4.看病

 

「おはよう、友成。目は覚めたかな?」

「おはようございます、お爺ちゃん……」

 

 やっぱりお爺ちゃんは朝が早い。

 僕はもう少し寝ていたいけどと思いながらも、身体を起こした。

 朝からはいつものことだけど、僕の性器は勃起していた。

 夜中にあんなにたくさん射精したのに、僕のペニスはまたとても大きく固くなっている。

 僕はタオルケットでパンツの前を隠しながらトイレに行って、小便をした。

 

「ふふ、この匂い……。友成、お前は夜中にオナニーをしたな?」

「えっ! ああ、はい、お爺ちゃん。その、つい我慢が出来なくて……」

 

 うっすらと匂いが残ってる気はしてたけど、オナニーのことをお爺ちゃんの方から言ってくるとは、僕は思ってなかったんだ。

 びっくりして、心臓がドキドキしてた。

 

「私がいるので、こっそり隠れてオナニーをしたんだろう?」

「……、はい、お爺ちゃん」

 

 お爺ちゃん、笑いながら話してるのは、怒ってはいないのかな?

 

「お爺ちゃん、僕のことを怒ってないの?」

「なんでお前がオナニーをしたことを、私が怒ると思うんだ? 若い雄なら、誰でもやることだ」

 

 ああ、そういうふうに受け止めてくれたのか。

 僕はちょっとだけ、安心する。

 

「男同士なんだ。そういうことは別に隠さないでいいぞ。どうせなら、私の前で勃起させてもいいからな」

 

 お爺ちゃん、それはちょっと無理なことだ。

 お爺ちゃんは『悪ふざけ』ぐらいに思ってるのかもしれないけど、僕に取っては、真剣なことも含んでいたから。

 

「さすがにお爺ちゃんの目の前では出来ないかな……」

「冗談だ、冗談だ。まあ、溜まったらいつでもオナニーをして構わないからな。それだけは言ってくからな」

 

 僕がお爺ちゃんに対して性的な意味で興奮をしていたことは、知られてないようだった。

 それが分かっただけでも、僕はとても安心していた。

 

「うん、匂いが残ってたよね。ごめんなさい、お爺ちゃん」

「謝ることじゃ無い。せっかくやるなら、楽しみながらやりなさいってことだよ」

 

 そうだ。

 オナニーは楽しいことなんだ。

 お爺ちゃんの言葉で、僕は再認識した。

 

「友成は普段は週に何回オナニーをしてるのかな?」

「2、3日に一度ぐらい」

「私が若いときには毎日オナニーをしていたぞ」

「僕はそこまではしないかな……」

 

 こんな話をお爺ちゃんと笑いながらしていることが、僕は信じられなかった。

 僕はそんなお爺ちゃんが、ますます好きになっていった。

 

 朝食を済ませて、僕は大学にレポートを書きに行く。

 お爺ちゃんは僕のアパートに来て、初めての1人での観光に出掛けていったんだ。

 

 ……………………。

 

 

「お爺ちゃん、遅いな。午後に一度連絡もらったけど、大丈夫かな……?」

 

 夏の日の長さでまだまだ明るくはあるんだけど、もう夕方になっていた。

 一日図書館で調べ物とレポートを書いてた僕も、そろそろかと思ってアパートに帰ってきている。

 こちらからお爺ちゃんに連絡しようとしたそのときに、僕のスマートフォンの呼び出し音が鳴った。

 

「友成か? お爺ちゃんだが……」

「お爺ちゃん、今、どこにいるの? お爺ちゃんの帰りが遅いから、心配していたよ」

「ああ、すまんが、ちょっと疲れてしまって。申し訳ないが、バス停まで迎えにきてくれないか」

「分かった。すぐに迎えに行くから、動かないで。気分が悪くなってきたら、周りにいる人に声をかけて!」

 

 僕は慌てて、バス停に向かう。

 電話越しのお爺ちゃんの声は、かなり弱っているようだった。

 たぶん、昨日今日と、日差しの強い中で歩き回っての、軽い熱中症じゃないんだろうか?

 

「お爺ちゃんっ! 大丈夫?」

「ああ、友成……。バスを降りたら、歩けなくなってしまってな。迎えに来てくれて、ありがとう……」

「そんなのいいから、ほら、僕に掴まって。お爺ちゃん、少しなら歩ける?」

「なんとか大丈夫だ……」

 

 お爺ちゃんに肩を貸して、2人でアパートに向かう。

 お爺ちゃんを抱く僕の手に、かなり体温が高い感じが伝わってくる。

 お爺ちゃんの半袖の白いシャツも、ぐっしょりと汗で濡れてしまっている。

 エクリン汗腺が少ない犬獣人が、こんなに汗をかいてることそのものが、異常なんだ。

 

 そして、こんなときなのに、密着したお爺ちゃんの身体から漂う汗の匂いに、僕は少し欲情してしまっていた。

 僕はそんなことを感じてしまう自分が、とても嫌だった。

 

「お爺ちゃん、ほら、横になって。汗をかいてるから、服を脱がすよ」

 

 崩れるように布団に横になったお爺ちゃん。

 意識はあるんだけど、上昇した体温や、呼吸の荒さ、大量の汗は、たぶん熱中症の症状だ。

 

 恥ずかしがってたらダメだと思い、お爺ちゃんのステテコとパンツも脱がせてしまう。

 全裸になった汗に濡れたお爺ちゃんの身体を、タオルを何枚も使って拭き上げる僕。

 エアコンの風を直接当てたらダメだと思って、風向を調節し、それでも体温が下がるようにと温度も調節しておく。

 水分を取らせないとと、冷蔵庫にあったスポーツドリンクを持ってきた。

 

「お爺ちゃん、ほら、飲める?」

「ううっ、ううううっ……」

 

 お爺ちゃん、身体を起こすことが無理みたいだ。

 僕は思いきってスポーツドリンクを口に含み、そのままキスをするようにしてお爺ちゃんの口に流し込んだ。

 

「ああ、冷たくて、美味しいな。もっとくれないか、友成……」

「うん、たくさん飲んでね、お爺ちゃん」

 

 何度も何度も、僕は口移しでお爺ちゃんにスポーツドリンクを飲ませていく。

 乾いていたお爺ちゃんの口吻が、だんだんと潤ってきた。

 額と脇の下には氷嚢を当てて、冷やしていく。

 少しずつ、お爺ちゃんの息が整ってくきていたように思えたんだ。

 なんとか間に合ったように思えた僕は、今度は寒くならないようにと、お爺ちゃんの裸にタオルケットをかけた。

 

「お爺ちゃん、ごめんね。僕が一緒に行っていたなら、お爺ちゃんの身体の具合が悪くなる前になんとか出来たかもしれないのに」

 

 僕の呟きは、半分眠りに入ったお爺ちゃんには聞こえていたんだろうか。

 落ち着いてはきているものの、お爺ちゃんの呼吸はまだいつもよりも、早く、大きい。

 僕はお爺ちゃんの隣に横になる。

 熱が下がってくれれば。

 そう思いながら、僕はずっとお爺ちゃんの顔を見ていた。

 

 夕飯も食べずに、お爺ちゃんと僕は眠ってしまっていた。

 どれくらいの時間が経ったのか。

 時計を見たら、もう真夜中だった。

 お爺ちゃんも、そして僕も、疲れていた分、6時間ぐらい寝てしまっていたんだ。

 

 僕はお爺ちゃんの脇に体温計を差し込む。

 体温計が計測終わりの音を響かせ、どうやら熱も下がってきている。

 あれほど激しかった呼吸も、胸とお腹を見ていると、普段と同じように見えた。

 もう大丈夫だろう。

 僕は心底、ホッとしたんだ。

 

「友成……。迷惑をかえたな……」

「迷惑だなんて言わないで、お爺ちゃん。よかった、本当によかった」

 

 お爺ちゃんも目を覚ましたようだ。

 頭を振りながら上半身を起こし、自分が裸になってることに気が付いたみたい。

 

「服を脱がせてくれたのか、友成?」

「汗が凄かったから、全部脱いでもらったんだ。下着かパジャマか、着る?」

「いや、しばらくはこのままでいい……。友成、お前もだいぶ汗をかいたんじゃないか?」

 

 言われてみれば、一日中着ていた服のままで、僕は眠ってしまっていた。

 お爺ちゃんを迎えに行って、自分もすごく汗をかいていたけど、そこにまで気を回すことが出来なかったんだ。

 

「私はちょっと無理だが、シャワーでも浴びておいで。そして、その、よかったら私の隣で一緒に寝てくれないか?」

 

 お爺ちゃん、ちょっと怖くて、そして、寂しかったんだと思う。

 一人暮らしで身体の具合が悪くなったときは、本当に心細いものだと思うし。

 

「うん、ちょっとだけ待ってて。シャワーで汗を流してくる」

 

 僕は急いでシャワーを使い、裸のままで身体をバスタオルで拭きながら、お爺ちゃんの待つ部屋へ戻った。

 

「下着を着るから、ちょっと待っててね、お爺ちゃん」

「私も裸のままなんだ。そのままでいいよ、友成」

「え、でも……」

 

 少し元気になったお爺ちゃんの隣で裸でいたら、僕はたぶん、すぐに興奮してまう。

 僕の性器が大きくなって興奮していることが、お爺ちゃんに分かってしまう。

 

「裸だと恥ずかしいから、下着を着させてよ、お爺ちゃん」

「私だけが裸だとかえって恥ずかしいよ、友成。病人の言うことと思って、素直に聞いてくれないか」

 

 肌と肌との温もりが欲しいのかな。

 僕は少し強引なお爺ちゃんの言うことを聞くことにした。

 

「隣に寝るよ、お爺ちゃん。狭くてごめんね」

「小さい頃は、よく一緒に寝ていたじゃないか。あの頃のことを思い出すよ、友成」

 

 ああ、そうだ。

 子どもの頃、僕はお爺ちゃんの家に遊びに行ったとき、夜に寝るときは必ずお爺ちゃんの布団に潜り込んでいた。

 お爺ちゃんの暖かい体温が、ふかふかなお腹の毛の感触が、そして全身から漂うお爺ちゃんの『雄の匂い』が、僕は好きだったんだ。

 

「ふふ、こうしていると、本当に僕の子どものときみたいだね」

「ああ、あの頃は私の胸をお母さんのおっぱいと思ったのか、チュウチュウ吸っていたんだぞ、お前は」

「僕、そんなことしてたの? ぜんぜん覚えて無いや」

 

 良かった。ふざけることが出来るくらいに、お爺ちゃんが元気になってる。

 僕はお爺ちゃんが言ったお爺ちゃんの胸を目の前に見ていた。

 あの頃より太ったお爺ちゃんの胸。

 その盛り上がった胸筋の先に、乳首が膨れ上がっている。

 

「友成……。嫌だったら答えなくていいが、もしかしてお前は、お爺ちゃんのことが性的に好きなんじゃないのか?」

 

 僕は突然のお爺ちゃんの言葉にびっくりして、つい、起き上がってしまった。

 

「どうしてお爺ちゃん、そんなことを言うの?」

「……昨日の夜、友成が私の名を呼びながらオナニーをしているとき、私は目を覚ましていたんだよ。言うべきかどうか迷ったが、懸命に看病をしてくれたお前を見ていて、私だけが知っていることを隠していてはいけないと思ったんだ」

 

 お爺ちゃんは、僕がお爺ちゃんを性的に見ていることを知っていた!

 僕がお爺ちゃんのことを考えてオナニーしていたところを、見られていた!

 

 僕は心臓がドキドキして、もう、何を考えていいか分からなくなっていた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい、お爺ちゃん。僕のことが気持ち悪くなったでしょう? 本当にごめんなさい、お爺ちゃん……」

 

 僕は頭を下げて、何度もお爺ちゃんに謝った。

 実の孫から、性的な目で見られて、お爺ちゃんはどんなに気持ち悪かっただろうと、僕はそう思ってた。

 

「友成、謝らなくていい。こちらにおいで」

 

 僕は寝ているお爺ちゃんに、また布団に引き込まれた。

 お爺ちゃんが僕をぎゅっと抱きしめてくる。

 お爺ちゃんの柔らかくも締まった筋肉のある胸に、僕の顔が埋まった。

 

「隠し事をするのは、とても辛かっただろう。分かってやれなくて、私の方が済まなかった、友成。もっと早くに気が付いて、友成の気持ちが分かっていれば、もう少し私も何か出来たかもしれなかったのだが……」

「僕が全部悪いんだ。勝手にお爺ちゃんのことを性的に好きになって、勝手にお爺ちゃんのことを思いながら、オナニーをして。ごめんなさい、本当にごめんなさい、お爺ちゃん……」

 

 僕はお爺ちゃんの胸で泣いていた。

 お爺ちゃんの胸で、泣きじゃくっていた。

 

「泣かなくていい。謝らなくていい、友成……」

 

 お爺ちゃんが、僕の背中を優しくさすってくれる。

 お爺ちゃんの暖かさが、お爺ちゃんの優しさが、じんわりと僕の全身を包んでいく。

 

「キスしてもいいか? 友成?」

「いいの? お爺ちゃん?」

「友成が子どものときは、たくさんキスをしていたじゃないか」

 

 そうだった。

 僕はお爺ちゃんとよくキスをしていた。

 あの頃はまだお爺ちゃんは煙草を吸っていた。

 その煙草の匂いと、お爺ちゃんの匂いが混ざって、僕にはそれが『大人の匂い』に思えていたんだ。

 いけないことだったのかもしれないけど、僕はその『大人の匂い』が大好きだったんだ。

 

 お爺ちゃんの胸に抱かれて、僕は勃起していた。

 お爺ちゃんも裸になっている。

 僕も裸になっている。

 全裸の雄2人が、一つの布団の中で抱き合っていた。

 

「私に興奮してくれているのだな、友成。私はどうしたらいい?」

「お爺ちゃんは何もしなくていいから。僕が、僕のしたいようにして、お爺ちゃんに気持ちよくなってほしいと思っているから」

 

 僕は心に決めた。

 ここまで優しくしてくれるお爺ちゃんに、なんとか気持ちよくなってもらいたい。

 お爺ちゃんに僕と一緒にいることで快感を感じてほしいと、強く思っていた。