男性専科クリニック Part 7

その1

 

村岡と宮内 宮内のマンションにて

 

「おっ、おっ、昭一(しょういち)のチンポが当たるっ!」

「寛(ひろし)っ、寛っ! いいんか? 儂のチンポがいいんかっ?」

「いいよっ、もっと突いてくれっ、ああっ、イきそうだっ、昭一にやられてっ、俺っ、イきそうだっ……」

「ううっ、寛の尻っ、すごい締まりだぞっ!

 あっ、あっ、イくっ、儂がっ、儂が寛の尻にっ、出してええか? ええか? 出すぞっ、出すぞっ!

「出してくれっ、昭一っ! 昭一の汁っ、俺の中にっ、出してくれっ!」

「ああっ、寛っ! 儂っ、儂っ、寛の中にっ、寛の中にっ、イくっ、イくっ!!」

「あっ、出てるっ! 昭一の汁が出てるっ! 俺もイくっ、イくっ、イくっーーっ!!!」

 

 がっちりした肉体に覆い被さるようにして、その太い尻を震わせているのは村岡昭一(むらおかしょういち)、56才。小柄ででっぷりと突き出た腹に脂ぎった額が、いかにも精力絶倫に見える禿頭の男だ。

 ウケに回っていたのは肉付きの良いがっちりとした体躯に白いものの混じるごま塩頭、54才の宮内寛(みやうちひろし)。

 

 宮内の尻奧深くに何度も打ち付けられたのは、村岡の太ましい肉棒から吐き出される白い液体。

 でっぷりとした尻肉と腹を幾度も震わせた村岡が、汗ばんだままの上半身をどさりと宮内に預けその唇を奪う。

 あまり扱きもせずに噴き上げた宮内の精液が2人の腹の間でぬるぬるとその面積を広げ、よじれたシーツへと垂れていく。

 

 週末は宮内のマンションで過ごす2人の、土曜日の午後の一コマであった。

 

「なんや、また2人で挿れ合う、やり合うのが普通になったな、儂たち」

「ああ、もう何十年も昭一のときにはタチばっかりだった俺がなあ……。これも野村先生とこに顔出さなかったら、あのままだったんだろうけど」

「後悔してるんか? 寛は?」

「だったらあんなに感じてないよ。昭一の方こそ、俺とのタチはもう勘弁とか思ってるんじゃないだろうな?」

「そっくりそのまま、同じ台詞を返すわいなあ、そこは」

 

 宮内の上からゴロリと半身を転がし、仰向けになる村岡。

 タオルでザッと拭いはしたものの、すぐにシャワーへ向かう様子は見られない。

 昔から、セックスの前後のピロートークが好きな2人なのだ。

 

 およそ30年以上も前のことだ。最初に知り合ったのは飲み屋であったか発展場だったのか。

 それすらも曖昧になるほどの長い付き合いだった。知り合ってしばらく経つうちに、いつの間にか少しばかり若い側の宮内がタチ、狸腹の村岡がウケとしての役割を固定化してきた2人であった。

 当時は両人共にタチウケこなせてはいたのだが、互いに付き合う中での自然な立場構成といったものであったのだろう。

 日常生活の中でどちらが主導権を握る、という話では無く、あくまでも寝室の中、ベッドの上での話であった。

 

 そのような2人のいわば『慣れきっていた性行為上の役割分担』を見直すきっかけとなったのは、ED治療においてその界隈では評判の、名医との噂も高い野村医師のクリニックにおけるセラピーでのことだ。

 

『出来れば、お二人で来院いただくといいかもしれません』

 

 二人がゴルフ旅行で温泉が有名な宿に泊まったときのことである。

 女性グループの利用も多いその宿で、その日は村岡達の他にもう一組だけが男性の泊まり客だった。

 夕食前の入湯で、男性向けのクリニックの医師と看護師、患者2人という、4人のグループと、偶然にも宿自慢の露天風呂で一緒になったのだ。

 夕飯前と深夜、彼らと裸の男同士で親密な時間を過ごす中、自分達2人がゲイである、という雰囲気も伝わったらしい。

 下半身の悩みを専門としているらしい医師に村岡のEDについて軽く相談をしたところ、同行しているクリニックの患者が受けた治療の成果を、自分達の前で披露してもらうこととなったのだ。

 山崎と名乗る中年男が、恥ずかしげに、だが誇らしげにも見える風体で己の逸物を扱き上げ、たっぷりと男としての汁を噴き上げた様は、村岡と宮内の股間をも熱く刺激した。

 深夜の風呂での再開では、合わせて6人の男全員でのせんずり大会という、なんとも驚くようなことまでやってしまったのだ。

 

 どうやらあの4人のグループの中では、ED治療を目的として(口実、という面もあるとは思われたが)、ともかくも人前でのせんずりやフェラすらも、その『治療』に取り入れているらしい。なんとも奇妙な男達であった。

 4人の男達は、全体としてはやはりクリニックの院長である医師がイニシアを握っていたようではあるが、患者の2人や男性看護師も含め、どこか誠実な人達だなとの印象を持ったまま、帰路につくこととなった二人である。

 会話の中で、村岡との性生活の匂わせや、互いの生活様式について話す中、医師より来院を勧められたことが、先ほどの言葉となったのだ。

 

「まさか、昭一のEDが、俺たちのセックスパターンのマンネリ化から来てるとは、思いもしなかったもんなあ……。二人ともそれなりに外でもヤってるワケだし……。」

「まあ、役割分担というより、儂の意識の方が縮こまっておったんじゃろな。儂じゃて、甚さんとこじゃタチっぽい感じでやることもあるし、寛も外で遊ぶときにはタチウケどっちもやりおるんじゃろう?」

「仰るとおり、って奴だよな。確かに昭一とタチウケ入れ替えてみたら、こっちもすごく感じてしまったし、逆に考えると、若いときになんで固定化しちゃったんだろうとは思う。付き合って最初の頃は、挿れて挿れられてで、2人とも両方やってたワケだし」

「今となっては、ホントになんでか分からなくなっちょるが、そんときはそれがいいって、二人して思っとったんじゃろなあ……」

「ま、こうして昭一も元気になってきたし、俺も昭一に挿れられるの、すげえ気持ちいいし、終わり良ければすべて良しって奴かねえ」

「おいおい、勝手に終わらすなよ」

 

 寝室に笑い声が響く。

 

「で、寛は、この前聞いたセラピーのこと、どう思っちょるんじゃ?」

「ああ、温泉で一緒だったノンケさん2人との奴だろう? あのときもチラッと話には出てた記憶もあるけど、いざちゃんと話を聞くと、なんかドキドキするよなあ、やっぱり」

「儂ら2人が、いわば『先生役』になって、ノンケの2人にホモのセックスを教えるっちゃあ、最初はあの先生、いったい何を言い出すんかと思ったわいな」

「ホントだよな。ただもう、そうなると、あの2人を『ノンケ』って言っていいのかも、疑問に思っちまうけどな」

 

 前回、村岡と宮内が一緒に受診し、野村医師、田畑看護師との濃厚かつ淫乱な時間を過ごした後の話であった。

 村岡のEDも改善傾向にある今、山崎と西田という、温泉宿で顔を合わせた2人と、村岡、宮内の4人で、合同セラピーをしませんかとの提案を受けたのだ。

 温泉での出来事、また野村クリニックで2人が受けている『治療』の内容からしても、その合同セラピーとやらが男同士同性同士の濃厚な性的接触を伴うものになることは間違い無い。

 しかも、医師からの提案では、2回に分けた取り組みのうち、最初のセラピーでは、村岡と宮内がウケに回って欲しいと言われたのだ。

 

 双方に了解を取りながら、山崎と西田の治療進捗の話も聞かされていた2人であった。

 そこではすでにノンケのはずの2人が、肛門への指や舌の挿入、前立腺の刺激による快感獲得の段階に進んでいる、とのことであったのだ。

 当然そこに絡むとなれば、アナルセックスについては一日の長がある自分達が、まさに挿入する側として、彼ら2人の肛門性交における快感獲得にダメ押しをするのではと、想像していたのだ。

 

「最初に話しを聞いたときには、てっきり俺たちが挿れる側で、あの人達を喜ばせる側だと思ったよな」

「ああ、儂のチンポも元気になってきちょるし、寛の言う通りで、初物を掘れるんかなあとも思っとったよな」

 

 ホモとノンケが尻を使って、ということであれば、村岡と宮内の想像した構図を描く方が、多数を占めることになるだろう。

 

「男との経験の無いノンケさんに取っては『男のケツに挿れる』ってのは、どうしても『出すところに挿れる』ってのが、相当ハードル高いと思ってたし、寝っ転がってりゃいいウケの方が楽かとも思ってたしなあ……」

「野村先生と田畑君の話だと、洗浄含め、指入れやケツ舐めもクリアしてきてますってことだから、そこまで済ませてりゃあ、確かに挿れて相手がよがれば、本人さんの自信にもなるじゃろうとは思ったがな」

「さすが医療者、システマティックに物事進めてるよなって、俺はびっくりだったけどな」

「まったくまったく。儂も最初にそういう手ほどき受けとれば、とも思ったんじゃが」

 

 笑い合う2人。

 

「儂は甚さんのところでは、掘られてトコロテンでイくこともあるんじゃが、寛の方はどうなんじゃ? さっきの感じだと、ほとんど扱かんでもイケそうには思えたんじゃが……?」

 

 村岡としてみると、ウケとしてノンケの相手をするのならば、向こうの努力に対してこちらはトコロテンでイケるぐらいに感じてやらなければ、との思いがあるらしい。

 

「ああ、俺もハッテン場でヤられたり、セフレとヤるときに、ぜんぜん触られないで漏らしちまうこともあるな。あ、でも、最近の昭一とヤるときに扱いてんのは、刺激が弱いとか感じてないってワケじゃ無くて、タイミング合わせて一緒にイきたいからだぞ」

 

 村岡と宮内の付き合い方は、流行りの言葉であればオープンリレーショナルシップ、などと言われてしまうものだろう。付き合い出した当時には、むろんそのようなしゃれた言葉など、聞いたことも無かった2人ではあったが。

 それぞれを『相方』『恋人』『一番の好きな人』と認め合いながらも、性的な、肉体的な関係を他者と切り結ぶことそのものには抵抗の無い2人である。

 付き合い始めのときから、肌を合わせながらも互いのことをより深く知ろうと、多くの会話を重ねてきた2人だった。

 付き合いが深まれば深まるほど『最終的には自分のところに戻ってくる』『もし別の男に相手が惚れても、それはこちらの甲斐性が無かっただけ』との認識を得た2人であったのだ。

 

 実際、村岡にしてみれば、今でもこちらの世界での性的サービスをも付加したマッサージ屋をよく使っていたし、そこのオーナー兼施術師は、宮内もまた昔からよく知る男でもあった。

 宮内もまたネットで見つけた相手と発展場やホテルなどでそれなりの実践を重ねてはいるのだが、村岡がマンションに泊まりに来る週末だけは決してその手の予定を入れないという、自分なりにけじめをつけているようである。

 

「分かっとるわい、そんくらい。改めて言われると、恥ずかしゅうなるやろう、そんなん」

「昭一のそういうとこに惹かれて、何十年も付き合っとるんだがな、こっちは」

「真顔で言うな、まったくもう……」

 

 宮内の頭を小突く振りをする村岡は、嬉しそうな表情をしている。

 

「先生達の話しじゃと、指や舌ぐらいまでは挿れてみとるようじゃが、ホンモノは儂等とのときが初めてになるってことじゃったからな」

「ああ、ノンケの初掘りでウケれるなんて初めてだし、話しを聞いてすげえ興奮してる。昭一だって、ノンケに掘られるってだけでも、感じちまうだろう」

「まったくだ。あの2人、最初は尻に入れるだけで頭がいっぱいになるだろうから、こっちの乳首やチンポは、先生と田畑君が面倒見るっても言ってくれたからなあ。あんなの聞いて、興奮せんのはホモじゃおらんだろうて」

 

「また勃ってきた……。昭一、今度は俺が挿れていいか?」

「今日は早いな。あの2人とのケツウケを思って、興奮しとるんじゃろ、寛も?」

「寛『も』って、昭一もなんだろ?」

 

 天井を見上げながら会話を進めていた2人であったが、宮内の股間が先ほどの吐精の勢いからするとかなり早い回復を果たしたようだ。

 

 先ほどまでは仰向けになった宮内に村岡が向かい合っての挿入であったが、宮内がタチの場合の最初はどうやら違うらしい。

 村岡がそのでっぷりとした腹を下に四つん這いになり、太い尻を突き出すようにして宮内を誘う。

 

「ああ、昭一の尻は、やっぱり見てるだけで興奮するな……。挿れるぞ、昭一」

「激しくヤってくれ、寛。儂のケツも、さっきから疼いとったんじゃ……」

 

 こうして2人の第2ラウンドが始まったのだった。