

 坂本部長の裸を想像しているうちに、ズボンの前が大きく膨らんでいるのを山岸に見られていた。もちろん話をしてくれた山岸自身の一物も普通の大きさではなかった。

 

 俺は山岸から聞いた坂本部長の痴態を今夜のズリネタにしようと考えていた。

 

 しばらくぼうっとしていると、山岸はまだ話しの途中だったらしく、俺の顔を自分の方にぐいっと引き寄せた。

「だから、肝心の忘れ物を取りに行けなかったんだよ」

「うん、うん、それで?」

「いいか? ここからが肝心なところだ。

 俺は坂本部長が、部屋から出るまで外に出て待つことにした。しばらくして、オフィスの電灯が消えたと思ったら、坂本部長がビルから出てきた。即座に俺はオフィスに入った」

「書類を取りに行くだけの理由じゃないよな」

「当たり前だ。そんなことより大切なことがある」

「もうわかった。坂本部長が何を見ながらセンズリしていたのかを探ろうってことだろ?」

「まったく、もう、考えることが同じだなぁ」

 俺は興味津々でビールを飲むことを忘れて早く教えろと催促した。

 

 なんたって坂本部長のセンズリシーンである。

 俺たち二人でいつもエロ話をする度に決まって最後は「ああ、坂本部長みたいな中年親父とやりてえなぁ」という所に落ち着くのだ。それくらい憧れの理想のセックスシンボルである存在だった。

 

 

金曜日午後 20時05分

 

 山岸が真剣な表情で俺を見つめながら話した内容は、それこそ明日からの日常がひっくり返るくらいの衝撃的なものだった、と言っても過言ではない。

 

「いいか? 健太。坂本部長はパソコンで何を見ながらセンズリしてたと思う?」

「お前、坂本部長のパソコンによく入れたな」

「そりゃ、簡単さ、だって坂本部長はパスワードを机の裏側に貼り付けておくんだから」

「お前、それ犯罪だぞ、悪い奴」

「何だよ、お前。知りたくないのか?」

「すまん。当然知りたいです。山岸先生。教えてください。あなたは神様だ」

 

 山岸はこれから衝撃の告白をするかのように一言一言、ゆっくりと言葉にした。

 

「坂本部長の机に近づくと、期待通りあの臭いがまだ残っていてな。ゴミ箱にはティッシュが丸めて捨てられていたんだ。当然、それを拾ってお土産に持って帰ったけど」

 

 ぶうっ。それだけでもう鼻血もんだ。

「いいなあ、お前、今度そのティッシュ貸せよ」

 

「それよりな、健太。もっとワクワクすることがあったのだな」

 山岸はパソコンを開いてその中に見つけたファイルについて話した。

 

「坂本部長って、天然というか、あまりにも無用心というか。そのファイルのタイトルを見て笑っちゃったよ。だってさあ。「秘密の写真」って書いてあるんだぜ。な、わかりやすいだろ? いい人なんだなあ」

 

「で? その秘密の写真って何だったんだ?」

「ファイルをクリックするとな。いきなり、男の裸がばあんと出てきた」

「おおっ!」

「しかも、親父同士の3P画像まであった」

「そ、それじゃあ」

「そ、俺たちと同じ。お仲間さん」

 俺は狂喜乱舞するところだったが、少し複雑な気持ちにもなった。

 

 

金曜日午後 20時52分

 

 ビールももう何杯目だろう。

 

「坂本部長の秘密を知ってしまったからには、これは放ってはおけないだろう?」

「お前、何考えてるんだよ」

「ここからが一番大切な話だから、よく聞けよ」

 

「坂本部長も俺たちと同じ、男が好きだったんだぜ。

 ということは、俺たちにも脈があるかもしれないわけだ。しかもあの画像は太めの親父ばかりでさあ。

 そこで、計画を立てた」

 何だかわからないが、奴の計画がものすごくドキドキするものに違いないと確信していた。

 

 山岸の綿密なる計画とは以下のような内容だった。

 

[坂本部長を落とすためのプラン]

 

ステップ 1

 まずは俺たちの男臭い体のアピール。

 話をするときは、必要以上に部長に身体を密着させる。

 また、部長の肩を揉んであげたり、さりげなくケツを撫でたりして反応を見る。夏はなるべく薄い生地のシャツを着て乳首が透けて見えるようにする。

 

ステップ 2

 会社帰りにサウナに誘って、裸を見せる。

 わざとちんぽをブラブラさせて、反応を確かめる。

 

 ステップ3

それでも反応が無ければ、部長が一人きりで残業をしているときを見計らって、二人がかりで襲ってしまう。

 

「何だかなあ。これだったらいきなりステップ3でもいいんじゃないか?  もう、ストレートに、坂本部長は男が好きなんですか?

 実は俺たち、前から坂本部長のことが気になっていて。と告白してしまった方が」

 

 俺は山岸に素直な感想を伝えた。

 

「そうだな。その方が手っ取り早いかもしれん。

 よし、今度坂本部長が残業といいながら男の裸を見てセンズリしている現場を押さえてだな」

「それって何だか、相手の弱みを握って脅迫しているみたいだなあ」

「じゃあ、どうやってチャンスを作るんだ?」

 

「俺たちが深夜残業をすることにして、坂本部長に相談があるのですが。と一緒に残ってもらうんだ。

 で、相談というのが実は坂本部長のセンズリの手伝いをさせてほしい。というのはどうだ?」

「何か上手くいきそうな気がしないが、まあとりあえずやってみるか?」

 

 というわけで、二人がかりならそれほど抵抗もできないだろうし、何せ向こうも男好きならきっと大丈夫じゃないかな、などと変な楽観的判断の末、一週間後の金曜日に決行することになった。