その1 裏興行
「中洲君、今日の百道(ももち)先輩のハナシって、きっとアレのことだよな?」
「うん、そうだと思う。前から聞いちゃいたけど、やっぱ気持ち悪いよな、アレ……。
そうそう、上川端君(かみかわばた君)は、あの勃起薬っての、飲んで来た?」
「せんずり見せるぐらいならまだしも、ホモのおっさん達に好きにされるってのがなあ。それでも活動費のこと言われると仕方ないし、覚悟は決めてるつもりだけど……。
ああ、あの薬、一応飲んではきたけど、今んとこ特になんもなくて……」
「俺も俺も。なんか、効くまでに1時間ぐらいはかかるってなってたよな、確か……。
ま、そういうの聞かされた上で俺達も同好会残ってんだから、しゃーないのかな」
俺も同期の中洲君も、なんか含んだ言い方だよな、これって。
「こんだけ暑ちいと、かえってムラムラするんだけど、俺たちの若さって言うか、年齢からしてクスリとか、たとえ『アレ』のこと考えても要らん気もするんだけどなあ……」
「うん、俺もそれ、同感。だいたいおじさん達が飲む薬のイメージだよね、あれって」
あ、ちょっと『ホモのおっさん』とか『勃起薬』とかのことは横に置いといて、まずは自己紹介だよな。
俺は『上川端聡志(かみかわばたさとし)』、雄志社大学の2回生。
そういうの前から好きだったから、入学してすぐに学内サークルの『プロレス同好会』ってのに入ってさ。
練習日は週2回なんだけど、たまり場になってるリングのある練習場があって、バイト詰まってない日にはほとんど毎日顔出してる。
もちろん名前の通りの『同好会』なんで、正式な体育会とかに振り分けられる予算も無い、まあよく言ってもサークル活動の一つってとこ。
一応毎日のトレとバイト(自転車メッセンジャーって奴)でカラダは作ってるし、興行も同好会単独とか近場の大学の連中と組んでとかで年に何回かやってるんだけど、それもせいぜい毎回30人も来てくれれば御の字ってとこかな。
こういうのやってる奴なら分かると思うけど、それで普段の運営費の元が取れるかって言えば全然足りなくって。
それでも常設のリング場兼ねての練習場所借りれてるってのが、まあ色々あるからこそなんだけど。
8月入って残暑も凄くて暑くてたまんないけど、まあカラダ動かすには逆に気合い入るっていうか。
リングや練習場は汗ダラダラだけど、シャワーもあるしエアコン効く休憩室もあるのが救いって感じ。
夏期休暇中なんで、バイトシフトと同好会への顔出しが俺も中洲君も一日のほとんどになってる毎日だった。
リング場行く途中で一緒になって話してたのは、同期で同じ2回生の『中洲宏明(なかすひろあき)』君。
学内や合同試合では、俺がベビーフェイス、まあ『正義の味方』とか『光の側』みたいな感じ。
中洲君がヒール役、こいつはいわゆる『敵方』『悪役』でやってるけど、中洲君、内実はスゲえおとなしいというか、優しいタイプなんだよな。
で、ハナシに出て来たのは唯一の3回生の『百道三六(ももちさんろく)』先輩。この前、練習中にアキレス腱傷めちゃって、今は筋トレと俺たちへの『指導』を中心にやってくれてるパイセン。
初めて先輩見たのは、入学してすぐのサークル紹介んとき。
百道さんの鍛えて毛深いガタイが、レスラーパンツ一丁の裸に凄い映えてて。あのガタイ見て『カッコいいな』って思ったのも入会した動機の一つなんだけど、本人に言うのはなんか恥ずかしくてさ。
ま、けっこう3人でワイワイやりながら、この一年は色々頑張ってきたんだとは思う。
で、中洲君とのハナシに出てた『アレ』。
ま、その『アレ』ってのが、最近の俺たちの頭にこびりついちゃってる『特別な試合』のことなんだ。
それと関連してるのが、さっき話に出た『勃起薬』って奴。そんなん要る年でも無いんだけど、いや、逆に『性欲抑える』クスリ欲しいなと思うくらいなんだけどさ、実際は。
(この『勃起薬』って奴、実は『性欲』を高めるんじゃ無いってのは、後から知ったんだけどね)
それでも先輩からそれぞれネットで買っとけ、そして今日飲んで来いって言われてて。
なんでそんなもん? って思うかもだけど、俺ら、もう半分ハナシ聞いてるから、なんとなく仕方ねえなって感じで飲んで来てるんだ。
「おう、2人とも済まんな。練習日以外に時間合わせてもらって」
「今日の話って、9月の、その『アレ』のことッスよね、やっぱり……」
「ああ、前からちょこちょこ言っては来たけど、明友から正式に文章もらってな。
俺としても一日でも早く、お前らにきちんと話しとかないと、と思って」
ああ、やっぱり『アレ』のことだよな。
2人とも練習場には週2回の『練習日』以外も空き時間にはほとんど来て筋トレとかやってるから、違う曜日に集まることの違和感は無いんだけど。
さっきからの『アレ』、正式名称は『明友大学及び雄志社大学プロレス同好会による特別興行』って、ほぼ1ヶ月後、来月頭に泊まりでやるクローゼットな興行のことなんだ。
泊まり?
クローゼット?
ま、そこが俺や中洲君も頭悩ませてる意味での『アレ』ってことなんだけど、百道さんからちゃんと話聞くのがまずは先かな。
「これが開催要項だ。あ、でも紙として残しちまうと色々アレだから、頭に入れといてくれ。
後で燃やすのが、一応の決まりなんでな」
って、そこまで秘密厳守しなきゃいかん中身が書かれてるんかい!
ー今年度の『明友大学及び雄志社大学プロレス同好会による特別興行』についてー
期日:9月7日(土)午後2時より
9月8日(日)午前11時
会場:前半戦(交流試合)明友大学リング場
後半戦(個人対応)XXホテル
主催:両大学OBと有志の会
観客:50名程度を予定
日程的には大学の夏期休暇中の最後の土日ってこと。
ちなみに明友大学ってのはうちの雄志社大学の近くにあって、けっこう大学同士の交流も盛んにやってるとこ。色んな面で、いわゆるライバル校でもあるのかな。
明友もうちの大学も、体育会のちゃんとした部活に力入ってる分、俺らみたいな『サークル』は、ちと肩身が狭いんだけどね。
ま、開催の日程的には夏休みの間に俺たち現役学生は、しっかり『準備』しとけってことなんだろう。
百道さんのハナシだと、観客(同好会のOBとその『知り合い』が大部分てハナシ)のほとんどの人が、『後半戦』にも参加するんだって。
そうすっと明友とうちの参加人数考えると、一人頭で6人ぐらい、相手にしなきゃってことか……。
●交流試合(前半戦)
午後2時より明友大学プロレス愛好会リング場にて開催。
90分一本勝負。
ヒール→明友大学プロレス愛好会
ベビー→雄志社大学プロレス同好会
んーと、ヒールはさっきの説明の通りで、文字通りの悪役側、ベビーはベビーフェイスの略で、まあ正義側って立ち位置。
このロール割りは普通のプロレスでもよくあるパターンだけど、この興行では2年に一度の開催毎に、あっちとうちとで交互に入れ替えてるんだって。
●興行参加金額
交流試合のみ 100000円
後半戦も含む 150000円
ここらへん、さすがにクローゼットな興行なんだよな、やっぱり。
法外な値段だろ?
これってほら、やっぱりこっちにも『法外なコト』を『要求』されちまう訳で。
●興行試合内容提案
・オープン~ベビー先行有利。各所にて股間強調のポージング。金的、性器、肛門攻撃アリ。互いの股間擦り合わせ、勃起強調シーンの盛り込み。
ほら、ここらへんから『アレ』な感じになってくるよな?
・中盤~ヒールの盛り返しにてベビーの股間晒し。射精も可。失禁あるとさらに良し。ベビーの盛り返し。
初めて聞くと、なんだこりゃってなるはず。
俺と中洲君も、言葉出なかったもん、最初にハナシ聞いたあんときは。
・終盤~ヒール3人目の乱入で、ベビーが全員射精させられる。その後、ベビーの一人が隙を突いてフォールへ。カウント後、ベビー勝利の宣言。
・ヒールの怒り納まらず、ボロボロになっているベビーへの顔射、飲精。
・最後~全員でリング外に向かってのせんずり射精。観客中、後半戦チケットを持つ人で飲精したい人は希望する現役学生のものをしゃぶることが出来る。
な? 分かるだろ?
俺たちの困惑が。
●人的配置
・明友大学プロレス愛好会(参加5名)
レスラー2名
途中乱入レスラー1名
セコンド1名
リングアナ1名
・雄志社大学プロレス同好会(参加3名)
レスラー2名
セコンド1名
・レフェリーはOB(雄志社卒生)1名
うちんとこ昔は動ける会員10人以上いたこともあったって聞いたけど、今年は俺ら2回生が2人、イッコ上の3回生(百道先輩やね)が1人、就活に入ってる4回生のパイセン2人、1回生は3人入ったけどすぐに辞めちゃって0。実質3人だけの会になっちまってる。
まあ、ホントに弱小サークルの一つって奴だよな。
明友の方が人数は多いんだけど、かといって余裕があるって訳でも無いらしい。色々あって、今年は1回生は参加させないって方針らしく、それはそれでなるほどなあと思ってるところ。
●後半戦(ホテル各個室にて)概要
前半戦(交流試合)終了後、観客は希望学生の振り分け作業へ。希望の偏りが生じた場合、人数調整あり。各人担当分担後、後半戦会場のホテルへ移動。チェックイン。
学生はリング場の片付け後にシャワー。3回生以上は浣腸後にアナル洗浄も行うこと。その後、ホテルへと移動。チェックイン済みなので、そのまま割り振られた部屋へ各自入室。
夕食等は各室の観客(有志)及びOB等によって提供される。
学生は入室後はすべて、同室の観客(有志)及びOBの指示に従うこと。
翌日11時がチェックアウトとなる。
慣例として、2日目昼食及び午後の時間の肉体提供も要請されることが多いため、各自極力従うこと。その分については各自へのチップ、及び追加資金提供もあり。
ここまで見てもらうと、俺たちが『アレ』って言ってたの、もう分かってもらえるよな。
要するにうちと明友の同好会OBとホモのおっさん連中(あくまでもOBからの繋がりだけど)に高額のチケット買ってもらって、ガタイだけは鍛えてる現役学生レスラーのエロレス観戦出来て、その後はそのカラダも一晩中自由に出来ますよってことなんよ。
こっちが学生ってことで画像や動画はもちろん撮影禁止なんだけど、OBが公式?に撮った動画とかはナンバリングされたのが有償で販売されるんだって。
そこらへんの売上とチケット収入が興行後に明友とうちとで折半されて、今後の2年間のお互いの活動費になるってワケ。
俺たちも普段から顔出したOBに飯喰わせてもらったりしてるし、なんたって専用のリング付きの練習場が維持できてるなんてのが、これあってのものだし。
去年の今頃だったかな、この『興行』のこと、聞かされたのは。
ちょうど入って3、4ヶ月の、慣れてきた頃だったと思う。
それまでもOBの人達と先輩達のやり取り聞いてて、妙に先輩のガタイのこと詳しかったりそれに絡んでのエロネタ満載だったから、なんかあってんのかなあ、ぐらいは思ってたんだけど。
百道先輩から最初に聞かされたときは、まさか?!、ってのと、ホント、なんだそりゃ?!、ってなってた。
でもさ、初めて自分達の試合チケット売ってみて、やっぱり金を作るのって凄い大変だよなって、俺、思っちゃったんだ。
2000円でも高い高いって言われながら頑張って3人で売ってもさ、1回の(それも『表』のね)興行だとせいぜい5万から6万、良くて10万ぐらいにしかならないってのが、もう現実で。
有名なサークルとかだとまた違うんだろうけど、割と人気出る『女子モテするタイプ』って、うちもあっちもいない感じ。
百道先輩とかガタイも凄いし、全身黒々と毛深くて、ホモには凄えモテるんだって。
そういう意味では、とにかく2日間だけ我慢してくれって言う先輩の言葉に従うしか無いかなって、俺も中洲君もなったんだと思う。
やっぱ『好き』でこういうの(プロレスの方ね)やってるワケだから、そのための『場』が無くなるよりは、って思っちゃったんだよな……。
それでも一応試合の形を取る前半戦は、まあしゃーねーよなってなってはいるけど、やっぱり『後半戦』には俺も中洲君もビビってないと言えば嘘になる。
ホモって聞くと『ケツ、やられんのかな?』って思ってたんだけど、さすがに初回参加の俺たちにはそこまでは要求されないって聞いて、ちょっとだけホッとしたところ。
「こうやって文書にされると、すげえエグいよな……。
お前らにはホントに済まんと思うけど、活動費作るのにこんだけ手っ取り早いのは無い、ってのが、これがずっと続いてきてる理由なんだと思う。
去年、このハナシを出したときから2人が辞めないでいてくれたことには、マジで俺、感謝してる」
「いや、百道先輩。俺も最初聞いたときは驚いたッスけど、金のハナシと実際にチケット売りやってみて、やっぱりコレしかねえのかなって納得はしてるッスよ」
「俺もッスよ、先輩。正直、気持ち悪いって言うか、ビビってはいるんスけど、やっぱしゃーねーかなって……」
先輩の言葉に、俺も中洲君も同じようなこと返してる。
百道先輩、1回生のときにもやってるから、今回が2回目になるんだよな。
そうすっと、初回の俺たちが免除されることも当然やらされるワケで。
「でも、先輩。先輩は、その、あの、その『ケツ』も、犯られるってことッスよね……?」
「ああ、そうだな……。一昨年も2回目になる先輩達は『後半戦』には全員駆り出されてたし、俺もそこは覚悟は決めてる。明友の連中とケツの練習、一緒にヤっとこうって話も出てるしな」
なんか、俺と中洲君と、顔を見合わせちまってた。
でも分かるんだよな、百道先輩のその『覚悟』って言うか『想い』みたいな奴も。
「その、中洲君は別としても、俺もその明友の愛好会の人との『ケツ練』、参加しちゃダメですかね?」
「ナニ言ってんだ、聡志?! お前らは初回の参加だから、ケツ慣らす必要無いんだぞ?」
「いや、俺ら3人しかいないワケッスから、先輩の負担がちょっとでも軽くなればな、とか思っちゃって」
いや俺、本気で思ったんだぜ。
俺らは2回生での体験だから、次開催の2年後はもう卒業年度に入っちまってる。
となると参加の機会は今回だけってことになって、だったら百道先輩だけにキツい思いさせるのも悪いなって思ってさ。
「……。ありがとな、上川端。お前の申し出、すんげえ嬉しいぜ。
だけどそれでもな、これに関しては色んな取り決めみたいなもんもあって、それってけっこう俺たち現役のことを思ってのルールなんじゃ無いかって最近思い始めてるんだ」
「どういうことッスか?」
ま、正直な疑問よな、俺の。
「たとえば今度のコレ、リングネームを使わずに本名でコールされるのは知ってるよな?」
「知ってはいますけど、それと覚悟の何が関係が?」
そう、この興行、全部名前、本名でコールされるってハナシ。
「あれはほら、やっぱり俺ら現役世代への『脅し』の一つだと俺は思ってる」
「なんつうか『お前ら分かってるよな?』みたいなもんなんでしょうね」
「ああ、そうだよな……。でも、それと同時に就活入ってる4年生は万が一の顔バレ考えて呼ばないとか、ケツも初回参加の奴は狙わないとか、録音録画は禁止とか、俺らを『守る』色んなこともシステム化されてんのかなって」
「確かに……」
実際、矛盾してるよな、それって。
「きっとそれって、先輩たちがお客さんとの間ですげえ綱引きしながら何とか形にしてきたもんだと俺は思ってる。
だからこそ、お前が言ってくれたのは嬉しいけど、決まりは決まりってことにしとかんと、いかんのじゃ無いかな、ってな」
ああもう、百道先輩。
そんな話されたら、俺、惚れ直しちまうじゃん。
いやその、惚れるって、あくまで尊敬してるってことだけどさ。
「分かりました。出過ぎたこと言って、申し訳なかったッス……」
頭下げたよ、俺。
「馬鹿! 謝れとか言ってんじゃねえんだよ。お前らはお前らで大変なんだから、俺なんかに気を回さなくていいって言ってんだ」
やっぱ、一学年に1人しか人がいないって、こういうことなんだなって思った俺。
たぶん中洲君も同じ思いを感じたんだと思う。
「先輩、俺も上川端君も、いい試合見せて、OBやお客さんにも可愛がってもらえるよう、頑張るッスよ!」
「ありがとな、中洲も上川端も……」
先輩、もしかしてちょっと涙ぐんでる?
なんか吹っ切れたような次の言葉は、照れ隠しの一つだったのかも。
「じゃあ、さっそく興行に向けた『練習』に入るけど、いいか、お前ら?」
「あ、そのためのあの薬なんスか、やっぱり?」
「ああ、そっちの方がお前らも自分に『勃起薬のせいで勃ってます』って言い訳出来るやろ?」
やっぱりそうだったんだよな……。
特別興行のこと、『そういう中身って知ってて勃起する』ってことにならないよう、先輩が気を利かしてくれてるってことなんだ。
「はい、言われたとおり、飲んできてます」
「なら時間的にもそろそろだろう……。始めるぞ、2人ともっ!」
「了解っ! 百道先輩っ、俺らへの指導っ、お願いしますっ!!」
こうしてこの『秘密の興行』に向けた、これもまた『秘密の特訓』が始まったんだ。