勝者の栄光・敗者の無惨

その10

 

その10 ノルマ

 

 勝者である『アニキ』と敗者である『遣られ者』。

 その日々の関係には幾つかの『ルール』が存在する。

 

 一つ。

 勝者は敗者を一日に最低10回、打擲しなければならない。なお、この打擲は自らの手足によるものの他に、殴打棒、鞭、スパンキング用各種パドル等にて代用することを可とする。

 

 一つ。

 勝者は敗者を一日に最低3回、性的に甚振らなければならない。その際、己の性器による肛門での性交、口唇の凌辱、顔面への吐精を基本とはするが、その内容は勝者による判断を可とする。

 

 一つ。

 勝者から敗者に対し、同情的な言葉をかけてはならない。勝者が敗者にかける言葉は無いものとする。

 

 勝者は勝者。

 敗者は敗者。

 

 バトルによってくっきりと別れたその明暗は、濃厚に接していながらも決して交わることの無い両者の立場を照らし合う。

 

 4月8日。

 頭がすげ替えられた或仁希組組長『アニキ』の赤司恭一と、新しい『遣られ者』青井真伍。

 それぞれの『教育期間』が終わりを迎え、実質的な『新年度』の始まりの日。

 

「アニキっ、お帰りなさい! 挨拶回りもお疲れさまでした。来期の分、何か話が出ましたか?」

「ああ、さっそく災害対策での高台一時避難場所と備蓄倉庫を組み込んだ防災公園の造成について固まってきた。議会との調整も済んだと、黒岩さんからも話があったんだ」

 

 組事務所と隣接する町役場、その議会棟から帰ってきた赤司が、組員達に説明をしている。

 新年度の議会中、なにがしかの公務が決定したのだろう。

 

 町の公共工事をその采配分配も含めて一手に引き受ける『或仁希組』は、その組長である『アニキ』の存在をも含めて、町の動きに大きな影響力を持つ。

 

「宅地側と港湾部からの動線、平地からの道路造成、公園予定地の造成と避難所にもなる集会場、かなり広域で長期の請負になりそうだ。

 計画によっちゃあ年度をまたぐことになるかもしれん。

 関連業種への声掛けも含めて、さっそく立案に取りかかってくれ」

 

 プロジェクトのノウハウを蓄積してきている組員達こそが、この『或仁希組』の真骨頂と言っていいだろう。

 そして年ごとに変わる『アニキ』は、その組員達に対しての絶大な信頼を基底としての存在でもあった。

 

 凄惨なバトルを終えた一週間。

 この期間だけは勝者『アニキ』と敗者『遣られ者』との接触が避けられてきた。

 赤司に対しては『或仁希組』の組織と業務請負のすべての手順が、青井に対しては『遣られ者』としての最低限の振る舞いが出来るよう、或仁希組の古参組員達によるそれぞれの『教育期間』とされているのだ。

 今日は互いの教育機関が終了し、役場への挨拶回りも一段落した赤司なのである。

 

 仕事としての会話に一段落したのか、赤司が組員の一人に声をかける。

 

「今日から俺の方も『解禁』だな……。『遣られ者』はどうしてる?」

「ああ、今日があいつも『初日』ですからね。

 さっきまで6人の団体でお客さん来てて、かなりヤられてました。朝からだと今のところ19人来られてますね。鞭好きなお客さんもいて、背中と尻は、もう真っ赤になってます。

 初日は混むのが分かってるんで避ける人も多いんで、明日からもかなり賑わうでしょうよ」

 

 組員の言う『お客さん』。

 これは組事務所の仕置き部屋を訪れる町民のことを指す。

 バトルに負け『遣られ者』となった男は、或仁希組組員だけではなく、すべての町民からも殴られ、鞭打たれ、性的な甚振りさえをも受ける『贄』としての存在であった。

 

「もう何回かイかされてるのか?」

「ああ、そっちは朝に3回、俺達がイかせただけですね。

 あいつがさもイきたそうにデカいのをおっ勃ててるのが面白かったんでしょう。今日のお客さん、最後には全員尻は使ってましたけど、扱くだけ扱いてわざとイかせずに帰っちゃう人ばっかりで、先走りダラダラ流してますよ、あいつ」

 

 まさに体のいい『性処理道具』か。

 町民組員にとって『(自分では)メンテの必要ない高級オナホール』扱いされる『遣られ者』。

 

「お前らでは何人ぐらいがヤったんだ?」

「あー、組の奴だとやっぱり朝方の3人かな? とにかく『お客さん』が途切れなくて、こっちの面子ではあんまり構ってやれてないッス」

 

 ニヤニヤと笑う組員は、つい先日まで『遣られ者』たる青井真伍を頼れる兄貴分として慕っていた青年でもあった。

 

「俺のノルマも、片しておくか……」

「ああ、お客さんも切れてるからちょうどいいかもですね。何人か付けますか?」

「2人ぐらい来てくれ。途中で頼むこともあるだろうし」

 

 事務所地下の『仕置き部屋』に向かう赤司。

 その拳はもう、固く握り締められている。