親方の現場の規則(平成編)

その7

親方と田山の手ほどき(3)

 

7 親方と田山の手ほどき(3)

 

田山の変身

 

「お前の変わった姿を見ると、やはりたまらんな。

 俺も、変わりたくなる……。」

 

 田山が貪るように親方の腋の臭いを嗅ぎながら、そう呟いた。

 

 肉体の変容に伴い、親方の体臭も変化している。

 シラフのときも田山と同じく、普通の同年代の親父達の数倍にもなる強烈な臭いではあったが、今や、完全に、雄にとっての強烈な媚薬の効き目がある性臭となっているのだ。

 たとえどのような男であれ、一度それを変容したこの雄の腋や股から吸い込んだら最後、時間的な制約はありつつも、臭いの持ち主の言うことを何でも聞く奴隷と化してしまうだろう。

 

 初めてそれを嗅がせられた作業員は、たとえ誰であろうとも、親方や田山、あるいは親方の息子であるまもるの命令を、喜んで受け入れるようになる。

 

 よっぽどの好みの男と遊びたいときのことではあるが、電車やエレベーターなど、機密性の高い場所で腋を見せつけ、近づけた顔に臭いを嗅がせる。

 あるいはこっそりとズボンのジッパーを下げ、汚れて玉や竿の臭いが染みついたケツ割れの膨らみを嗅がせると、男たちは必ず、現場や駅のトイレまでついてくるのだという。

 

「純也、今度は俺が、自分にクスリをいれるぞ。俺が本来の雄の姿に変わる姿を、見ておくんだ。」

 

 田山が言う。

 

 本来の雄の姿。

 本当の男。

 漢の中の漢。

 

 2人の体臭に当てられている純也は田山のその言葉とそこから連想した自分の妄想だけで、まるで自分の逸物から小便を漏らすかのように先走りが流れ出ていく快感を味わっている。

 

 親方は荒い息にその肩を上下させながら、田山の股ぐらの前にしゃがみ込む。

 クスリの打ち込みにさらなる景気を付けてやるつもりなのだろう。田山の先走りで濡れそぼり、さらなる異臭を立ち上らせているケツ割れの前袋を、その分厚い舌で舐め上げ始めた。

 

 田山がテーブルのもう1本の注射器を取り上げる。

 ピンスポットで自分の腕の血管に針を命中させ、見せつけるかのように針が入っている部分を純也の顔に近づけた。

 

 見る間にシリンダーの中に、ブワッと赤い雷雲が湧き立つ。

 

 そのままゆっくりとプランジャーが押し込まれる。

 わずかに紅く染まった液体が、田山の体内に収まっていく。

 その途端だった。

 

「ぐわあっ……。すげえなあ、こいつっ!

 あっ、ああっ、変わるっ、俺も人間じゃなくなるぞっ!!

 よおっ、親方っ!

 俺のっ、俺の股ぐらは、うめえか、ああ?」

 

 腕を高く掲げて、針を刺した部分を強く押さえる田山。

 

 田山の言った通り、見る見るうちに彼自身が変わっていく。

 

 まずは体毛。

 挿入前より全身の体毛が濃くなり、ケツ割れからもしゃもしゃとはみ出す。

 肩幅やケツもでかくなり、柔道の最重量の選手にも負けないほどになる。

 声も低く、太くなり、顔中に無精髭が生えた。

 

 田山は仁王立ちのまま、純也に近付くようにと目で合図を送る。

 大きく開いた股から親方の顔を上げさせ、親方を左脇、純也を右脇に立たせて、ゆっくり両腕を上げる。

 ああ、そこには真っ黒に茂った腋が、それまでに感じた何十倍、いや何百倍もの『効き目』を伴った『臭い』を発しているのだ。

 

 もしゃもしゃと、モジャモジャとした剛毛が生え揃う田山の脇。

 存分に見せつけられ、そこから漂う強力な『臭い』は、二人にとってはもはや強力な媚薬以外の何物でも無い。

 

 募集事務所で、電車の中で感じた田山の『それ』がベースではあるのだが、入れた『クスリ』のせいか、そこにはどこか、砂糖を煮詰めたような甘い匂いすら感じとっていた純也である。

 まさにその甘い香りに惑わされ、花に寄り来る昆虫のように、親方と純也はその顔を田山の腋毛に近づけ、2人同時に鼻から深くその発する臭いを、深く深く吸い込んでいくのだ。

 

「ああ、すげえ……。たまんねえな、お前の腋……。」

 

 親方はそう言いながら、舌で田山の脇毛を舐め上げていく。

 それはまさに、己の舌の表面に田山のそれを、その強烈な腋の臭いをべっとりと染み込ませるように。

 そのなんとも言えぬ臭いを染み込ませた己の舌を、親方は田山の舌へとまるでその臭いを往復させるかのようになすりつけていく。

 

「臭え、臭えな。ワシの腋、すげえだろ。

 ああ、親方の唾液と混じって、すげえ臭いだ。

 純也、お前も俺の腋の臭え脇汁を舌ですくって、俺や親方に口移ししてみろ」

 

 純也はすでに、二人の雄の体臭の虜となっていた。

 目の前の二人の親父のためなら、何でもしようと考えている。

 親方のやり方を真似て、田山の腋の毛を舌に絡めながら自分の舌に臭いをつける。

 そのまま田山の口を吸い、その臭いと一緒になった自分の唾液を流し込む。

 

「わかるか?

 これは俺たちの男の味の一つだ。

 よく味わえ。」

 

 田山が自分の臭いが付着した舌を、今度は親方の口の中にネジ入れた。そして二人の親父たちが、それぞれの舌を純也の口に同時に差し入れていく。

 

「腋味の臭え雄舌、3枚絡めようぜ」

 

 親方がそう言いながら、ねちゃねちゃと何回も舌を擦り付けてくる。

 田山も自分の舌に溜まった臭い腋汁を、自分の唾液と混ぜ合わせては純也の口に注ぎ込む。

 親方にも同じ行為を繰り返し、親方の脇汁もまた、互いに味わい、混ぜ合い、ごくりごくりと飲み込んでいく。

 

 それは何とも、甘美な味だった。

 

 田山が純也の頭を押し下げ、自分のケツ割れの巨大な膨らみに押し付ける。

 

「舌で確かめろ。

 俺のチンポは、さっきまでよりずいぶん太くなってるぞ。金玉は二倍のでかさだ。

 そして、キ◯汁と精液まみれの、雄の金玉の臭いを楽しめ」

 

 田山の玉を包んでいるケツ割れの臭いは、腋以上に効果がある。

 純也はすでに先走りをぼたぼたと垂らしていた。

 今にも本汁が出そうだ。

 

 田山の竿は木彫りの熊のように固く、金玉は膨らみ過ぎて、玉の皮がパンパンに張っていた。

 あのクスリの影響か、金玉の周りは大量の毛が覆いはじめている。

 玉裏、ふぐりの表面、濃く茂った陰毛。

 そこから発する淫臭は、精液が満タンに入ったお椀に何日も金玉を漬け込んだような、男ならではの、生臭い臭いだった。

 田山がわずかに残っていた注射器の液体を、自分の勃起した乳首の先端に注入した。

 

「ううっ、効くなあこのネタ……。

 俺の乳首に、ズドンと来たぞ。

 ほら見ろ、ワシの乳首も亀頭に変わったぞ。」

 

 田山がそう言いながら、自らの太い魔羅乳首を太い指先で扱いて見せる。

 まさにそれは、全身が剛毛に覆われた男の胸から突き出ている、二本の亀頭であった。

 

 ああ、俺はここで、本物の男たちに出会った。

 純也の中からは、最初に用意された箱の中を見てしまったときのような、自らが犯罪に巻き込まれるという恐れは消えている。

 目の前の男たちの『変容』は、ここで行われているあらゆる出来事がらもはや日常や常識といったものからは遠く離れてしまっていること。

 この恐るべき出来事をあるがままの状態で受け止めないことには、自分の頭がパンクしてしまうことを、本能的に悟っていたのだ。

 

 体格も体毛も、乳首もチンポも金玉も、見せつけるかのように、匂わせるかのように、巨大化し、熟し切った2人の男。

 純也は自分もあの親父たちのようになりたいと、決心した。

 

「じ、自分にも打ってくださいっ!」

 

 気がつくと、そう口走っていたらしい。

 

「お前から言い出すのを、待ってたんだ。ワシ達を見ていて、これがお前さんが想像していたものなんぞがチンケに思えるほど、凄いものだっていうのも分かっただろう。

 だが、本当にいいんだな、純也?

 一度進めば、これはもう、後戻りは出来ん道だぞ。」

 

 親方が純也の正面に立ち、その瞳を真っ直ぐに見つめていた。

 純也もまたその目を見返し、言葉はもう要らぬかのように、深く、ゆっくりと頷き返す。

 

 親方と田山が互いに見交わし、ニヤリとその男臭い顔を歪める。

 

 親方は箱から新しい道具を取り出した。

 あくまでも本人からの言い出しを待っていたのか、最初に田山に用意させたのは2人の分だけであったのだ。

 

「最初だからな、10くらいにしてやれよ」

 

 田山が囁く。

 ああ、10とか20、40などと2人が言っていたのは、打ち込むクスリの量だったのだな。

 純也の中の小さな疑問の一つが、解答を得る。

 

 田山は純也の左腕をとり、薄手のシャツの袖を肩まで捲り上げた。

 消毒綿で腕を拭くと、親方がゆっくり針先をそこへと近付ける。

 

 その時である。

 

「親父っ、田山さんっ! そこまでだっ!

 そこから先は、まだ、やっちゃいけないっ!」

 

 若い男の声が、畳の敷き詰められた休憩室に響いたのだ。