その3 父と子
「今すぐに決めてくれとは言わぬ。
お前もまた、日に何度もせんずりをせねば、己の情欲を抑えられんことは分かっておるじゃろうて。
それが月に3度とはいえ、思うがままに己の精を放つ『相手』がいるという喜びを、その喜びと恩恵がお前の下に、と思う儂の気持ちを思うてやってくれ。
明日の祭りで裸の馬曳き達を眺め、その褌の中身を思うてやってくれ。
そしてなお、儂の言葉に頷くことが出来るのであれば、明日、祭りの馬をこの家に迎えるときに、箪笥に何本かある儂の『朱い』褌を締めていてほしい。
それだけで、儂にも他の馬曳きの連中にも、お前の心は伝わるじゃろう……。
やれ、遅くなったな。
眠れはせんかもしれんが、互いに、ちと休まぬか……」
それまでしばしの沈黙を守っていた平八が、ずいとその身を起こし、父親の前に立ち上がる。
「親父……。今、ここで、俺のと、その、親父のと、そうだ、そう、『摩羅比べ』をしてくれ……」
「それは……。お前と儂の、その、逸物にそう『差』が無ければ、明日の『直会』に参加してくれるということか?」
心に決めた息子であった。
察しのいい父であった。
この地に生きる男としての『気負い』が、『責任』が、父から子へと、しっかりと伝わっていた。
「ああ、そうだ……。親父と俺の摩羅に、親父が『朱』には成れぬと判断するほどの『違い』があれば、俺は明日、祭りの一日を、白い褌で過ごそう。
だが、もし、いや、もしかして、でいい。
もしかして俺が『朱』に選ばれそうだと思うのであれば、俺は明日の一日を、朱い褌を締めて迎えようと思う……」
「分かった……。平八、褌を外して、こちらに来い」
互いに『なぜ』を問わぬのは、その思いが共有出来ていたからこそであったろう。
父は息子の、息子は父の、この『土地』と『人々』への限りない情愛を、己と同じもの、いや、己よりもいや増すものとして、受け止めていた。
「儂を前にして、勃つのか?」
「親父は、もう、おっ勃ててるんだな」
「つい、色々と思い出してしもうてな」
「ちょっと待ってくれ、すぐ、追いつく」
素っ裸になった二人が真正面に向かいあう。
短躯、首と手足の太さ、丸顔、突き出た腹。
すべてが似通った親子であった。
父親の逸物はすでに天を突き、己がこの数十年受け続けてきた慰みを思い出してか、そのずるりと剥けた先端はすでにたっぷりとした先露に濡れ光っている。
男衆の中、『小さきもの』としての判断が下されているはずのそれは、客観的に見れば、この国の男子の平均よりも、いささかなりとも『大きく、太い』ものであったに違いない。
それでもこの土地において『朱』と選ばれる条件を満たしていたことは、先に述べた。
息子は己の逸物に手を伸ばし、ゆっくりとその竿を扱き始める。
片手は盛り上がった胸をさすり、その指先が小豆ほどにも腫れた乳首を弄り始めるのは、夜な夜な行う一人遊びで体得した悦楽の方法であるのか。
しばらくの行為の後、存分に血流の回った息子の逸物が、父の腹を刺すかのように勃ち上がっていた。
「どうやって比べるんだ?」
「儂のときと同じであれば、まずはお前の逸物と金玉の根元を細い紐できつく縛られるはずじゃ。
何人もの男との『摩羅比べ』、途中でイってしまい萎えてしまっては、比べることすら叶わなくなるでな。
そしてお前は、腰が引けぬよう、逃げぬようにと、柱に縛り付けられる」
絵面として思えば、かなり無体なことであったろう。
それでも父、平七の語りようには、どこか懐かしさすら感じられるほどの思いが籠もっていた。
「逃げるなんぞはさらさら思わないが、それほどのものなのか?」
「選別のための『摩羅比べ』は、最大限に膨らんだ逸物同士を比べるもの。お前以外の馬曳きは、みな最後の射精にいたるまでの扱き合いを行うんじゃ。これが十人近く続けば、慣れぬお前は悲鳴を上げたくなるほどの刺激じゃろうて」
「たまらんな、それは……」
「まあ、縛られる、などはこの最初のときだけじゃがな。一度『朱』として選ばれれば、後は周りの男達がそれはそれは優しく、お前を導いてくれるはずじゃ」
「それは、その、口や、その、尻を、使うこともか……?」
「ああ、そうじゃ……。お前が痛みを感じぬよう、さらにはより深き悦楽が得られるよう、みなが優しくほぐし、嬲り、舐め、しゃぶってくれよう。
お前はそれをただひたすらに楽しみ、受け、飲むがいい。
さすれば上等な『朱』が、またここに一人、生まれるという訳じゃ……」
平八にとってはさすがに思い至らぬことであった。
だが、己の心に従うと決めた以上は後には引けぬという、単純な『意地』もあったのか。
「分かった……。縛るというのは置いておいて、とにかく比べてくれ、親父」
「ああ、そうじゃな……。実際の『摩羅比べ』では、比べ合う馬曳きが近付いてきて、お前と己の逸物を兜あわせにして握り込む」
説明をそのまま行動へと移す平七。
二人の腹が近付き、臍に着かんばかりのそれを平七が2本取りにして握りしめる。
「ああ、親父の手なのに感じちまう……」
「イきたくなっても、堪えろ」
「ああ、分かってる……」
父の説明が続く。
「一度合わせた先端を、今度はぬるりぬるりと動かしながら、金玉の付け根、根元の位置を合わせるんじゃ……」
「んんっ、裏筋がっ、これは、これはっ、たまらんっ……」
ずるずると細かく縦に動かされれば、互いの先端から滴る先汁のぬめりが、すさまじいまでの快感を呼ぶ。
「そして検分役が、どちらが『勝ち』か宣言する。もちろんここではより小さい方が『勝ち』になるんじゃ。
そして負けた側は、そのまま2本の逸物を握りしめたまま上下にせんずりをし、たいがいのものは気持ちよく噴き上げての『摩羅比べ』となる」
「その間、縛られてる俺のチンポは……」
「もちろんきつく縛られておるので、イくことは出来んな……」
「ああ、それが全員が終わるまで続くのか……」
「ああ、そうじゃ、イかず勃起の悦楽が延々と続くぞ。イきたくてもイけぬつらさと、それゆえの強烈な快感が、続くのじゃ……」
端から聞いていれば、とても親子のものとは思えぬ会話であった。
それでも、息子平八のがっちりと勃ち上がった逸物は萎えることなく、とろとろと流れ出る先汁は毛深い玉までも濡らしている。
「で、どうだ、親父? 俺は、『朱』になれそうなのか?」
「ああ、そうじゃな……。儂のものよりはわずかに太いが、おそらくはこのぐらいの差であれば、どの検分役も『勝ち』と認めてくれよう……。
お前も、分かってくれておるのじゃな。最後まで『勝ち残る』ことの意味を……」
祭りの主役たる『朱』を選ぶ『摩羅比べ』において、『小さきもの』が勝ち名乗りを受けるのは当然のことと言えよう。
なによりもこの『摩籠の祭り』、いや『摩羅籠の祭り』の本来が、村の中心人物を選び出し、なによりも村の繁栄のためにこそ『女』を傷付けぬものを選び出すための機構であるとすれば、自らの肉体を驕ることなく、謹んで暮らす者が『勝者』となるのは、至極当然のことであった。
「もちろんだ、親父……。
俺も、なんにも取り柄の無い俺でも、『朱』になればみなの役に立てる。この村の役に立てる。
親父の話を聞いて、俺は、俺はそう思ったんだ……」
その言葉を聞き、父、平七が、そっと息子の耳に口を寄せた。
「……。どうだ、最後までイきたいか? 平八?」
「ああ、イきたい……。親父が、親父が俺のを、扱いてくれるのか?」
この『異常さ』をも快感と受け止めてしまうのは、すでに平八にも『朱』としての喜びが伝染していたものであったか。
「ああ、そうじゃ。『朱』になれば、十日毎の『八日講』では完全に馬曳き達を『イかせる』ためだけの存在になる。
自分のものを扱くことは叶わぬが、その分、周りの男達が『朱』の口を吸い、耳を舐め、乳首を摘まみあげてくれる。
摩羅は常に誰かがしゃぶり上げ、別の男は金玉をじゅるじゅると舐め回しながら吸い上げてくれる。
もちろん己の手では扱けぬ『朱』の摩羅は、誰かがしゃぶり上げるか扱き上げるかしてくれるのじゃ。
その天にも昇る悦楽の中、『朱』は、己の口で、己の手で、己の尻で、男達の汁を受け止め、飲み上げていくことになる……」
選ばれた『朱』は男達の精汁をすべてその身で『受ける』役目ではあるが、その『朱』の精力もまた、男達全員にとろとろと嬲られつつ己が汁を男達の手や口にと漏らしていくのであった。
「たまらんよ、親父……。親父の話を聞いて、俺が『朱』に選ばれたらと思うだけで、もう、もう、イっちまいそうになる……」
「当代の『朱』である儂の手で、気持ちよお、イけ、平八。
お前の汁を、儂が手で受け止めよう。儂もまた、お前の汁を感じて、イかせてもらうぞ」
「ああ、親父、親父っ……。俺、俺っ……」
互いに全裸の、父が息子を、息子が父を、抱き寄せる。
突き出た腹の下、もっさりとした陰毛の茂る股間を押し付け合いながら、父の労働に荒れた手が、ゴツゴツとした太い指が、二つの摩羅を握りしめる。
腹と腹、胸と胸が突き合わされた中、ほんの少しだけ引いた腰の間で、卑猥な、だが、溢れる情感と快感に満ちた上下運動が始まった。
「あっ、あっ、親父っ、いいっ、すげえっ、気持ちいいっ!」
「初めてか? 人の手でやられるのは、初めてかっ?」
耳元で尋ねる平七の声。
「た、玉吉さん達と、せんずりの掻き合いしたぐらいだっ!
こんな、こんなふうにっ、自分以外の手で扱かれるのはっ、はっ、初めてだっ!
初めてなんだっ!!」
話に出てきた玉吉は、もう52になる村一番の巨漢であった。
平八の次に若い世代ではあったが、その数人のものたちもまた独り身のまま過ごしている。
せんずりの掻き合い、その程度のものはこの村の男達はどこかで経験してきているのだろう。
そしてそのようなときに互いの逸物を目にもせず、まったく気にしないなどという男はおりはすまい。
「玉吉のは、玉吉の摩羅は、太かったろう?」
「あっ、あっ、そうだっ、そうだっ! 玉吉さんのチンポは、すげえ太くてっ、周りの連中からもっ、い、いつも囃し立てられてたっ……」
「『朱』として認められれば、あれが、おっ勃った玉吉のあの太摩羅が、お前の尻をっ、お前の尻を埋め尽くすぞっ!
尻の中が抉られっ、金玉の裏側があの拳ほどの摩羅で突き上げられる。
それはもう、言葉では表せないほどの悦楽が、お前の全身を襲うぞっ!!」
わざと、の父の言葉かけであった。
赤裸々なその言葉に、二人の間の情欲がさらに滾りたっていく。
「ああっ、親父っ、そんな、そんなことを言われるとっ、俺っ、俺っ、もうっ、もうっ、イっちまうっ! イっちまうよっ!!」
「よしっ、イけっ、平八っ! 儂の手でっ、儂に扱かれてっ、イけっ! イけっ!」
「ああああっ、駄目だっ、出ちまうっ! 親父にっ、親父に扱かれてっ、俺っ、イっちまうっ!!」
互いの背に手を回し、腰を、腹を、押し付け合う。
かかとが何度も上下に揺れるのは、快感を増しつつも吐精を堪えようとする反射的な動きか。
「儂もイくぞっ! 平八っ、一緒にっ、儂もっ、儂も息子のお前と一緒にっ、イくぞっ、イくぞっ、イくっ、イくっ、イくっーーーーー!!」
「俺もっ、俺もイくっ、親父の手でっ、イくっ、イっちまうっ、イくっ……!!!」
音が聞こえるかのような勢いで噴き上がる白濁した二人の汁が、互いの腹を、胸を、逸物をみるみるうちに覆っていく。
自分達の肌から立ち上る精汁の匂いと、その体温を保持したままの熱さに、より一層の官能を燃やす親子。
「一度で終わりそうか、平八?」
「まだだ、足りないっ……。親父はっ? 親父は?」
「儂もじゃ……。親子で乳繰りおうて、たまらぬな、平八よ……」
「ああ、俺もっ……。親父と、親父とこんなことやってるのが、たまらん……。これで明日、みんなにやられたら、俺、どうなるんだ……」
「案ずるな。なるようになるし、そのすべてがお前の金玉の底から汁を上げてくれる。
それほどまでの快感を、悦楽を味わえるのが『朱』と呼ばれる者の受ける恩恵なんじゃ……」
この夜、二人の掻き合い、扱き合いは、互いに3度の吐精を済ませるまで終わることがなかった。