戌亥武之進、日の出に立つ

その2

 

その2 三虎

 

 武之進を前にした兵達。

 その熱狂が屋敷を覆う日、そこから遡ること2ヶ月ほど前のことである。

 

 熊谷屋敷の小部屋に、黒虎、赤虎、黄虎の三人が座していた。

 武之進と熊谷家の軍勢が、猪西の最後の飛び領地を落とした戦いの、数日後のことである。

 

「赤虎、黄虎。今日集まってもらったのは……。

 さて、もうお主らにも、わしの要件は分かっておるじゃろう」

 

 戦の前線に出る役目は、ここ数年は赤虎黄虎へと譲り、己はもっぱら屋敷に残る『ふせ』の警護に当たっている黒虎である。

 

「黒虎殿……、よもや、戌亥家との契約を中途にて破ろうとのご意志でござろうか」

 

 武之進と同い年であるにもかかわらず、その瞳には何処か世を達観して見ているかのような光を宿す黄虎であった。

 幼き頃より、黒虎の引きにより戌亥家へと長く仕え、11年前の惨劇をその瞳に焼き付かせて来ている若者であった。

 

 その若者の問いには直接は答えずに、ちらりと赤虎を見遣る老虎獣人である。

 

「このたび、わし黒虎は、戌亥家庭の者筆頭の役を赤虎に譲りたく考えている。

 受けてくれるな、赤虎よ」

 

 平伏する赤虎。

 

「黒虎殿のお言葉とあれば謹んで……」

 

「赤虎殿っ! よいのですかっ、それでっ!」

 

 憤慨する黄虎。

 

「赤虎殿も、黒虎殿も、知らぬ存ぜぬとはなりませぬ。

 黒虎殿もお気付きでございましょう。ふせ様の赤虎殿への思いの強さを。

 今ここで、この戦を前にして赤虎殿が筆頭という話になれば、それは戦後の真に武之進様が領主へとお戻りになられた後のことにも影響する話。

 さすれば、ふせ様の、赤虎殿の思いは、11年前の戌亥家の女性(にょしょう)の方々と同じく、また、またもや、踏みにじられてしまうのでしょうか」

 

 血涙を流すかと思えるほどの、黄虎の慟哭であった。

 

 かつて猪西の侵攻により家屋敷はもとより、その領地領民を奪われた戌亥家の戦いでは、ふせや武之進の母たち、父源三郎を慕っていた正妻と妾である『つや』と『えん』は屋敷炎上を待たずして喉を突き、自害し果てた。

 それを二人の警護を任された者として眼前で見届けるしか無かったのが、まだ10代前半であった黄虎その人であったのだ。

 

 主君の、庭の者としての上の者の命に逆らうことの出来ぬ、己。

 黄虎の心に、澱(おり)のように溜まった黒泥は怒りとも悲しみともつかぬ思いを、若き虎獣人の中に滾らせることとなっていく。

 

「黄虎よ、赤虎よ。お前たちに伝えておきたいことがある」

 

 黒虎がその目を宙に据える。

 改まったその声の響きに、黄虎もまたその背を真っ直ぐに伸ばした。

 

「お主たちも、この世この10年を超す世の流れを感じておろう。ときはすでに戦を中心として動いていくわけでは無くなってきておる。

 武之進様、勇一郎様の進軍もまた、これ以上の戦を避けようと近隣の諸侯による力添えも大きいことよ」

 

 庭の者、忍びの者がその力を発揮する、必要とされるのは、雇われる家側に『戦(いくさ)への備え』という前提があってこそであった。

 ここ40年ほど続いた戦乱の世は、各家々が、各一族が、代が変わり、近隣諸侯との関係性が安定していく中、すでに太平の世に向けての動きをも醸成してゆく。

 戌亥家の復興に関しての戦いが、猪西家がかつて押さえていた塩の製造と専売流通という一大産業について、多くの飛び領地を作る中、技術者の流出、製法の流出が相次ぎ、財政力の維持が出来なくなってきた時期と呼応していたのは偶然では無い。

 すでに田畑、水、塩、その他の生活の基盤たる産業を各家、各一族が単独で、あるいは協同して整えて行く中、専売を糧に台頭してきた勢力を押さえようと、この地に数多ある豪族、家々、各族によるいわば総合的な支援体制が戌亥家と熊谷家の戦いへと注がれていたのである。

 

 機を見るに敏、風を読むことを得意とする忍びの里の者達が、この世の流れに気付かぬはずも無い。熊谷家と契約を結ぶ庭の者、狐火の出身の里は、すでに数年前に跡形も無く消え去っているらしい。

 黒虎たち、虎種族の忍びも里もまたその育成を縮小し、黄虎より下の世代の者はすでに排出無しの状態となっていた。

 

「このような世、我らもまたいつまでもどこかの家から禄をもらいつつ、ということも続くまい」

 

「して、黒虎殿は、我らのような者が今後どのようになると思っておられるのですか?」

 

 黄虎が語気強く尋ねる。

 

「赤よ、黄ぃよ。明日からの戦は、多少の犠牲は出たとしても、おそらくは戌亥、熊谷の勝利に終わるであろう。

 この戦の後、お主等の身の振り方、行く末は、もう里の縛りを離れてよいものとわしは考えておる」

 

「それは、我らに里を抜けよ、との話でございますか?」

 

「実際の話はそういうことじゃな。

 現実的にお主等の力をもってすれば、今の里に抜けたお主等を追い、始末するまでの技量も力もあるまい。それを見越してのことじゃ。

 無論、その後も戌亥家、熊谷家とともに歩む道もあろう。それも含めて、様々な道を考えてみてはどうかと思うのだ」

 

 かつての黒虎、武之進の父、戌亥源三郎の最期の命を守ろうとした者の言葉としては、ある意味『変節』とすら言えるものであった。

 主君の、契約主の、里の指示、命は絶対のものとして、たとえ己の心情、生き方、心持ちなどとはまったく別のこととしての生きてきた男であった。

 その老虎獣人が思いを変えた何事かを、若き2人が想像することは出来はしまい。

 

「それは赤虎殿が『ふせ』殿の思いに応える、ということもまた、ありだと仰せられるのですか?」

「何処で生きようと、誰と生きようと、どのように生きようと、己の心の思うがままに、ということじゃな」

 

「それは、黒虎殿もまた、主たる熊谷、戌亥との縁を断ち切る、とのことでございましょうか?」

 

 黒虎の真意が伝わったのか、これまで沈黙を貫いてきた赤虎が、初めての言葉を発する。

 

「……わしは、次の戦の前に、武之進様の前から消えようと思うておる」

 

 呟くような、聞き取れぬほどの黒虎の言葉である。

 

「武之進様への黒虎殿の思いは、それまでのものであったのでございましょうか」

 

 暗く、重い、赤虎の言葉であった。

 それはまた、己を見つめる『ふせ』の思いを知り尽くす赤虎が心に描く、黒虎と武之進との相似型とも言える関係性であったのだ。

 

「赤虎よ、お主とふせ様は、まだまだ若い。わしは老いた。その違いが分からぬお主でもなかろうて」

 

 黒虎の言葉に、普段は寡黙な赤虎が続けての反応を示す。

 

「好き合った者こそ最期の刻をともに、との思いは、黒虎殿にはござらぬのか!」

 

 感情を表に出すことの無い赤虎にとって、おそらくは初めての怒りを込めた言葉であった。

 それは己に、若き黄虎に『自由に生きよ』と言いながら、己をまったく無き者として扱おうという黒虎に対しての、怒りであった。

 

「お主等にも、分かっておいてもらわぬとならぬようじゃな」

 

 ゆるり、と、立ち上がる黒虎。

 深き緑青色の装束がするするとその身から落ちる。

 老いた虎獣人の裸身が晒される。

 

「もはやわしの身体は、わしの思うままにすら動かなくなってきておる。この年まで、よお保ったものじゃと言えるのだろう」

 

 黄虎、赤虎の膂力溢れた肉体に比べれば、その違いは明らかであった。

 かつて、帯刀する武士たちとも互角以上に渡り合えた力と技も、今はもう黄虎の方がはるかに上回っているだろう。

 かろうじてその色を漆黒に保つ体毛もかつての艶は失われ、筋肉と脂肪が豊かに配分されていた四肢も、その身の内の骨と皮膚の形状を露わにしている。

 

「赤虎よ、黄虎よ。そなたらの技にて、わしが逸物を生え反らせてみよ!」

 

 一喝であった。

 だらりと垂れた巨大な黒虎の逸物は、その太さこそ武之進との遁走のときとはそう変わらぬものの、その色艶を見れば、表面を潤すはずの血流が減じていることは明らかだ。

 庭の者、忍びの者にとり、相手の性別を問わず、その性技をもって『堕とす』閨房術は、必須のものである。

 筆頭である黒虎の言葉に逆らえるはずもなく、赤虎と黄虎が老獣人の裸体へとにじり寄っていく。

 

 彼らの使う閨房術は、2対1のそれも存分に考慮されているのだろう。

 黄虎が迷い無く黒虎の逸物を口にし、赤虎が乳首に舌を伸ばす。

 四つの手が黒き獣毛をまさぐり、舌と喉が粘膜を責め立てる。

 黄虎が己の唾液をまぶした指先を黒虎の後口へと沈めていく。己たちもまた、昂ぶる肉棒を受け入れ、それを喜びとすることを覚えさせられているのであった。

 当然、黒虎のそこもまた、武之進の、熊谷勇剛、勇一郎のそれを受け入れてきているのだ。

 

 忍びの者、庭の者として磨かれた技を駆使する2人。

 黄虎の口内で、わずかに硬度を増した黒虎のそれを、よりいっそうの熱意でしゃぶる若き虎獣人。

 

 双玉の付け根、肉竿の根元を強く握るのは、いったん肉茎へと流れ込んだ血液の環流を阻止するためか。

 口吻の手前と奥、口蓋をも使い、根元から先端へ、ぼってりとした竿から亀頭へと幾度も舌の往復を繰り返す黄虎。

 乳首をねぶる赤虎の舌は妖しく蠢き、唾液を乗せた指先がもう片方の乳首の先端をちりちりと刺激する。

 黒虎の後口へと差し入れられた黄虎の指先が、ふぐりの裏側を撫で上げ、肉腔の中をじゅぐじゅぐと刺激していく。

 

 2人の庭の者の技。

 通常の者であればたちまちにして埒を上げ、腰奥深くから白き精汁を拭き上げるはずの強い刺激がひたすらに与えられていく。

 それでも黄虎がその根元を押さえた指を離せば、すぐさまに元の柔らかさに戻ってしまう黒虎の逸物が、ようやく吐精の準備を終えたようだ。

 

「黄虎、口を離し、わしが吐精を見てみよ」

 

 根元を締める片手を離すことなく、尻穴を弄っていたもう片方の手で太さを強く扱き上げる黄虎。

 赤虎はその歯でより強い刺激を黒虎の乳首へと伝えていく。

 

「ゆくぞ!」

 

 一言であった。

 ごく短く、黒虎の腰が震える。

 その先端から黄虎の手と漏れ出した汁は、わずかに2雫ばかりであったか。

 かつて武之進の尻穴を溢れ出るほどの精汁で埋め尽くした量と濃厚さを呈した黒虎の汁は、透明度の高い、ゆるく垂れる先走りと見紛うほどの薄さである。

 

「これが、今のわしじゃ。武之進様の求めにもここ数年応じておらぬことは、お主等も分かっておろう。

 武之進様のお望みになられておる肉壺を我が逸物にて穿つこと、精汁で満たすことなど、もうわしには叶わぬことなのだ」

「…………」

 

 忍びの者、庭の者においては、主たる武之進の閨房の中、寝室の中の出来事ですら、常に監視・警護の下のことなのである。

 当然、武之進が所望し、黒虎がその床へと赴くこと、また熊谷家のもの達との激しい交わりもまた、黄虎も赤虎も、その光景が眼に焼き付くほどに『視て』きているのであった。

 分かっていた、知っていたことではあれ、黙する2人の虎獣人である。

 

「好き合った者と、お主は言うたな、赤虎よ。

 そのお主こそが、好き合う者同士が交わり合えぬつらさを、一番に知っているのでは無いのか?」

「…………」

 

 老いた黒虎の言葉に、黙するだけの赤虎である。

 

「我ら庭の者は、何処ぞの者へと思いを寄せる、好き合う、仔を成すことなどを、遠い世の事柄だと、自分達には合わぬ事柄、契約と任務においては仇なすものだと、戒められ、避けてきた。

 だが今のわしは、それはもしや『生なること』からの『逃げ口上』であったのでは無いか、と思うておる。

 赤よ、黄ぃよ。

 お主等も戌亥の御方様方に、あるいは熊谷の御方様方に仕える中、里で学んだはずの、この身に染み込まされたその思いが、どこか揺らぐことがあったのでは無いか?」

「……………………」

「……………………」

 

 かつての黒虎、虎族の忍びの里にてもその技量を突出されている一人として名高い黒虎からの言葉とは、思えぬものであった。

 それでも若き2人からの反訴の声が上がらぬことが、黒虎の指摘がまさに『図星』であることの証左なのではなかったか。

 

「武之進様、ふせ様も引き継いでおられる、戌亥家皆様の裏表無き、誠実さ、実直さ。

 熊谷の御方々の、あの巨体巨躯を誇る皆様方の、領民に対する、武之進様方に対する、その受け止めと心情の細やかさ。

 それは我ら庭の者が学んできた、様々な技量・策術・撹乱術とは、まったく逆の位置にあるものだ。

 それが理解できぬお主等でもあるまいて。

 それゆえに、仮の契約である武之進様との繋がりを、お主等も断ちきれぬものであったのじゃろう?」

 

 いまだ本来の意味である自らの『領地』を持ち得ぬ戌亥家であった。

 現在の黒虎、赤虎、黄虎との契約は、熊谷家が用立てをしている『仮契約』にほかならない。

 それは熊谷家においては戌亥家との『契り』による協力と支持であることと同時に、『領地領民』を取り戻した後の戌亥家に対する『先行投資』の意味を持つものでもある。

 忍びの里での学びから演繹すれば、その事実はこの場にいる三虎に取っては、本来『熊谷家への技量提供』のみにて足りることであったのだ。

 

「…………しかし、黒虎殿。

 黒虎殿が仰る言葉は、その仮の契約すら破ることを指し示しているのでは無いのですか?」

 

 黄虎の、3人の中で、一番年若き庭の者の言葉であった。

 先ほどまでの激昂による言葉とは、いささか趣が変わってきている。

 

「そうじゃな……。ありていに言えば、まさにそうやも知れぬ……」

「それを我らの筆頭であられる黒虎殿が仰ることの意味と重みは、もちろん理解しておいでのことでありましょうな」

 

 黒虎の言葉を受け止めた上の、黄虎の気遣いを込めた言葉であった。

 若き庭の者にもまた、黒虎の老いと、そこから来たる覚悟の双方が伝わったものか。

 

「ああ、そうじゃ。仮にも筆頭たるわしが、筆頭たるうちに言わねばならぬことと、お主等を今宵、ここへと呼びつけたのじゃ……」

「……………………」

「……………………」

 

 黙する赤虎と黄虎。

 

「して、赤虎よ。最後に一つ、お主に頼みたいことがある」

「なんでございましょうか」

「虎の里へと走り、この黒虎が『再勃丸(さいぼつがん)を所望している』、と伝えてくれぬか」

「仰せはたまわりますが、それは如何なる薬にて」

「なに、詳しい効能は里の者に聞け。おそらくわしの年の者が所望しておれば、長老達も黙って渡してくれるであろう」

「…………黒虎殿よりの命として、この赤虎、確かに承知いたしました」

「うむ、頼むぞ」

 

 赤虎も、また黄虎も、どこかで聞いた薬の名であった。

 その2人もまた、この場でそれを口にすることはそぐわぬことと思ったのであろう。

 

 一礼をした赤虎が、再びその口を開いた。

 

「黒虎殿……。僭越なことを申し上げますが、我と黄虎との、精汁をお飲みになられませぬか」

「ああ、わしへのねぎらいと受け取ろう。ありがたく頂戴いたす」

 

 目と目を見交わした赤虎と黄虎が、その装束を脱ぎ去った。

 壮年として年も重ねてきた赤虎の、ずっしりとした重みすら感じさせる完成されたとも言える見事な体躯。

 武之進と同年である黄虎の伸びやかな肢体は、まだまだ庭の者、忍びの者としての伸びしろを秘めている。

 

 己の逸物の在り様をどのようにでも為すことの出来る、庭の者たちである。

 2人の虎獣人の巨大な逸物が、すでに裸体を晒している黒虎の眼前にて雄々しく勃ち上がっていく。

 

「ほう、太さでは赤虎の、長さでは黄虎の男茎が少しばかり勝りおるか」

 

 黒虎の言葉通りであった。

 竿の中程と艶やかな亀頭の膨らみは赤虎が、緩やかに反りを打つ黄虎のそれは兜合わせにて比べればわずかに赤虎の長さには勝っている。

 無論、忍びの者においては閨房におけるその巧みな『技』の方が、より重要視されるのは当然のことではあったのだが。

 

「お主等のその滾る逸物を、我が尻にて受けることも、もう無いであろう。

 今宵はその滾る雄汁を、わしの口中へと注いでくれ」

 

 余計な負担をかけまい、との2人の思いは、すでに自らの硬く嘶く(いななく)逸物をずりずりと扱き上げる手の動きに表れていた。

 寸前までを己の手による刺激で、最期の吐精の瞬間に、黒虎の舌を味わおうとの腹づもりである。

 

「ああ、黒虎殿……。もう、もう、汁が上がってきます」

「黄虎よ、わしが、我が口に、お主の汁を注いでくれっ!」

 

 黒虎がその舌先を、若き虎獣人の濡れそぼった先端に絡めていく。

 口吻にその全長の半分以上を収め、外に残った肉棒を激しく扱き上げる黒虎の右手。その左手は、たっぷりとした量感のある黄虎のふぐりをやわやわと揉み上げていく。

 閨房術においてもその技量凄まじきものとしてうたわれた黒虎の口と手が、すでに極限までに高められていた黄虎の情欲をよりいっそう刺激していく。

 

「ああっ、イきますっ、黒虎殿っ、イきますっ……」

 

 どぷどぷと、熱く、大量の汁が老いた虎獣人の喉奥へと打ち込まれる。

 一滴もこぼすまいと飲み込む黒虎の喉仏が、粘性の高い汁の嚥下の度に幾度も上下する。

 

「たまらぬな、黄虎よ……。旨かったぞ……」

 

 ニヤリと笑い、己の手の甲で口吻を脱ぐった黒虎が、控えていた赤虎のそれを手にした。

 

「熟した赤の汁も、また旨そうじゃな」

「もう、すぐにイかせてもらってよろしいですか、黒虎殿……」

「構わぬ。出せ、赤虎。わしの喉に、お主の汁を浴びせよ!」

「イくっ、イきますっ、黒虎殿っ……。いくっ、イきますっ……」

 

 若き黄虎に負けぬ、いやそれ以上の量が、膨れ上がった赤虎の先端から噴き上がる。

 黄虎の吐精を目の前にして、より興奮の度を高めていたのか。あるいは黄虎を咥える黒虎の姿に、よりいっそうの昂ぶりを感じていたのか。

 黒虎の頭に手をやり、己の吐精の間中、その手を離さぬ赤虎の姿は、これまで互いの『交尾』『吐精』の瞬間を幾度も目にしてきた黄虎にとっても、初めての光景であったのだ。

 

 衣類を直した三虎が、再びその尻を畳へと乗せていた。

 

「赤虎よ、黄虎よ。お主等の『精』のおかげで、わしが『生』もいささかなりと猶予をもらえたようじゃ。

 次の戦場(いくさば)まで、そう時もあらぬであろう。

 戌亥家、熊谷家の禄に報いる働きを、それまでにな」

 

 はっ、と、答えが聞こえたその次の瞬間に、2人の姿は消えている。

 黒虎が、瞬間その目を天井へと向けたのは、庭の者の間のみに通じる隠語を呟くためか。

 

「狸丸殿、このような次第ですじゃ。わし無き後を、お頼み申す……」

 

 あくまでも熊谷の『屋敷内』における三虎による『会話』と『行為』は、果たして誰の『目』と『耳』に届いたものか。

 それは老いた虎獣人による、天井裏に潜みしものへの、答えが帰るはずも無い問いかけであったのだ。