搾精される狼獣人(短編Ver.)

その2

 

その2 インテーク(予診)

 

「よく来ていただきました、白狼さん」

「豚田先生、今日はお世話になります」

「こちらこそです、白狼先生。

 ああ、その、今日の検査の後半は全裸体に近い形でお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 おそらくは公園で話に出た性機能・性的能力の検査とやらもそこに含まれてくるのだろう。

 

「ああ、ぜんぜん構いませんよ。男同士ですし、ジムでもトレーニングの後は皆、素っ裸で話してますからね。

 送っていただいた下剤での処理も家で済ませ、シャワーで軽く洗浄もしてきています」

「ありがとうございます。

 では、問診質問紙への記入をお願い出来ますかな」

 

 用紙を見てみれば一般的な身体・精神状況の問診から始まり、日常生活上での外出の頻度や人付き合い、さらには『性的な処理』の仕方や頻度、用具の使用や具体的な相手の存在なども記述するようだ。

 

「一応埋めてはみましたが、いや、実によく出来た質問事項であると思いますな、これは」

「先生にお褒めいただけるとは、恐縮です。

 この後は身体的な数値計測、口頭でのインタビュー、さらには肉体の運動機能検査という形で進めたいと思うのですが……」

「構いませんよ。では、さっそくですが、脱いだがいいんでしょうな、ここからは」

「お願い出来ますか。衣類はそちらの籠を使われてください」

 

 もともとラフな格好で、との豚田からの話もあり、喜三郎に取ってはまさに普段着である甚平の上下を羽織っているだけでの来院であった。

 体温調節に体毛を利用出来る獣人にあっては、ヒト族や変温性のトーテムを持つ種族よりも、より裸体に近い衣類を好むものが多数である。

 喜三郎もまたたとえ冬季であってもせいぜい素肌に甚平もしくは薄手の作務衣をまとうぐらいで、いわゆる『防寒』用の衣類は必要としない。

 

「おお、六尺褌ですか。これはよく似合っておられる。前袋の膨らみも実にご立派なものをお持ちで」

「お恥ずかしい限りですが、外出のときなどは六尺で気合いを入れて、普段は越中で楽に、という形が当たり前になってしまいました」

 

 似合っている、との豚田の言葉は、文字通りの賞賛であった。

 ジム通いを始めたときから比べれば、今の会員で褌の愛好家が増えたのは確かに喜三郎の功績であろう。

 

「素晴らしいですな。鍛えられた肉体に纏う伝統的な下着の良さが、白狼先生を見てるこちらにもしっかり伝わってきます」

「お褒めにあずかって光栄ですが、外した方が良いのでしょう?」

 

 もともと裸体そのものへの抵抗感が少ないのは獣人類の特徴でもある。

 トーテムたる野生生物に衣類が必要とされないことと同じようなものか。

 

「褌姿も惚れ惚れしますが、下腹部や臀部の筋肉、会陰部の緊張度合いなども診てみたいもので……」

「減るものでのありませんし、研究に役立つならこちらも脱ぎ甲斐がありますよ」

 

 にっこりと笑い、するすると横褌を解く喜三郎。

 外した六尺も籠に入れれば、生まれたままの姿の偉丈夫が豚田の目の前で仁王立ちとなる。

 

「いや、外性器も本当に立派なものをお持ちだ……」

 

 思わず手が伸びそうになった自分を抑えた豚田。

 

「……身長が196センチ、体重が131キロ。

 トレーニングを始められたのが50才の頃とのことでしたが、体重の変化などどうでしたでしょうか?」

「20キロほどは増量してきているかと……」

「それも大半が筋量の増加によるもののようですな。いや、本当に素晴らしい……」

 

 うっとりと美術品を眺めるかのような豚田の視線。

 その手のひらが喜三郎のぶ厚い胸筋を愛おしむかのように撫でさする。

 

「大胸筋から肩、背中への筋肉も凄いですなあ」

 

 豚田のその視線、肌をなぞるその手の動きは、喜三郎の長い人生経験の中での幾つかの記憶を甦らせた。

 

(この御仁、もしや……。ジムでもたまに遭遇するが、異種族間では珍しいものだな……)

 

 自らの専門職としての経験からも、世の中には多種多様な性的指向が存在することを知る喜三郎である。

 実際、若年時のスポーツ共同体や医官として務めた軍隊内などでは、豊富な経験と言うほどでも無かったが、喜三郎もまたそれなりに同性との性的な接触を行ってきているのだ。

 

 運動後のシャワーや更衣室での語らいはどうしても同性との接触時間を増加させ、その中でも同族の雄獣人からの熱い視線を感じることなどは、幾度か経験してきている。

 その意味も理解はしていた喜三郎ではあったが、若いときとは違うこの二十数年に関しては、具体的な行動を起こすまでには至っていない。

 

「では次は、実際に身体を動かしてもらっての計測に入りたいと思います」

 

 豚田の指示に従い、前屈や上体反らし、さらにはトレッドミルでの心拍数や消費カロリーの検査、視覚連動による反応速度の検査などが次々に行われる。

 灰色の体毛の下にうっすらとかき始めた喜三郎の汗の匂いが、治療室に広がり始める。

 

「やはりしっかり鍛えておられるのがよく分かりますな。

 さて、検査としては残り二つとなります。

 認知機能検査と、それと最後になって申し訳ないのですが、性機能の検査も行います」

 

 喜三郎としても、その『最後の検査』が気になるところだ。

 

「この前から聞いてましたし、構いませんよ。一応この年でもそれなりに、とは思ってはおりますが」

 

 ははは、と笑う二人ではあったがそれが同じ感情を意味してるわけではあるまいな、と、喜三郎は判断していた。

 

「こちらも事前に説明させてもらいましたが、手足を椅子に固定させていただきます。

 また、ゴーグルとイヤホンも装着してもらいます」

「了解です。

 して、性機能検査は、私が自らの手で行うものですかな?」

 

 おそらくは勃起能力の測定や精液の採取があると見越しての喜三郎の発言であった。

 

「そちらは出来れば搾精機で、とは思っております」

「搾精機は初めてなので興味がありますな。ぜひそちらでお願いします」

「分かりました。それではこちらの椅子におかけください」

 

 さすがに豚田の手で、という誘導は無かったようだが、喜三郎としても搾精機による射精には興味を抱いたようだった。

 もともとの精力の強さは種族的なものと同時に、肉体の鍛錬によるそれが相乗効果となっているのであろう。

 

 椅子に腰掛けると、肘掛けと片足ずつに独立したプレートに手足を固定される。

 首と腰、太腿にもベルトが回されれば、身動き一つ取れない姿だ。

 天井にちょうど自分の身体を正面に見えるような鏡が埋め込まれているのも、自らの体動を認識させるためか。

 

 最初は視覚からの認識認知能力の検査が視覚聴覚の両方で検査されていく。

 それなりに質問数や形式の違う問題も用意されていて、反応速度と正確な答えにひたすら頭を使う内容なのであった。

 

「かなりのデータを取ることが出来ました。ありがとうございます」

「後半は間違ってるんじゃ無いかと、びくびくものでしたよ」

 

 自嘲気味の言葉を使う喜三郎ではあるが、そこは本心とはいささか違う社交辞令でもあったのだろう。

 

「では最後の性的能力の検査に入らせていただきます。私の姿が視界に入るのもあれでしょうから、ゴーグルはそのままにしておきますので。

 機械の準備もありますので、そのままお待ちください」

 

 搾精機を使う、という豚田の説明への期待感から既にその太さを増し始めている喜三郎の逸物。

 

 もともと犬科をトーテムとする種族において、外性器であるペニスの大きさと体長との比較比率は、他の種族に比べてかなり『大きな』ものとなる。

 喜三郎のそれもまた完全な勃起時には優に30センチを越える見事な屹立を誇り、根元の亀頭球の膨らみもまた、挿入した相手に強烈な快感を与えるものであった。

 70を越えても日に一度は己の手による刺激で吐精せねばシーツを汚してしまうほどの精力の強さと相まって、過去の武勇伝を語る喜三郎の逸物は、ジムでも密かに囁かれるほどの『業物』であったのだ。

 

 搾精機の機能としては上下の摩擦と精液採取のための陰圧を使ったものだと予測していた喜三郎。

 かすかに聞こえる機械音や運び込まれる機材の多さは、どうにも思ってた以上のものであるようだ。

 

「ああ、豚田さん。構いませんのでゴーグルを外してもらえませんかな。その、私も搾精機とやらの動きを見てみたくて」

 

 機械そのものに興味を持っていた喜三郎としては、ある意味では当たり前の期待であった。

 おそらくは視覚的な刺激によって、自らの勃起の昂ぶりもより感じ取れるはず、と思う喜三郎である。

 

 返事が無い。

 

「豚田さん……。そこにおられるんでしょう?」

 

 訝しげに声をかける喜三郎。

 

 両手両脚を拘束され、視覚も塞がれている。

 喜三郎の脳裏に、ほんの少しの暗雲が広がる。

 

「豚田さん? 豚田さん?」

 

「うるさいな。ここからはワシの『趣味』の時間だと、最初から言っとるだろうが!」

 

 先ほどまでとは打って変わった豚田の声がした。

 治療室の空気が一変し、拘束された喜三郎の肩がびくりと震える。

 秘められていた豚田八戒の本性が顕れてきたのだ。