勝者の栄光・敗者の無惨

その12

 

その12 再びの医務室と、その後の夜

 

「大丈夫かね、青井君」

「紫衣先生、はい、なんとか……」

 

 夜中の医務室。

 老医師の前には、痣だらけの全裸の青井が診察台に横たわっていた。

 この状況でもおさまらぬ猛々しい逸物は、飲まされ続けている勃起薬のせいだろう。

 夜8時までと決められている『遣られ者』への凌辱的行いは、毎夜ごとに医療者の診察を前提としているのだ。

 

「打撲痕、擦過痕、鞭痕も、どれも見事に致命傷は避けておるな……」

「あいつらを、そう育てたのは、俺ですから……」

 

 或仁希組『若頭』として、何年も荒くれ男達を仕切ってきた青井であった。

 

「ここ数年の『遣られ者』の中で、毎日の遣られ方はあんたが一番ひどい。その理由ももちろん分かってはおるんだろうが……」

 

 痣痕に消炎剤を塗り込めながら、老医師が呟く。

 

「バトルに参加すると決めたときから、そのことは覚悟してました。

 もし負けて『遣られ者』になったとき、組員が俺に同情的な立場を示せば、組への信頼、この町の『システム』が、一気に崩れ去ります。

 そんな無様なことは決してするな。もし俺が『遣られ者』になったら、徹底的に嬲り倒せ。バトル参加を決めたときから、あいつらにはずっとそう言ってきました」

 

 診察する医師も、その前に痣と血痕に覆われた裸体を晒す青井も、十分に分かりきった問答であった。

 

「今日はイかせてもらえたのか? それとも寸止めでお預けを喰らったのか?」

「今日は6発ぐらいイかされました。最後の方は朦朧として、よく分からんうちにイッてしまったと思います」

「尻をいじるのは、今日はどうする?」

「ああ、今日は大丈夫です。どうせこの後に、また何回かイかされるので」

 

 組員達、嬲りに顔を出す町民達、日々の『ノルマ』を課せられている『アニキ』赤司。

 それらのものによる『遣られ者』への嬲りは凄惨さを極めたものであるが、中でも性的な甚振りにはそこに込められた卑猥さと恥辱さの最大値を示すものであったろう。

 組員達、町民達のあっさりとした決め事で(それこそコインやじゃんけんほどの軽さである)、その日一日の『遣られ者』自身の射精をどのように扱うかが決められていく。

 ある日は一日中、連続射精の苦行を強いられ、その嬲りは気を失っても止まることは無い。

 またある日はさんざんに性的な刺激を与えつつ、吐精のみが許されないという、まさに男にとっては拷問にも値する『イかず勃起の寸止め地獄』が延々と続く。

 

 今日は朝イチに事務所へと顔を出した町民の挨拶が誰に向けられるかの賭で、それこそ笑い話のうちに『射精可能日』として決められたのであった。

 もっともその『可能』の意味も、痛めつける側だけに許されるものではあったのだが。

 

 打たれ、殴られ、踏みつけられる暴力の嵐の中、その逸物と金玉だけは蕩けるような愛撫が続けられていく。

 

 一日の中で、唯一足枷が外される『遣られ者』に与えられた寝室。

 大きめの風呂と便所、寝台だけが用意された部屋は、本来であれば『休息』のためのものだろう。

 

 そこに医務室から青井をエスコートしたのは或仁希組組員2人。

 いずれも昼間にはとりわけキツく、青井の肉体を責め倒した男達。

 

 紫衣医師からの引き継ぎを受けた2人が左足の足枷を外し、食事の世話をし風呂場へと青井を案内する。

 

「身体を洗います。傷には障らぬようにしますが、痛かったりしたら言ってください」

 

 昼間とはまったく違う組員達の『遣られ者』への接し方。

 いや、この部屋にいる時間だけは『遣られ者』から『青井真悟』へと戻れる場所なのであった。

 そしてその昼間と深夜の『ギャップ』こそが、最初の一週間の『教育期間』で青井の精神を蕩かしてしまっていたのだ。

 

 己の手すらも使わぬで済むほどに、2人の組員によって優しく、滑らかに、逞しい青井の全身が洗われていく。

 4本の手の愛撫とも見紛うその手の動きは、勃起薬に反応している青井の逸物とその双玉にも伸びていく。

 

「ああ、たまらん……」

「ここではイかないでください。ベッドの上で蕩けるようなセックスをしましょう」

 

 高級なタオルで拭き上げられた剛毛に覆われた青井の裸体。

 100キロ近いその巨体が、スプリングの効いた硬性のベッドに横たえられた。

 

「隣に失礼します」

 

 あくまでも慇懃な組員達。

 その会話が出来る訳では無いが、もちろんその2人は『若頭』であった青井の下で働いていた『仲間』であったのだ。

 

 20代のむっちりとした若者と、30代後半にも見える筋肉と脂肪がその逞しい肉体を覆っている2人。

 2人が左右から青井の裸体を挟み込むようにして横になる。

 巨漢の男3人が横になっても十分な広さのあるベッドは、それ専用に作られたものか。

 

「キスから始めましょうか」

 

 30代の男が、青井の上半身を覆う。

 20代の若者は、盛り上がった胸筋、肌も見えぬほどに茂った胸毛の中に存在を主張する左の乳首に舌を伸ばす。

 

「あっ、ああっ、ああああっ……」

「ほら、気持ちいいでしょう? 声を上げてもらって、いいんですよ」

「いいっ、気持ちいいっ……。感じるんだ……」

「今日一日の嬲りに耐えたからこそ、この快感を味わえるんですよ……」

 

 耳元で囁かれる呪文。

 混濁していく青井の意識に刻み込まれるその言葉こそが、『遣られ者』としての日々を支えていくのか。

 

「ここからは、下も責めていきます」

 

 組員2人の手にとろりと垂らされるローション。

 若者の左手が青井の逸物へと伸び、30代の男の手はそのぼってりとしたふぐりをまさぐる。

 

「ぬっ、うがっ、はああっ……」

「ゆるゆるとヤられる亀頭責めもいいもんでしょう?」

 

 亀頭と双玉。

 ひたすらにその粘膜に、その皮膚にと与えられるは、一切の痛みを伴わない純粋な快楽。

 脊髄を駈け上がる快感は、拷問にも思える昼間に与えられるそれとはまったくの異質でありつつも、吐精へと向かう根源は一つのものとしていた。

 

「ほら、ほら、存分に感じていいんですよ」

「もっと声を上げてください、青井さん。感じるところを、全部触ってあげますから」

 

 耳朶を甘噛みされ、唾液で濡れた耳元に細く吹きかけられる吐息。

 キスとともに舐め回される唇の輪郭。

 脇を舐め回した舌先はそのまま体毛の流れに沿って胸筋を登りゆき、ぷっくりと膨れ上がった乳首に歯を立てる。

 爪先立てた5本の指が脇腹を下り、鬱蒼と茂る下腹部の陰毛を掻き立てる。

 

 揉み上げられるふぐり。

 けして強くはない握りで、柔らかく扱かれる太竿。

 2人の手により一時も止まらぬ亀頭への刺激。

 

 全身を這い回る4手20本の指先と、2枚の厚ぼったい舌は、その蠢きを止めることを知らないのだ。

 

「イかせてくれっ! もう、もうたまらんっ! 何でもするからっ、イかせてくれっ!!」

 

 懇願する青井。

 その顔を見つめる2人の目は穏やかすぎるほどの視線を目の前の男へと注いでいる。

 

「この時間だけは『何でもする』なんて言わなくていいんですよ、青井さん。たっぷり2時間、ひたすらに快感を味わってもらってから、最後には何度でも、イってもらいますから」

 

 拷問とも思える昼間に味わう凌辱。

 深夜に与えられる甘やかな極上の悦楽。

 

 青井が『バトル』の敗者となり『遣られ者』に堕とされたその瞬間から、この二面性を持った組員からの『嬲り』は続く。

 当初7日間の『教育期間』が終わっても、基本的なこの『繰り返し』こそが、一年間ひたすらに繰り返されていくのだ。

 

 敗者である『遣られ者』の根幹たる人間性さえも揺さぶるこの一連の流れは、多くの町民の知るところでは無い。

 それはたとえ『遣られ者』としての一年間を終えたとしても、その『男』の肉体と精神の奥深くへと、強烈な影響を残していく。

 

 わずか数日前まではその『影響』を与えるだった側である青井真伍に取っても、歴代の『遣られ者』達へと為されてきた『嬲り』の手は緩むことなく、いや、いっそうの強度を持って、与えられていくのであった。