お爺ちゃんと僕

その2

 

2.お爺ちゃん

 

「お爺ちゃん!」

「おお、友成。久しぶりだな」

 

 駅の改札で待ってた僕の前に、お爺ちゃんが姿を現した。

 

 ニコニコとした笑顔。

 年相応に太った、突き出た腹。

 歩く姿はしっかりしていて、心配するほどのことは無さそうだ。

 お土産を持ってきてくれたのか、旅行鞄と別に紙袋も持ってきている。

 

「それにしても大きくなったな、友成。どれ、ハグさせてくれ」

 

 お爺ちゃん、荷物を置いてそのまま、僕に抱きついてくる。

 小さいときもよく抱きつかれて、そのときの僕はすごく喜んでいたんだけど、なぜか今日はドキドキしてしまっている。

 

「お爺ちゃん……。ほら、人が見てるから……」

「祖父ちゃんが孫を抱いて何が悪い。ああ、本当に逞しくなったなあ。10年近く会ってなかったから、それも当然かな」

 

 僕から見たら、お爺ちゃんはあのときよりも小さくなったように思えた。

 もちろん、少しは背が縮むこともあるんだろうけど、それはやはり、僕がお爺ちゃんより大きくなってしまったせいだろう。

 

「あの頃は、私の胸ぐらいまでしか無かったのに、今はもう私より背が高くなっているとはな。

 爺ちゃんとしては嬉しいことだが、少し悔しくもあるなあ」

 

 ワハハって笑いながら、抱きついたままのお爺ちゃんが僕の顔を見上げてくる。

 お腹の感触が柔らかくて、そして温かい。

 お爺ちゃんのクルクルとした目は、亡くなった父さんや僕にも遺伝してる。

 鏡を見つめてるようなお爺ちゃんの視線に、僕は心臓が破裂しそうになってた。

 

「暑いから、早くアパートに行こうよ。それか喫茶店で少し休んだがいいかな?」

「早く友成の部屋を見たいのが先じゃな。案内してくれ」

 

 大きな旅行鞄は僕が持って、バスで10分ぐらいのアパートに向かう。

 エアコンは付けたままにしていたので、部屋の涼しさがありがたかった。

 

「部屋もけっこう綺麗にしてるじゃないか」

「お爺ちゃんが来るので、慌てて片付けたんだよ」

「私のところはお前の母さんがたまに掃除しに来てくれるのでなんとかなっているが、1人だとひどいもんだぞ」

「男の一人暮らしだと、そうなるよね」

 

 お爺ちゃんと顔を見合わせて、ふふっと笑う僕。

 よし、なんとか『普通に』過ごせてる感じだ。

 

「ほら、お土産だ。懐かしいだろう?」

「ああ、これ、僕、好きだったんだ!」

「母さんにそう聞いてな。向こうの駅で買ってきたんじゃ」

 

 本当に好きなお菓子を選んで来てくれてたお爺ちゃん。

 御飯の後に取っておこうと、そのときは食べないでおく。

 

「さすがにちょっと横にならせてもらっていいか?」

 

 疲れてないとは、言ってたけど、お爺ちゃんの年で電車に2時間以上乗ってくるのはやっぱり大変だったんだと思う。

 

 お爺ちゃん、ポロシャツとズボンを脱いで、白い下着とステテコだけになる。

 ステテコの生地が薄くて、性器のところが透けて見えそうで、それだけで僕は真っ赤になってたんじゃ無かろうか。

 畳の部屋なのでそのままゴロリと横になったお爺ちゃん。

 すぐに聞こえてきたお爺ちゃんの寝息は、とても穏やかなものだった。

 

 僕は、いけないかな、と思いながらも、お爺ちゃんの寝顔を見たくなっていた。

 寝息が聞こえているうちは大丈夫だろうと、僕も横になって、お爺ちゃんの顔を見つめている。

 

 優しそうな下がった眉も、少しだけ白い毛が混じるようになった顔も、あのときの面影を強く残している。

 そんなお爺ちゃんの顔が、僕は大好きだった。

 あの、水浴びをしてるお爺ちゃんの裸を見てしまった夏の日。

 あの日の前までは、僕はまさに『お爺ちゃんが大好きな孫』だったんだ。

 そんなに好きで、よく遊びに行っていた僕がパタリと来なくなったことを、お爺ちゃんは何も聞かないでいてくれている。

 

 もちろん思春期に入ろうとしている若者の、変な理屈があったと思ってるのかもしれないけど、本当はそんなことじゃ無い。

 僕はお爺ちゃんに、お爺ちゃんの身体に、性的に惹かれている自分が、何か得体の知れないことのように思えてしまって、それで足が遠のいてしまっていた。

 そしてそのことは、お爺ちゃんには絶体に知られてはいけないことだとも、思っていたんだ。

 

 僕はちょっとだけと思って、お爺ちゃんの丸いお腹にそっと手のひらを乗せた。

 寝息はそのままに、お爺ちゃんの手が、僕の手に重なってきた。

 なんだかそれが凄く嬉しくて、そしてドキドキしてる僕だった。

 

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 

 夕方にふと目を覚ますと、孫の友成が布団の横でスースーと寝息を立てていた。

 友成とはもう10年近くまともに会っていなかったのだが、相変わらずの優しさは子どものときのままのようだ。

 小さいときにはよく遊びに来ていたのだが、ある日から突然来なくなったのは、私の息子達にも理由は分からなかったらしい。

 思春期に入るにはもう少し時間があるかなと思っていたのだが、そのあたりは私の子どもの頃よりも色々と早くなってきているのかなとも思ったところじゃったな。

 

 友成が寝返りを打つ。

 目は覚ましておらぬようだったが、友成の身体からは、どこか甘いフェロモンが湧き立っていた。

 

 私等、犬獣人に取って、相手の肉体から放たれる汗やフェロモンは、おそらく他の種族よりははるかに『分かりやすい』ものとなっている。

 今、私の横で眠る友成からは、明らかに性的に欲情した『匂い』が発せられていたのだった。

 

「ふふ、あんな小さかった友成が、こんな『匂い』を出すようになったのか。大学で彼女でも出来たのかな? その彼女のことでも夢に見ているのか……」

 

 祖父としては当然の考えだった。

 仰向けになった孫のズボンの股間が、大きく膨らんでいる。

 これは見て見ぬふりをしておかないと、本人も恥ずかしいだろうと、私はまた一眠りしようかと横になる。

 そのときだった。

 

「お爺ちゃん……」

 

 孫が、性器を大きく勃起させたまま、小さく呟いた。

 私は、その言葉にとても驚いた。

 起きてはいないようだから、あくまでも夢の中、寝言としての言葉だ。

 それゆえに、その言葉は本能に近いものであったろう。

 

「友成、お前……」

 

 私の孫が、私のことを夢に見ながら、性器を勃起させている。

 これは、どういうことなのだ?

 

 私はゆっくりと孫の部屋を見回した。

 友成の年齢であれば当然見かけるような、若い雌の裸の姿を載せているような雑誌や、それらしいものも見当たらない。

 本棚にはグラビア系の週刊誌すら見当たらず、どちらかといえば難解な小説のようなものが並んでいた。

 

「この子はもしかして、男が、同性が好きなのか? そして、もしかして、その性的な対象に、この私も入っているのか?」

 

 考えてみれば、友成が小さなときから我が家に遊びに来たときも、妻と遊ぶよりも私との遊びの方を楽しんでいた記憶があった。

 もちろん、小さな男の子は同性との遊びの方に楽しさを見いだすことが多いのではあろうが、回りには『お婆ちゃんに懐いている』子どもの方が多く、私と友成のように『お爺ちゃんに懐いている』子どもは少なかったように思う。

 

 確かなものでは無いが、友成の肉体から漂うフェロモンと、性器の勃起、先程の私を呼ぶ呟きから考えれば、ある一つの結論が導かれてしまう。

 

 もしも、実際に友成の性欲が私に向かってきたとき、私はどうすればいいのだろうか?

 

 世の中に同性を性的に欲するものが一定いることは、このところの色々なことを見聞きしていれば、私の年でも充分に理解することは出来る。

 実際、私のようなものでも、若いときには友人達と一緒にオナニーをしたりしたこともあった。

 だが、今、友成の肉体から発せられているこのフェロモンは、明らかにその場の勢いでのものでは無く、本人の嘘偽らない『情欲』から醸し出されているものだ。

 

 その矛先が、どこに向くのか。

 孫と祖父という関係を、友成がどう考えているのか、私としてみると少し複雑な思いを感じていたのだ。

 

「気が付かないふりをしておこう」

 

 取りあえずはそれでやり過ごせるはずだ。

 だが本当に、友成が私の前にその性欲を剥き出しにしてきたとき、私はどうすればよいのか。

 まだ分からない私だったのだ。

 

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 

「2人とも、よく寝ていたな」

 

 あっと気が付いたとき、お爺ちゃんはもう身体を起こしていた。

 お爺ちゃんの隣で、僕もあのまま眠ってしまっていた。

 外はもう暗くなっていて、昼間の暑さも少しは和らいでいたようだった。

 

「ごめん、お爺ちゃん。夕食のこと、どこかに食べに行こうかと思ってたんだけど、遅くなっちゃったね」

「コンビニでも近くにあれば、弁当でも買いに行くか?」

「うん、そうしよう!」

 

 いつもは眠るのも早いはずのお爺ちゃんを遅い時間に店に連れ出すのも変に思って、お爺ちゃんの提案通りにコンビニに向かう。

 弁当を2つとおにぎりを幾つか僕が買って、お爺ちゃんがビールを買ってくれた。

 

「乾杯! 爺ちゃんと孫の、久しぶりの顔合わせだな」

 

 温めた弁当を酒の肴にして、2人でビールを飲む。

 父さんと飲んだことも無かった僕は、なんだかこの時間がすごく嬉しかった。

 

「家では食事はどうしてるの?」

「こう見えても、爺ちゃんは自炊もするんじゃぞ」

「お爺ちゃんはすごいなあ。僕は買ってきたり、食べに行ったりがほとんどなのに」

「近くにスーパーがあれば、こっちにいる間に何か作ってやろうかのう」

「お爺ちゃんの作る食事、食べてみたい!」

 

 ビールの酔いが、お爺ちゃんと僕との距離を、10年間の間を埋めてくれる。

 笑いながらのその日の夕食は、とても楽しいものだった。

 夜も遅くもあったし、その日はシャワーも浴びないで、また布団に入った2人。

 朝までぐっすり眠れたのは、ビールのアルコールのせいもあったんだと思う。

 

「おはよう、友成。よく寝ていたな」

「ああ、お爺ちゃん。おはようございます。朝ご飯は、昨日買っていたおにぎりでもいい?」

「ああ、構わんぞ」

 

 2人で下着姿のまま、おにぎりを食べた。

 冷蔵庫から出したままで冷たいままだったけど、夏の朝には気持ちがいい。

 

「今日は僕もいっしょに動けるから、近くの神社と美術館でも案内しようと思うけど、そんなのでいいかな?」

「私の好きなところをよく知ってるじゃ無いか。友成と一緒に神社に行けるなんて、嬉しいぞ」

 

 ちょっと照れてた僕。

 急いで、短パンとTシャツに、お爺ちゃんは鞄に入っていた短パンと開襟シャツに着替えて出発することにした。

 2人とも下着と短パンの、尻の上側に開いたスリットに尻尾を通しての街歩きだ。

 

「いやあ、歴史ある神社だったなあ……。いいところだった」

「日陰があまり無かったけど、お爺ちゃん、大丈夫?」

「なんのこれしき、次もいいところを案内してくれるんだろう? 友成?」

 

 やっぱり観光に来た分、お爺ちゃんは色んなところをたくさん見て回りたいはずだ。その気持ちはよく分かるんだけど、やっぱり今年の暑さはちょっと気になってた僕だった。

 午前中、かなり大きな神社を見て回った僕達は、せめて冷たいものをと、冷たい素麺の店に入って昼飯を済ませることにした。

 

 午後からは近くの遺跡調査の特別展をやっている美術館に向かう。

 行き帰りの道はけっこう暑かったけど、美術館の中は冷房が効いてて気持ちがよかった。

 僕自身はあまり関心のある展示内容では無かったんだけど、とにかく古い建物や遺跡が好きなお爺ちゃんにとっては、とても楽しかったみたいだった。

 

「一日、楽しませてもらったな。いやあ、やはり都会はこういうのがたくさん企画されていて、うらやましいなあ」

「時間があると僕ももっと行きたいところはあるんだけど、数が多すぎて回りきれないってこともあるよ」

「ああ、贅沢な悩みだろうが、そういうのもあるのかもなあ……」

 

 お爺ちゃん、展示を見終わる頃には口での呼吸が激しくなってた。

 ああ、これはちょっといけないなと思って、館内の喫茶店で一休み。

 僕達、犬獣人は人族と違って、どうしても体温調節のためのエクリン汗腺の数が少ない。

 そのために夏場は、吸湿・給水性の高い靴下を履いたり、手には凍らせたペットボトルを握ったりが奨められている。でも、今日は、ペットボトルを持ってくるの忘れてしまっていたんだよな。

 

「お爺ちゃん、大丈夫?」

「ああ、ちょっと歩きすぎたかな。田舎だと、つい車を使ってしまうので、都会に出るとかえって歩く距離は長くなってしまう」

 

 これはその通りだなと、僕も思った。

 田舎にいたときはどこに行くにしても父さんや母さんの車でばっかりだったし、電車に乗るのは旅行のときぐらいだったし。

 こっちだと大きめのところだと駅の中を歩いてるだけで、田舎での一日を歩いて過ごすよりも長い距離を動いている気がしてる。

 

「せっかくだから、帰りに公衆浴場に行こうよ。疲れも取れると思うよ」

 

 僕のアパートからそう遠くないところに、深夜遅くまでやっている大きな公衆浴場がある。

 シャワーだけでは疲れが取れないだろうから、お爺ちゃんを誘ってみた。

 

「おお、大きな風呂に入ることが出来ると嬉しいな。足をゆっくり伸ばすと楽になるだろうから」

 

 お爺ちゃんも乗り気だったので、そのまま浴場へと向かう。

 レストランもあったので、夕食もそこで済ませることにした。

 

「おお、久しぶりに広い風呂に入ることが出来て、気持ちがいいなあ」

「僕もアパートではシャワーだけだったので、すごく気持ちがいいよ」

 

 湯の温度が違う大きな浴槽も幾つもあって、順番に入っていくのも楽しかった。

 そして何より、お爺ちゃんの裸を、僕はそれこそ、10年ぶりに目にすることになったんだ。

 

「仕事をしていたときは、もう少し締まった身体をしていたんだがなあ……」

 

 お爺ちゃんが、丸く突き出た腹をぽんぽんと叩く。

 僕は子どもの頃、よくお爺ちゃんの家に遊びに行っていた。座ってるお爺ちゃんの膝に乗って、背中に当たるお爺ちゃんのお腹の感触をとても楽しみにしていたんだ。

 

 今も変わらないお爺ちゃんのお腹の丸み。

 そして、その大きなお腹の下には、子どもの頃に見たままの、とても大きな性器がぶらさがっていた。

 

 僕の目はどうしてもお爺ちゃんの性器を追ってしまっていた。

 もしかして気付かれたんじゃないだろうか?

 そんな不安もあったけど、お爺ちゃんはぜんぜん気にもしない感じで、ずっと優しく接してくれている。

 

「お爺ちゃん。僕、お爺ちゃんの背中を流すよ」

 

 洗い場の椅子に腰を下ろしたお爺ちゃんの背中を、僕がタオルでしっかりと擦る。

 泡立てた石鹸がお爺ちゃんの体毛に付いて、とてもセクシーに思えるのは、きっと僕だけが感じていたことなんだろう。

 

「孫に背中を流してもらえるなんて、お爺ちゃん、嬉しいぞ」

「家に遊びに行ってたときは、まだ僕は小さかったので、お爺ちゃんに僕の身体を洗ってもらうだけだったね」

「あの頃は、友成の性器もすごく小さかったな。私が洗ってやると、その小さな性器を固くしていたぞ」

「もう、止めてよ、お爺ちゃん。そんな話、恥ずかしいよ、僕」

 

 たぶんそのとき、僕は顔を真っ赤にしていたと思う。

 お爺ちゃんがそういう話をするなんて、思ってもいなかったんだ。

 そして、そんな話をしていて、僕は自分の性器が勃起しないように、必死に努力をしていた。

 もしここで僕の性器が勃起したら、隠すことなんて絶対に出来なかっただろうし。

 

 僕はそのときもずっとシャワーを使ってはいたけども、僕の全身から漂うアポクリン汗腺からの匂いに、お爺ちゃんが気付かないことだけを願っていた。

 このアポクリン汗腺からの汗の匂いは、僕達犬獣人が性的に欲情していることを表してしまうんだ。

 

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 

 孫の友成が、私の背中をタオルで洗ってくれている。

 その力強い手の動きは、子どもの頃には無かったものだ。逞しく成長した孫の姿が嬉しい私ではあったのだが、先ほどから微かに漂う孫のフェロモンにも気付いていた。

 

 その匂いは、昨日の夜、横で寝ていた友成から発せられていたものと同じだった。

 性的に欲情したときに出る、特別なフェロモン。

 友成としてはこの公衆浴場に来てから何度も湯に浸かり、シャワーも浴びているので気付かれないと思っているのかもしれない。

 だが、私の鼻は一度嗅いだ匂いはしっかりと覚えている。

 昨夜、大きく性器を勃起させていた友成の姿を、私ははっきりと覚えているのだ。

 

 やはり友成は、この私を性的に欲情する対象として見ている。

 そのことを確信をした私ではあったが、かといって、可愛い孫を遠ざける気にはなれなかった。

 孫の気持ちに、どう応えてやればいいのだろうか。

 私には、まだ答えが出せていない。

 

 2週間を同じアパートの部屋で過ごすということは、避けようが無い事実だった。

 今日も丸一日を私の観光に付き合ってくれた友成。

 

 明日からは少し、距離をおいてみたがいいのでは。そう思って、アパートに帰ったら少し話をしてみようと思った私だった。

 

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 

「帰りはタクシーにしようか? お爺ちゃん、疲れているでしょう?」

「なんの、可愛い孫に金を使わせるわけにはいかんだろう。頑張って歩いてみるかな」

 

 心配ではあったけど、観光初日からあまり気を遣うのも、お爺ちゃんが恐縮しちゃうんじゃと、ゆっくり歩いて帰ることにした。

 途中にあるスーパーで弁当や惣菜を仕入れて、夕食の分にする。

 

「今日は一日付き合ってくれて、嬉しかったぞ、友成」

「久しぶりなんだから、お爺ちゃんに優しくしておかないと、母さんに怒られるからね」

「はは、それは嬉しいが、さすがにお前も大学の勉強やバイトがあるだろう?」

「うん、勉強も少し進めておかないといけないなとは思ってる」

 

 お爺ちゃん、スーパーの弁当でも美味しく食べてくれて、とてもありがたかった。

 外食にも行きたいけど、少しお金がかかっちゃうからね。

 

「友成、明日は私1人で街を見てこようと思ってる。お前は大学の勉強を進めなさい」

「1人で大丈夫? お爺ちゃん?」

「なんとかなるさ。都会は標識や建物も、田舎に比べて分かりやすいからな」

 

 お爺ちゃん、スマートフォンもそれなりに使えるみたいだし、1人の方が気兼ねなく動きやすいというのもあるのかもしれない。

 ちょっと心配ではあったけど、僕はお爺ちゃんの提案に賛成することにした。

 

「うん、分かった。僕は明日は大学で一日勉強してくる。お爺ちゃんは都会の街歩きを楽しんできてね」

 

 そこまで遅い時間では無かったけど、明日も暑くなりそうだし、この日も2人とも早めに寝ることにしたんだ。