里見雄吉氏 作

開拓地にて

ある農夫の性の記録

第二部

思春期

 

一 同級生

 

 祖父との秘密の関係が生じてから、十一ヶ月が経とうとしていた。私は小学校の卒業を間近に控えていた。ここでいう秘密の関係とは、同年齢の友人たちより、遥かに成熟していたとはいえ、まだまだ幼さの残る我が陰茎を、祖父の毛だらけの肛門に挿入し、粘膜と粘膜の擦り合いの中で、精を放つようになったという意味である。

 発毛してからという意味であるならば、私の精通は小学校四年の冬、三月生まれの私が九歳のときであったから、既にニ年以上の月日が経過していたことになる。これは、中一で発毛した多くの友人たちに例えるなら、中学三年の半ばくらいの成熟度にあたったといえるだろうか。

 三月半ば、あたりはまだ腰の辺りまでの残雪に覆われていたが、吹き抜ける風は柔らかく、降り注ぐ陽光の温もりが、確かな春の訪れを主張していた。木々の芽吹きまでには、もうしばらくの時間を必要としたが、少年たちの性への芽吹きは、一気に始まっていた。私は少年期を脱し、既に思春期に足を踏み入れていた。

 そんな三月中旬のある日、学校からの帰路のことであった。私は、通りがかりの神社の境内に、級友のH樹がいることに気づいた。

 H樹が私を手招いた。私は奇異に感じた。というのも、私の通った小学校は、私が小学校四年に進級するとき、本校と分校が統合されて発足したのだが、H樹は本校の出身だった。だから、同級生になったとはいえ、親しいとはいえない間柄で、事実、あまり口を聞いたことがなかった。しかも、H樹の家は本校の近くの「郷」、定義通りに書き記せば「谷が途切れ扇状地上に出た地域」にあり、付き合うグループも違っていたから、同級生とはいえ、双方にとって同じ空間で生活している同居人でしかなかった。ただH樹の父親が役場に勤めていることだけは知っていた。保護者の職業をもとに、産業構造について学ぶ授業があったからだ。

「今度の土曜日、俺の家に遊びに来ないか。帰りがけに寄ればいい。」

 突然のH樹の言葉に、私はますます驚いた。H樹は、クラスでもどちらかというと悪い仲間との繋がりが深かったからだ。セックスに関しては不真面目な私だったが、学校では完全に優等生だったから、住む世界が違いすぎる。私は断ろうと思った。そんな私の気持ちを見透かしたかのようにH樹が続けた。

「いいだろう。他には誰も呼ばない。二人なら周囲の目も気にならんだろうに。」

 周囲の目とは、級友の視線のことである。昔は今と違い、クラス内の力関係は微妙なバランスの上に成り立っていた。それは集落単位であることが多く、相容れない輩、もっといえば他地区の者と親しくすれば、それは裏切り者であった。

 私のクラスには、旧本校出身と旧分校出身の間に明確な対立関係が存在していた。本校出身とは学校のある「郷」の子、分校出身とは、本村と開拓地の子を指していた。その対立関係は、そのまま大人の世界の分断を示していたといってよい。つまり、郷の住民の中には、山間地の地区に対し、「山奥のくせに」とか「山奥は貧乏人の集まり」といった、一種の優越感、差別心ともいえる感情が確かに存在していたのである。

 H樹の誘いは何を意味しているのだろうか。私はいぶかった。仲間は呼ばない、二人だけでという点に、何かしら秘密めいたものを感じる。というのも、第一部第一章、第五章で書いた、同級生と相互センズリをしあっていた友人Cというのが、実は、このH樹だったのだ。

「その日は家の者は誰もいない。いいもの見せてやるから来いよ。」

 その言葉には淫靡さが混じっている気がした。H樹の相互手淫のくだりを聞いていれば、なおさらのことである。さらに、H樹の瞳の奥に、どことなく怪しい光が宿っていたことも、私に決断を促した。

「いいよ。ただ家の仕事があるから午後ニ時には帰るから」

 家の仕事とは週末恒例の風呂の準あった。二人は何となく笑いあったが、私の脳裏には、友人づてに聞いた、H樹が同級生のA介の陰茎をしごき、射精に導く姿が浮かんでいた。

 

 週末の朝、私は家族に卒業式の打ち合わせで友人の家に寄る。昼食は一食くらい抜いても大丈夫だからとだけ告げて家を出た。

 学校で何回かH樹と視線があったが、H樹は何事もなかったかのように振る舞った。

 清掃後、私が便所で小用を足しているとH樹がやってきて、私の隣に立って口を開いた。

「今日のことは二人の秘密だからな。」

 H樹は先に自宅に帰って待っているという。去り際にH樹は私の股間を覗きこんだ。小学生とは思えないズル剥けの陰茎がH樹の目にさらされた。H樹は驚愕の表情を浮かべたが、

「すげえな。」

 という呟きだけを残して去っていった。

 私は学校帰りに歩いてH樹の家に向かった。一緒に帰れば、それぞれが親しくしている仲間に目撃される可能性がある。無用ないざこざを増やさないためには、何事もなかったかのように最大限の配慮が必要だった。

「二人の秘密だ。」

「すげえな。」

 H樹は確かにそう言った。そのニつの言葉が私の脳裏でぐるぐると渦巻いていた。「すげえな」とは、大人なみに成熟した私の陰茎のことだろう。では、「二人の秘密」とはいったい何を意味するのだろう?

 H樹の言葉の真意を測りかね、私は妄想をたくましくした。もちろん、その妄想が勃起を誘う類いの内容であったことは言うまでもない。

 

 H樹の家は学校のある郷にあった。郷には広く平らな耕地が広がっている。高冷地の山裾にポツンと取り残されたような開拓地とは何もかもが違っていた。私の住む山裾の開拓地を陰とするならば、H樹の住む郷は陽である。私は知らず知らずのうちに、すでに劣等感のようなものを感じていたのかもしれない。

 実際、開拓地は、本村からでさえ3㎞も川を遡った、とりわけ辺鄙な場所だったし、本村と郷も数㎞離れていたから、H樹の家までは片道で軽く6㎞近くはあった。普通に歩いても1時間半くらいはかかるだろう。わざわざ家に帰っていたら陽が暮れてしまう。学校帰りに立ち寄るというのは、好都合だった。

 H樹の家は茅葺きにトタンをかけた古民家で、周辺でも大きな家だった。農業は祖父母と母親が担っており、父親が役場職員であったことで現金収入もあったから、郷の中でも裕福な生活だったろうと思う。

 最も、今思えばごく標準的な家なのだが、開拓小屋が数多く残る寒村育ちの私の目には、まるでお屋敷のように映った。私自身の中の貧乏コンプレックスが、それに拍車をかけていたのかもしれない。とにかく山奥の貧乏百姓の私の家とは比べものにならない。それが当時の率直な感想だった。

 しかも、H樹は自分の部屋をもらっていた。古い農家は、基本的に田の字形の間取りである。プライバシーが守りにくい構造だったし、多くの家では部屋数だって限られていた。当時、自分の部屋をもらっている小学生は少なく、そういう私も毎日妹達と布団を並べて寝ていた。すでに大人の身体に変わりつつあったから、センズリをどうするかで苦労したが、祖父との入浴がそれを解決してくれた。

 閑話休題。H樹は私を自分の部屋に招き入れた。H樹の部屋は畳敷きの六畳間で、窓ぎわに座卓が置かれているが、他には何もなくガランとしていた。今思えば、H樹だってそれほど物に恵まれた少年だったというわけではないのだ。H樹が裕福に見えてしまう程、当時の開拓地は貧しかった。

 私が部屋の入口で戸惑っていると、H樹が切り出した。

「こないだC太に、俺とA介がここでしていたことについて、根掘り葉掘り聞いていただろう?」

 私は狼狽えた。二人がしていたことは相互手淫であった。たまたまその場面を目撃したC太に、私は二人の射精の瞬間の話を聞いていた。C太は郷のものだったが、父親が本村の出身だったので、私とも接点があったのだ。

 C太の報告は、私に異常な興奮をもたらした。その日、私は七時間で七回もの自慰に及んでいた。同時にそれは、いつの間にか級友達にも性の芽生えが訪れていたことを、私に教えてくれた。

 動揺する私を尻目にH樹がズボンのチャックを開けて自分の逸物を取り出した。まだ毛も生えていない、亀頭は完全に包皮に覆われた子供のそれだった。

「雄吉も出してみろよ。」

 H樹が悪びれずに言った。私は鞄を部屋の隅に置くと、陰茎を取り出した。H樹が目で合図した。私は、それが畳の上に横たわれという意味だと悟った。H樹達が何をしていたか私が知っていることを、H樹は見透かしているのである。H樹から誘いを受けた瞬間、彼の意図は理解できたし、こうなるだろうことも、ある程度、想像できた。

 祖父の影響と自らの性癖の結果、当時、既にわたしは越中褌を常用するようになっていた。私は一瞬躊躇したが、意を決してズボンを膝の下まで下ろした。私が成熟した陰茎を所持していることは想像していただろう。しかし、越中褌となると話は別だ。私は迷いながらも、意を決してズボンを下げた。

 越中褌の存在はH樹にとっても、晴天の霹靂だったようだ。

「お前、褌なんか?」

 私はそれには答えず、越中褌の紐を緩めて横たわった。

 H樹は膝を付いて私の横に座ると、褌を掻き分けて、私の大人顔負けの陰茎に手を伸ばしてきた。まるで、それが当然であるかのように・・・。

 H樹の手は汗でじっとりと湿っていた。私の陰部はとうに発毛し、遠目にもはっきりそれとわかるほど黒々と陰毛が生えそろっていたし、亀頭の露出も顕著だった。性器の成熟具合だけを見たら、とても十一歳、小学六年生のそれではなかった。

「すげえ・・・。」

 H樹が、生唾を飲み込みながら、便所で残したのと同じ言葉を呟いた。

 H樹が私の陰茎を擦る。それは見る見るうちに硬く勃起し、亀頭からは先走りが滲んだ。こうなると強引に皮を戻そうとしても戻らない。

 H樹が私の逸物をしごく手を止めて、自分のズボンとパンツを脱ぎ捨てた。H樹が自分の幼いチンボを取り出した。それはカチカチに勃起していた。

 H樹が、ぐいっと皮を反転させて見せる。ニュルンと皮が後退し、亀頭が露出したが、包皮が突っ張った感じで、それはいかにも窮屈そうだった。普段、包皮に覆われているH樹の亀頭は赤みが強く、雁首の大きさも不十分だった。しかし、剥けることを誇示したいのだ。H樹は亀頭を露出させて悦に入っていた。

「どうだ? 俺だって剥けチンボだぞ。」

 そう言わんばかりである。しかし、H樹が体勢を変えた瞬間、不意に包皮が元に戻り、せっかく露出させた亀頭は再び皮に覆われてしまった。

「雄吉のは、勃っても皮が戻らないな・・・。」

 H樹は半ば感心したように呟きながら、再び、私の陰茎に手を伸ばした。私は目をつぶって好きな親父のことを考えた。

 H樹の父親には、学校の草刈りなどの際、何度か会ったことがあった。小柄で猿のような男だったが、余分な肉のない脛毛の濃い男だった。

 H樹の手が私の陰茎をしごく。その手がどんどん速くなっていく。

 農業を営むT夫の父親の裸体が浮かんだ。村の湯治で目にしたT夫の父親の逸物は、仮性包茎ではあるが、ブラシのような胸毛の持ち主であった。祖父の姿が全く浮かばないのは不思議だった。いや、それは偽りである。正しくは浮かんだのだ。しかし、私は脳裏に浮かんだ祖父の裸体を、何の躊躇もなく打ち消した。

 H樹の父親、T夫の父親、ああ、すごい毛、すごい亀頭。きっとあの二人もセンズリして、勢いよく射精するんだろうな。二人の親父も、今の俺らみたいに子どもの頃にはセンズリのかきあいをしたんだろうか。それより、ニ人の親父はどうやってセンズリを覚えたんだろう。大人がしごいて手取り足取り教えたのかもしれない・・・。ああ、二人の親父とキスしたい。成熟した二本のチンボと俺のチンボを重ね合わせたい。親父達とセックスしたい。大人の濃い精液がほしい。ああ、たまらん。

「出、出るっ」

 私は呻いた。大人並みに成長した陰茎が一段と大きくなって痙攣したかと思うと、亀頭の先からドバッと精液が飛び出した。

 思い切り射精し、満足した私は塵紙を取ろうと、ふと顔をあげた。そして、ギョッとした。部屋の入口に級友のA介が立っていたからだ。H樹と相互センズリをしていた、いわゆる悪い仲間である。

 これは後でわかったことだが、実はH樹はA介とも約束をしていたのだ。

「自分と雄吉の他には誰もいないから、勝手にあがって来いよ。」

 事前に示し合わせていたらしい。知らなかったのは私だけであった。だから、今回の話は「相互センズリをした」というより、「二人の相互センズリの仲間に招待された」と言った方が適切なのかもしれなかった。

 一方のA介にしてみれば、相互センズリの真っ最中などというのは想定内であったろう。いつものようにあがり込んだら、予想通りH樹が私の勃り立ったチンボをしごいていましたよ、というわけだ。

 下半身丸出しでH樹に身をゆだねる私を見て、A介は声を掛けようとしたらしい。しかし、H樹が空いた左手で、

「騒ぐなっ。」

 と制したので、黙って成り行きを見守っていたという。

 チンボを擦ると白い液体が出るなんてことは、二人にとって、もはや驚きには値しないことだった。むしろ、優等生の私が、大人なみの生殖器をぶらさげていたこと、小六にして越中褌の愛用者だったことが、二人を驚かせていた。

「しこるの初めてじゃないべ?」

 H樹の言葉に私は頷き、既に自慰をするようになってニ年近くが経過していることを打ち明けた。もちろん、祖父とのことは秘密であった。

 私は二人のことを聞いた。先にA介が自然発生的にセンズリを覚え、H樹に教えたらしい。H樹の未成熟な性器を見れば、それは想像に難くなかった。

「A介も出してみれや。」

 H樹が言った。私達三人はお互いの性器を比べあった。A介の性器には既に毛が、びっしりと生えていた。もちろん亀頭が露出しているのは、私だけだった。一方、H樹のものは、一見、まだ発毛をみていなかった。しかし、私は小四の冬、自らの陰部に見つけた発毛の兆しを、H樹にも見いだした。それを指摘するとH樹は食い入るように自らの生殖器を見つめていたが、やがて満足の表情を浮かべた。

 H樹がギラギラした目でA介の陰茎に手をのばした。慣れた手つきであった。H樹が包皮を後退させると、A介のそれは苦も無く反転し亀頭が露出した。H樹のような窮屈さは微塵もない。

 A介の逸物が勃起してきた。包皮は自然に反転し、完全勃起に至るや、それは見事なズル剥け状態になった。一方、私のものは射精したばかりなので、ダラリと力を失い、亀頭の先からは精液の残滓が糸を引いて畳に垂れた。それは、かえって卑猥さを醸し出していたのかもしれない。

 H樹が再び生唾を飲み込んだ。私の陰茎に至っては、平常時でも亀頭がほぼ露出している。それを目の当たりにし、発毛のわずかな兆ししか見いだせない、自らの性器の未熟さを実感した時、H樹はどんな思いであったのだろうか。

「雄吉はいつ覚えたん?」

 H樹が聞いてきた。

「小五のはじめ頃。」

 想像以上の早さに二人は驚いていたが、私の発毛と夢精が小四の冬だったことは、さらに二人を驚かせ、感心させた。

 二人がセンズリを覚えたのは、半年ほど前の秋頃のことだったらしい。それを聞いた私は、秋祭りの、祖父との一夜のことを思い出していた。きっと同じ頃のできごとであろう。

 そんなやりとりの中で興奮してきたのだろう。私の陰茎は再び勃起してきた。まだ射精していないH樹とA介は、既に興奮しきっていた。カチカチの陰茎が、それを如実に物語っていた。二人は自ら逸物を、狂ったようにしごいた。

「雄吉もやれや。」

 上ずった声でH樹が言った。私は頷き、二回目の射精をしようと、自らのものをしごき始めた。

「ああ、気持ちいい。気持ちいい~。」

 まずH樹が身体をのけぞらせながら、呻き声とともにアクメに達した。しかし、射精はしなかった。未熟なH樹の生殖器では、まだ射精できないのだ。射精しないで絶頂に達した場合、何度でも達することが可能らしく、H樹はすぐにニ回目に挑み始めた。

 その刹那、A介が、まるでそれが合図であったかのように、

「ああ~。」

 と叫んだ。ついにその瞬間が訪れた。A介の亀頭の割れ目が一瞬大きく開いたかと思うと、凄い勢いで白い樹液が飛び出した。それは一筋の弧を描き、数m離れた部屋の隅の座卓にべっとりと降りかかった。A介の陰茎はニ回、三回と続けざまに痙攣し、その度に精液をドクドクと放出し続けた。

 祖父以外の男の射精を見るのは、これが初めてであった。そこには、倦怠期のホモカップルが、発展場で、より魅力的な男とのセックスに行き着いたときのような新鮮さがあった。精液が吹き出る場面の美しいこと。それが新たな男のものなら、その美しさは格別である。

 畳の上にも、A介の放った精液が点々とシミを作っている。祖父以外の男が精を放つ姿に、私もひどく興奮していた。とはいえ、私はさっき射精したばかりだから、やはり時間がかかる。

「あ、また行くぞっ。」

 H樹が叫んで身体をのけぞらせた。どうやらまたアクメに達したらしいが、やはり射精はしなかった。ただカチカチになった陰茎をピクピクと痙攣させ、ハァハァ言いながら光悦した表情を浮かべていた。それを見た私の興奮は極限まで高まった。

「出るっ。」

 私が放ったニ発目は、一発目よりも勢いよく飛んだ。ニ発目で薄かったこともあるが、未熟とはいえ、A介の射精を目の当たりにしたことで、新鮮な興奮があったからだろう。

 H樹は息を荒げたまま、もう一回達しようと、逸物をしごき続けていた。性的にある程度成熟し、射精できるようになると、連続して性的絶頂を得ることは難しくなってしまう。出した後の虚脱感を、男なら誰しもが理解できるはずだ。しかし、まだ射精できずに、アクメだけを感じているうちは、それが可能らしかった。

 たて続けに三回絶頂に達し、少し落ち着いたH樹が上ずった声で言った。

「俺も早く出せるようになりたい・・・。」

 H樹の表情に嫉妬が浮かんでいるのを、私は見逃さなかった。大人のように成熟した二本の陰茎が、勢いよく精を放つのを目のあたりにした直後である。H樹が、惨めな気持ちになるのも無理のないことだった。

 私は家の手伝いがあったから、ニ発目を出したところで帰宅した。去り際に振り返ると、畳に横たわったH樹の逸物を、A介がしごきたてていた。次は入れ替わるのだろう。きっと夕方まで、センズリを繰り返すに違いない。

 

 帰宅後、私は家族のために風呂をたてた。もちろん、その夜も祖父と入浴し、交わった。私は祖父にしがみついてがむしゃらに腰を使った。いつもと違う激しさは、祖父がいぶかる程だった。

「雄吉、初めてのガキでもあるまいに。なんでそんなにがっつく?」

 私はそれには答えず、さらに激しく腰を打ち付けた。さすがに苦しかったのだろう。

「爺ちゃんのおめこ、壊れちまうに。」

 しかし、私は容赦なかった。祖父の言葉などほとんど耳に入っておらず、祖父のうなじに唇をはわせながら、H樹、A介、私の三人で男色にふける場面を想像していた。

 祖父は諦めたらしく、今度は私を早く行かせようとした。祖父の腸壁が私の逸物を強く締め上げた。

 やがて、私の想像にはH樹の父親、そして、T夫の父親が現れた。そして、射精の瞬間、私の脳裏では、毛の生え揃ったH樹の陰茎が、雄の樹液をたくましく放っていた。

 ふけ専の私にとって、H樹もA介も、決して好みの範疇には含まれない。しかし、この日、私は射精の瞬間に祖父を打ち消し、脳内のこととはいえ二人を選んだ。そこにある答えはただ一つだった。私は祖父とのセックスに飽き始めていた。

 祖父は理想的な外見だったし、年齢も私のツボだった。そして、生涯、祖父のような外見の親爺を求め続けたのも事実である。しかし、ホモはいくらタイプの男であっても、一人の男を相手にしていると、セックスに飽きるのである。いや、これはケでない男であっても同じなのかもしれない。だから、多くの夫婦は時間が経つにつれ、自然とセックスがなくなっていくし、倦怠期などというものも存在するのであろう。セックスへのハードルが低い分、ホモはそのサイクルが早いのだ。今、思えば、秋祭りの夜、あの時が祖父とのセックスの頂点だったのかもしれない。

 

 月曜日が来た。登校するやいなや、私は、その後の顛末をH樹に尋ねた。私の予想した通りだった。私が先に帰った後、A介を二回射精させたと、H樹は嬉々として語ってきた。二人は日頃から、そんな悪い遊びの常習犯だったのだ。

 恐らくA介には、それが同性愛行為だという認識すらなかったのではないか。そもそもA介がケの男でないのは、間違いがないことのように思われた。A介からは、仲間だけが感じる、あの独特なオーラを感じたことがまったくなかったからだ。

 一方、H樹はどうであったろうか。実は、当時から、私はH樹は潜在的な同性愛者なのではないかと疑っていた。その根拠は幾つもあった。その一つが、この頃からH樹が好んで取るようになった行動であった。

 それは、友人を集団で押さえつけてチンボをしごきたて、強引に射精させて喜ぶという暴挙であった。その中心人物になっていったのがH樹だった。その行動が、田舎の野蛮な雰囲気の中だけで許される愚行であったのは確かである。しかし、そこには、周囲からみても怖いもの見たさ的な興味と興奮が同居していた。確かに、エロビデオもない時代、他人の射精など滅多にみることができなかったから、それは正に一大見世物である。そんな思いが多くの者の胸のどこかにあった。だから、表面上はH樹の行動に嫌悪感を示しつつ、誰もが黙認、黙殺し続けたのである。H樹も微妙にそれを感じとっていた。故に彼の愚行は繰り返され、どんどんエスカレートしていったのだ。

 しかし、同性愛者である私の内面は、少し違っていた。

「例え自分が被害にあっても、それはそれで楽しそうじゃないか。しごかれて射精できたら気持ちよいかもしれない。いや、それ以上に誰かの性器から精液が飛び出る場面を見てみたい。」

 そこにあるのは「やられたい」という願望であった。もしかしたら、H樹も同じだったのではあるまいか。級友を射精させながら、自分も射精させられたがっている。H樹の行動は、私にはそんな風に見えた。

 このH樹の愚行については追々語るとして、この日に経験した異常なまでの興奮は今でも忘れることができない。自分以外は、性的成熟が遅れていると高を括っていたが、この一年の間に、大人の身体にかわりつつある友がたくさんいた事実に直面し、私はそれまでの偏った自分の認識を秘かに改めざるを得なかった。

 それと同時に、このできごとは、ひとつの示唆を私に与えた。私は自らに問いかけた。

「俺は、爺ちゃん以外の男ともいやらしいことをしたいのだろうか?」

 答えは簡単だった。したい、したい、したい。ただそれだけである。例えそれが十一歳の子どもであっても、基本的にホモは多情で淫乱、そして、乱交を好むものなのである。好みの男に関しては遠慮も節操もあったものではない。その本質はいつの時代、そして誰であっても変わりはしないのだ。

 十一歳でありながら、私はそれを自覚しつつあった。今、思い返してみるにつけ、ホモの性に対する本質を肌で感じ取ったのは、この時が初めてだったのもしれない。はからずも、それは、祖父とのセックスに飽きる時が来ることを、幼い私に教えてくれていたのである。

 

 実は、当初、私はこのエピソードを「開拓地にて」から割愛するつもりだった。明らかにノンケで、相互手淫は、単なる女とのセックスの代償行為でしかなかったA介と違い、同性愛者の可能性が濃厚なH樹を、作品に登場させてしまうことははばかられた。もっとも、その問題は仮名を使えば克服できそうともいえた。一番問題だったのは、ふけ専の男の性遍歴、親爺との濃厚な性行為という物語の主旨から外れてしまう点だった。熟年に発情する者にとって、少年期の相互センズリなど、ジャニーズの男性アイドルが出演したホモビデオに等しいだろう。それは作品のテーマそのものが、破綻してしまうことを意味している。

 しかし、迷った末、私は本エピソードを自叙伝に入れることにした。実際、中学、高校と私が成長するにつれ、私と祖父の性行為は徐々に頻度が減っていった。高齢になった祖父が次第に衰えていったというのもあるが、最大の理由は、祖父とのセックスに飽きて、以前程、私が積極的でなくなっていったからである。私の内面の微妙な変化に祖父も気づいていた。

 多くの方々に励ましていただきながら、「開拓地にて」の中学生編、高校生編をなかなか執筆できなかった理由も、実はここにある。表向きは、

「畑仕事で疲れてしまって・・・。」

 と、もっともらしい言い訳を繰り返していた。しかし、真実は祖父とのセックスが、物語が進展するにつれて激減していく理由を、どう説明したらよいかわからなかっただけなのである。

 この後、私は別の親父にアナルを捧げ、それがきっかけで天性のウケとして目覚めていく。その一方で、高校時代には、下宿先の主人「小谷のおじさん」への恋心を、一方的に募らせていくのである。もちろん、小谷のおじさんはケの男ではなかったから、告白さえ許されない中、苦しく切ない親子ゲームを繰り返すしかなかった。

 それら自分の中の気持ちの変化をどう書いたらよいか。私は迷い続けた。

 ホモは多情である。それは私も変わらない。祖父とのセックスとの決別を正直に書かなければ、物語は破綻し辻褄があわなくなる。祖父とのセックスの終焉を書くには、H樹とのエピソードは不可欠であった。

 連載開始時に、祖父とのセックスのことを正直に語ろうとしたのが第一の決断であったとしたら、今回、私は第二の決断をした。それは、祖父とのセックスに飽きたことも、正直に告白することに他ならない。しかも、その時、私はまだ中学生だったのだ。

 誤解のないよう再度書くが、祖父は私のタイプであったし、生涯、祖父のような男を求め続けたのも事実である。実際、祖父との肉体関係は祖父が亡くなるまで続いた。しかし、好みだからセックスしたくなるのが必然なら、実際にセックスしたことで、次第に相手の肉体に飽きて行くのもまた必然なのである。それが男の性(さが)なのであろう。

 第二の決断には、二年近い時間が必要だったが、もう迷いはない。「開拓地にて」第二部の幕開けである。