その2 前夜、医務室にて
「今日が最後だな、緑川さん……。長い一年だったろう。お疲れさまでした」
「紫衣(しい)先生……。最後までお世話になります」
「ああ、黒岩町長もか。そう言えば最後の日はいつも来ておったな、あんたは」
窓の無い医務室。
白衣を着た老医師の前には、2人の逞しい全裸の男達。
「先生、そう言うな。『遣られ者』最後の日は、人も多いんでこっちの楽しみも増えるしな」
黒岩町長と呼ばれた男は、100キロを越えそうな偉丈夫で、あちこち痣に覆われた肌も艶やかさを保っている。
若くは見えるが、その瞳に視える人生経験はすでに60才近くのものだろう。
「黒岩町長、そんな屁理屈を捏ねんでも、緑川さんはあんたが今日来た意味は分かっとるよ。
なあ、緑川さん……」
緑川、と呼ばれた男は40代か。
黒岩と同じくその裸体は痣と泥にまみれていたが、よく見れば全身に数多くの擦過傷や打撲の痕が見え、背中や尻、太腿には何本もの鞭跡すら残っているようだ。
「はい……。私の負担を、毎年一番訪う人の多いと聞いてた今日の負担を、軽くしてくれるためのものだったと理解してます」
「まあ、お二人さん。そんなにかたっ苦しく考えるなよ。俺は久しぶりに、皆にぶん殴られながらケツを犯されるのが楽しみだったんだから」
やれやれと、白衣を着た老医師が男達2人に目をやる。
「どれ、尻を見せてみろ。2人とも、どうせこっぴどくヤられとるんじゃろう?」
「ああ、さすがのワシも最後の方はちっとキツかったな」
「私の方も、少し熱を持ってる感じがしてます、先生……」
町長の黒岩がまずは診察台の上で四つん這いになり、そのパンと張ったデカい尻を高く掲げる。
温めた開口器を差し込み、中を覗き込む老医師。
「町長、今日は何人ぐらいにヤられたんじゃ?」
「んん、10人と少し、ぐらいだったろうな」
「ふむ……。まあ、あんたの方は大丈夫そうじゃな。緑川さんと代わってやってくれ」
緑川が町長と同じ姿勢で尻を突き出す。
「ああ、こっちは幾分か腫れとるな……。いつもの薬を塗っておく。どうだ、町長の前でもいつものようにイかせてほしいかな、緑川さん?
それとも、今日のこの後は黒岩町長が『貸し切って』おるはず。そっちでイかせてもらうのが、いいのかいな?」
医師の語りは、いったい何の話なのか。
「最後に1つだけ贅沢をさせてください。この一年の最後の思い出として、町長の目の前で先生にイかせてほしいし、その後は、町長に優しく抱かれたい」
「贅沢でもなんでも無いさ。儂も通ってきた道だ。先生にイかされても、あんたもまだまだ元気だろう。
儂の愛撫で、最後の夜の最後の射精を、あんたのこの一年の、最大の思い出にするがいい」
話にはケリが着いたと見たのが、老医師の指が開口器を外された緑川の尻穴へと入っていく。
「この一年で、緑川さんの『ここ』も、だいぶ膨らんだ気がするな」
医師の指先が捉えているのは緑川の前立腺、腸壁を介して伝わるその膨らみであった。
「ああ、先生、気持ちがいい……。あんなにイかされたのに、また先走りが出てしまう……」
「緑川さん、尻を抉られるだけでイきそうになっとるあんた、すごくいやらしいぞ。
そして、明日から一週間は『アニキ』だった黄田との暮らしだ。大丈夫か?
「ああ、先生の指が当たる……。その、黄田さんとは、実際に面と向かってみないとなんとも……」
「まあ、そりゃそうなんだがな……。ただ、俺はこの七日間は、2人にとっても町の発展にとっても、大事なもんだと思ってるんでな」
「黒岩町長が就任してすぐに制定されたんですよね」
「ああ、俺んときに、真似事みたいなのをやって、こりゃあった方がいいと思ってな」
尻を抉られながらの摩訶不思議な会話であったが、緑川も黒岩も、話としては互いの理解を前提として進めていっていたようだ。
「そしてこの七日が終われば、あんたはまた違う意味で町中の男達の注目の的になる訳だ……。
皆があんたの精液を、雄汁を欲しがって群がってくる。
アレもまた色々といいもんだぞ」
緑川の尻を抉る医師を見つめながら、黒岩がしみじみとした言葉を紡ぐ。
「町長、『遣られ者』と『アニキ』、どっちもやったあんたにしか出てこん言葉だな……。
おお、そろそろイきそうだな。
緑川さん、私の指で、気持ちよく出せ」
「ああ、先生、出ます、出てしまいます。町長の前で、黒岩町長の目の前で、イッてしまう。ああ、出てしまう……」
「緑川さん、出せ出せ。儂が飲ませてもらうぞ。いいだろ、先生?」
「ああ、もちろんじゃ。
緑川さんもあんたにしゃぶられたら堪らんじゃろう。
尻の間から引き出すから、直接飲んでやってくれ」
四つん這いになった緑川。
高く掲げられたその肉厚の尻穴を抉る指。
老医師は片手で緑川の肉棒を太腿の間から引き出し、先走りを垂れ流す熟した亀頭を尻肉の間から突き出すように黒岩へと示す。
満面に笑みを湛えた黒岩が、その唇を緑川の先端へと寄せた。
「ああっ、イきますっ! 町長にしゃぶられてっ、先生に尻をいじられてっ、俺はっ、緑川隆盛(みどりかわたかもり)はっ、イきますっ、イきますっ、イくっ、イくっ、イくっーーーー!!!」
おそらくは自己申告しながらの射精を繰り返させられてきたのか、緑川が己の名を呼びながらの盛大な射精となった。
医師の指先が括約筋の強い締め付けを感じながら盛り上がった前立腺を揉みしだき、町長は大量に噴き上がった粘りのある精汁を旨そうに飲み干していく。
「私の指での尻を抉られての射精も、これが最後だな。
後は町長に任せるんで『遣られ者』としての最後の夜を済ませてきなさい、緑川さん」
「紫衣先生、他の先生方も含め、この一年、本当にありがとうございました。
先生がおられなかったら、俺はたぶん、一カ月も保たなかった……」
「そのために私らがおるんじゃからの……。では、町長。後は頼みましたぞ」
「ああ、任せとけ。最後に『遣られ者』に極楽を感じてもらうのも儂の仕事だからな」
緑川に肩を貸し、別室へと向かう町長。
逞しい2人の男達の後ろ姿を見送る、老いた医師の目には何が映っていたのか。
誰に語りかけるともなく、老人の口の端から呟きが漏れる。
「明日は赤司君と青井の若頭の二人か……。どちらも思うところは同じであろうに、なぜにこのようなことにならねばならぬのか……」
誰の目にも映らぬこの夜の出来事。
物語はその翌日、町民の目が一斉に注がれる、ある祭りのような儀式から始まるのであった。