冨士見消防署獣人吏員

その3

節約についての一提案

 

 あの仮眠室での出来事から1ヶ月が経ち、熊部と猪野山良次の行為は次第にエスカレートしていっていた。

 

 彼らが勤務する冨士見署においてのシフトを単純化すれば、24時間働いて次の48時間が休みとなると考えれば分かりやすい。実際には明けの24時間はある意味でのオンコール、最終(三日目)の24時間が週休となるのだが。

 三日に一度、顔を合わせる男たちは、一度勤務に入れば丸一日をともに過ごすことになる。

 

 その日、いつものように仮眠室に入り、既に3度目の扱き合い、せんずりの掻き合いを終え、少しばかりのインターバルを取る2人。

 猪野山良次が熊部に声をかける。

 

「考えてみれば、コンドームも勤務毎に幾つも使うのはもったいないですよなあ」

「まあ、俺やいのさんの年でも毎回幾つも使っちまうし、このところは更に増えちまってるしなあ……。若い佐吉なんぞは、それこそグロスで用意してても、あっと言う間に無くなっちまうだろうな」

 

 互いの射精における精汁の量を知っているからこその会話であった。

 少なくとも猪獣人、熊獣人の2人にとっては、射精の度に噴き上がる雄汁はそれこそ何十ccにもなる凄まじいものである。例えれば彼ら1人1回の射精液でコップ半分が満たされる、と言えば伝わるであろうか。

 

 およそ子どもの拳ほどにぼってりと溜まった汁をこぼさぬようにとスキンを外し、しっかりとゴムを結ぶ。一度の噴き上げが、まるで縁日での水風船のような大きさ重さとなるのだ。

 当然、毎回の吐精毎に取り替えるわけではあるが、一度の勤務帯中、この仮眠室での使用量が徐々に増えてきている二人であった。

 

「その、隊長……。貧乏くさい話ではあるんですが、ちょっとまた提案があるんですが……」

「なんだい、いのさん。改まって……?」

 

 この夜、4度目の扱き合いが始まるかと思えば、良次から熊部へと話があるという。

 

「あ、いや、隊長にもやってもらうって前提では全くないんですが、その俺の方の話と思って聞いてください」

「ああ、どうしたんだ? さっきのスキンの話に関係があるのか?」

 

 なにやら良次の雰囲気が、いつもとは違う。

 

「ええ、その通りのことなんですが……。その、えっと、コンドーム、さすがに支給ではないので、みな自腹で持ってきてますよね」

「ああ、そうだな……。佐吉や二班の猪狩とか、若いもんに取ってはけっこうな出費になるだろう」

 

 さすがに支給品とするにはヒト族との差があるとの判断であろう。

 それぞれが己の『大きさ』に合ったものを持参するのが、獣人達の『ルール』となっていた。

 

「そこでって言うか、まあまずは俺と隊長のときのことって言うか……」

「どうした、いのさん。妙に歯切れが悪いな、今日は」

 

 第二班には班長の牛ノ宮の他、熊部と年の近い猪頭六道(いのがしらりくどう)、さらにまだ若い猪狩健一(いがりけんいち)、計三人の獣人吏員がいる。

 佐吉とともに会話に出た猪狩健一は、熊部率いる小隊の中では、その猪野山佐吉に次いでの若さを誇る、25才の元気者だ。

 熊部の言葉の裏には、自分達の年齢でもこの数時間に何回もの吐精をするわけだから、若い佐吉や猪狩ならその回数ももっと増えるだろうという含みを持っていた。

 

 互いに股間は勃ったまま、ゆるゆると己の逸物を扱きながらの会話である。

 長大な逸物を扱く熊部の手とその握られた部分を見つめながら、意を決したような良次であった。

 

「ああ、もう、思い切って言っちまいます!

 隊長! いや、弦さん!

 弦さんのチンポ、イくときに俺がしゃぶって、その、いつもなら弦さんがコンドームに出す分の汁を、その、俺が飲んでみちゃどうかなって、そういうこってすよ!」

「はあ? なに言ってんだよ、いのさん?!」

 

 熊部にとっては、あまりにも予想外の良次の提案だったのだろう。

 確かに誰かの口に出し、相手がそれを全量飲んでくれれば、スキンの消費はぐっと抑えられるわけではあるのだが。

 

「いやいや、そんなこといのさんに頼めるワケ無いだろう?

 しかも俺らのイくときの汁の量は、風俗の姉ちゃんだって全部飲むには苦労するって言うし。それにこんな粘っこくて苦みのある汁、飲みにくいだろうし」

 

 目を白黒させる熊部ではあるが、同性だから、という否定の語句は、その返事には含まれてはいない。

 しかもその言葉に『味』への言及すら見られるのは、熊部自身も人生のどこかで『それ』を味わってきていることにほかならない。

 ここでもまた、互いの消防学校時代の『経験』がものをいうらしい。

 

「ここしばらくの、ほら、あれで、俺も弦さんも互いの匂いやキス、唾液のやり取りで興奮が高まるってのも分かっちまった。

 俺は学校んとき、同じ猪の先輩のをずっとしゃぶらされてて、少なくとも飲みことについては、ぜんぜん大丈夫かと思っとります」

「いやいや、そんなことじゃ無くって……」

「俺は、その、弦さんのぶっといのをしゃぶってみたいし、若いときの経験から実際に口に出されたの飲み干す自信もあります。

 そうなりゃ、後は弦さんが許してくれりゃあ、しゃぶることに別になんも困るこたあ無いでしょうが」

 

 猪野山良次の説は見事な論法になっており、熊部としても二の句が継げない。

 

「いや、いや、だから、その、いのさん……」

「弦さんも、相手が雄か雌かは分からんが、そのでっかいチンポをしゃぶられたことぐらい一度はあるでしょうし、あの気持ちよさも知っとるでしょう。

 俺がそれで、弦さんのをしゃぶりたいって言ってるんだから、まさに『何の問題も無く、コンドーム使う数を減らせる』ってことになると思うんですがね」

 

 猪野山良次が熊部の布団へとにじり寄る。

 その意は既に固まっており、後は力尽くでしか拒否が出来なさそうな雰囲気を、熊部もまた感じ取っているのか。

 抱き合い、扱き合い、キスによる唾液の交換をも許し合っていた2人の間で、ほぼ最終的とも言えるラインが決壊しようとしていた。

 良次がそれを望み熊部もまた強く拒否しない現状は、そこへの準備は既に整っていたかのようにすら思える事態だ。

 

「ほら、弦さんのもこんな話してても、ぜんぜん萎えてない。先走りも出まくってる。

 さっきの話で雄汁が『苦い』って知ってるのは、弦さんもどっかで飲まされた経験はあるってことでしょう?

 どうです、弦さん。騙されたと思って、俺の案に一度でいいので乗ってみちゃくれませんかね?」

 

「……俺は、俺はどうすればいいんだ? いのさん……?」

 

 熊部の言葉に、これはもう押しの一手だと思う猪野山良次。

 

「なに、弦さんは寝っ転がっててくれりゃいい。俺が弦さんのチンポしゃぶって、最高の気持ちよさでイかしちまいますよ。俺のはコンドーム付けたのを自分で扱いてイかせてもらうので、弦さんは何にもしなくていいっスから……」

「いや、なんか、そんなだと、いのさんに悪くてな……」

「俺がやらせてくださいって頼んでるんです。なんも悪くは思わんといてくださいな」

 

 もはやそれが決定事項のように、熊部の身体を軽く押し倒す良次。

 なんら抵抗することなく、自らの布団にその巨体を横たえた熊部の股間は、いきり勃ったまま、ビクビクとその先端を揺らしている。

 そこへ猪野山の頭が近付き、下生えの牙が外に見える口吻が、ゆっくりと熊部のそれを呑み込んでいく。

 

「あっ、いのさんっ……。ダメだって、ダメだっ、ダメだって……」

 

 ひとしきり長大なものをしゃぶった猪野山が、熊部の股間から頭を上げる。

 

「隊長のこれ、ダメだって言ってる割にはビンビンのままじゃないですか。しかも俺、まだ舐めてるだけですよ。本格的なのはこっからだ」

「あっ、あっ、いのさん、いのさんっ……」

 

 たしかに猪野山の言うとおり、口では拒否しているはずの熊部の逸物は最大限の勃起を維持し、猪野山良次の舌に次々の流れ出す先走りを供給している。

 熊獣人の力をもってすれば、払いのけようと思えばすぐにでもその意思は通じるはずであった。

 

 じゅるじゅると溜めた唾液が熊部の逸物にまぶされ、口蓋と歯茎すら使った粘膜同士の擦れ合いが快感を呼ぶ。

 良次の右手が呑み込みきれない肉棒の根元から兜にかけてを、しっかりとした握力を伝えながら上下に扱き上げる。

 

「ダメだっ、いのさんっ! そんなんされたらっ、またすぐにイっちまうっ! いのさんのっ、いのさんの口にっ、口に出しちまうよっ!」

 

 猪野山良次が熊部のそれを咥えて数分のことだ。

 粘膜同士の触れ合いなどここ何年も無沙汰であった熊部にとり、その感触とこの状況は、昂ぶりを生みこそすれ、その桎梏にはなり得ぬ条件であったようだ。

 返事の代わりにいっそうの熱意で熊部の重みのあるふぐりを揉みあげ、根元を扱き、先端をしゃぶり尽くす猪野山。

 

「イくっ、済まんっ、いのさんっ! いのさんのっ、いのさんの口にっ、済まんっ、済まんっ! イくっ、イくっ、いのさんの口にっ、イくっ!!!!」

 

 あっけないほどの、あっと言う間の熊部の吐精であった。

 まるで真夏に出された冷やした麦茶を口にするように、熊部の汁をごくごくと喉を鳴らして飲み上げる猪野山。

 

「ああ、まだ出てるっ、出ちまうよ、いのさん……」

「んんんんっ、んんっ、うんっ……」

 

 最後の一滴まで吸い上げ、飲み上げた猪野山も、己の肉棒から多量の汁を噴き上げていた。熊部がイった瞬間、慌てて数度の扱き上げをしただけで吐精へと至ったようだ。

 この日4度目とは思えない、たっぷりとした精液と溜まりが、良次のスキンの先を膨らませている。

 

「へへ、俺も隊長のをしゃぶりながらすげえ興奮しちまって、一緒にイかせてもらいました。弦さん、俺の口は、どうだったですかね?」

「……。ああ、そうだ、うん、そう、凄かったよ、いのさん……。口でなんて、もう何年ぶりか分からないぐらいだったし……」

「はは、よかった。弦さんのぜんぜん萎えてないし、このまんま何回か飲ませてもらいましょうかね。俺のコンドーム、付け直すので、ちょっと待っててください」

 

 胡坐に座り直し、慣れた手つきで自分のスキンを外す猪野山良次。

 仮眠室に強い匂いが漂い、それを全身で浴びる二人にとって、互いの逸物はまだまだ昂ぶりを収める段階にはないようだ。

 

「うわっ、弦さんっ、な、なにをっ!」

 

 スキンを始末した猪野山が、枕元の小箱から新しいそれを装着しようと手に取ったところだった。

 こちらも身を起こした熊部が、目の前の猪獣人を押し倒す。

 

「げ、弦さん……」

 

 熊部が猪野山にのし掛かり、強引にその口を奪う。

 口吻の長さの違いはあれど、熊にのし掛かられた猪に抵抗は出来ない。

 

「むぐっ、うはっ、はあっ……」

 

 息も出来ぬほどの強い抱き締めの力がふっと抜かれ、猪野山の呼吸が再び許される。

 

「いのさん、次は俺がいのさんのをしゃぶるぞっ」

「いやいや、弦さん! 最初に言ったみたいに、別に俺は弦さんにやってもらいたいとかじゃ……」

「俺が、俺が、いのさんのをしゃぶりたいんだ。黙ってしゃぶられてくれ。それとも、俺がしゃぶるのは、嫌なのか? いのさん?」

 

 一応の理屈を付けた猪野山の持ちかけに対して、熊部のそれは直球の如しであった。

 速球剛球ゆえに、真っ直ぐに打ち返すしかないのが猪野山であろう。

 

「そ、それは、その、嫌じゃないというか、嬉しいと言うか……」

「なら決まりだな。お互いのをしゃぶり合って飲み合えば、確かにスキンの節約になる」

 

 あたふたする猪野山を尻目に、頭の位置を互い違いになるよう横になる熊部。

 いわゆる69の態勢になれば、互いの目の前に来るのは相手の股間となるのは間違いない。

 

「いのさんの股座、すげえ匂いだ……」

「もう何度もイっちまってますからね、すんません、弦さん」

「たまらん匂いだって言ってるんだよ……。ああ、このでっかい金玉の裏側の匂い、チンポ周りの毛の匂い、全部、全部たまらんぞ、いのさん……」

「弦さんの金玉も、すげえ雄臭いっスよ、これだけのずっしりした毛だらけの玉、どれだけ汁を溜め込んでんだか」

「最近は、いのさんとの仮眠が楽しみだからな」

「はは、俺もですよ、弦さん」

「それにしても、ホントにこの匂いはたまらんな……。そう、そうだ、首筋や耳元の匂いもそうなんだが、これこそまさに『クセになっちまう』って奴なんだな」

 

 猪野山の股間に顔を埋め、逸物と巨大なふぐりが顔に当たる感触を楽しむ熊部。

 地肌と見紛う猪獣人のふぐりの質感は、熊獣人の毛に覆われたそれとはまったくの別物だった。

 その柔らかな肌に包まれた金玉とは対照的に、濃く、密度高く生え茂る良次の体毛を掻き分けて、突き出た鼻先でゴリゴリと逸物の根元を刺激する。

 猪野山も負けじと熊部の睾丸を握り、その片玉を口に含む。

 

「うおっ、それ、凄いぞ、いのさん……。気が遠くなるような気持ちよさだ……」

「ああっ、隊長の口ももすげえっ……。隊長が、隊長が俺の金玉、こんなデカいのをしゃぶってくれてる……」

「金玉を揉みながら、魔羅をしゃぶってくれ、いのさん……」

「俺のも、弦さん、俺のも、お願いします……」

 

 その日、しゃぶり合いでの吐精が5回を数えた二人。

 若かりしときはいざ知らず、連続で10回近い射精を済ませた二人が、さっぱりした、それでもどこか昂揚が隠せない顔のまま、次に仮眠室を利用する二人と交代した。

 

 ……………………。

 

「あれ? ゴミ箱が……??」

「どうした、さとる?」

 

 熊部達の後、仮眠室に入ったのはヒト族の良町と相良の二人だった。

 ゴミ箱を覗いた良町悟が声を上げる。

 さすがに少しばかりのゆとりを持たせようと、活動服の前立てのファスナーを下ろしていた相良も一緒になって覗き込む。

 

「いえ、今日はほら、あの、二人のザーメン風船、いつもより少ないなって」

「ホントだ! 匂いはいつもながらにすごいが、数だけだと半分ぐらいだよな……?」

「まさかですけど、その、衰えた、とかじゃないスよね、あの二人に限って」

「まだまだそれはありえんとは思うが、まさかホントにどっちか体調悪いとかじゃなかろうな……」

 

 どうやら獣人吏員達の目に見える射精回数の減少は、周囲にその体調を心配されるほどのものとなっているらしかった。

 当の2人は、どちらかと言えばよりウキウキとした様子で仮眠を終えていたのではあったが。