『金精の湯』秘境温泉物語

その3 測定

 

 男たちに案内され俺たちが通されたのは、おそらく宿の中でも広間と言っていいのだろう、20畳近い正方形の部屋だった。

 厚めの座布団が並べてあり、それぞれに腰を下ろす。どうぞ足は崩されて、という言葉に甘え、みな胡坐座となった。

 

「改めまして、この宿の長(おさ)、荒熊内四方(あらくまない しほう)と申します。この度はお集まりの4名の皆様に、これからの4週間をこの宿にて湯治宿泊していただくこととなります。

 それでは互いに自己紹介をしておきましょうか」

 

 最初は俺たち湯治客側から名前や年齢、湯治の目的などを話をする。

 

 南川日高(みなみかわ ひだか)君、28才。

 何年か勤めた会社を退職し、内気な自分を変えたいと修行のような気持ちでここに辿り着いた。

 

 西山朝熊(にしやま あさま)君、38才。

 建設会社で現場を任されていたが足を傷めてしまい、3ヶ月の休みをもらった。この機会にしっかり身体を休め強い自分を作ろうと、湯治への参加を決意。

 

 俺、北郷大和(ほくごう やまと)、42才。

 ライターとして最初は取材目的で調べていたが、今は自分自身の個人的な関心を満たすために湯治に申し込んだ。色々な約定を聞いて、逆に興味が湧いている。

 

 東尾豊後(ひがしお ぶんご)さん、48才。

 陶芸で身を立ててきたが、昨年連れ添ってきた妻と離婚。自分の生き方を見つめ直す機会として、社会と切り離されたこの宿での湯治に興味を持った。

 

 それぞれの話からは、やはり娑婆から隔絶された4週間を過ごす覚悟のようなものが読み取れた。

 ほとんどは駅のホームや迎えの車の中で互いに話したことではあったが、豊後さんの奥さんとの離婚話は俺たちも初耳だったし、それだけ心に秘めた思いもあられたんだろうなと思ったところだ。

 

「皆様、ありがとうございます。

 皆様の前に控えておりますこの者たちは、これから皆様のお世話をさせていただくことになる宿守り(やどもり)のものたちです」

 

 主人である四方さんから、宿の他のメンバーが紹介される。

 

「まずはこの4週間、皆様お一人お一人の担当となる宿守りのものです。

 手紙でもお伝えしていたように、最初の一週間、『慣らしの湯』の期間は、皆様のお部屋に担当のものも一緒に休ませていただきます。

 まずは向かって右より、黄田(こうだ)、47才。

 南川様のお世話をさせていただきます」

 

 褌の前袋に太い尿道ピアスの膨らみが見える一人だった。宿守りの中では年長の方になるようで、一番若い日高君の担当になるらしい。

 

「白山(しろやま)、44才。西山朝熊様のお手伝いになります」

 

 朝熊君より二回りほども大きな図体をした宿守りだ。

 

「北郷様の担当となる、赤瀬(あかせ)です。36才」

 

 正座に座り直した巨体が俺に向かって頭を下げる。

 

「東尾様の担当は宿守りの中では一番の若年になります。緑川(みどりかわ)、32才です」

 

 少し緊張が見られた宿守りだったが、その堂々とした体格は若さ以上の貫禄すら感じられる。

 

「ここからは担当という形ではありませんが、皆様の生活全般を担当する2人です。

 まずは迎えに行きました茶野(さの)、39才で、主に源泉管理や施設設備、車両などの管理を行っております」

 

 茶野さんが、頭を下げる。

 上背は大柄な宿守りたちの中でも一番ありそうで、180は超えていそうだ。

 

「最後は紫雲(しうん)、49才。主に調理を担当しておりますが、宿守りの中では一番の古参になりますので、何かご不明の点などありましたら、この紫雲に尋ねていただければと思います」

 

 四方、黄田と同じく、この紫雲という男の股間の先端にも、図太そうなリングが通っているようだった。

 俺たちを迎えてから一向に萎えようとしない宿守りたちの股間を、すでに当たり前のものとして見ている自分が不思議でもあったのだが、毛むくじゃらの半裸体に囲まれている中、それが普通に思えてしまってきていたのだろうか。

 

 宿守りたちは宿長の四方以下、みなその巨体がもっさりと茂った体毛に覆われているのだが、この紫雲だけはわずかに白いものが混じっている。

 全体では一番の年嵩になる四方も黒々とした剛毛を纏う中、一人白髪混じりの紫雲の姿はとりわけ目立つものでもあった。

 

 宿長と各担当4人、それに加えての茶野さん紫雲さん2人の遊撃手、これら総勢7人が、俺たち4人の湯治を支える宿のスタッフということらしい。

 

「丁寧な紹介もありがとうございます。私たち、湯治者一同、これからの4週間、よろしくお願いします」

 

 場の雰囲気に合わせて、豊後さんが俺たちに挨拶を促す。

 姿勢を正し、俺たち4人が頭を下げると、7名の男たちもまた、その巨体を畳に沈めるかのように、深々と礼を返してきたのだった。

 

「ここからは湯治内容の説明に入りますが、まずは我らの温泉を皆様に飲んでいただこうかと思います」

 

 四方の段取りはすでに分かっていたのだろう。

 宿守りの緑川君が、皆に寿司屋で出るような大きな湯飲みを配り始める。

 

「ここの湯はマグネシウムは含まず飲みにくいものではないですし、皆様ぐいっとどうぞ」

 

 それぞれの宿守りに勧められ、湯飲みに口をつけた。

 喉が渇いていたこともあって、汲み上げてすぐなのか、温泉らしい温度のそれを一気に飲んでしまう。

 

 アルカリらしいとろみとぬめりを感じる舌に、後からかすかに甘さを感じる不思議な風味ではあるが、宿長の四方さんの言う通り、飲みにくさはまったく感じない。

 最初に茶野さんの迎えの車に、あるいは宿近くで強く匂った甘い匂いは、やはり温泉そのものの香のようだった。砂糖を煮詰め、色が変わる一瞬前の匂いとでも言えば伝わるだろうか。

 どこか懐かしさを感じるその匂いは、宿守りたちに取ってはすでに体臭の一部になっているようなのだ。

 

 もともと寒さを感じないように調整してある室温だったが、暖かいものを飲んだせいか一気に身体中に火照りを感じていた。

 どこかアルコールの酔いにも似たうっすらとした昂揚感や心地よさが、全身を緩ませてしまう。

 硬度やミネラル成分にもよるのだろうが、飲むだけでも「これは効く!」と直感出来る温泉だったのだ。

 

「私もけっこう多くの温泉で飲めるところのものは飲泉してきましたが、これは初めての味ですな。甘みを感じるというのは、なかなかに珍しい」

 

 豊後さんの話に俺もそうですと相槌を打つ。

 紫雲さんが、たぶんこの味わいは湯元の多いこの土地でもなかなか無いと思いますよと返していた。

 

「隠しておいても仕方ありませんし、皆様もすぐに実感されることかと思いますが、この『金精の湯』への入湯や蒸気の吸入、飲泉による効能には、男性としての精力増強や体格向上、さらに淫蕩な気持ちへの変化、五感の強化など、他の温泉にはまず見られない特別なものがあるかと思っております。

 科学的に調べたという訳ではありませんが、おそらくは男性ホルモンなどへの働きかけが強い成分が含まれているのでありましょう。

 それゆえに温泉そのもの、また湯が湧き出るこの地そのものについても門外不出、口外無用のものとされ、かつては修験者の一団によってこのあたりの山々が女人禁制の聖地とされてきました。

 手紙という手間のかかるやり取りの中で、この地での湯治を希望される方々をじっくりと見極め、最終的に御案内を差し上げたのが、本日ここに会していただいた皆様となります」

 

「効能と言われる体格の変化とは、1ヶ月の滞在の中でも感じ取れるものなのですか?」

 

 他のことはさておき、物理的に有り得るのかと思われる内容に、俺は思わず尋ねてしまう。

 

「初めてお聞きになられての疑問は当たり前かと思います。こればかりは実際に体験してもらわないとご納得いただけないとは思いますが、4週間後、皆様が山を下りられるときには、明らかに違う自分になられているかと思いますよ」

 

 確信を持っているだろう四方さんの言葉に、顔を見あわせるばかりの4人だった。

 

「それではゆっくりされたところで、ここでの湯治の説明をしておきましょうか。

 この宿での湯治は、28日間を7日ごとに区切り、それぞれを『慣らしの湯』『入りの湯』『盛りの湯』『修めの湯』として、週を進めて行くこととなります。

 朝食前に井戸の冷水による禊からの朝湯、昼食前の入湯、夕食前の入浴、夕食後の私たち宿守りによる揉み療(もみりょう)、ああ、これはマッサージのことですな。それが済んだ後のその日最後の就寝前の入湯と、最低でも一日四度の温泉浴をしていただきます。

 この一日に何度も入湯する温泉療法は、体力もかなり使いますし、身体から汗としてかなりの水分を奪います。脱水は身体全体にダメージがいきますので、水分補給については細かく指示をさせていただきます。

 飲料水については館内各所に温泉を冷ましたものを用意しておりますので、いつでも好きなときにお飲みください。日平均でおよそ2升、4リットル近くをお飲みいただければと思います。

 入浴時には飲泉用の湯口がありますのでそのまま飲んでいただけますし、宿の料理もすべてここの温泉水にて調理いたしております。

 また、これまででの手紙にて、みなさまそれぞれに湯治場での約定については了承していただいてはおりますが、改めましてこの場で確認させていただきます」

 

 宿長の四方さんから、もう一度宿のルール違反についての説明があった。

 これまでの手紙のやり取りで頭に入ってはいたのだが、とにかく宿での出来事は同宿者以外には漏らさぬこと、湯治期間中は宿長と宿守りの指示に従うこと、大きくはこの2点だったと思う。

 俺自身はかなり制約の厳しい寺修行のようなものかとの覚悟はあったのだが、若い南川君や西山君はどう思っていたのだろうか。

 それでも宿長の話を真剣に聞いている2人を見ていると、やはりそれなりの厳しさというか、理不尽さへの理解はすでに出来ているようでもあった。

 

「手紙にも書いておりましたが、さっそく皆様の肉体の測定をさせていただきたいと思います。着ていた服をすべて脱いでいただき、身長体重から量ることにしましょうか」

 

 宿守りたちが一人一人に行李を用意していた。

 これに着ていた服(一度洗濯してくれるそうだ)やスマホなどの持ち物をすべて入れ、28日間の湯治が終了するまで、封をすることになるという。

 俺たち4人はすでに六尺姿の半裸の男たちに囲まれてるわけで、幾分かは普段感じる恥ずかしさなどは吹っ切れていたのだと思う。

 それぞれが服を脱ぎ捨て、時計やポケットの中のスマホも、宿守りたちへと預けることになった。

 

 温泉の湯を飲んですぐのせいか、俺は身体中が汗ばむほどの火照りを感じたままでいた。

 宿守りたちも俺たちがなるべく恥ずかしく無いようにと気遣ってか、みな印半纏を脱ぎ、六尺褌一丁の裸体を晒す。

 7人のむくつけき男たちの体毛豊かな巨体を前にして、俺は鍛えていない自分の身体になんとなくの情けなさを感じてしまっていたのだが、宿守りたちの柔らかい接遇にそんな思いも振り切ることが出来た。

 

 下着までもすべて脱ぎ去り、素っ裸になった俺たち4人。

 年長の豊後さんはもとより、一番若い日高君もいい脱ぎっぷりを見せていた。

 4人の中では一番いい肉体をしている朝熊君が、もじもじと恥ずかしそうにしているのが返って不思議なものだ。

 

「西山様、男だけの宿ですし、これからずっと裸の付き合いをしていく私たちです。恥ずかしさもおありでしょうが……」

 

 担当宿守りの白山君が、朝熊君の脱衣を促している。

 さすがに今さら恥ずかしがっていてもと切り替えたのか、朝熊君が最後の一枚を脱ぎ捨てる。

 全裸になったその朝熊君が、突然、びっくりするような大声を上げた。

 

「あ、あの、俺っ、す、すみませんっ、突然に」

 

「どうされました、西山様?」

 

 宿長の四方さんが、ゆっくりと、その低く柔らかい声で話を促す。

 

「あの、俺っ、そのっ、じ、自分のペニスが小さいのが、そのっ、昔からコンプレックスでっ、それもこの湯治で、風呂だから、みんな裸になるのが当たり前のところなら、なんか克服できるんじゃないかとか、勝手に思ってて。

 そ、それもあって、この湯治に申し込んでっ……。さ、さっきは足を治したいとか言ってて、も、もちろんそれも本当なんですけど、ほ、ホントは、こっちの方が、俺っ、俺っ……」

 

 まるで泣きじゃくらんばかりの勢いの、朝熊君の告白だった。

 確かに彼の股間に目をやれば、親指ほどのそれがちょこんと股間の茂みから顔を出している。目測で5、6センチといったものではあるが、普通体型のものからすると巨漢の部類に入る朝熊君のそれと考えると、本人が悩んできたというのも無理は無かろうか、といったところか。

 もっとも実際に性行為を行ってしまえば、そのようなコンプレックスも霧散してしまうことが多いように思えるのだが、今どきの30代と考えると、もしかして未経験なのかもな、という考えが頭をよぎる。

 

 四方さんが朝熊君の前に進み出ると、その褌一丁の毛深い巨体で全裸の朝熊君を抱き締めた。

 朝熊君の股間を四方さんの六尺の前袋が押し潰すかのように密着する。朝熊君の肉棒に、四方さんの滾る股間の温度も伝わっていることだろう。

 

「言いにくいことを仰ってくださって、西山様、ありがとうございます。

 西山様が仰られたように、ここは男ばかりの宿で、裸を晒して温泉に浸かることが目的の湯治の場です。

 この温泉での湯治とその効能は、おそらく西山様が悩んでこられたことへの少しの助けになるかもしれませんし、私たち宿守り一同も西山様の肉体と心の両方に寄り添っていきたいと思っております。

 私どもをどのように使ってもらっても構いませんので、この1ヶ月をゆっくりと一緒に過ごしていきませんか」

 

 上背はあまり変わらない2人であったが、バルクだけであれば四方さんの方が遙かにボリュームがある。

 まるで大人が子どもを抱いているかのようなその包容力溢れる抱き締めは、朝熊君にとっては肉親に抱かれているような心持ちだったのではなかろうか。

 最初は興奮していたように見えた彼の姿も、だんだんと落ち着きを取り戻していった。

 

「すみません、突然に……。皆さんの話を聞いていたときから、ずっと心に引っかかってて……。自分だけが、変な、不純な気持ちで参加してるんじゃ無いかって気がしてて。

 でも、皆さんの前で言葉に出せたことで、なんだかすっきりしました……」

 

「自分の肉体や気持ちの持ちようについて自信を持ちたい、そういうふうに自分を変えたい、というのも、立派な動機だと思うよ。朝熊君の言葉は、大事なものなんじゃないかと私は感じたな」

 

 朝熊君に豊後さんが声をかける。

 自らの股間を隠すことなく、仁王立ちになったままのその言葉に、四方さんも朝熊君も、うんうんと頷いていた。

 

「西山様の気持ちも落ち着かれたところで、湯治前の皆様の身体を測定させていただきます」

 

 茶野さんが係なのか、身長計と体重計、さらには大きめのノギスが部屋へと運び込まれる。

 会話の流れからもしかして、との思いが浮かんだのだが、果たしてそれは男性の男性たる部分を測定するためのものだった。

 

 身長体重を測り終えた4人の前に、宿守りの担当が膝立ちで準備をする。

 目の前にぶら下がる男のシンボルに、手にしたノギスを当てようというのだった。

 

「まずは平常時の皆様の陰茎の長さ、太さを測らせていただきます」

 

 冷静になって考えれば異様な光景のはずではあった。

 それでも誰も異を唱えなかったのは、体毛に覆われたむさ苦しいまでの男くささを放つ集団の中、全裸で動き回っていた俺たちの頭が、すでにどこか麻痺していたからだろう。

 そこに実は先ほど飲み上げた温泉成分の効き目も混じっていたと知ったのは、湯治も後半になってからでのことではあったのだが。

 

「日高君が、4人の中では一番大きいのか。体格的には一番小さく見えるのに、不思議なものだね」

 

 豊後さんの言葉は、逸物の大きさでの日高君や、一番小さい計測結果となった朝熊君を揶揄したものでは無い。

 事実の羅列と純粋な疑問を口にしただけだという誠実さは、皆にも伝わっているようだ。

 

「その、ここの湯治を続けると、宿守りの皆さんのように、その、アレが、『大きく』、なるんでしょうか……?」

 

 これまで誰も口にしなかった疑問を、朝熊君が呟く。

 本人にとっては切実な悩みであったことだろうし、先ほどの四方さんの話の中で、何かに期待するところがあったのだろう。

 実際、宿守りたちの前袋を突き上げているそれぞれの逸物は、明らかに常識的なそれを遙かに凌駕する大きさなのだ。

 

「人により変化の差はありますが、かなり期待されていいかと思います。我らもまた、ここの温泉に触れる以前は、皆様と同じような体型や逸物の大きさだったのです」

 

 にわかには信じられないことではあるのだが、目の前で見せつけられている圧倒的な肉感溢れる体躯の前では、俺たちに反論する余地は無い。

 記録を終えた紫雲さんがこの後の計測について発した言葉もまた、衝撃的なものだった。

 

「次に皆様の勃起した逸物の大きさを測らせてもらいます。宿長が言った通り、ここでの湯治による皆様の体型の変化を記録するためですので」

 

 思わず顔を見合わせた俺たちだ。

 平常時、と言われながらチンポにノギスを当てられどこか変な気持ちにはなっていたのだが、さすがに誰も、勃起するまでには至っていない。

 自分で扱いて勃たせないといけないのかと、身構えたときだった。

 

「湯治の間お一人お一人にお付きする担当のものが、皆様の下半身のことについても、もちろんお世話をさせていただきます」

 

 宿守りの赤瀬さんが立ったままの俺の前に、膝立ちとなる。

 俺の股間が赤瀬さんの目の前に来る位置だ。

 同じように、豊後さんの前には緑川君、朝熊君の前には白山さん、日高君の前には黄田さんがスタンバイをする。

 

「では、宿守りはそれぞれ担当の方への刺激を開始してください」

 

 紫雲さんの言葉に、4人の大男たちが俺たちの股間に一斉に手を伸ばす。

 

 他人の手で逸物を弄られるなど、いつ以来のことだろう。

 女性との経験もそれなりにはこなしてきたつもりだが、大抵は勃起したそれを挿入して果てるだけで終わっていたのだ。

 チンポや玉にじっくりとした愛撫を受けるということは、ソープや風俗を利用しない限り、実際に経験している男は案外少ないのではなかろうか。

 

 頭の中をそんな思いが駆け巡る中、俺の金玉とチンポが赤瀬さんのデカい手のひらで握られた。

 

「あっ……」

「う、うんっ……」

「ああ、いい……」

 

 男たちからかすかな声が上がる。

 後から考えればまさに『異常な状況』だったんだと思う。

 だが、そのときの俺たちは、その『異常さ』を『異常』と指摘出来ないまま、その『異常さ』にどこか興奮を覚えてしまっていた。

 

 俺の股間はあっと言う間にいきり立ち、横を見やれば豊後さん、朝熊君もすでに臨戦態勢だ。

 日高君だけが状況についていけないのか、最初に見たときよりも少し縮んでいるようにすら思えた。

 

「おお、皆様、勇ましくなってきましたな。南川様は焦らなくていいのでリラックスされてくださいね。黄田、口も使っていいのでゆっくりとな」

「はい。南川様、南川様の逸物を、私、黄田が口に含ませていただきます」

「あっ、そんなっ、だめですっ、黄田さんっ! 汚い、汚いですよっ……」

 

 あわてて頭を押しやろうとする日高君の手をやんわりと制止し、黄田さんが萎えていてもそれなりの大きさを見せる日高君のそれを口に含む。

 おそらくその口中での舌の動きと口蓋による先端の愛撫には、すさまじい技量が発揮されているのだろう。手慣れた宿守りの動作に、その行為がこれまで数多くなされてきたことが窺えるのだ。

 

「南川様、いけない、恥ずかしいと思う気持ちもおありかと思いますが、私たち宿守りを含め、皆様この一ヶ月間、互いの裸を見て過ごすのです。湯治による心身の変化を見つめ、受け入れていただき、私どもも皆様方とすべてを見せ合ったお付き合いが出来ればと思っております」

 

 紫雲さんの言葉に理屈としては納得出来るのだが、若い日高君にとってはなかなか高いハードルだろう。

 それでもその顔には、徐々に愉悦の表情とも見えるものが混じり始めた。

 

「あっ、あっ、ごめんなさいっ、もう、もうっ、僕っ……」

 

「おお、南川様も見事な勃起を!

 皆様の逸物もそれぞれ準備が整ったようですので、それでは計測に入らせていただきます」

 

 日高君の逸物も無事に勃ち上がり、素っ裸の俺たちの股間が天を突く。

 宿守りの股間は出迎えの最初からその勃起を褌の前袋の膨らみに顕わにしてきていたのだが、幾人かのそれはすでに先露すら溢れさせているようだ。

 前袋に広がるその染みは、宿守りたちそれぞれの興奮具合を如実に表していた。

 

 冷たいノギスの感触に萎えてしまうかと思っていたが、なぜか俺の股間の滾りは納まらない。

 いや、無骨な赤瀬さんの体温を感じさせる指先と、ノギスの触れる冷たい感触の違いに、送り込まれる血流はかえってその量を増しているようにすら思えていた。

 

「皆様の体位測定、終了しましたので発表させていただきます。

 週ごとに同じ計測をさせていただきますので、ご自身の数値に気をつけておいていただければと」

 

 紫雲さんが記録した紙を見ながら、茶野さんから全員の数値の発表があった。

 腰を下ろしてはいたが、最初は恥ずかしがっていた日高君、朝熊君もすでに堂々とした姿を見せていたのは、どこかで吹っ切れたのだろう。

 だいたいの身長体重は想像していたが、きちっと数字にされるのは今後の変化を楽しみとするため必要なことだったのだとは、後から考えたことだ。

 

 改めて、各々の数値を記しておこう。

 

 東尾豊後、48才

 身長171センチ、体重75キロ

 平常時、陰茎長11.0センチ、直径3.3センチ

 勃起時、陰茎長18.2センチ、直径4.6センチ

 

 北郷大和、42才

 身長170センチ、体重82キロ

 平常時、陰茎長12.0センチ、直径3.5センチ

 勃起時、陰茎長16.1センチ、直径4.3センチ

 

 西山朝熊、38才

 身長178センチ、体重98キロ

 平常時、陰茎長6.4センチ、直径2.6センチ

 勃起時、陰茎長10.6センチ、直径3.3センチ

 

 南川日高、28才

 身長165センチ、体重68キロ

 平常時、陰茎長15.0センチ、直径4.1センチ

 勃起時、陰茎長19.6センチ、直径4.8センチ

 

 

 日本人の平均は勃起時で13から14センチぐらいと聞いたことがある。そういう意味ではその逸物が比較的『大きい』ものが集まっていたようだった。

 朝熊君にしてもそう小さいというわけでも無いのだが、もともと体格がいい分、本人とってはかなりのコンプレックスだったのだろう。

 俺も自分ではそこそこと思っていたのだが、豊後さんや、とりわけ日高君のものと比べると見劣りがするのは否めない。

 といっても、褌姿、その前袋の膨らみの巨大さから想像する宿守りの男たちのそれと比べると、皆が子どもと大人ほどの差がありそうではあったのだが。

 

 計測も終わり、さらに冷ました温泉水を勧められる。

 最初に話があったように、ここではお茶代わりに温泉を口にし、それがまた湯治の目的の一つなのだろう。

 湯飲みを空け、緊張がほどけたはずの俺たちの股間は、まだまだ生え反っていたのだ。

 

「計測もお疲れ様でした。私たちは昼食の準備にかかりますので、皆様は温泉で温まってこられてください。

 皆様、初の入湯となりますが、温泉の前後に湯口からの飲泉をぜひお願いしたいと思っています」

 

 四方さんが、俺たちに声をかける。

 秘湯と言われるこの『金精の湯』へのやっとの入湯に、俺たち4人は色めき立った。