勝者の栄光・敗者の無惨

その3

 

その3 対戦者達

 

「さて、年に一度の我が町『アニキ決戦バトル』の日がやってきました!

 今日は主催者を代表して黒岩重吾(くろいわじゅうご)町長、さらにはこの一年間、昨年のバトル勝者として『アニキ』を勤め上げた『黄田一(こうだはじめ)』氏、さらにはこの一年間をバトル敗者として様々な屈辱を味わってきた『遣られ者』『緑川隆盛(みどりかわたかもり)』氏の、3名の方にリングに上がっていただいております。

 実況は私、『朱野良一(あけのりょういち)』副町長が務めさせていただきますので、皆さんもご声援よろしくお願いします!」

 

 数百名の観衆が集う広場に大きな拍手が湧き起こる。

 

 町の広場に設けられた特設リングにはマイクを握る司会者を含め、4人の男達が並んでいた。

 背の高低、年齢の上下はあれど、いずれも鍛え上げられた見事な肉体をしている。

 

 町長と紹介された黒岩は、ネクタイを外したシャツ姿ではあったが、司会者の朱野は軽装である。

 マイクにより『アニキ』『遣られ者』との紹介を受けた黄田と緑川の2人は、驚くべきことに六尺褌一丁の姿で、実に見事な鍛えられた肉厚のバルクを、集まった町民達、何台も飛び交うカメラドローンの前に晒していた。

 

「町民の皆さん!

 今日は年に一度の『アニキ』バトルのためによく集まっていただいた。また、町営テレビやモバイル端末で見ている町民も、本当にありがとう。

 この『アニキ』バトルは、明日からの一年間、この町の様々な取り組みの実際を誰が取り仕切ることになるかを、まさに『雄としての力量』で決める大会だ。

 皆も知っての通り、勝者はこの町の誇る『或仁希組(アニキ組)』組長として様々な町の予算執行の立役者となり、敗者はすべての町民のストレス解消のために、この一年間、まさにその肉体と精神を『遣られ者(やられもの)』として捧げることになる。

 どちらもこの町を深く愛し、その身を粉にして働こうという気概が無ければ、挑戦すら出来ないことだ。

 今回の挑戦者達を紹介する前に、まずはこの一年を『アニキ』として過ごした黄田氏と、『遣られ者』としてみなからの凌辱をひたすらに耐えてきた緑川氏に、盛大な拍手をお願いしたい」

 

 マイクを渡された町長による開始宣言に、割れんばかりの拍手。

 視線の集まる黄田と緑川が、軽く手を上げ、歓声に応えている。

 その褌の前袋が弾けんばかりに盛り上がっているのは、互いの一年を思い返してのことなのか。

 見つめるリング下の男達の中には涙ぐんでいる者の姿さえ見える。

 町民達の『思い』、勝者と敗者の『思い』が、歓声の中でゆっくりと交わっていく。

 

「なお、この元アニキ、黄田氏と、元遣られ者となる緑川氏には、明日からの七日間、儂の屋敷にある離れに2人で籠もってもらう。

 この『密(みつ)の七日』が終われば、2人とも晴れて自由の身だ。

 しゃぶって飲ませてもらうも、ケツを突き出してヤってもらうのも、町民の皆さん、ご自由にって訳だな」

 

 黒岩町長の言葉に腕を振って喜ぶ、広場を埋めた大勢の観客。

 そのほとんどが、筋骨逞しい男達である。

 

 古い港町を元としたこの地域は、もともと粗野で屈強な男達の根城として発展した町であった。

 時代とともに小規模な単位で行われていた漁業には衰退の波が押し寄せ、町のあちこちに立つ女達、その女達と簡単に一夜を共に出来ていた安宿は潰れていった。そこかしこで夜を照らしていた赤い灯青い灯がポツリポツリと消えゆく中、派手な化粧をした女達も去って行く。

 軒を連ねていた飲み屋はいつの間にか健全なレストランへと替わり、郊外からの客を当てにせねば経営が成り立たない道をたどり始める。

 

 このままでは町そのものの存続が危うくなる。

 住民達にあってもうっすらとその危機感を募らせていた60年ほど前、当時の町長が実に驚くべき行政改革に乗り出したのだ。

 

 それまでは町の様々な公共事業は他の自治体と同じく、町内町外からの(当然町外の大手企業が有利となっていただろう)入札制度によって毎回の予算執行が行われてきた。

 そこに当時の町長が大胆な計画を持ち込んだ。

 今でいう第三セクター方式とも思える『町お抱えの業者を創る』『そこには職にあぶれた町内の青壮年の男達を雇用する』『その健全性と独立性は毎年トップを入れ替えることにより担保する』という、なんとも驚くような方針が打ち出されたのであった。

 

 港町特有の荒々しさをも受け止めるための『システム』をも内包したその方式は、その後の取り組みの中で洗練されていき、今では次のような形で引き継がれてきているのである。

 

 町のお抱え業者として『或仁希組(アニキ組)』が法人格を持つ会社組織として町民を雇用する。

 その『或仁希組』のトップとなる者は、年に一度の町主催の『バトル』の勝者が採用される。

 このバトルの勝者は一年間の『アニキ』として、町の様々な予算執行、行事、消防組織、青年組織として存在する『或仁希組』を率いることとなる。

 

 この『バトル』の参加希望者は、その『町への思い』を町長他、これまでのバトル参加者により選定され、毎年2名だけにその挑戦権が与えられる。

 バトルの勝者には『アニキ』となる栄誉が与えられるが、敗者は『遣られ者(やられもの)』として、一年間その自由と人権を奪われ、荒々しい町民達の加虐性、暴力性の解消を一身に担うこととなる。

 この『アニキ』『遣られ者』としての待遇はあくまで一年限りのものではあるが、その後は2人ともに『町を支えてくれた立派な男達』として、ある種信仰にも似た尊敬を集めることとなる。

 

 敗者が冠せられる『遣られ者』は、『或仁希組』事務所内にその居住場所が定められ、日中の一定時間は町民すべてにその凌辱とも言える暴力と性的な行為が解放され、深夜においては『或仁希組』組員による性的欲求の解消先としての存在へと『堕とされる』のである。

 あくまでも『町公認』の存在であるがゆえに、家族等も含めた生活所得保障は元より、重篤な後遺症を残すような行為の禁止と共に、医療面での最新のサポートも受けることが用意されている。

 それでもその肉体には打撲や擦過痕、鞭跡も絶えることなく、毎日の肛門性交や強制的な精飲、本人への連続射精や様々な性的な甚振りが行われていくのである。

 

 勝者となれば町を代表する組織の長として町民の尊敬を一身に集め、敗者となればまさに町民の暗心の矛先をすべて受け止める『贄』としての存在へと堕とされる。

 

 なまなかな覚悟では参加を表明することすら難しいのが、この『バトル』の最大の特徴であったのだ。

 

 町長の主催者側としての挨拶が終わり選手の入場が済めば、いよいよ来年一年間の『アニキ』の座をかけたバトルが始まる。

 

 今回の対戦者2人もまた『この町を思う』ことにかけては、誰にも引けを取らぬと自負する親父達であったのだ。

 

 赤コーナーで真っ赤な特攻服を脱ぎ捨てたのは『赤司恭一』。

 町で代々続く施工会社の現社長であった。

 

 赤い六尺褌。

 胸毛腹毛はそう目立つものでも無いが、その前袋の周囲と後ろ立褌はもっさりとした黒い剛毛に覆われている。脇下も含めて、性器と尻穴周辺が黒く濃く茂るタイプのようだ。

 六尺の前袋は下部の丸く大きな膨らみが目立ち、ふぐりの大きさが際立っている。

 

 勝敗どちらにせよ、一年間は自らの会社運営を手放すことになる覚悟を決めた男である。

 後継者の選任も終え、自らをこの年まで育ててくれた町への感謝と、一人の男としての挑戦・力試しと思い、このバトルへと手を上げたのだ。

 

 社員達からは、反対の声も多く上がった。

 それでも何度も自らの思いを語る赤司の言葉に、応援と協力の声は高まっていく。

 対戦相手が発表され、その年齢、身長体重、いずれも自分では及ばぬと知った赤司は、己の『雄力』を高めることへと日頃の鍛錬をシフトしていく。

 

 この闘いが単なる『腕力』だけで勝負が決するわけではないと知る社員達は、自分達から社長の目指す『雄力』の鍛錬、その相手となることを希望していく。

 男性社員、二十数名の男達から、打たれ殴られ、ひたすらに己の『打たれ強さ』を鍛えるための鍛錬。

 さらにはその男達全員を、己の口だけで連続3回は吐精させるという試練をクリアして、今日この日の闘いに臨んだ赤司恭一であった。

 

 正面の青コーナーに立つ『青井真伍』は、バトル参加者としては珍しい、現役の『或仁希組』組員であった。

 元来、組織のトップのすげ替えとして行われてきたこの『バトル』に対し、現役の組員達の意識としては『継続する事業を支える』『町民に対しての威厳の継続・維持を図る』との考えを持つものが多い。

 その中にいて、さらには『若頭』という実働部隊のトップにいる青井がバトル参戦を決めたのも、またそれなりの理由があったのだ。

 

 青井が属するこの『或仁希組』は、その組織性及び成り立ちの経緯から、組員達の帰属意識も『会社・法人』というよりも『任侠団体』に近い認識の方向が強いものだった。

 

 それゆえに町民よりの一定の支持はありつつも、そのどこかに『敬して遠ざける』気持ちがあることは否めない。

 バトル敗者である『遣られ者』の『使用』には躊躇わないものの、その同一線上に位置するはずの『組員』に対しては、わずかな『よそよそしさ』が残るものであったのだ。

 

 自らも20年以上を組員として過ごし、その微妙な違和感を抱えていた青井。

 厄年も過ぎ己の体力と年齢を考えたとき、今、このときにこそ自らが『アニキ』となり、組員と町民との間の微妙な距離感を無くす動きを興したいとの、真剣な思いに駆られていたのである。

 

 青い褌、その前袋は赤司の倍ほどにも膨れ上がり、内容物の巨大さを物語っている。

 リングアナの朱野の紹介通り、勃起時には20センチを越える逸物が、これから始まる戦闘への予感に滾り勃っていた。

 

 バトルへの志望動機は、主催者の町から双方へと伝えてあった。

 勝負を決めるのは、腕力、雄力(精力)のみに非ず。

 数十年前から常に、そこに横たわるのは『町への思い』。

 

 それゆえに勝者にも敗者にも、町民達の感情と性欲は、真っ直ぐに、真剣にぶつけられていくその『システム』なのであった。

 

「みんな知ってるとは思うが、対戦ラウンドの説明をしておくぞ!

 まずは『雄力ラウンド』だ!

 これは前半の手コキ勝負と後半の尺八勝負。

 どちらも攻守を入れ替えながら、制限時間20分以内に扱く側、しゃぶる側が、『相手を3回イかせられなかった』場合に即座に『敗者』『遣られ者』になっちまうぞ。

 

 ここで勝負が付かなければ、次は『腕力ラウンド』の30分勝負だ!

 こいつはもう、純粋な殴り合い。

 キックや関節技、絞め技禁止でひたすらど突き合いをやってもらう。

 腕力勝負じゃああるが、前半で6回の射精した後からなんで、互いの腰や腹筋は、かなり消耗してからのスタートだ。

 このラウンドはダウン後のテンカウントでのファイト不可能、レフェリーの試合続行不可能の判断にて勝敗が決まる。

 

 そしてそして、万が一この二つのラウンドで決まらなかったときは、エクストララウンドでケリを付ける!

 こいつはもう、最後のお楽しみに取っとこうぜ、みんな!」

 

 リングアナ、朱野の解説をまとめておこう。

 

■アニキバトル概要

 

●雄力ラウンド

*手コキラウンド

制限時間30分のうちに手で相手を3回イかせないと負けとなる

*尺八ラウンド

制限時間30分のうちに口と手で相手を3回イかせないと負けとなる

 

●腕力ラウンド

30分一本勝負にて、ひたすらに殴り合う

キック、関節技、絞め技、寝技は禁止

パンチのみの闘い

目と耳、金玉、打擲禁止

 

●エクストララウンド

雄力ラウンド、腕力ラウンドで勝負が決まらなかった場合

互いに69の態勢で横たわり、制限時間の15分内に相手を多くイかせた側が勝者となる

回数が同じだった場合には、より短時間でイかせた側が勝者となる

 

 

 MC朱野のマイクパフォーマンスに、一気に暖まる広場の観衆達。

 その熱気はリング上の2人もまた、よりいっそうヒートアップさせていった。