冨士見消防署獣人吏員

その7

二人の帰署

 

 その夜、後勤体制中には幸いなことに火災現場・救助出動要請は掛からず、救急出動2回で事なきを得た冨士見署の吏員達。

 朝を迎え、翌日の班との交代を迎えたちょうどそのとき、牛ノ宮が持つ班長以上が支給されている携帯の呼び出し音が鳴る。

 身構える男達。

 

「あ、隊長、牛ノ宮です……。はい、はい、……はい。はい、蘭童とも打合せをしています。はい、了解しました。はい、帰署をお待ちしています」

 

 熊部から連絡があったことに、ホッとする隊員。

 

「みな、聞いていたろう。熊部隊長から連絡があって、今からホテルを出るそうだ。ちょうど引き継ぎが終わる時間ぐらいの帰署になるとのこと。

 打合せの通り、蘭童と私が事後確認の見届け人となるため、第一班班長代理、第二班班長として残る。さらに吏員からの確認要員としては猪野山佐吉を任命した。記録者として相良も同じく居残りだ。

 後の者は、心残りある者もいるだろうが、引き継ぎ終了後はただちに退署し、次のシフトに備えてほしい」

 

 本人もまた、この数時間の緊張がかなりのストレスとなっていたのだろう。牛ノ宮が一気に語り終えた。

 

「すみませんっ、牛ノ宮班長!」

「どうした、悟?」

 

 大声を上げたのは、第一班の良町悟であった。

 

「一班で俺だけ帰るなんて、出来ないです。俺も残らせてください!」

「班長、俺ら二班も同じ第一小隊員です。俺達二班全員、残ります!!」

 

 良町に続き、牛ノ宮の部下達、第二班の残り5名の隊員達も、一斉に声を上げる。

 基本、班体制の組み直しが行われる半年間、この12人はまさに24時間を『共に過ごす』『仲間』であった。

 二班に集う、牛ノ宮を頭とする、猪獣人2名、ヒト族3名の吏員達もまた、熊部と猪野山良次が心配でならないのだ。

 

「お前ら……。お前らって奴は……」

 

 牛ノ宮の小さな目に浮かんだのは、この間の緊張による汗では無さそうだ。

 

「お前ら、ホントに馬鹿の集まりだな。

 まあ、俺はそんなお前らが嫌いじゃ無い。

 ただし、さっき言った4名以外は、残業代は出んぞ。

 サビ残喰らってもいい奴だけ、残りやがれっ!」

 

「応っ!」

「ありがとうございますっ、牛ノ宮班長っ!」

 

 朝の人員交代における引き継ぎを、牛ノ宮と荒尾蘭童が行い、昨夜の状況報告では日勤となる署長以下、第二小隊の交代吏員達にもどよめきが走った。

 

 改めて現在体制での職制最高位者となる牛ノ宮が、署長へ今後の方針を説明する。

 

「署長。先ほどの状況より、熊部隊長、猪野山第一班副班長が帰署後、応急対処事後確認のため、第一班、第二班の吏員とともに、会議室を使用させていただきます」

「ああ、分かっている……。みなもきついとは思うが、こればっかりは同じ時間を過ごした君らがやらんといかんことでもあろう。その間は本日勤務体制のものは、会議室には近付かないよう、こちらで対応しておく」

「ありがとうございます。隊長らの帰署後、すぐに確認体制に入ります」

「うむ、くれぐれも頼むぞ、牛ノ宮班長、荒尾隊員」

「了解です!」

 

 引継ぎが終わり、今から勤務体制となる第二小隊の吏員達から口々に労いの言葉を浴びる蘭堂達ではあるが、以前その表情は固いままだ。

 

「そろそろ隊長達も戻られるだろう。第一小隊員は、会議室に移動してくれ。第二小隊のみな、後をよろしく頼む」

 

 きっちりと頭を下げる牛ノ宮を見送る第二小隊の吏員達。

 その顔を見遣れば、今回の事態の深刻さは十分に伝わっているようだった。

 

「猪頭と猪狩は車場で待機、隊長達が帰署されたら耐火服の始末を頼む」

「牛ノ宮班長、了解です! 第一小隊第二班、猪頭および猪狩2名、車場にて待機に入ります!」

 

 勤務時間は過ぎているはずではあったが、吏員達の動きはなんら時間内と変わらぬものだった。

 猪頭と猪狩を先に出したのは、第一班の班員だけで無く、小隊全員が事態を把握しているということを、熊部と猪野山に知らせる牛ノ宮の意図であろう。

 

「全員が揃ったところで、熊部隊長、猪野山良次副班長の火災現場危機中毒に対する応急対処の効果判定に入る。残りの班員は机を片付けて、スペースを作ってくれ」

「了解!」

 

 第一班員の全員、第二班員も全員が揃って二人を迎える体勢を取る。

 第二班の獣人では牛ノ宮をはじめとして猪獣人の猪頭、猪狩の他、ヒト族吏員として北部正孝(ほくぶまさたか)33才、益城達也(ましきたつや)28才、護藤幹也(ごんどうみきや)24才。

 皆それぞれが、班長牛ノ宮の自慢の部下達だった。

 

 並べられた12の椅子。

 腰を下ろしたものもいれば、壁際に佇むものもいる第一小隊の男たち。

 その中で2人の男が、椅子に座った牛ノ宮の前へと進んだ。

 

「牛ノ宮班長、火の試験は、隊長といのりょーさん、素っ裸になって受けてもらうんですよね……」

 

 第一班の良町が天井を見つめていた牛ノ宮へと尋ねる。

 

「ああ、そうだ……。複数人の目視と触診、それらすべてが公開の下に行わればならんからな」

 

 良町が隣の猪野山佐吉と頷き合う。

 

「俺たち、別にどんな格好でもいいんですよね?」

「ああ、そうか、みな活動服のままだったな。俺と蘭堂は記録に残さんといかんのでこのままだが、みなは着替えていいぞ。私服でも構わんことではある」

 

 検分役として牛ノ宮と荒尾蘭堂に付いてはまさに『公的記録』に残る名前だが、ライターの点火をするだけの猪野山佐吉や、他の班員達についてはどのような服装でも構わないというのは、勤務時間外に行われるものとして、ある意味当然のことであった。

 

 再び頷き合う良町と佐吉。

 その2人が、牛ノ宮の前でいきなり活動服を脱ぎ出す。

 

「ど、どうした? さとる? いのきち?」

 

 訝しげな牛ノ宮。

 

 あっと言う間に全裸となった2人。

 周りの隊員達も若者たちの動きを固唾を呑んで見守っている。

 

 あらかじめ打ち合わせていたのか、裸体を隠そうともせず、いや、両手を後ろに回し腰を突き出すかのような二人の姿勢は、己の股間を強調するかのようだ。

 良町のやや小振りなそれは、先端が丸く剥き出しになっている。太さの目立つ猪野山佐吉の逸物は少しばかり被ってはいるが、これも臨戦態勢になればずるりと剥け上がることだろう。

 

「俺、俺、現場にいたのに、なんも出来なかったんです」

 

 猪野山佐吉が真っ正面を見つめ、泣きそうな声で訴える。

 

「一緒にいた蘭堂さんに、俺、甘えてて、全部やってもらって……。隊長と叔父が命かけてるときに、俺、何にも出来なかったんです。

 だから、だから、せめて、せめて、隊長と叔父が恥ずかしくないようにって、俺も、俺も素っ裸になろうって」

 

「違うぞっ! いのきちっ!」

 

 会議室に突如、野太い声が走る。

 

 第一班の荒尾蘭堂が立ち上がり、つかつかと猪野山佐吉へと歩み寄る。

 

「お前が握っていたのは、お前のカラビナが繋げていたのは、隊長の命だ。俺のカラビナに繋がっていたのは、良次さんの命だ。

 そのロープは、お前と俺から、次のりくさんへと繋がっていた。

 俺たちはどんなに急がなきゃいかん現場でも、必ず、必ず、互いの身体をロープで繋ぐ。それを、それに繋がったお前は、お前の前に立つ隊長の、良次さんの命を繋いでいた。その命の繋がりを、六道さんに繋げてたんだ。

 現場での経験なんぞ、これからどれだけでも学んでいける。嫌でも学ばざるを得なくなる。

 だからこそ、だからこそ、今日のお前を、今日の自分を誇れ。

 俺の前で、これから2度と『何も出来なかった』なぞ、言うな……」

 

 蘭堂が泣いていた。

 隊長や良次すらからかい、ヒト族の現場吏員として、数々の現場をかいくぐってきた蘭堂が、泣いていた。

 

 相良新一が、その肩に手を添える。

 黙って聞いていた牛ノ宮が立ち上がる。

 

「いのきち、蘭堂、腹の中のことは、全部出し終えたか?」

 

 涙を拭いながら、頷く2人。

 いや、第一小隊のほとんどの男たちが、その瞳に溢れる水分を湛えていた。

 

 蘭堂と相良が、黙って活動服の前をはだけ、服を脱ぎだす。

 

「蘭堂さんっ!!」

「相良さんっ?!」

 

 蘭堂にはあるいは、と思った隊員もいたのかも知れぬが、相良については大半のものが意外に思ったようだ。

 良町に継ぎ、ヒト族である蘭堂と相良が全裸になる。その意図は、小隊の男たち皆に伝わっていく。

 元来は獣人吏員に関わるこの事態にこそ、ヒト族の吏員達が心を寄せているのだと。

 顔を見合わせ、頷き合った男たちが、次々と青い活動服を脱ぎ捨てる。

 

 最後に脱いだのは牛ノ宮だった。

 

「ま、小隊で一番の若造が脱いじまってるんだ。おっさんの俺が脱がんわけにもいかんだろう?」

「隊長達もですが、りくさんとかも上がってきたら驚きますよね」

「まあ、あいつらも地頭はいい。意味はすぐに伝わるさ」

 

 泣きながら、笑い合う男たち。

 

「班長っ! 火の試験はまあ、みんな目にするから分かると思うっすけど、2つ目の奴、その、俺たちも扱いちまっていいんスよね?」

 

 二班の北部正孝が、大声で尋ねる。

 元々、獣人の性欲の高さから発生している症例であるがゆえに、北部の台詞もまた、ヒト族の自分から言い出せねばと思う中堅スタッフだからのものか。

 

「ああ、残業代は出らんがな。もちろん、後の掃除も全員でやるならな」

「おおっ、了解ッス、班長っ!」

 

 今、この場にいる8人の男たち。

 全裸で並ぶその姿は、ヒト族、猪獣人、牛獣人とそれぞれ違いはあれど、日々の鍛錬にみな一様に鍛えられた『いい身体』をしている。

 

「お前ら、ホントに大馬鹿もんの集まりだ。まあ、俺もそうかな。

 おい、お前ら!

 火ぃ見てチンポ立てるんじゃ無く、隊長といのさんのせんずり掻き合い、しゃぶり合い見てから、おっ勃てろよ!」

「了解っ! 班長っ!」

 

 牛ノ宮の答えに、妙に嬉しそうな声を上げる男たち。

 それはともに死線をくぐり抜けてきているもの達の間にのみ生じる、連帯感といったものであるのか。

 

「隊長と猪野山副班長が戻られました!」

 

 会議室のドアが開けられ、第二班の猪獣人の1人、猪狩の声が聞こえた。

 

「お、お前ら?! な、なんで裸なんだ?!」

 

 熊部が驚いたように声を上げる。

 現場で10キロ以上も落ちた体重も、大量の水分補給で幾らかは戻ってきているようだ。

 

「いのきちの奴が脱いじまって、だったら皆ってことになりまして。まあ、時間外のことですから、俺から何か言えるわけでも無いですからね」

 

 牛ノ宮がニヤリと笑いながら言う。

 その表情は、熊部と猪野山良次がこの半日の『応急対処』で『状況をきっと乗り越えてきてくれている』という信頼から来ているものだろう。

 

「ああ、そうか……。おい、猪狩、俺たちもなっ!」

 

 その意味合いを理解したのは猪頭の方が早かったのか、ドアに鍵をかけるや否や、すぐに青い活動服を脱ぎ捨てた。

 若い猪狩もすぐに追いかける。

 

「隊長、第一班猪野山副班長。お戻り、お疲れのところすみません。

 火災現場危機中毒応急対処初期プログラムの確認基準に則り、2種の試験をさせていただきます。

 見届けは第一小隊第二班班長、私、牛ノ宮、第一班臨時班長代理、荒尾蘭堂の2名にて行います」

 

「ああ、頼む、牛ノ宮班長、蘭堂。俺たちも、覚悟は済ませてきている」

 

 最初は隊員達の全裸姿に驚いた熊部と猪野山良次ではあったが、すぐさま隊員達による『心意気』を感じとったらしい。

 どこか潤んだような瞳でみなを見つめながら、2人もまた服を脱ぎ、素っ裸になっていく。

 

 ずらりと並んだ逞しい男たちの裸体の前で、こちらもまた生まれたままの姿となった熊獣人と猪獣人。

 その2人の前に、小隊1番の若手である、猪野山佐吉が進み出る。

 

「お二人にもご理解頂いてるとは思いますが、ただちに開始します」

 

 マニュアルでは『可及的速やかに』との表記があるこの2段階の試験は、本人たちの言葉を待たずとも進めていかねばならないものであった。

 

「失礼します。隊長と、良次さん、これを見つめてください」

 

 ガチリ、とした音ともに、緊張した面持ちの佐吉が、手にした大型のライターを灯す。

 消化動作をしなければ持続延焼が可能なそれを、佐吉が熊部と良次の目の前に掲げた。

 

 沈黙の時間。

 男たちの目が、熊部と猪野山良次の股間に集中する。

 

 検分役の1人、荒尾蘭堂が進み出た。

 

「ライター着火より120秒が経過しました。

 お二人の現状を確認させていただきます。

 まずは目視にて、第一小隊隊長、熊部弦蔵、勃起は確認できません。

 第一小隊第一班副班長、猪野山良次、同じく目視による勃起は確認できません」

 

 蘭堂の言葉を書き記すのは記録係と指名された相良新一。

 

「次に触診による勃起の確認を行います」

 

 ずるりと垂れ下がる、熊部の巨大な逸物。

 そこに伸びた蘭堂の手が、回らぬ指先ではありながら、その硬度と血液流入具合を確かめる。

 

「熊部隊長、猪野山良次副班長、両名ともに、勃起、血液流入の増大化は観測されませんでした。

 これにて応急対処確認試験、第一段階をクリアとします」

 

 信頼していたこととは言え、会議室の男たちの中にホッとした空気が流れる。

 

「次に第2段階、炎以外の肉体刺激による興奮・勃起状態の可能確認試験へと進みます」

 

 静まりかえった会議室に、牛ノ宮の声が響く。

 

 2段階目の試験においては、対処相手との相性問題とともに、第1段階のクリアがあくまでも『勃起が出来る体力はありつつも、眼前に炎を見ながらその制御が出来ていた』ことをも、間接的に証明することとなるのだ。

 

「熊部隊長、いのりょーさん。どんな交わりでも構いません。俺たちの目に、お二人の勃起を見せてください」

 

 牛ノ宮の言葉は、その溢れ出る感情ゆえか、すでに『公的な』声掛けですら無くなってきている。

 その瞳に浮かぶのは、大粒の涙。

 牛ノ宮だけでは無く、この場にいる大半の男たちも、みな同じ思いを持っていた。

 

『2人が互いのキスで、扱き合いで、しゃぶり合いで、勃起してくれ! ガチガチになったチンポから、先走りをダラダラ漏らしてくれ!』

 

 通常の、日常の日々が続く中で、そのような思いに駆られることは、まずあり得ないことである。

 しかしこの『特殊』で『非日常』な状況の中、男たちの思いは、ただ一つとなっていたのだ。

 

「打ち止めなんかにはなっとらん。すぐに勃つぞ」

 

 猪野山良次の会議室に戻って初めての言葉がこれだった。

 正面に向き合う熊部と良次。

 互いにその手を逞しい背中に回し、相手の肉体を引き寄せる。熊部の厚く獣毛に覆われ、発達した胸筋に顔を埋める猪野山良次。

 

 2人の裸の胸が、腹が、股間が密着した。

 

「ここまで来たら、こいつらに見せつけてやるぞ、いのさん」

「ああ、弦さん、分かってるよ……」

 

 覆い被さるようにして、猪獣人と口吻を交わす熊部。唾液を混ぜ合い、その舌が相手の歯をねぶり回す。

 濃厚な口接とともに、押し付けられ、擦り合わされる2人の股間。服を脱ぎ捨てた2人にとって、それは互いの逸物がゴロゴロと転がり、潰され、刺激し合う行為となる。

 

 すでに男たちの体臭と獣臭でむせ返るほどの熱気に満ちていた会議室に、さらに扇情的な中年の熊獣人と猪獣人のそれが加味されていく。

 

「これ、隊長の興奮したときの匂いか……。たまんないッスね……」

「ああ、いかん、見てるだけで、おっ勃っちまう」

 

 ヒト族に比べ何十倍も敏感と言われる嗅覚を持つ猪獣人達が、そわそわと、いやギラギラか、室内に漂う性フェロモンに反応し始める。

 それに遅れてヒト族の吏員達の股間も猛々しく嘶き始めたのは、『もらい勃ち』だけの現象では無さそうだ。

 

「しゃぶってくれるか、いのさん」

「俺の口で気持ち良くイってください、隊長……」

 

 熊部と良次が次の段階へ進もうとその分厚い肉体を離す。

 垣間見えた2本の逸物は、すでに臨戦態勢を調えたようだ。

 

「おおっ、勃ってるぞっ!」

「隊長とっ、いのりょーさんのがっ、おっ勃ってるっ!」

「やったっ! やったっ!」

 

 色めき立つ男たち。

 隣の男とバンバンと裸の肩を叩き、祝福のハグを交わし、喜び合う。

 この二人なら、ここまで来れば、相性も体力も、何も問題なくクリア出来る。

 皆の思いが一致する。

 

「牛ノ宮班長っ! 俺っ、俺っ、せんずり始めていいっスか? もう、俺っ、我慢できないッスっ!!」

「俺もっ、俺も、隊長達と一緒にぶっ放したいっスっ!」

「牛ノ宮班長っ! みんなでっ、小隊全員でっ、出しちまいましょうよっ!」

 

 ヒト族も、獣人達も、すべての隊員達が隠すことなく己の逸物を晒していた。

 ずりずりと、許可が出る前にはイかぬよう、堪えたスピードで扱き上げる男たち。

 

 牛ノ宮が、泣きながら、そして笑いながら、熊部に問う。

 

「隊長、こいつらがこんなこと言ってます。

 馬鹿の集まりだと、俺も思います。そして、馬鹿は馬鹿なりに、考えた末のことだとも思います。

 俺もこいつらと一緒に、隊長と一緒に射精したい。俺も、こいつらも、みんな大馬鹿もんです。

 こんな馬鹿な奴らの、馬鹿な俺らの願い、聞いてもらってもいいですか?」

 

「まったくうちの隊は、ホントに大馬鹿もんの集まりだな。

 よし、許す!

 俺がいのさんにしゃぶられて、ぶっ放すとき、みなも一気にイっちまえ!」

 

 熊部もまた、涙ぐんでいたのか。

 普段はそこまでは言わぬであろう『許す』等との、強い言葉での檄を飛ばす。

 それを受けてか、しゃがみ込もうとする猪野山良次が、これも涙声の混じった胴間声で男たちに語りかけた。

 

「おうっ、お前らっ!

 イくときは全員、俺にぶっかけろやっ!

 お前らの試験は、俺が見届けてやるっ!

 俺はお前らの匂いに包まれて、自分で扱いてイくからなっ。

 なに、隊長のをしゃぶらせてもらえるってご褒美もらってんだ。若え奴らの汁ぐらい、なんてことないからなっ!!」

 

 理屈では無かった。

 ただただ、そこに流れるのは、共に闘い、共に生きる男達同士の一体感。

 そこに火を付けられた男たちの勢いは、もう止まらない。

 

「おーし、みんなっ! いのりょーさんが言ったとおりだっ!

 最後はみんな集まって、いのりょーさんにぶっかけるぞっ!!」

「応っ! 了解っ!」

「押忍っ! 俺っ、俺っ、いのりょーさんにぶっかけますっ! 隊長の目の前でっ、スゲえ射精、見てもらいますっ!」

「ああっ、俺っ、いつでもいいっス! もう、汁っ、上がってきてるッス!!」

 

 男たちの気合いは、当然中央の2人にも反転し、増大しては返っていく。

 

「お前ら、こんなおっさん同士の扱き合いやしゃぶり合い見てせんずり掻こうなんて、ホントに、ホントに、馬鹿の集まりだな……」

 

 涙ぐみながらも、嬉しそうな熊部。

 

「押忍っ!

 俺たちを、そんな馬鹿もんに鍛え上げてくれたのが、隊長やいのりょーさんッスよ!」

 

 牛ノ宮の言葉には、普段の落ち着きの片鱗すらも見えなくなっている。

 

「おおっ、いのさんの口っ、スゲえぞっ! あっ、あっ、スゲえ感じるぞっ!!」

 

 良次がその口吻の先、鼻鏡を熊部の下腹部に押し付けるかのような、激しいしゃぶり上げを始めた。

 それは熊部の興奮を誘うだけでは無く、己の昂ぶりをも表したものだったろう。

 

「スゲえ、いのりょーさんが、隊長のあのぶっといのをしゃぶってる……」

「いのりょーさんのチンポも、スゲえ量の我慢汁撒き散らしてるぞっ!」

「牛ノ宮班長のもっ、デケえっ!」

「ダメだっ、俺っ、もうっ、もうっ、イっちまいそうだっ……」

 

 大小それぞれ、長さもそれぞれの男達。

 だが、それぞれが手にした、あるいは口にした12本の逸物は、そのすべてが最大限に膨らみ、発射の瞬間を待ち構えていることに変わりはない。

 

「おおっ、イっちまうっ! いのさんのっ、いのさんの口にっ、イっちまうぞっ!」

「みなっ、イケそうな奴から、いのりょーさんにぶっかけろっ!

 俺たちの盛大な射精をっ、二人に見てもらいながらっ、イってもらおうぜっ!」

 

 蘭堂の檄は具体的だった。

 佐吉や猪狩、まずは若い猪獣人が猪野山良次の顔近くに自らの股間を寄せる。

 目の前の熊部、若い猪獣人。

 その股間から立ち上る強烈な性臭が猪野山良次の鼻鏡を襲う。

 

「んぐっ、むふぐうっ、んっ、んんっ……!」

「いのさんもっ、いのさんもっ、イくんだなっ?! 俺もっ、俺もイくぞっ!」

 

 興奮した良次の慄きが伝わったのか、熊部が最期の態勢へとその腰をわずかに落とし、良次の頭を抱え込む。

 

「すんませんっ、俺っ、先っ、先にイかせてもらいますっ、イくっ、イくっ!!!」

「俺もっ、俺もっ、おじちゃんっ、ゴメンっ!!!」

 

 若い獣人2人がわずかばかり先走って吐精となった。

 びゅるびゅると、ぶしゅぶしゅと打ち出される精汁が、良次の顔に、牙に、頬へと打ち付けられていく。

 

「代われっ、いのきちっ! ああっ、イっちまうっ、イくっ、イくっ!!」

「いのりょーさんっ、隊長っ、さきにすいませんっ、イくっ!!」

「俺もっ、出るっ、出るっ! 体長がしゃぶられるの見てっ、出ちまうっ!!」

 

 熊部の目の前で、猪野山良次の頭が、顔が、次々と男達の噴き上げる汁で白く染められていく。

 最期は牛ノ宮と猪頭、相良の3人が良次を取り囲む。

 

「イっちまった奴も、近くに来いっ!

 隊長といのさんの射精を、目に刻みつけろっ!」

 

 牛ノ宮が檄を飛ばす。

 12人の男達が、一塊になる。

 熊部を、これから吐精する牛ノ宮達を、何人かの男達が後ろから抱きかかえ、鍛えられた胸筋をまさぐり、でっぷりとしたふぐりを揉み上げる。

 屈み込んだ佐吉が、叔父の逸物に手を伸ばし、男達の雄汁を潤滑油にして扱き上げる。

 

「ああっ、イくぞっ、イくっ!! いのさんにしゃぶられてっ、お前達に囲まれてっ、俺はイくぞっ! イくっ、イくっ、イくぞっ、イくっ!!!」

「俺もイきますっ! 牛ノ宮っ、イきますっ!!」

「イくっ、隊長のスゲえ射精見ながらっ、俺もイくっ!!」

「んっ、んぐっ、んんんんんんっーーーー!!!」

「イきますっ、ダメだっ、イっちまうっ、イくっ!!!」

「おおっ、出すぞっ、口にっ、いのさんの口にっ、イくっ、イくっ、イくっーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 1つの肉塊となった男達の、肩が、背が、腰が、ビクビクと痙攣するかのように震えていた。

 裸の男達から立ち上る噎せ返るような汗の匂い。獣臭と混じり合った体臭が、性臭が、会議室を満たしていく。

 前後幾秒ずつかの違いはあれど、ほぼ同時に男としての精髄を噴き上げた隊員達。

 その顔は、いずれも何か一つのことをやり遂げた、自信と矜恃、さらには同志愛にも似た感情が溢れるものであるようだ。

 

 口々にそれぞれの逸物と、吐精の凄さを称え合う12人の雄は、ここにまた、その心意気と思いとを一つにしていたのだった。

 

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 熊部の運転するバンの助手席には猪野山良次がその身体を押し込んでいた。

 

「あいつら、ホントに大馬鹿もん揃いだな」

「そう育てたのはミヤの奴が言った通りで、弦さんじゃないですか」

 

 会議室の掃除と片付けは残った者でやっておきますからと、早々に署を追い出された2人である。

 おそらくは『まだまだヤり足りないはず』と見透かされていたのか、猪野山良次を送っていくという熊部の言葉に、ニヤニヤとした笑いで返した隊員達。

 もっとも残った者達もまた、各々の滾ったままの情欲を、互いに『処理』しあうことになるのではとは、熊部も良次も思っていたことではあったのだが。

 

「いのさん……。もっぺんホテルで、いいだろう?」

「隊長が言ったとおりにフロントには伝えてます。どうせ医療部からも定期的にヤれって指導来るんですよね?」

「ああ、そうなるはずだな」

「今日は帰れないって、うちに電話入れときますわ」

「まあ、お互い、昼間だけじゃたぶん、無理だわな、こりゃ」

 

 下腹を押さえたシートベルトが、互いの股間の盛り上がりをより強調しているように見える。

 

「その、いのさん、ちょっと頼みがあるんだが……」

「なんです? チンポしゃぶりあってんのに、今さらそんな改まって?」

「いのさんは、その、性的な意味で、その、尻、尻を、使ったことあるか?」

「あ、そっちですか……。無いって言うと、嘘になりますな……。といっても、学生のときにやったっきりなので、もう、どうだか……。弦さん、俺のケツに、挿れたいんですか……?」

「あ、いや、その……」

 

 ハンドルを握る熊部が真っ正面を見据えたまま、口ごもる。

 その反応にピンと来たのは、おそらくは熊部の望む『行為』に、猪野山良次自身も『覚え』があるがゆえのことだろう。

 

「俺のを、弦さんのケツに……? 経験、あったんですね、弦さんも……」

「ああ、その、寮のときにな……。もう何十年もやってなかったんだが、いのさんとのアレで、身体が思い出しちまったというか……」

「さっき言ったみたいに、俺もかなりブランク空いてるんで、試し試しにはなりますが……。そうだな、せっかくなら、堀り合いしませんか?」

 

 このあたりの提案は、良次の方が積極的だ。

 

「あ、ああ、それは嬉しいんだが、いのさんは、その、大丈夫なのか?」

「正直、若いときも猪の先輩達としかやってないんで、弦さんみたいに熊獣人のデカいのは初めてなんですが、なに、時間掛けりゃイケるんじゃないかと思います」

「……、なんだか、いのさんのそういうところは、うらやましく思うな……」

「ヤり始めたら、弦さんだってたいしたもんでしょうに」

 

 ホテルの駐車場に着いた車から、2人が降りる。

 深夜から使った部屋を『そのままにしておいてくれ』と頼んでいたのは、確かに熊部の依頼で伝えていた良次であった。

 

 52才の熊獣人の熊部、47才の猪獣人の猪野山良次。

 2人の目合いは、まだまだ続いていくようだ。