その5 七日後
その薬は、黒き艶をまとっていた。
赤虎が虎族の忍びの里へと黒虎の言葉を届け、何も聞かれずに渡されたのは、小指の先ほどの大きさに丸められた一粒の黒い丸薬である。
あのときの黒虎の言った『再勃丸(さいぼつがん)』と言う薬名そのものが、その『効果・効能』を如実に表しているのであろう。
しかし、忍びの里にて通常の任務に使われることなく伝えられてきたその『薬』の『効能』は、巷に見られる強精薬、強壮薬の類いとは一線を画すものであるはずだ。
本来のこの『薬』の使用先は、忍びの里が契約を成す相手である『一族』『家』『血筋』の領主・主君たちが、『仔』無きままその命の終わりを迎えるとき、それらの男たちへと使われるものであった。
それはなんとしても次世代へと繋ぐ『仔』を成すために、代償の大きすぎるまでの『効力』を持つものなのである。
病で、あるいは戦傷で、明日をも知れぬとなった男たちのその『精』を、一時的に、だが実に『強力に』賦活せしめるための『薬』。
その使用は、服薬したものへ一晩限りのおそろしいまでの悦楽と放埒を保障するものの、その心の臓に、肝の臓にと強い影響を及ぼし、およそ元の病や戦傷でのそれよりも急速に、使用者の命の灯火をかき消していく。
その効能による懐妊と出産の率は高いものではあるのだが、生まれ来るその『仔』は、父の顔を知らずして育つこととなる。
この薬を飲むだけであれば、その日その夜の『ことへの至り』でも構わぬものではあったのかもしれぬが、果たして黒虎のその日時の提案には、また別の『行為』と『努力』を、一人の老獣人が挑むことをも指していた。
「狸丸殿、狐火殿、そして赤虎よ、黄虎よ。
貴殿等の『精』を、これからの七日、わしに恵んではくれまいか。わしの口に、貴殿等の『精汁』を、頂戴したい。
日に幾度でもよい。わしの口を、貴殿等の性欲と精力の、『処理』に、使って欲しいのだ」
なんとも驚くような黒虎の依頼ではあったが、受けた4人の男たちには一掬の動揺も見られない。
直接に話しをしていた赤虎黄虎はもとより、狸丸から伝え聞いているだろう狐火にもまた、黒虎の『覚悟』が伝わっていたからであろう。
「黒虎殿、『処理』などとは仰いますな。あなた様の思いは、熊谷、戌亥領家に仕える私どもも、その根は同じゅうするもの。
私のような年の者のものでもよければ、謹んでお受けいたしますぞ」
答える狸丸は、どうやら黒虎と年も近い、あるいは上ですらあるやもしれぬのだが、まだまだそこに『老い』の片鱗すら見えぬのは、何か狸一族に伝わる秘法のようなものか。
「黒虎殿、あなたの様の思いは、言葉は、狸丸殿よりすでに勇一郎様にも伝わっておりまする。
また、あなた様からの七日後の夜の人払いの件も、勇一郎様からの命が下り申した。
その『命』のみお伝えになり、後は黙して語らぬ勇一郎様もまた、その思いを理解しておられるのでございましょう
我ら狐狸の一族は、回数で言えばあなた様方虎の御方々よりもこなせるはず。
我もまた、協力させていただきとう思いまする」
里の縛りを抜け、完全に個人として熊谷家と契約を結ぶ狐火もまた、同じ忍びの者として昨今の世の流れを理解するものであった。
「我らが普段の『封』を解けば、その回数はそれなりのものとなるでありましょう。
さっそく、ここで始めますかな?」
狸丸の問いかけに、黙したままで頷く黒虎。
まさに『早速』と言うわけか、狸丸が下履きを脱ぎ去り、そのでっぷりとした腹の下の逸物を滾らせていく。
「我ら忍びの者に、前戯など必要ないことは黒虎殿も十分に分かっておられることでございましょう。
咥えていただければ、すぐにでも出しますぞ」
庭の者たち、忍びのもの達は、通常人の知らぬ強精、強壮の技を身に付けていることは当然のことであった。
ふせも猿日和尚から聞いた、男としての『性機能の封印』をせねば、それはほぼ一日中でも己の逸物を奮い勃たせておくことが出来、また幾度もの吐精を叶えるほどのものである。
逆に言えば、それほどの性的能力を持っていたはずの黒虎の『衰え』こそが、長年にわたってのその身体へとかけられてきた重い『負荷』を示していたのである。
里に伝わる丸薬だけでは、もしや武之進の頼みに応えることが出来ぬのでは無いか。
黒虎の抱いたその不安と恐れが『七日』という期日を欲し、その間に男たちの精を浴び、我が身に取り入れることで、使用する『薬』の賦活効果をより高めることに期待したのだ。
「おおっ、虎族の方の御口は初めて味わうものですが、これはまた舌のざらつきがたまらぬものですな……。
おっ、おおっ、またイきますぞっ、黒虎殿っ。イくっ、イくっ!!」
狸丸の長さはそう無いが、口にするにも躊躇うほどの太さが目立つその肉棒が、黒虎の口内を抉る。
引き上げられたふぐりですら虎族のものの大きさを遥かに上回るその中では、大量の精汁が造られているのだろう。
あっと言う間に2度の噴き上げをした肉棒が、名残惜しそうにゆっくりと抜き出された。
年が上の者から、との暗黙の了解なのか、次は赤虎が己の肉棒をさらけ出す。
「黒虎殿っ、済みませぬっ……。ああっ、出ますっ、出るっ、イくっ……」
静かな、だが力強いその吐精は、一度の量だけで見れば4人のうちで一番のものであったろう。
もっとも、黒虎以外の者には、その量や勢いは、なかなか分からぬものではあったのだが。
「ああっ、黒虎殿の口が心地良い……。我らのそれよりも少しばかり冷たい気がしますが、それはそれでたいそう心地良うございますぞ……。
うむっ、イきますぞっ、出るっ、出るっ……」
狐火もまた、2度の吐精を果たしていた。
本来、冷たい、とまでは言えぬものではあろうが、狐族と虎族と、今で言う平均体温の1度ほどの違いは、感覚の鋭敏なる忍びのもの達にとっては、実際の温度差以上に感じるものであったのか。
「黒虎殿っ、イきますっ、イきますっ、またイくっ、出るっ、出るっ!!」
若い黄虎に取っては、目の前で繰り返される男たちの吐精そのものもその興奮を高めていたのか、誰よりも多い3度の吐精を連続で果たすこととなった。
4人で都合8回の吐精を終えた男たち。
男たちによる激しい腰振りと揺らされる頭ではあっても、その多量の精汁をすべて胃の腑へと納め、一雫さえも漏らさぬ黒虎もまた、その技量凄まじきものである。
「後はそれぞれの任務の合間を縫って、ということになりますかな、黒虎殿。屋敷内におれば互いの呼び合いもすぐに出来ることでありましょう。
我と狸丸殿は猪西の領へと向かうことも多ございますが、それはそれで帰ってきたときに溜めていた分を、という形にて。
それではまた、後ほど」
狐火の言葉に、すっと気配を消した男たちである。
一人黒虎のもとへと残っていた狸丸が、老いた虎族へと声をかけた。
「赤虎殿、ふせ様、そして黄虎殿のこと。確かにこの狸丸、預かり申しまする。
私もまた、あなた様と同じく伊達に年を取ってはおらぬつもり。こればかりは狐火にはまだ荷が重きことでございましょうし、同じ道を生きし仲間として、あなた様の最後と、若きもの達のこの先を、もう少しだけ見させていただきましょうぞ」
「狸丸殿、かたじけない……。
あやつらはまだ若い。道も分からぬとき、迷うときもございましょう。
その際にはほんの少しで構いませぬ。
彼らによき道を、よき未来を、指し示していただきたい」
「我ら庭の者が『よき未来』などという言葉を人に託す、そのことそのものが、もはや時代が変わったことの表れでございましょうな……。
では、また」
かき消えたように見える狸丸の、それでもまだその後が追えているのが黒虎ならではの技量ではあった。
しばらくそのかすかな軌跡を追っていた黒虎の視線が、ふと空へと移る。
「七日にて、少しはこの身体も、言うことを聞いてくれるようになればよいのだがな……」
こうして、確実な回数で言えば日に20度以上もの男たちによる雄汁の噴き上げが、黒虎の口中のものへとなる日が続いた。
任務や警護の合間で、また屋敷へと帰還した男たちの中で密かに交わされる隠語でのやり取りは、その主たちには一切気付かれることなく、『事の次第』を詰めていく。
注意して見ていけば、確かにその数日で、黒虎の体毛が、その肌が、わずかに艶を増していることに気付くであろう。
細まっていた手首が、足首が、わずかなりともその肉量を増加させていることに気付くであろう。
それは毎日目にし、相対するがゆえに『気付かれにくい』ことではあったのだが、物事の変化に敏感な庭の者たちに取っては、驚くほどの『変化』でもあったのである。
………………………。
………………。
…………。
黒虎と武之進の会話より七日後、人払いのされた屋敷の奥まった部屋に、虎獣人と犬族、二人の姿があった。
七日前と比べれば、一回り以上にもその体躯が膨らんだようにすら見える黒虎である。
どこか悲しみと憂いを秘めていたその瞳も、今日は武之進の若き視線を正面から受け止め、若者に劣らぬ『強さ』をすら感じさせる。
明らかに太さを増した手足はもとより、なによりその股間がすでに逞しく隆起し、衣の下履きを大きく突き上げているのだ。
「待ったぞ、黒爺」
「お待たせしましたな、武之進様」
座敷に座る七日前とまったく同じ状況にて、黒虎の『変化変容』に気付いた武之進ではあったが、あえてそのことには触れぬようにしている。
その『変化』そのものが、『七日』という縛りを設けた黒虎の意によるものだと理解しているからである。
あの『錦絵』を、春画を広げる武之進。
「この絵の前で、また黒爺と交わることが出来るとは、感無量だぞ」
「この七日、どうして私が武之進様を待たせたのか、お聞きにならぬのですか?」
「聞かぬ。お前の覚悟はすでにもうこの私は知っている。
この七日、黒爺が何を『してきた』のかは、聞かぬ。尋ねぬ。
今ここで、この部屋で、これから二人が『成すこと』だけが、今の私が思うことなのだ」
おそらくは、この夜を最後に黒虎が、黒爺が、己の前から姿を消すであろうこと。今宵、今から行う交わりのために、黒虎が大きな代償を払うことになるだろうこと。
そのすべてを理解している武之進であった。
それを知りつつ『こと』に及ぶことは、果たして黒虎の『命』に関わるであろうこと、それすらも理解している武之進であった。
それでも、いや、それこそに『我が命(めい)に、その命(いのち)を差し出せ』と言える『領主』となるべき者、それこそが、戌亥武之進その人であった。
それは逆の立場ではあれども、黒虎に対し『その手で我が仔の命を絶て』と命じた父源三郎の血を、武之進が色濃く引いている証でもあったのだ。
何か合図があったわけでは無かった。
立ち上がった二人が、その衣を脱ぎ去り、褌をもはらりと落とせば、裸体の獣人が向き合うこととなる。
「勇ましいな、黒爺」
「武之進様のものも、いきり勃っておりますな」
互いの視線が、相手の顔と股間を行き来する。
とろりとした露をその先端に浮かべたのは、もしや黒虎の方が早かったのでは無いか。
七日前の男とは比べものにならぬほどの『滾り』が『昂ぶり』が、黒虎の腰奧から沸き上がってきている。
武之進との逢瀬の一刻(約2時間)ほど前に、万が一に備え赤虎に見守られながら服薬した『再勃丸』の効果が既に表れていた。
「この鰓の張り、竿の硬さ、これでまた我が尻が抉られるかと思うと、たまらぬぞ、黒爺……」
「武之進様の密壷、勇一郎様、勇剛様の剛直を受け続け、その深さも柔らかさもまた蕩けるほどのものへと練れてきておりましょう。
今宵は武之進様が満足されるまで、幾度でも、幾十度でも、我が逸物をお使いなされませ」
「お前の言うとおり、ここ数年で熊谷殿にさらに我の尻も鍛えられておる。
我が尻肉を黒爺に穿ってもらえて、お二人もまた喜んでいただけることであろう」
互いの生えきった逸物に手を伸ばす二人。
熱き、固き、脈打つその力強さは、獣人の握力をものともせずに撥ねのける。
浮かんだ露がとろとろと流れ出し、それを受けた手のひらが膨らみきった亀頭を撫ぜ回す。
強烈な刺激に引けそうになる腰を意思の力で押し戻し、さらなる刺激を得ようと互いの下腹部に刺されとばかりに突き出していく。
「しゃぶってもらえますかな、武之進様」
「もちろんだ。といっても、こればかりはすべてを飲み込むことはいまだ出来ぬ私ではあるが……」
数年前までの黒虎と熊谷親子、武之進による四人の交わりにおいても、勇一郎と勇剛はその豊かな体躯ゆえに、黒虎の逸物をすべてを口中に納めることが出来ていた。
こればかりは元となる体格の違いの首から胸板にかけての肉体構造によるものではあろうが、好いた男のそれをすべて己が口中に納めたいと願う武之進の気持ちは、誰にも否定できぬものであったろう。
黒虎や勇一郎、勇剛らによる肉竿すべてを飲み込む奥深き咥え込みに、蕩けるほどの愉悦を味わっている武之進だからこそ、それへの思いも強いものであったのだ。
「なんの、男に取り、やはり先端を舐られることが一番心地良う感じるもの。それはまた、武之進様もご存じでございましょう」
粘膜と粘膜が直接触れ合い、しかも互いの粘膜に感覚細胞を有するそれは、尻穴を使った交情では有り得ぬほどの快感を生むことがある。
互いに『感じている』ことが理解が出来るがゆえの、二人の肉体を循環する愉悦が幾倍にも増殖していくのだ。
口中粘膜よりもいささかその『感覚の鈍い』腸壁でのそれとは、幾分かの『差』が生じてしまうのは仕方の無いことではあった。
それでもまた尻肉を穿つ行為そのものが『相手を受け入れている』という別次元の快感を生むものでのあるのではあったが。
しゃがみ込んだ武之進が、その口吻へと長大な黒虎の逸物を咥え込んでいく。
亀頭の膨らみとそれより下の四寸ほどまでが、武之進にとっては精一杯の咥え込みであった。
必死にその舌を蠢かし、だらだらと零れる唾液をまぶしつけていく。
尖らせた舌先で裏筋から鈴口へとなぞりあげ、口蓋にべったりと押し付けた亀頭にその膨らみを潰すかのように圧をかける。
どうしても入りきれぬ太竿は、己の尻穴を解す潤滑油を垂らした手のひらで握り締め、いまだゆっくりとした速度でその硬度を増す動きを繰り返す。
「ああ、心地良うございますぞ、武之進様……。このままやられれば、武之進様の口中へと噴き上げてしまいます」
「それもよいな。上澄みはまず、上の口で味合わせてもらうことにするか」
返事のためにいったん離れた口吻が、再び黒虎の肉棒を咥え込んでいく。
頭上からの答えを待たずしての、武之進の行いであった。
黒虎もまた、主君の思いをまずは叶えようと、その意を固めたようだ。
「ああ、イきますぞ、武之進様……。武之進様の口に、我が精汁を、我が汁を、放ちますぞっ!!」
口を離さず、そのしゃぶり上げと肉棒を扱き上げる手の激しさで応える武之進。
今宵最初の汁が、黒虎の先端から放たれようとしていた。
「ううっ、出ますっ、武之進様っ、武之進様の口にっ、出ますっ、出るっ、出るっ!
ううっ、イくっ、イくっ!!」
さすがに熊族たる勇一郎や勇剛の一合ほどにもなるそれには及ばぬが、若き虎族の勢いにも劣らぬ黒虎の噴き上げである。
ごくごくと飲み干す武之進の喉も幾度もの嚥下を繰り返さねば、その放出に付いていけないほどの量と勢いであったのだ。
それは武之進は知らぬことではあったのだが、黒虎にとってもおよそ数年ぶりの『豊かな』吐精であった。
弱りゆく体力気力と、精力と。
先の三虎での話のときの吐精であるように、若いときの『勢い』も『量』も『濃さ』も、そのすべてが失われる過程にあった老虎獣人。
たとえその命を削る薬であっても、それゆえのただ一時の快楽であっても、これならば悪くない、そう思えてしまえるほどの悦楽を、黒虎もまた感じていたのである。
「口を吸わせてもらいますぞ」
引き上げた武之進の顔に、己の口吻を近付ける黒虎。
すべてを飲み込まぬうちにと差し込まれた舌が、犬族の唾液と虎族の汁をドロドロと混ぜ合わせている。その粘性の高い液体を、互いの口中に幾度も往復させていけば、濃厚な性臭と獣臭の混ぜ合わされた媚薬とも成り得るのか。
あれほどの噴き上げを見せた黒虎の逸物は、刹那の緩みも無く、その硬度と熱量を保ったままに、ビクビクとした脈動を武之進のそれへと伝えているのだ。
「口接をしているだけで、私の尻が疼いてきているぞ。
もはやこの滾りは、お前の逸物で我の尻肉を掻き回してくれぬことには、納まらぬわ」
「仰せのままに、武之進様」
幾分かの笑いを含みながら、敷かれていた布団にようやく横たわる二人であった。
幾度も口接を繰り返し、その指で、舌先で、ときにはそっと当てた歯牙をも使い、互いの乳首を刺激し合う。
その手は相手の逸物を、でっぷりと汁を溜め込んだふぐりを、扱き、揉み上げ、握りつぶすかのような圧さえ咥えていく。
下腹部から突き上げる快楽と痛みが混じり合い、まさに『獣のような』咆哮を、二人の喉が上げ始める。
それはおよそ人払いすら役に立たず、屋敷内にいるものすべてに『聞こえて』しまっていたのではあるまいか。
じっと『その時』が終えるのを待っていようと決めていたはずの勇一郎が、己の下半身に手を伸ばしてしまったのは仕方の無いことだ。
勇剛もまた、息子ともども幾度かの埒を上げねば済むまいと、己の部屋を後にする。
熊谷親子が『ふせ』を羽根延ばしにと勇一郎の妻の実家へと遣わせていたのは、まさに今宵を迎える武之進と黒虎への『気遣い』以外の何物でも無いことであった。
狸丸と狐火もまた、遠くからの『気配』をその職能ゆえに敏感に感じとり、封を解いた己の逸物を扱き上げている。
黄虎の2度目の吐精の気配を感じながら赤虎だけが、二人の警護に穴を空けまいと、その性機能に封をしたまま、離れた庭の隅に潜んでいた。
手を、指を、爪先を。
口吻を、舌先を、歯牙を。
四肢のあらゆる機能を使い、互いの肉体を喜ばせることに一定の時間を使った二人が、いよいよその目的である情交へとその意識を向ける。
「最初は、後ろからやってくれるか?」
「仰せのままに」
2度目の黒虎の答えであった。
うつ伏せの姿勢から膝を立て、頭を抱え込んだ武之進が、その尻を高く掲げる。
反り上がる黒虎の逸物と自らの内腔の向きがいささか異なり、それゆえに対面する形のそれよりは違和感や痛みを自分が感じてしまうことは、さらなる巨大さを誇る熊谷親子との交わりで十分に理解している武之進である。
それでも数年ぶりの尻肉を使った情交の口火をこの姿勢で切ることは、攻め入る黒虎にとり『よりその動きに自由度が増す』ことを知っての上のことであった。
久しぶりに己の穴を穿つ黒虎に、最大限の愉悦と締まりを味わってほしいとの、武之進の心意気でもあったのだ。
「おう、もうよいぞ。十分に解れておるはず。早う、早う挿れてくれ、黒爺」
犬族の引き締まった尻肉が黒虎の眼前にてさも物欲しそうに、揺すり上げられる。
武之進のすぼまりが己の指を3本までやすやすと呑み込み、かつ、その『穴』の締め付けのキツさに、さらなる欲望をかき立てられる黒虎。
その『中』はより柔らかく、その『入口』の締め付けは本人の意思すら感じさせるほどにより強く。
幾年もの間、あの巨大なる熊族の棍棒を受け入れてきた尻とは思えぬその機能の高さに、内心で舌を巻く黒虎であった。
「早う、早うしてくれ、黒爺……。私の尻が、穴が、熱を持って疼いておるのだ」
ちらりと振り返った武之進が、己の尻に迫る剛直をその目に映す。
「最初だけは、雁が抜けるまでのほんの最初だけは、ゆっくり頼むぞ、黒爺……」
「心得ておりますぞ、武之進様……。
では、この黒虎。武之進様の尻に、推して参る!」
ずいと、黒虎の腰が前へと進んだ。
窄まりに分け入る先端が括約筋の強い締め付けを撥ねのけ、着実にその歩みを進めていく。
じわりじわりと相手の腔内へと潜り込む先端には、すでにその圧による快感が生じている。
雁が抜けるまで、との武之進の言は、厳密に言えば『雁首と肉棒の段差を越すまで』ということになるのだろう。
熊族である勇一郎とその父勇剛の、腕ほどの太さにもなる肉棒を受け入れている武之進の肉腔に取り、黒虎の逸物の亀頭と肉茎の太さへの不安があるわけでは無い。
あくまでも雁首の最大部、鰓の部位と肉茎が形成する段差が問題なのである。
初手においての体格差のある異族との情交において、まだ異物の侵入に慣れぬごく初期の段階でその圧が一気に減ることによる不随意の筋緊張に、己の身体ながらも一抹の不安を感じていたのである。
そのことを己の気が満ちていた時代の彼らとの情交でも十二分に理解している黒虎も、最初の抉りだけは慎重にその腰を進めていくのだ。
「あっ、は、挿入った……」
ぬるぬると入口をまさぐっていた先端に、ある瞬間、わずかな力がこもる。
たっぷりと使われている潤滑油のぬめりに、ずるりと入り込んだ亀頭がゆっくりと窄まりの径を広げていく。
けして力任せ、勢い任せでは無いそのゆるゆるとした動きは武之進の肉壁の伸縮を誘い、蠕動にも似た奧へとの誘導の動きすら生み出していく。
「雁が、挿入りますぞ」
黒虎の言葉と同時に、武之進の背中の肉がびくりと伸びる。
その刹那に動きを止める黒虎。
このまさに『刹那』の、『数瞬』の停止こそが『慣れ』を呼び、互いの快楽をより高めることを『知って』いる黒虎であった。
「もう、よいぞ、黒爺。あとはもう、存分に動き、抉り、我が尻を蹂躙してくれ」
武之進の報告を聞いた黒虎が、まずは最奥までの突き上げを進めていく。
「おおっ、届く……。黒爺の逸物が、我の、我の『奧』へと届いておるぞ……」
熊族の二人との、幾度もの夜を重ねている武之進である。
およそ一尺三寸(40㎝)ほどの長さを呈する勇剛や勇一郎の逸物に対し、黒虎の生えきったそれは一尺一寸(33㎝)ほどであるだろうか。
そのいと長き肉茎の径も、熊族のそれが三寸(9㎝)ほどの太さにて、黒虎のそれは二寸五部(7.5㎝)ほどの『太さ』を誇る。
好き合うたものの逸物をその体腔へと受け入れるとき、その長さ太さの『差』など、受け入れる側のものにとっては、わずかな『違い』でしか無いものである。
それは女と男、たとえその受け入れ器官の違いこそあっても、共に相手先の肉棒を締め付け、揉み上げ、その長さ太さに応じて纏わり付く肉壁が行うことには、誰の否も聞こえるわけでは無い。
武之進に取り、勇剛の、勇一郎の、長く太すぎるまでの逸物も、それよりもわずかに劣るであろう黒虎の逸物も、いずれも『己が好む相手のもの』であることが遥かに重みを持つことであったのだ。
それは族の違いが厳然として存在するこの世において、様々な体躯体格、四肢身体、逸物や双玉の明確なる『差』が、決して『恥』とはならぬ文化そのものが、その根底に流れているゆえのものか。
武之進とて、同族の中における『より強き逞しき』肉体への憧れは、強いものであった。
しかしかの青年が受けた教育は、この世に広がる文化の底流は、たとえその願いが叶わぬ者、いと小さきままの者に対しても、けして『恥』を思うこと無きようにと、進められてきていたのである。
「おおっ、武之進様の尻穴が、わしの逸物のすべてに纏い付き、蠢き、肉壁が奧へ奧へと誘っておりますぞ。
その根元も、竿も、先端も、そのすべてがすべからく締め付けられ、揉み上げられておりますぞ」
「よいか、黒爺っ、我の尻がっ、心地良いのかっ?」
「たまりませぬ、ああ、たまりませぬ。もはや堪えきれませぬ、激しく、激しくいきますぞ、武之進様っ……」
ぐつぐつと煮えたぎる肉壷と化した武之進の腔内が黒虎の猛々しくも生え盛る逸物を締め上げれば、分け入る太槍もまた流入する血量をとくとくと増し、さらに太く逞しくと変容していく。
黒虎の一切の遠慮の無い抽挿が始まった。
「あがあっ、ぐあっ、あっ、あっ、があああっ!」
「ふんぬっ、ぐっ、うおっ、おおおおっ!!」
「あっ、あっ、ああっ、あがああああああーーーーーっ!」
「なんぞっ、武之進様っ、まだまだっ、まだまだっ!!」
一時も止まらぬ出し入れ。
前後左右、上下天地に揺さぶられる武之進の肉体。
一尺(約30㎝)を優に越す黒虎のそれが、目にも止まらぬ速さで犬獣人の尻肉を穿つ。
飛び散る汗と獣臭、性臭は、およそ屋敷内にいるすべての者へとその激しさを伝えていく。
「当たるっ、当たるぞっ、黒爺っ! 黒爺のものがっ、私の奧にっ、奧に当たるぞっ!!」
「当てているのですぞっ、武之進様っ!! わしの肉棒でっ、逸物の出し入れだけでっ、埒を上げなされっ!!」
初めて見る、初めて聞く、黒虎の嗜虐的なる言葉遣いであった。
それはもし、二人の間に身分という違いが無ければ、もし二人の間に『時の限り』というものさえ無ければ、新たに、より深く開花したやも知れぬ関係性の萌芽。
だがそれは、皮肉にも、今宵一夜の逢瀬ゆえに、豊かに花開くことは無く散る定めか。
「漏れそうじゃっ、黒爺に挿れられているだけでっ、漏れそうじゃっ!!」
「イきなされっ、武之進様っ! わしの逸物でっ、イきなされっ!!」
黒虎の逸物が、武之進の奥とふぐりの裏側を、荒々しくも着実に責め立てていく。
人体の、我が組み敷く犬獣人の肉体構造をも熟知した老虎獣人の技と、全盛期の精力をも凌ぐ丸薬の力が見事に合わさり、若き武之進は追い詰められていく。
どすどすと犬獣人の尻肉を叩く黒虎の下腹部が、より強く、より早く、その動きの激しさを増していった。
「あがっ、あっ、あっ、駄目じゃっ、先にっ、黒爺より先にイってしまうっ、ああああっ、黒爺っ、黒爺っ……」
「イきなされ、武之進様! 何度でも、何度でもイかせましょうぞ。わしの逸物で、武之進様の尻肉で、何度でもイって良いのですぞっ!」
いまだ余裕のある黒虎よりも早く、武之進は今宵初めての吐精となるようだ。
「ああああっ、出るっ、出るっ! 黒爺に尻を抉られてるだけでっ、我はイくぞっ、出るっ、漏れるっ、イくっ、イくっーーーー!!!」
見事な、実に見事な吐精であった。
その逸物には、犯す側の黒虎も、また己そのものも一切触れぬままの、激しい噴き上げ。
これまでも、熊谷家親子との数えきれぬほどの情交を重ねてきた武之進である。
その過程で習得した『掘られる刺激のみでの甘やかな吐精』では、えてして『漏らすような』それが多い武之進であった。
だが、今宵のそれは、敷布に叩きつけられる液体の音すら聞こえそうなほどの、激しくも多量の汁の噴き上げであったのだ。
黒虎の激しい突き上げにその膝を落とすこと無く、尻を掲げたままの武之進である。
我が腹に、布団にへと放たれた精汁は、濃く、熱く、そしてまたその量も同年齢の同種と比べても、倍ほどのものとなろう。
それまで堪えていた膝を下ろし、布団の上で四肢を伸ばした武之進からは、まだ黒虎のそれは抜かれてはいない。
己が埒は上げぬまま、武之進を吐精へと導いた『技』こそが、庭の者としての本来の黒虎の実力なのであろう。
ぐったりと四肢を投げ出し荒い息を吐く武之進の肩に、黒虎が手をかける。
「休ませる暇はございませぬぞ、武之進様」
「あ、な、なにを、黒爺…………!」
「このまま、わしのを挿れられたまま、こちらをお向きくだされ」
巧みに武之進を操り、己が肉体の下の犬若者を仰向けにする黒虎。
当然、虎族の巨大な逸物を内包したままの肉壁は、捻られ、引き延ばされ、あらゆる箇所を抉られる。
「うおおおっ、あ、当たり処がっ、か、変わるっ……」
「休む暇は与えませぬぞ、武之進様。絶え間ない愉悦を、わしの逸物にて味わいなされ」
「ああ、駄目じゃ、黒爺っ! イって、イってすぐはっ……!」
「お若き武之進様のこと。すぐに回復もいたしましょう」
武之進の顔を、その瞳を見たままに、にこりと笑う黒虎。
その大らかな笑みは、行われている行為が肉体と性のやり取りとは遠く離れる印象すら与えている。
「はうっ、あふっ、あっ、あっ、ああああっ、ま、またっ、そっ、そんなっ……」
武之進の次への心と身体の準備が整うのを待たずして、黒虎の抽挿が再開された。
それでも武之進の逸物には再びの芯が入り始め、その瞳には欲情の色彩が増していく。
「あっ、黒爺っ、黒爺っ……」
「武之進様っ、千代丸様っ……」
それはかつて、武之進が幼名として、祖父とも思える黒虎が呼んだ名であったか。
「また感じてしまうっ、黒爺に挿れられてっ、感じてしまうっ……!」
「存分に、存分に、感じられませい、武之進様っ。そのためであれば、この黒虎っ……」
一瞬、次の言葉を飲み込んだ虎獣人であった。
その腰の動きは止めぬまま、その一瞬の沈黙の代償か、切り立った犬獣人の耳元へと、己の口を寄せる。
「あ、あ、な、なにを、黒爺……?」
「知っておいて、くださいませ、武之進様……。私の、黒虎とは違う、真の名を……」
黒虎、赤虎、黄虎。
狸丸、狐火。
それらはすべて庭の者としての育てられたもの達に取っては『符牒』であった。
あくまでも里から与えられた『仮名』であり、『記号』としての名であった。
今ここに、武之進の耳元で呟く黒虎の、生涯ただ一人の者へと伝えしは『真名』。
黒虎がただ一つ己のものとして抱えていた、『真の名』であった。
「一度だけ、一度だけで良いのです。わしが耳元で、武之進様が言うわしの名を、聞きたいのでございます」
「わ、分かった……。次の、互いに生まれ変わった次の世では、この名を、お前の名を、大声で呼ばわることの出来る世に!」
心と身体、その双方が快楽に翻弄されている武之進であった。
だがその聡明な頭の働きが止まることは無く、己の耳に囁かれた言葉が、けして今の世に聞こえては成らぬこと、『外』に聞こえては成らぬことをも理解していたのである。
武之進を正面から抱きしめ、その尻奥深くに埋め込まれた黒虎の逸物は動きを止めることは無い。
互いの昂ぶりが、興奮が交わろうと言うとき、武之進が黒虎の耳元へとその口吻を寄せる。
「ともに、ともにイこうぞ、XXXX……」
「ああっ、武之進様っ、わしもっ、XXXXも、ともにっ、ともにイきましょうぞっ……!!!」
囁き合う2人。
それはけっして、聞こえてはならぬ『声』。
互いに一度の呼び合いのみが、その耳に、その心へと届いた叫び。
「あっ、あっ、もうっ、イくぞっ! 黒爺っ、我はっ、我はっ、またイくっ、イくっ、イくっ!!!」
「それがしもっ、もう堪えきれませぬっ! 武之進様っ、武之進様の中で、イきますぞっ、イくっ、中にっ、武之進様の中に、ゆくっ!!!!」
抱き合ったままの、吐精であった。
二人とのに、同時にの吐精であった。
その熱い息を交わしながら、犬族と虎族の口吻が寄せ合わされ、舌と歯牙が絡み合う。
唾液が交わされ、口の端から零れるそれは武之進の頬を濡らす。
それをまた黒虎が舐めとり、互いの混ぜ合わされたそれを飲み合いてゆく。
「もっと、もっと、よいか? 黒爺……」
「これしきで終わる我らではございませぬな、武之進様……。幾度でも、幾十度でも、望まれるままに……」
再び動き始める黒虎の腰が、武之進を叩き始める。
じゅぶじゅぶと肉茎の周りから溢れ出す白濁した汁が泡さえ立てていく。
濃厚なその汁の匂いは、交わる二人のみならず、屋敷中の雄たちの臭覚を刺激していくのだ。
「あっ、ああっ、そのように突かれるとっ、またっ、またっ……」
「ここが良いのでありましょう、武之進様っ……」
「よいっ、よいのだっ、黒爺のが、我の『良いところに』当たるのじゃっ……」
「おおっ、わしもたまりませぬっ! 今宵は、堪えませぬぞ。わしも、武之進様の、幾度も、幾度でもっ!」
己の性の『封』を解いた黒虎であった。
もともと虎族の持つ精力性力と、忍びの者としての鍛錬と身に付けた技の数々。さらにそこに雄たちの大量の精汁と丸薬の効果が加わり、もはや一時の休息すら必要とせぬほどの『精気』をまとった黒虎であった。
たとえ、たとえこの一夜であろうとも、たとい今宵一夜の逢瀬であろうとも、互いのすべてを出し切るための、肉欲と心の交わりが、今ここで行われていた。
「ああっ、またイくっ……。黒爺っ、黒爺っ! 我のっ、我の名を呼んでくれっ……!」
「武之進様っ、武之進様っ、千代丸様っ、武之進様っ!!」
「イくぞっ、黒爺っ! 互いの名を呼びながらっ、イくぞっ!!」
「武之進様っ、イき申すっ! わしもっ、この黒虎もっ、またイき申すっ!!」
「ああっ、黒爺っ、黒虎よっ! 我もっ、我もまたイくっ、イくぞっ、イくっ!!!」
………………………。
………………。
…………。
その夜の二人の交わりは、互いの肉体の上でどれほどの吐精をもたらしたのであろうか。
ぐったりと横たわる武之進を前に、身を整え端座する黒虎である。
そこに現れたのは、自らの肉棒の昂ぶりを数度の慰みでおさめた熊谷勇一郎であった。
「狸丸から聞いた」
「武之進様は少しばかり気を失っておられます。この後のことは、勇一郎様にお願いしてよろしゅうございますかな」
「相わかった。日が昇りての出陣まで、休ませ、身を整えさせよう。そして黒虎殿よ、お主は……」
勇一郎の言葉には、返事を返さぬ黒虎であった。
あえてそれ以上の問いを発せぬ勇一郎もまた、黒虎の本意を理解していてのものであった。
「勇一郎様、武之進様のこれからを、私に代わって見据えてやってほしい。
この若き当主が間違った道に進みそうなときには、正してやってほしいであります……」
「黒虎殿、第一の後見たるあなたとの約束、この熊谷家当主、熊谷勇一郎、心して守り征くものなり!」
勇一郎の言葉を聞いた黒虎が、声なきままに頭を下げた。
うっすらとした微笑みが、その唇の端に浮かんだ様は、はたして勇一郎の目に届いたのか。
次の瞬間、かき消すようにその場を去った黒虎である。
翌朝、それまでの存在の一切の痕跡を残さず、この屋敷から一人の虎獣人の姿は消えていた。
それより一ヶ月を待たずして、いよいよ武之進による領地奪還、戌亥家復興のための最後の進軍がなされることとなったのだ。