卒後3年目で仕方なく体育会系の会社に入ったら、とんでもないことになった話

その1

 

その1 会社訪問

 

「で、あんた。就職はどうすんの? いつまでもバイトでふらふらしてていいわけでも無いでしょうに」

「別に困っては無いんだけどな、俺としては……」

「あんたが困って無くても、こっちが困るの! 早くちゃんとしたところ勤めて、親ぐらい安心させなさい!」

 

 オカンからの電話は、最近こんなんばっか。

 番号出た瞬間に、またかよ! っては思うんだけど、無視するとどんどんエスカレートするし、話したら話したでやっぱこんなふうになっちまうし。

 

 俺、三股太志(みまたふとし)、24才。

 新卒んときになかなかいいところ見つけきれず、学生んときからやってた自転車便のバイトでどうにか食いつないでいるフリーター。

 一応高校までは部活もやってたし、チャリ便では下半身すげえ鍛えられるし、まあガタイは何とか保ってる感じ。

 それでも卒業してから10キロ近く重たくなってんのは、やっぱちっとだらけて来てるんだとは思ってる。

 実際、170に94キロってなると、世間ではもう『デブ』の烙印押されまくりなんだけど。

 

 今やってるチャリ便の会社、バイトだと手取りがかなり良くて、それなりに、というか、けっこう、稼げてはいるんだよな。

 体力さえあれば、って前提はあるけど、そこはまあこのガタイあればもうしばらくはイケるかなって。

 

 で、オカンからの電話あった翌日、ホントにたまたまなんだけどバイトの納車時間にチャリやヘルメット預けに行ったら、本社正社員の人と鉢合わせになっちゃって。

 

「おう、三股君だったっけ? 相変わらずいいガタイしてんなあ」

「最近ちょっと太ってきてるんですよ」

「はは、男はそのぐらい貫禄ある方がいいって。君ももう何年目かだと思うけど、うちの正社員、受ける気は無いのか?」

 

 正社員の人達、チラチラ会話する分にはみんな凄く『いい人』たちなんだけど、なんかこう、まさに『体育会』系的な『ノリ』が、俺ちょっと苦手なんだよな。

 ちらっとオカンとの電話のことも頭をよぎりつつ、当たり障りの無い返事で済まそうとする俺。

 

「はは、ありがとうございます。でも俺みたいな薹が立ったんじゃ無くて、若い人の方が会社としてはいいんじゃ無いですか?」

「薹が立つって、まだ君も20代前半だろうりそれにうちは若いの優先とか新卒優先とか、そんなことないぜ。確かに若いのもいるけど、30過ぎてても馴染める人なら雇っちまうのが社長の方針なんでな」

 

 社交辞令とは分かっちゃいるけど、なんか認められてんのは嬉しいと感じちまうのは、これも承認欲求なんかねえ。

 つってもまあこの年になると企業の理念に『シャチョーのホーシン』持ち出すとこはあんまりなあ、とかも思っちゃうけど。

 それでもバイトや非正規も使えるジムやランドリーあったり、正社員の人も実配送にしっかり出てたりってとこは、色々聞いてる業界の中では珍しいとこだなとは思ってた。

 そんときはそのまま頭下げて帰ったんだけど、やっぱりちょっと気になって久しぶりにネットでサイトや口コミ見てみることにしたんだ。

 

『アットホームな雰囲気で!』

『社員一丸となって業績アップ目指します!』

『業界内でも屈指の福利厚生!』

『俺たちの仲間になろう!』

 

 ああー、前(え、もう5年前とか?!)に見たときもなんかまあそんな感じはしてたんだけど、かなりヤバめのコピーが並ぶ紹介ページ。

 もっともバイトは歩合メインの給与体系が、正規になると固定給+指令配送って形になるのはちょっと魅力ではあったかな。

 オカンじゃないけど『安定的に』ってのは、この手のシゴトやったことある奴なら惹かれるのも分かると思う。

 まあ、そこで正規非正規の差別化図りつつ、バイト大量導入ってやり方もエグいのかもしんないけど。

 

 そんなこんなで『どうしよう?』『お試しでアリか?』『無理な引き延ばしは無さそうな雰囲気?!』とか考えてるうちに、この前の社員さんと、また帰りが一緒になって。

 

「おお、よくタイミング合うな、君とは。特に用事ないなら、飯でも一緒しないか?

 あ、もちろん俺が奢るから、飯代は心配せんでいいから」

「あ、はい、特に用事はないですけど……。奢るとかいいですよ。けっこうここで稼がせてもらってます」

 

 内実の話聞けるかなって欲もちょっとやそっとあって、夜飯一緒に食うことにしたんだ。

 確かこの人、周りから『ゴカセ』さんとか、呼ばれてる記憶だった。

 

「やっぱいいガタイしてるなあ。学生んとき、なんかやってたのかい?」

「大学はサボってましたけど、高校までは槍投げとかしてました」

「道理でいい太股してるわけだ。バイトもけっこう受けてくれてるし、下半身だけ見ればまだまだ現役だよな」

「なんですか、その下半身だけって」

 

 なんかさ、やっぱり『いい人たち』ではあるし話しやすくはあるんだよな、ここの人って。

 ただそこにはやっぱり、なんかこう体育会系ならではの『上下関係感』みたいなのが滲み出てるって言うか。

 その分、こっちも後輩先輩のノリで会話は流せるんだけど。

 

 五ヶ瀬(漢字は名刺↓もらったからね)さん、背は俺よりちょっと低め、それでも90キロは越してるって言ってた。

 まさにがっちりむっちり体型なんだけど、やっぱ太股のデカさとか凄くて。

 ここの人たちの足の太さ、正社員はオレンジ色のレスリングか競輪かみたいなびっちりしたユニフォームでの配送なんで、すげえ目立つんだよね、そこらへん。

 

「今日は時間取ってくれて、ありがとな。あ、飯来る前に、これ、俺の名刺」

 

 ファミレスよりはちょっとだけ高級っぽい中華の飯屋で、なんかコース頼まれちゃって、俺の方はドキドキもんで。

 渡された名刺には『五ヶ瀬重明』、『(株)自転車配送便運営会社「バイス屋!」 本社総務部教育課担当課長』だって。

 ああ、前からの声かけもあって、やっぱ正社員スカウトの一環なのかなってのは思ったところ。

 

 テーブルには前菜からなにからであっと言う間に7品ぐらいが並んでいく。

 どれも旨そうだし、単品で定食になりそうなのばっかしなので、味も想像しやすいっていうか、なんというか。

 知らない料理出されて緊張する、みたいな感じにしないってのは、ある意味『上手だな』っても思ったところ。

 

「なんか、こんな御馳走いただいて申し訳ないです……」

「はは、ここ、いっぺんにどんと持ってきてくれるから好きなんだよな。さあ、喰うぞ! って感じになるだろ? 単品で食べるスピードで、とかちまちま出てくる奴、ちょっと俺には高級過ぎてな」

 

 うん、やっぱり分かって誘ってくれてるんだ、そこらへん。

 

「五ヶ瀬さん、本社で教育担当なんですね……」

「ああ、そうなんだ。で、三股君も想像ついてるとは思うけど、まあなんだな、正社員へのスカウトというか、誘いと受け取ってもらっていいと思ってる」

 

 ニカッと笑いながら言う悪びれ無さは、ある意味カッコいいってこと?

 正直さ、という点では変に『そうでない感』を出されるよりはありがたい。

 

「なんで俺なんかに目を付けてくれたんですか?

 この前もちょっと言いましたが、俺より若い連中とかもたくさんいるでしょうし……」

 

 大皿盛りを分けて食べるタイプなんだけど、始めて一緒に飯喰うのに、こういうとこを選ぶってのも戦略的に見て凄いよな。

 半分ぐらい2人で平らげたところで、雑談から仕事のことにだんだん話しが入っていく。

 

「んー、そこは色々あるんだが……。ぶっちゃけ言うと、俺はバイトの君たちの記録は全部目を通してる。

 その中でまあ『特に目を付けた』のが、今回は三股君、君だったんだがな」

「どういう理由で?」

 

 面接のときとかなら絶対聞かないことだけど、なんか飯喰いながらとか五ヶ瀬さんの醸す雰囲気とかで、俺、口に出しちゃってた。

 アホな後輩が先輩にポロッと失礼なこと言っちゃう、そんなノリ。

 

「君の言う通り、時間当たりでは君より配送を『こなしてる』若いのもいるし、配送の『効率化』が出来てる人もいる。

 ただ、うちの会社でなにより重視してるのは、変な話だが『人としての在り様』みたいなとこなんだな」

「???」

 

 ハナシ、ドコに向かってんだ、コレ?

 

「うちは配送時の連絡内容とかも全部記録に残してるし、各時間帯での指令担当者の評価も残してる。その中で君の担当者への言葉掛けの簡潔さや礼儀正しさが、抜群に評価が高いんだ。

 それに事前に申請してもらってる配送可能時間帯の直前変更の少なさや、予想配送量と実配送料量のブレなさなんかが、俺としては『おっ!』と思ったところかな」

 

 そういうの、社会人(半分、だけど)としては当たり前と思ってたけど、違うんかな?

 まあ確かに、学生バイトとは『違わないとな』とかは少し思ってたけど。

 勤務評定について、かなりの部分まで数値化してるっぽいのは正直凄えと思ったし、それだからこそ、人的関係には意図的な『上下ノリ』を組み込んでるのかねえ。

 

「ま、そんなこんなで『こいつは頑張ってくれそう』って、俺の中の期待値が高まってたって訳だ。

 そういうときに帰りのタイミングが重なってたから、これはもう声かけなきゃって感じてね」

 

 にっと笑って屈託無く言葉にする五ヶ瀬さん。

 体育会系って、いるよな、こういう自分の方の思いが前面に出るタイプの人。

 俺自身は石橋を叩いて叩いて叩き割っちゃうタイプだから、ある面うらやましくもあるんだけど。

 

「どうだい、真面目に受けてみないか?」

 

 五ヶ瀬さんがグッと顔を寄せてくる。

 息がかかりそうなその勢いに、俺、ちょっと面食らいながらも返事を返す。

 

「……、考えてみます」

「そっかそっか、ぜひ前向きにな。随時って訳じゃ無いが、結果としての採用あるなしは別として、半年毎に募集だけは出してるから。

 次は2ヶ月後なんで、今から考えてもらってもちょうどいいと思うし、なんなら事前に事務所に俺を訪ねて来てもらって、社内の雰囲気知っといてもらうのもいいかと思う。

 それにまあ、試験のあれこれとか、すぐ上の連中に聞けたりするぞ。

 もっとも俺の眼鏡には適っても、社長のそれに当たるかどうかは分からんから、そこだけはさっ引いて考えてくれ」

 

 ああ、それって五ヶ瀬さん、ズルなんじゃ? って言いかけて、よく考えたら学生就活のときの『先輩訪問』なんての、それ以外の何物でも無いよなと思い直した俺。

 それにしてもここでもやっぱり『シャチョーのホーシン』って奴なんだよなあ……。

 

「……考えておきます。今日はご馳走になりました。ありがとうございます」

「こっちこそ、時間取ってくれてホントありがとな。ま、考えておいてくれや」

 

 同じような答えしか返せない俺に、同じような返事をする五ヶ瀬さん。

 帰り際、俺の尻をポンポンと軽く叩いてきた。

 このあたりのバウンダリースペースの近さ狭さも、それっぽいと言えばそれっぽい。

 まあ、高校以来、久しく味わってなかった感覚で、それはそれで懐かしい感じもしたんだけど。

 

 あれからやっぱり、オカンからまた電話あって。

 詰問からの逃げではあったけど、今バイトしてるところの正社員、受けてみるって言っちまった。

 もちろん、自分でも身近手近ってイメージはあったし、五ヶ瀬さんやちょっと顔合わせるぐらいの社員の人達のイメージも、そう悪くなかったし。

 

 電話でもいいぞっては言われてたけど、やはりネットでエントリーのページ開く。

 面白かったのがどこでも当たり前に要求される顔写真や学歴欄の記入が必要無かったってこと。これ、バイトのときには要求されてた記憶なんだけど?

 その代わりなのか、身長や体重、運動経験のチェック欄があって、そのあたりは体力勝負の職場だよって、登録しようとする側に知らしめて、一定の篩い分けのためのものなんだろうな。

 

 後は今後のハラスメント対策に聞かせてほしいってことで、学校のクラスや部活、習い事や企業等での精神的肉体的ないじめや性的な嫌がらせ等、具体的に記入求める欄が大きく取ってある。

 確かにこれを書かせて学歴欄も書くとなると色々特定出来るわけだから、片方を一切記入無しにしてるのは理に適ってるか。

 俺も怨み口にだけはならないように気を付けて、けっこう高校時代の部活でのあれやこれや書いちまってた。

 というか、そういうのを書ける場所というか吐き出せる機会というか、ずっと探してたのかもな、俺。

 

 で、登録した次の日には五ヶ瀬さんからメールもらって、直電してもいいかなって。

 ここらへん、申し込みにはもちろん携帯番号書いてたんだけど、いきなりかけてくるんじゃ無いんだってのは、ちょっとおおっ! って思ったとこ。

 

「さっそくのエントリー、ありがとな。考えてくれてたんだって、ちょっと俺、嬉しくなって。まずそれだけは、直接言いたくてさ」

 

 ああ、この人、天性の人たらしだ。

 俺の本能がそう囁く。

 そしてそれは、決して不快なものじゃ無くて。

 

「あんまり色々考えるより、まずはトライしてみようかなと思ったんです」

「そういう考え、俺は好きだぜ。ああ、だったら明日や明後日とかの近いうちでもいいから、どっか時間空きそうなら、うち、覗いてみないか? 先輩達にも紹介するぞ」

 

 このどんどん先を埋められてく感じ、久しぶり。

 

「明日はちょっと用事あるんで、明後日でいいですか?」

 

 ホントは明日に用事とか無いんだけど、即日ってのもこっちが焦ってるって見られるのも癪だしな。

 

「おお、ありがとな。じゃあ、明後日の昼ぐらいはどうかな?」

「大丈夫です」

「んん、では12時半ってとこでいいかい?」

「分かりました。では明後日の金曜日、12時半に、そちらに伺うようにします」

「んー、やっぱり俺の見込んだ通り、そのあたりきっちりしてるよな、三股君は」

 

 たぶん、明後日って相対指定に対して、金曜日って絶対指定を噛ませたことを言ってるんだろうな、五ヶ瀬さん。

 そういうところ、やっぱ人たらしだ、この人。

 まちょっと、気付いてくれて嬉しいってのはあったけど。

 にしても、ちと中途半端な時間設定。

 

「あ、そうそう、飯は喰ってくるなよ。近くの旨いとこ連れてくから。じゃあ、明後日はよろしくな!」

 

 あー、やっぱりここらへんがもう、体育会系というか、何というか。

 こっちの思いとか考えとか予定とかが撥ね除けられてく感じは、やっぱりちょっと苦手だ、俺。

 それでもなんか、苦笑い、みたいな感じにしかならないのは、五ヶ瀬さんの持つ見事な『たらし効果』に、俺が反応しちまってるせいなんだろう。

 

 金曜日、集配センターの4階にある本社事務所に向かう俺。

 確かバイトにも開放されてるジムとランドリーが同じフロアだったはず。俺も最初に見学だけはしたんだけど、社員の人の中に割って入るってのもなんとなく気恥ずかしくて、使ったこと無かったんだよな。

 あのノリでの訪問だとネクタイじゃ無かろうしって思って、襟のきちっとしてるタイプのポロシャツとチノパンで向かうことにした。

 時間ギリギリやちょうどってのもアレかと思って、15分ぐらい前にドアをノックする。

 

「ああ、五ヶ瀬課長から聞いています。三股さんですね。先ほど五ヶ瀬も戻ってきてますので、そのまま右手に進んで更衣スペースの先、シャワー室に行かれてください」

 

 入り口近くの人が対応してくれる。

 さすがにこの規模だと受付別対応では無いわな。

 いやいや、それでもシャワー室って。

 普通に待合室とか会議室、応接室とか無いのか、この会社。

 疑問が浮かんだこっちの顔色、すぐに読まれたみたいだ。

 

「五ヶ瀬から、そちらにお通しするようにと言われてますので」

 

 ニコッと笑ってあちらの方へと案内してくれるのは、30手前ぐらいの坊主に近い短髪の、ガタイのいい人。

 ちょっと見たところ、男性社員しか目に入らないし、そう言えば駐輪場でも男の人しか見たこと無かった。

 

 目礼をしながら事務所の中を進んで行くと、左側にロッカーの並んだスペース。

 しかもそこ、事務所から丸見えの完全にオープンな空間なのに、なぜか2人の男性が素っ裸になってた。

 

「あ、あ、済みません」

 

 外から来ていきなりこれだと、やっぱりこっちがなぜか謝ってしまう。

 

「あ、うち、正社員も配送出てて、そのための更衣スペースがココなんです。彼らは午後からの配送組で、着替えてるところ。いつものことなんで、気にされなくていいですよ」

 

 いや、目の前にぶらぶらさせたまま彷徨いてる全裸男がいたら、気になるのが当たり前でしょうが。

 まあ確かに、陸上やってたときの部室とか、みんな裸でもぜんぜん気にせずにウロウロしてたけどさ。

 つうか、その2人、五ヶ瀬さんと一緒で太股の太さがものすごい。

 競輪選手並みって言えば、まあ確かに鍛えるとこ同じだよなって妙な納得も。

 

「シャワー室、ジムと兼用なんですけど、事務所側からも入れるですよ」

 

 何事も無かったかのように案内してくれるガタイさん。

 ちょっと俺、頭が着いていかなくなりつつあるし、しかも向かうとこはシャワールームだし。

 

「こちらです。五ヶ瀬と何人かがいるとは思いますので。それでは失礼します」

 

 って、ここで放り出されるの、俺?!

 仕方ないので、一応失礼しますと声かけながら、ドアを開けた。

 

「おう、やっぱり早めに来てくれたな。ほら、シャワー使っていいから、さっぱりしてから飯に行こうぜ」

 

 なんとなく、ホントにうっすらなんとなく想像してたけど、シャワー室には素っ裸の男が3人で駄弁ってた。

 五ヶ瀬さんもそうなんだけど、後の2人も身体しっかり動かしてるんだろうなってのが一目で分かるボリューム。

 3人とも、下半身凄くって、そのぶっとい太股が支えてる股間、誰も隠さないし。

 シャワー室そのものが全然仕切りがなくて、真ん中に身体支えるリングがあるくらいのなんかアメリカっぽい造り。

 確かに裸のまま、くっちゃべりたくなる雰囲気も分かんないでは無い。

 

「いえ、そんな、訪問で来たのに風呂とか」

「福利厚生の部分をしっかり見といてもらうのも、こっちの都合だからな。ああ、この2人もまだ20代後半での2年目だから、色々話し聞いとけよ。俺はあんまりそこらへんの会話するのもなんだから、先に上がっとくな。さあ、脱いだ脱いだ」

 

 この遠慮、たぶん伝わらない人達だよな、ってのは、もう想像付いてたけど。

 

 ええーっとなりながら、なぜか服を脱ぎ始める俺。

 どっか懐かしい、でも毎日だとムリ、そんな時空間でもあった気がする。

 五ヶ瀬さん、場を外すのも役職上、確かに仕方が無いことかなとは理解した俺。

 たぶん、このあたりの人達と、話させたかったのも来させた目的かもと思ったし。

 

「えー、もううちのバイト、5年とかやってくれてるんだ。どっかで見た人だなとは思ってたけど、どうせ受けるんなら早く入っといたらよかったのに」

「実際長くやってみて、それでも選んでくれるってのはありがたいことなんじゃないか?」

「このガタイで来てくれりゃ、確かにみな喜ぶよな。ガッコ出てからも、けっこう鍛えてるんだろ?」

 

 やっぱ、なんというか、遠慮の無い会話。

 全裸の2人は、若い方(といっても、もう27って言ってた)が『椎葉(しいば)さん』、もう一人が真っ黒な毛が全身すげえ生えてて、しかも股間には俺のデカくなったとき以上の大きさで逸物が揺れてる『高鍋(たかなべ)さん』。

 いや、もう、あれ、凶器だろう。

 膨張率が0だったにしても、マジで俺のが勃ったときよりデカいっぽいんだけど。

 あんまり見ちゃ悪いよな、とは思いつつ、どうしてもチラ見してしまう俺。

 

「たまに体育館とかは行ってますけど……」

「なんだ、バイトならうちのジム使えるし、けっこう機材も揃ってんのに」

「やっぱりバイト分際で正職の人と一緒って、なんか悪い気がして」

「そこらへん、もちょっとバイトや非正規の人との交流プログラムも考えたがいいのかもな。定着率上げるにもいいんじゃないか」

 

 あ、なんか真面目っぽい高鍋さん。

 素っ裸で、あのデッカいチンポ、ぶらぶらさせながら話してんのに。

 

「にしても、ホント、イイ身体だよな。太股はまあバイトでやってくれてる分も乗っかってるんだろうけど、脂肪の混ざり具合がすげえいい感じだ。しかもこの金玉のデカさ、部活やってたときにはからかわれてたんじゃないか?」

 

 褒められて悪い気はしないけど、胸とか腹とか触られるのはちょっと。

 しかもなんか、椎葉さん、こっちの股間にも目をやってくるし。心配気であるのは救いなんだけど。

 

「あ、ああ、まあやっぱ高校生とかはしゃいじゃいますからね。特に俺、ちんぽが小さいから……」

「小さいってワケでも無いとは思うがな……。玉がデカいから、どうしても比較して小さく見えちまってるんだろうな」

 

 高鍋さん、股間の話してはいるんだけど、全然からかうとか、笑うって感じじゃ無いんだよな。あくまで普通な感じで。

 

「で、五ヶ瀬さんからの話しだったけど、三股君は、五ヶ瀬さんにはもうしゃぶってもらったんか?」

「いえ、先輩達の方が、身体凄いですよ、って、ええっ?! なんですか、それ?!」

 

 いやいや、椎葉さん、マジ、なにそれ?

 

「あ、そっち方面ってワケじゃ無かったか! ごめんごめん、忘れてくれ」

「みろくはもう、そこらへんはちゃんとしろ。五ヶ瀬さんにも悪いだろ!

 マジで。ごめんな、三股君。

 みろくは、あ、えーと、こいつは社長とたまたま名字一緒なんで、社内では『箕六(みろく)って、下の名前で呼んでるんだ。

 こいつ、フォーマルとインフォーマル混ざること多くて、勘弁な」

 

 高鍋さんが謝ってくれるんだけど、話題の中身のことでなくって、あくまで椎葉さんの公私混同のことだよな、これ。

 社員としての情報提供と混ぜてやられると、こっちも怒るわけいかないし、もしかしてこの会社、こういうのが『上手い』人が集まってんのか?

 つか、五ヶ瀬さん、ゲイって奴?

 

「あ、は、はい……」

 

「そいえば、試験、再来月だよな。対策とか、聞いてる?」

「いえ、全然……」

「あー、五ヶ瀬さん、そういうことか……。うん、俺んときはさ……」

 

 って、なんてことなく採用試験の話に持って行かれちゃって。

 ふんふんっては聞いてたけど、後半のはちょっとびっくり。

 まあ、ここまでの雰囲気とはリンクした話だったんで、あー、そーか、そーなのか、みたいになってた俺。

 

「五ヶ瀬さんも待ってるだろうし、そろそろ上がるか。あ、バスタオルは棚のを自由に使ってもらっていいから」

「はい、ありがとうございます」

 

 なんか結局、部活の先輩後輩みたいなノリでお互いの身体タオルで拭いたりして。

 ふざけたふうでも無くって高鍋さんが俺の股間や尻も拭いてくれて、タオルの上からだけど、軽く玉揉まれたりも。

 冗談っぽいわけでもないので、かえって断りにくいっていうか。

 

「重量感もあって凄いな。こりゃ汁も溜まるだろうから、せんずりもけっこう回数いくだろう」

 

 高鍋さん、なんか重さ量るみたいして俺の玉、揉んでる。

 

「あ、高鍋さんだけズルいっスよ」

「あ、あの、その、済みません、そこは……」

「ああ、うちは配送上がってきたら、筋肉疲労防止のために社員同士でマッサージするからな。初期教育でそこらへんも教わるから、気にしなくていいぞ」

 

 いや、そういうことで戸惑ってるんじゃないんだけど、って、そのまんま服着て、どやどやと五ヶ瀬さんと飯に行くことになっちまったんだ。

 

「どうだ、こいつらのガタイもけっこうよかったろ? 三股君」

「あ、ああ、はい。皆さん、すごく鍛えてらっしゃるなって」

「まだ社員でも無いし、堅苦しくしなくていいぞ。もともとうちは、いわゆる体育会系って奴で、ノリいい奴多いからな」

 

 あー、五ヶ瀬さん、にって笑いながらじゃあるけど、まんま言っちゃってるよ。

 

「三股君、金玉のデカさが凄いですよ。うちに入ってくれても、たぶんデカさで比べたら一番になるんじゃないかな?」

「そりゃすごいな。ますます期待しちまうよ。で、試験のこととか、こいつらから聞けたか?」

 

 そう、こういうふうに、なんて言うか、シモの話題と普通のとを混ぜてくるんだよな、この手の人達。

 こっちとしては、どうしても真面目な方に答えざるを得なくなるっていうか。

 

「あ、はい、なんか色々……」

「俺らんときの最終質問も教えといたんで、ぱっちしですよ、五ヶ瀬さん」

「箕六っ、またお前はっ! そう言うと、五ヶ瀬さんが逆にやりにくくなるってのが、そろそろ分かれ!」

 

 うん、こっちが何か返す前にぼけと突っ込みされると、もう何も返せないし。

 

「そこらへんは聞かなかったことにしとくんで、大丈夫さ、高鍋。となるともう、三股君も安心だな。とりわけ準備する試験でも無いんで、そこらへんは当日も気楽にな」

 

 そんなこんなで、やっぱり奢ってもらって。

 椎葉さんや高鍋さんもご馳走様って言ってたので、まあいいのかなとは思うけど、やっぱり色々な、そこらへんは。

 結局、五ヶ瀬さんのこととか話題に出来なくて。いや、性的な指向とか、おおっぴらに聞くもんじゃ無いってのは分かってるんだけど変に匂わせだけされて、なんかモヤモヤしてたな、俺。

 

 とりあえずは受かんなかったときのショックとか、そうなったらバイトに行く気力あるかなとか色々考えて、少し余裕持っとこうかとそれからの一ヶ月半はけっこうシフト入れてもらって稼ぐ毎日だった。