冨士見消防署獣人吏員

その5

待つ男たち

 

 現場での様々な処理事項を終え、冨士見署へと各車両が帰着したのは午前0時近くであったろうか。

 現場検証、警察への引継ぎ等、鎮火後にも多くの仕事があるのが消防の常なのである。

 

 コンビニで仕入れたスポーツドリンクは2リットル6本入りを二箱。都合24リットル分の多量のものである。

 署に帰ればいくらでもあるはず、と蘭童はいぶかしがっていたが、特に問いただすものでもあるまいとスルーしていた。

 

 隊員達が防火服を脱ぎ、汚れを落とし、ホースや出動した車両の手入れを始める中、熊部がその荒尾蘭堂に声をかけ、ポンプ車の陰で話し始める。

 

「蘭堂っ。

 俺達二人は今から『火災現場危機中毒』の初期応急対処標準プログラムを開始する。

 それに伴い、隊長業務権限を第二班班長の牛ノ宮に、第一班の班長業務権限を、蘭堂、お前に現時点から直ちに移行する。

 意味は分かるな?」

 

 熊部の剣幕に一瞬怪訝な顔をした蘭堂であったが、すぐにその意味する内容を理解したのだろう。

 一気にその顔に緊張が走る。

 

「了解です、熊部隊長っ! 直ちに牛ノ宮班長にもお伝えしますっ!」

「済まんっ! 抜けるぞっ、蘭堂っ! 皆にも説明しておいてくれっ!」

「くれぐれもお気をつけてっ、隊長っ! 副班長っ!!」

 

 きっちりと頭を下げ、見送る蘭堂。

 その瞳には心配と2人への信頼が、同時に揺らめいていた。

 

「いのさんっ! ホテルに行くぞっ! もう俺もっ、そう長くは堪えきれんっ!」

「儂もですっ、隊長っ! 蘭堂っ、後を頼むっ!!」

 

 消防署近くのホテルはこの町に2つあるうちの1つであったが、平日ということで満室にはなってなかろうとの熊部の読みである。

 獣人隊員を抱える消防署や警察署などは、エリア内の宿泊施設と緊急時の客室利用について協定を結んでいる。

 その施策もまた『現場危機中毒』という、ある特定の『疾患の前兆』に対応するものだ。

 ホテルへと向かう熊部のバンを見送った荒尾蘭堂が、耐火服の始末などを他の隊員に任せ、司令室へと上がった牛ノ宮の下へ、こちらもキビキビとした動作で向かっていった。

 

 熊部が言う『火災現場危機中毒』。

 

 ヒト族においてはほとんど問題にされていなかった症例ではあったのだが、獣人消防吏員や警察官の割合が増え始めた60年ほど前から問題が表面化し、実際の現場や研究者の力を合わせ、対処法が練られてきたものである。

 火災現場での対応が迫られる消防吏員にとっては、『火』『火災』といったものと己の快感(主には性的衝動を伴う)が結び付く症例を指すこととなる。

 

 それは獣人特有の性欲精力の強さ、直前の自慰行為の有無、火災発生のタイミング、現場での強烈な危険体験等が幾重にも重なり合ったときに稀に発現する、『炎による危険への性的な傾倒』を主たる症状としていた。

 

 鑑別症例として幼少期からその内包と行動異常が見られる『病的放火』『放火癖』とは明確な違いが見られ、昨今の吏員採用にあたっては医療的措置を要する対象者のビックアップも行えるようになってきていた。

 それらのある意味『幼少期からの過程を経ての発症』とは違い、ここで危惧されるそれは、成人期に突如発症するタイプの、広義の『吊り橋効果』の強烈な発現状態であると言えるだろう。

 

 一度この状態に陥ってしまい、かつ、上手く対処が出来なければ、本人の中ではどのように意識で否定しても『火災という危機現場』への到達欲求が生まれてしまう。

 そしてそれは『獣人消防吏員による放火事件』という最悪の形によって、世に知られることとなったのだ。

 その後の病態分析や治療・対処法の研究・確立が進められたのは当然のことであり、今では消防学校や入職後における教育内容として、ともに活動するヒト族吏員も含め、消防士たるもの達にとっては必須の知識として教え込まれていたのであった。

 

「隊長と、いのさんが?!」

 

 会議室へと誘われ、蘭堂からの報告を受けた第二班班長の牛ノ宮が驚くのも無理は無い。

 これまでの長い付き合いから見ても、あの二人にそのような兆候があったなどとは、露ほどの気配も感じてはいなかったのだ。

 

「仮眠入ってすぐのタイミング、爆発で踏破のために二人だけになってしまった現場、予期してなかった2度目の爆発の発生、色々重なりすぎてしまったんでしょう……。

 その、失礼ですが、確認させていただきます。牛ノ宮班長は今、勃起されてはいないでしょうか?」

 

 持ってきていたライターに火を付け、テーブルに置く蘭童。

 オレンジのレスキュー服を着るその男が、驚くような確認を牛ノ宮に問う。

 

「失礼なんぞ、あるか! 蘭堂、第一班班長代理として、おまえが目視、及び触診にて確認してくれっ!」

 

 牛ノ宮が着替えたばかりの活動服、青いズボンのファスナーを一切の躊躇いも無く引き下ろす。

 ぼろりとまろび出た逸物は、それこそ平均的なヒト族のものの2倍以上の大きさだ。

 平常時でもヒト族の勃起時のサイズを遙かに超える太さの逸物ではあるが、現状ではゆったりとした垂れ下がりの姿を見せている。

 

「目視では勃起状態とは思えません。これより私の手で握らせてもらって、血流の状態を確認させてもらいます」

「ああ、やってくれ、蘭堂……」

 

 蘭堂の手が牛ノ宮の肉棒へと伸びる。

 むわりと漂う牛ノ宮の体臭。

 角度としての勃起が見られなくとも、実際に確認者の手によって、海綿体への血流増加が発生していないかの確認を行うのだ。

 これは何らかの危機中毒が発生する可能性のある現場を経験した獣人にとっては、吏員間において標準的に行われるプロトコルとなっていた。

 

「目視、触診にても、牛ノ宮班長の逸物が勃起していないことを確認しました。申し訳ありませんでした、牛ノ宮班長……。熊部隊長、猪野山副隊長の件とともに、記録しておきます」

「何を謝ることがある。当然やるべきことを蘭堂はやったまでだ。こいつを拒む奴がいたら、俺がぶん殴ってやるぞ。ああ、報告書は頼むな……。

 直接炎は目にしていないはずだが、うちのりくさんと猪狩も確認しておこう。あ、そっちの佐吉も、呼んだがいいんじゃないか?」

 

 梯子車のゴンドラからとはいえ、火災現場への臨場をしており、階下からの爆風を幾分かは受けた牛ノ宮と猪狩であった。

 万が一にも影響が無いかを不安に思った蘭堂の言葉に、己の逸物を観察させることで興奮を伴っていないことを証明した牛ノ宮が、二班にもう2人いる猪獣人の吏員に声掛けをする。

 蘭堂もまた、同じ班の猪野山佐吉を大声で呼ぶ。

 

「あ、そうですね! おい、いのきちっ! こっちに来いっ!」

「お疲れ様でした、蘭堂さん……。って、どうしたんですか? 牛ノ宮班長も蘭堂さんも、怖い顔して……」

「お疲れ様でした。牛ノ宮班長、蘭堂さん。二班の猪頭と猪狩です……。って、獣人吏員の集合ですか?」

 

 署内で一番の若手となる、第一班の20才の猪野山佐吉。

 第二班所属の猪頭六道(いのがしらりくどう)50才と、猪狩健一(いがりけんいち)25才が、会議室に集う。

 六道は放水圧コントロールと進入指揮、猪狩も牛ノ宮と同じ動きで、直接の火災の目撃はしていない。

 猪野山佐吉にあっては、ホース中間地点での要員であったため高熱や爆発の直接振動を体感している、そのような獣人吏員達である。

 

「いのきち、テーブルのライターを見ろ。お前は今、勃起してないか? 興奮してないか? 見せてみろ!」

「りくさん、健一、すぐにズボンを下ろせ! お前らの股間を見せろ!」

「え、あ、は?! いや、勃ってなんかいませんよ……?」

「は? 班長? いったい何を?!」

 

 班員達が驚くのも無理は無かった。

 彼らはまだ、熊部と猪野山良次に起きた顛末を知らされていない。

 

「いいから見せろっ、りくさんっ、健一っ、いのきちっ!

 俺のもさっき、蘭堂に見て、握ってもらって、確認してもらったんだ!」

 

 牛ノ宮と蘭堂のあまりの剣幕に、首を傾げながらファスナーを下ろす猪獣人達。

 男だけの職場、同僚獣人達の雄汁の匂いを嗅がされながらの仮眠室利用をする男達である。互いの股間を晒し合うことに、さほどの抵抗があるわけでは無い。

 

 先ほどと同じ光景が繰り返され、目を白黒させている猪頭六道の、猪狩健一の、猪野山佐吉の肉棒が、蘭堂の手に握られ、その勃起度が測られることとなった。

 

「勃ってないな、いのきち! りくさんも、健一も! ああ、よかった……。本当によかった……」

 

 太ましくも柔らかいままの佐吉の逸物を握り締めたまま、蘭堂がへたり込む。

 

「どうしたんすか、蘭堂さん……。あ、いや、そんなに握られてると、俺、ちょっと、その……」

「あ、ああ、済まん……。お前は今日の勤務中、休憩中に何回抜いたんだ?」

「え? あ、まあ、5回っすけど……。なんか、いけなかったスか? セーシ飛んだ壁とかも、きれいに掃除はしといたつもりなんスけど……?」

「いや、違うんだ、いのきち……。よくぞ5回も出してくれてたなと、褒めたいとこだ」

「へっ? せんずりすんのが、褒められるんスか、ここ?」

 

 状況を知らぬ猪野山佐吉が頓狂な顔をするのは当然のことだった。

 

「牛ノ宮班長、ここで俺達獣人吏員の勃起の確認が為されて、かつ熊部隊長といのりょーさんが戻ってきてないってことは、もしかして……」

 

 身繕いをしながら小隊の中でも年長者となる猪頭六道が、牛ノ宮に心配そうに尋ねる。

 

「ああ、りくさん……。りくさんの心配している通りのことが、起こってる。

 隊長といのりょーさんとは、今回の出動の結果として『火災現場危機中毒』の恐れがあり、今現在、その応急対処プログラムに入っている……」

 

 荒尾と牛ノ宮が語る熊部と猪野山良次の現状に緊張の度合いを皆が一気に高めたのは、それぞれが学校と現場で叩き込まれた知識のおかげか。

 

「俺、現場危機中毒の実例に接するの、初めてッスよ……」

 

 第二班の獣人吏員では一番の若手でもある猪狩健一が、小声で呟く。

 

「ああ、実際の発症可能性は、ホントにものすごい状況の重なりでしか見られないものだからな……。ある意味、隊長と班長代理だったからこそ、すぐに対応が取れていたんだろう」

「そんなに急がないといけないものなんですね……。授業では教わってたけど……」

 

 蘭堂の説明への返しは、学校時代、授業を真面目に受けてきたものらしい、猪野山佐吉の言葉だ。

 

「現場での数度の射精だけならまだ引き返せるんだが、そこから離れた時点で現場を振り返って射精しちまうと、かなり危険な形になっちまう。

 自分で自分の頭に『あのときの緊張感が快感に』って、刷り込んじまうんだな」

 

「なら、隊長と班長が今やってんのは……」

 

 分かっていての質問に、分かっているはずの答えを返す蘭堂。

 

「お互いに扱きあって、しゃぶり合って、あくまでも『この快感は目の前の相手の肉体によるものだ』『この射精の快感は、相手がやってくれたからこそのものだ』って、再刷り込みをしてる最中だろう……」

「なんか、つらいッスね……」

 

 本来、個々人の『楽しみ』『快楽』と繋がるはずの性的な昂ぶりの処理が、やらねばならぬ『責務』となることは、若い獣人にとっても堪え難いことだと思えるのだろう。

 そこには決して『うらやましい』などとの感情が込められているわけでは無い。

 

「ああ、義務感に駆られての快感獲得と射精行動だからな。刷り込み直しにはかなりの言語化と回数がいるはずだが、それもあの二人なら分かってるはずだ」

「他の署員に、このことは?」

 

 猪頭六道の当を得た質問は、やはりこの世界での職歴の長さとその経験ゆえか。

 小隊長である熊部弦蔵、第一班副班長の猪野山良次とも年が近く、長年苦楽を共にしてきた仲間であった。

 

「もちろんオープンにして、吏員間での支え合いを喚起しないといかんからな。それに……」

「まだなんか、あるんスか?」

「二人が帰ってきたときに、確かめんといかんことがある……」

「あっ、思い出しました! あれ、流れを考えると、けっこう残酷なことッスよね」

 

 猪野山佐吉の台詞に、牛ノ宮が返す。

 

「お前、ちゃらんぽらんに見えてたが、けっこう真面目に勉強してたんだな」

「牛ノ宮班長、茶化さないでくださいよ。仮にも隊長と、その、俺の叔父さんのことなんスから」

「いや、済まん。お前の言ったとおりで、けっこうアレは、キツいものがあるからな……。蘭堂、誰があれをやる? 私がやろうか?」

「いや、牛ノ宮班長……。この佐吉にやらせましょう」

 

「えっ?!」

「ええっ?!!」

「ええええっ?!!」

 

 牛ノ宮と猪野山佐吉、猪頭と猪狩からも、声が上がった。

 

「いのきち、長く吏員をやっていても、なかなか経験できないことだ。俺は一番若いお前だからこそ、やっておくべきだと思う」

 

 蘭堂が、牛ノ宮が、猪野山佐吉が言う『あれ』とはなんなのか。

 

 それは平たく言えば、熊部と猪野山良次が緊急避難的に行った対応で、果たして『危機中毒』がおさまったのか、再刷り込みが出来たのかを簡便に調べる方策であった。

 

 方法としては実に単純であり、その検査は2段階を踏む。

 

 最初の検査は、服を脱がせ全裸状態の対象者の目の前で、ライター等による『火』を熾すだけのことである。

 そこでの勃起や射精衝動の発生が無いかを確認するだけのことではあるのだが、もしそこで再びの勃起が見られれば、緊急対応の効無しとの判断をくださずを得ず、そうなれば現場から離れての専門機関による長期の入院治療が必要となるのだ。

 もちろん勃起現象が見られなかった場合でも、その後の専門医による確定診断や経過観察、フォローアップは必要となるのだが、その差は消防吏員としてのその後の二人の進路に大きな影響を及ぼすことになるほどのものだった。

 

 2段階目の確認事項は、必ず対象複数人で行われているはずの『応急対処』の『効き具合』を見るためのものである。

 そこでは今回、既に対処処置に入っている熊部と猪野山良次に、互いの逸物を扱き合い、しゃぶり合うことで勃起と射精が出来るのか、複数人の目の前で行わせ、それが存分に成されているかを確認するという、なんとも口に出しにくい内容であったのだ。

 

「最初の『火』の奴は分からんでも無いんスけど、2番目の2人でやり合うのを確認するってのは、あまり俺、意味が分かって無くて……」

 

 佐吉の心配は、牛ノ宮、蘭堂ともに考えていたことなのだろう。

 すぐさま牛ノ宮からの解説が入る。

 

「ああ、あれは割と新しい文献から持ってきている理論だからな。教科書でも参照文献しか載ってなかっただろう。りくさんや、いのりょーさん達の世代では、授業でもやってないはずだ。

 最初のライターのは、まさに『再刷り込み』による『火災危機』への性衝動の消滅を確認するものだが、次の奴には2つの意味がある。

 1つは最初の試験が『すでにやり過ぎてて体力なくなっての弛緩かどうか』って、まあ、ある意味当たり前のことの確認だな。

 そして2つ目、今はこっちが重要視され始めてきてるのが『応急対処を行った同士の好感度の良し悪しが予後の治療に影響を及ぼす』ってデータが揃ってきたからなんだ」

 

「予後にいい? って、どんなことですか?」

 

 猪頭六道が牛ノ宮へと尋ねる。

 消防吏員となってからの研修では教えられてきているはずではあったが、さすがに学生時代の若さがなくなってからの学習には、幾らかの記憶の漏れがあるのは仕方の無いことだった。

 

「単純に言えば、その2人が『互いの性的欲求に合致する相手か』を調べることなんだ」

「ん? でも、ライターの検査クリア出来れば、対処が上手くいったって簡易証明になるわけでしょ?」

「ああ、最初はそう思われていたんだな……。だが、症例が集まってくるにつれ、ちょっとした問題が持ち上がってきた」

「問題、スか……」

 

 自分がやらなければ、との思いのためか、猪野山佐吉が積極的に疑問を挟む。

 

「応急対処で行った『再刷り込み』は、一度ではその効果が経時的に低下してくることが分かってきたんだ。

 そのために一度この状態に陥った吏員は、定期的に、というか、その後はさらなる『再刷り込み』を行っていくべし、ってことなんだな」

「ああ、なんというか、そのための『相性を見る』みたいな感じなんスかね」

「よく分かってるじゃ無いか、いのきち。まあ、あの2人なら付き合いも長いからまったく問題は無いとは思うし、俺達だってそういうのが『嫌い』なワケじゃ無いのは、もうお前も分かってるだろう?」

「そりゃまあ、さっきまで誰かがセンズリこいてた布団に横になるワケッスからねえ」

 

 おそらくは猪野山佐吉もまた、消防学校ではそれなりの『儀式』を受けてきているのだろう。

 実際、現場から帰れば皆がすぐさま素っ裸になり、汗や小便、細かな煤などの付着などを落とすため互いに全身を洗い合うのだ。

 その際、男同士のじゃれ合いの中、その逸物を握り合い、まさに『勃っていないか』『物理的な扱きで勃つかどうか』などを確かめ合うことも戯れ事として常態化していることであった。

 

「まあ、そういうこった……。万が一、そこで『合わない』ってのが判明したら、専門機関と署が『合う相手』『再刷り込みがやりやすい相手』を探さにゃいかんことになるって寸法だな。

 こればっかりは互いに業務経験のある同士で組ませないといかんので、そのあたりの事後の問題をなるべく早く把握するための検査でもあるしな」

 

「まあ俺もせんずりのコキ合いとか、学校ん寮ではやってたりしたっスけど……」

「そのあたりは皆、どこかで経験はしてきてるだろうが、さすがに誰かの目の前で、ってのがツラいところだな、隊長達も……」

 

 牛ノ宮の話を聞き、少しばかり考えていた佐吉が、思いを振り払うかのように宣言する。

 

「蘭堂さん、牛ノ宮班長、俺、やります。隊長と叔父さん、猪野山良次副班長と、2人の簡易検査、俺がやります」

「頼んだぞ、佐吉。2人の再刷り込みも時間が一定必要になるだろう。残業になるが、予定は大丈夫か?」

「もちろんスよ。どうせ帰って寝るだけなんスから」

 

 少しばかり普段のノリを取り戻した佐吉に、牛ノ宮と蘭堂が笑いかけた。

 

「では牛ノ宮班長、全体に声かけてもらっていいですか? 状況の説明と、2人の帰署待機間の体制組み直しましょう」

「ああ、分かった。残業も私と蘭堂、いのきちは確定として、もう数人は残ってたがいいだろうからな」

「はい、そのあたりの調整も必要ですし」

 

 蘭堂が相良に牛ノ宮との話を伝え、在署員に招集をかける。

 蘭堂と牛ノ宮の話にみな驚きはしたものの、消防吏員としていかに状況に対応するかの心構えの構築と立ち直りの早さは、さすがに見事なものであったと言えよう。

 熊部と猪野山良次、2人が抜けた穴をフォローするための体制が組み直され、出動要請に隙が無いよう、全員が動いていく。

 

「後は2人からの連絡待ちか……。こっちから電話することでもないしな」

「あの2人の精力だと、それこそ何時間でもやり続けるでしょうから、ややもするとホントに朝、あるいは昼にでもなりそうですね」

「まあ、そっちはのんびり待つさ。それより、お前ら、喰えるときに飯喰っとけよ。腹が減ったら戦は出来んしな」

「押忍っ!!」

 

 牛ノ宮の檄に、男達の大声が応えた。