金色の贄
第一部 月と太陽 贄の王たるは獅子王なり
第一章
若き猪獣人ゴウホウ・センジは王の寝所へと赴く
その3
「とにかく、王とのあのときのことは俺、ぜったい忘れないからな。
体毛だって俺達とぜんぜん違うんだ。なんていうか、柔らかいけど張りがあるっていうかなんていうのか、触ってるだけで気持ちよくなっちまう。
そしてあのフェロモン!
普段、猫科由来の匂いってのもあんまり無いしさ、自分自身の身体と心がどっか違うところに行ってるような、とにかくもう爆発しそうな感じにさ、なるんだよ。
カムリもとにかくいっぺんアレを味わっちまうと、もう元の自分に戻るなんて絶対出来ないって分かるからさ、明後日は心してかかれよ」
自分がほんの数日だけ俺より早く、王との体液交換・賦活行為に及んだその日のことを(それも申請日時などというものではなく部隊内の割り当てでそうなったにすぎないのに)、センジは夕食前の休憩時間に、それこそべらべらとまくし立てる。
この三日間、ずっとこの調子だ。
教官からも王との賦活行為後の数日間は「該当者は興奮状態にあるので周りのものはその点を踏まえて対応すべし」、とも言われてはいたが、他の既に済ませた連中と比べてもセンジのこの王への心酔具合は少し大げさすぎないのかとも思い始めたカムリである。
俺、ガイホウ・カムリが同室のゴウホウ・センジと同じく、今期入隊したサイジニア国軍の宿舎で過ごす夜は、もう一ヶ月と半月も過ぎた。
2人とも自由時間のことでもあり隊舎内の居室では外着用の褌も外してしまっている。当たり前と言えば当たり前だが、自然に互いの股間のものも目に入ってくる。
カムリにしてみれば上背は同年齢のセンジに負けるものの、唯一自分がデカいと思える逸物も、今夜の勢いだけみればセンジに分があるようだ。
午後の座学の時点から褌の前袋に収まりきれない程になっていたセンジの胴太のそれは、部屋に帰ってくればもう先端に露すら浮かべ初めている。
生まれ年が同じで初等教育機関に入る前の幼児集団教育時からずっと一緒のグループにいたセンジとは(性格は教師からも正反対だねと言われてすらいたが)、なぜか物心ついた時点でも既に周囲からもあの2人は仲がいいと認められてきた。
互いに腐れ縁だなんだと言い合いながらも、この年までほぼ同じ人生を歩んできている。
関係性もほとんど変わらない。
やんちゃで茶目っ気のあるセンジのいたずらの不始末はずっと俺の役割だったし、同じことをしてもなぜか「カムリがちゃんとしなきゃダメだろ!」と、怒られるのは俺ばかりだった。
センジが後から必ず「俺のせいでごめんな。いつもカムリばっかり言われてさ」と小声で言うのを聞くために、おこられていたようなものかもしれない。
自分は中等教育校の最終学年に、センジの方はほぼ一年後の前期高等教育校の新入生になった年に精通を迎えたが、そのときの相互手指接交の相手も2人だったのだ。
あのときだけは自分の方が先輩風を吹かすことが出来たし、その後も肉棒の長さでは自分が上回ってるはずなのだが、なぜかセンジからは軽く見られている気がしている。
互いに精通が済めば肛門を使った接交も可能になるわけで、お互いの時期がずれたせいでさすがに俺は別の奴との初肛門接交だったけど、センジの精通のときには一番にやらせてもらってなぜかすげえ嬉しかったんだ。
あいつも「カムリが最初でよかった」とか言ってくれて、これも嬉しかったな。
これまでの生育歴で一番多く肛門、口腔、手指接交をした相手も、やっぱりお互い様だった。
周りからはそろそろ生活や性的パートナー契約するんじゃないのかとも思われていたし、俺の方もセンジが良ければ早いうちに、との思いもあったのは確かだ。
入隊が決まったとき、それとなくこちらから話題にはしてみたのだが、センジから軽くあしらわれてしまった気がしてる。
本人からしてみると「まだ早い」とかいう、俺からしたら理屈でもない理由だったんだろうが、あの時の俺がかなり勇気を振り絞って話しを持ちかけたなんてことも、こいつは分かってないんだろう。
そんな思いを持っていた俺の目の前でこんな舞い上がりようを臆面もなく見せつけられると、憎まれ口の一つや二つも言いたくなってくる。
「そんなにライド王とのが良かったんなら、それこそ王とでもパートナー契約したらどうなんだ?
もっとも俺達みたいな一兵卒に、王が拘るとも思えないけどね」
「そう、俺もそう思ってたんだよ、あのときまではな。
でも王がさ、ちょっと自分を卑下した台詞、そう今のお前が言った『みたいな』って台詞言った俺に『俺みたいなもの、などいない。お前は自分と汁を飲み合う仲だ』って言ってくれてさ、もうたぶんあの時の俺、泣いてたんじゃ無いかなって気がする。
だって、あの時さあ……」
ダメだ、皮肉も通じてない。
王との体液交換からのここ数日は、ずっとこんな調子だ。
いくら付き合いが長いとはいっても、ちょっとだけきついよな、これ。
早くから義務教育年限終わったら軍に行くと言っていたセンジが、俺が後期高等教育校に進学するかどうか迷ってるのを知ってた上で『一緒に行かないか』って声をかけてくれた時は、俺、本当に嬉しかった。
愛される後輩キャラのセンジと違って、俺はどうも上の言うことになんかそれだけで反発してしまうというか、素直に従う自分が嫌というか、そんなところがある。
意見を言う、ってことを認めてくれる人もいたし、何となく嫌われてるなって思うこともよくあった。
そんな俺だからこそ、前記高等教育校で研究テーマにしていたSOTについてもっときちんと学びたいっていうのと、軍みたいに自分の気持ちはどうあれ統一した行動を取ることを懲罰を持って強制される、ってとこに、どこか歪んだ興味もあったんだよな。
実際に軍に入ってみると思ってたよりそんな理不尽さは無くって、王との賦活行為の説明さえ合理的だったし、儀式ばったやり取りの持つ意味のきちんとした解説とかあって、拍子抜けというか、なるほどと思ったりもしたけど。
そのときの俺は進路についてセンジのかけてくれた言葉に二つ返事で乗るのもなんか悔しくて、悩んだフリとかしてた。けど、それでもたぶん、あいつが声かけてくれた時点で一緒に入隊するってのは決めてたんだと思う。
周りからは小さいときからそれだけ一緒に何もかもやってきてて、飽きない? とか言われるんだけど、ことセンジについてのことならば、俺は全然飽きるなんてことはなかった。
生活リズムについても入隊して初めて他の種族の奴らとも生活空間一緒になって色々興味は広がったけど、やっぱりあいつといるのが一番楽で楽しいんだと思う。
「なあ、俺、あれから滾って仕方ないのは分かってくれるとも思うけど、飯前だけど、1、2発、抜いてくれないか。
自分でやってもいいんだけど、せっかくだし」
どうせいつも2人で色々やりあってるわけで、別に断る理由も無い。
「賦活行為の後は仕方ないしな。俺もお前のに当てられちまうから、せめて一発は抜いてくれよ」
「もちろんもちろん、カムリのだったら何発でも飲むのは当たり前だろ」
内心嬉しいんだけど、一応言葉にはちょっとだけ仕方ないなって感じを入れてみる。けど、やっぱりあいつには通じない。
軽く自分のを扱きながら息を上げはじめてるセンジを見ると、俺のも堅くそそり勃ってきた。
居室内にいるときはだいたい2人とも(他のみんなもだが)素っ裸なわけで、なにかの拍子に自分のが勃ったら、手指接交や口腔接交で抜き合うのはいつものことだ。
身体測定のときの数値で、俺が勃起時の背面計測36㎝、あいつが30㎝だったかな。
反対に身長はあいつの方が10㎝近く高いので、本人は体格差からちょっと俺にコンプレックスがあるのかもと思うときがある。
確かに俺の方がデカイと言えばデカイとは思うけど、俺はセンジのずどっと太さが目立つチンポがすげえ好きだった。
「やっぱりカムリのはデケえなあ。昨日も言ったけど、王のよりデカいと思うぜ」
「俺はセンジの、『ず太い』って感じのが好きだけどな。
どうする、しゃぶるだけでいいのか?
それとも尻でやるか?」
いつもと同じやりとりが始まった。俺がもともと太いのが好きってのもあるけど、実際の本音は「『センジの』太いのが好き」なんだけど、伝わらないよな、やっぱり。
「尻は飯食った後でもじっくりやろうぜ。お前のも飲みたいし、お互い手と口でサクッとやりてえ」
どうもベッドに横になってじっくり楽しみたい、という感じとは違うようだ。
椅子の背を少し寝かせて足を投げ出して座るセンジを見た俺が、太い両足の間に割り込むように床に膝立ちになる。
目の前の茶色く繁った茂みからぬっとばかりに突き上がる逸物は、小指の先ぐらいは入りそうな先端の切れ目から流れ出した尿道球腺液で、濡れそぼっている。
俺はセンジの股間から立ち昇る、なんとも言えない雄の匂いが大好きだった。
深く吸い込めば、すでに勃ち上がってた自分の肉棒からも先汁が染み出してくる感覚が伝わってくる。
「一発目は一気にイきたいんだろう?
最初から飛ばすぞ」
「おう、頼む。激しくやってくれよ」
俺はほんの少しだけ余ったセンジの皮を右手でぐっと引き下ろし、先走りが溢れ出る鈴口の少し下側、雁首と肉茎の間、一番敏感な部分に自分の鼻鏡(はなかがみ)を押し付ける。
べっとりと押しつけた皺の寄った鼻孔の周りの面を蠢かし、センジの先汁に濡れた裏筋を刺激する。
俺もセンジや友達にこれをやられると、その微妙な刺激と舌や口蓋との滑らかな刺激と違う皮膚面のざらつきに、堪らなくなる。年配の上手い人にヤられると、これだけでイっちまうことすらあるんだ。
「ああっ、カムリっ、気持ちいいよ……」
案の定、頭上から小さなよがり声が聞こえ始めた。
獣人の中でも俺達のような猪族だけが使えるこの技は、他の種族の連中にしてみるとすごいテクニックに思えるらしい。それでも同族同士だといつもヤってるわけで、普通の楽しみに過ぎないよな。
直接押し付けた鼻孔から思いっきりセンジの匂いを吸い上げると、俺の下半身もトロトロとした粘り気のある汁を垂れ流しはじめた。
十二分にセンジの濃厚な雄の匂いを堪能した俺は、次にぷっくりと膨らんだ亀頭をべろべろと舐め上げる。
センジの先走りと俺の唾液とにまみれた表面は、まるでこちらの顔まで反射してしまいそうなほどに張り詰め、針ででも突けばぷつんと膨らみきった風船が弾けてしまいそうにすら見えた。
先端を口吻(マズル)におさめると唇と口蓋だけでぐちゅぐちゅと刺激し、裏筋を舌でめちゃくちゃになぶり上げる。
「うおっ、気持ちいいっ!
やっぱりお前の尺八が一番気持ちいいなっ!」
頭の上に聞こえるあいつの台詞に何だか少し腹が立った俺は、すぐにでもイかしてやれと肉棹を握り締める右手の上下運動のギアを上げ、左手で握ったデカい金玉はグリグリと軽い痛みが出るぐらいに刺激する。
「あっ、あっ、玉も気持ちいいっ!
そんなんされるとっ、イっちまうぞっ! すぐにっ、イっちまうっ!」
俺はイけイけっ、イっちまえって思いで一層頭の動きを早くする。
「あっ、あっ、イくっ、イくっ!」
「んっ、んんっ、んんっ!」
あいつの汁が俺の喉に当たる。
熱い、濃い、大量の汁が何度も何度も噴き上げる。
こぼすのももったいないと喉を鳴らして飲み込みはするものの、その量と勢いに何度もえずきそうになる俺だ。
しかもセンジの奴、イってる間も刺激してほしいのか、俺の頭を押し付けるように引き寄せるから、余計に喉奥が刺激されちまう。
「おおっ、すげえっ、すげえよっ、イってるとき、亀頭をカムリの喉がヌルヌル当たって、俺、もう、たまんなかったぜ!」
やっと抜いてくれたセンジの逸物は、その全体が俺の唾液腺とまだ漏れ出てる自分自身の雄汁でぬらぬら光ってた。
「次はお前のしゃぶってやるから、その後、もういっぺん頼む!
一発じゃ全然おさまんねえからな!」
まあ、直接王の体液入れられてるわけで、仕方ないよなって思いと、結論としてはセンジのを味わえることは俺にとっても嬉しいことで、一応はやれやれといった顔しながらも、交代して俺も浅く腰掛ける。
あいつの体温で温まった椅子が何となく嬉しい。
「目の前で見るとやっぱりデカいよなあ……。
背は俺の方が高いのにこれって、なんか不平等な感じするんだけどな」
尺八してもらうときは毎回のように聞くセンジの台詞だが、こっちも同じで返す言葉は決まってる。
「さっきも言ったけど、俺はセンジの『ぶっとい!』ての方が好きだぜ。
そんなに言うなら交換してくれよって思うぐらいだけどな」
「だってあのライド王のよりデカいって感じがするんだぜ。
明後日はどうせ素っ裸でやり合うんだから、大きさも比べてみろよ。
交換したいのは山々なんだけど、俺のと交換しちまったら、お前とケツ交尾するときのあのググッて抜かれるときの感覚、味わえなくなるからなあ……」
まだしゃぶるわけでなく玉を弄られながら軽く扱かれているだけだけど、目の前にセンジが、と思うだけでイきそうになってる自分がいる。
「早くヤってくれよ。お前ももう一回はイきたいんだろう?」
無理やりセンジのせいにしてるな、俺。
「お前のって全部は咥えらんないからなあ。
俺もお前みたいに唇で根元を、喉奥で先っぽ刺激したいんだけど、下手でごめんな。その分、舌の動きで感じさせてやるから勘弁な」
確かにセンジの奴、他の同年代の奴らと比べても、しゃぶり上げはちょっと下手くそな気がしてる。
接交授業で平均長までのは呑み込めるように嘔吐反射の抑制法とかも教わってはいるけども、平均よりは少し長さもある俺のだと、やっぱりきついみたいだった。
まあその反動か肛門能動接交のときの勢いや連続射精しながらの持続時間とかすごいから、俺も含めて誰も欠点とは思ってないかな。
あいつのデカい手と握力での扱きあげもかなり気持ちいいし、そのあたりはみんな一長一短あるのが当たり前なんだと思う。
「俺、お前の玉責めも扱くのも、亀頭を口でやられるのも、全部力強くて好きだぜ。
実際、お前に全力で責められるといつもあっと言う間にイっちゃうし」
「へへ、力強いのだけが俺の取り柄だしな。頭の方はいつもお前に任せてて悪いとは思ってるんだぜ」
「お世辞とかそんなのはいいから、早くやってくれよっ。
もう俺も我慢出来ねえんだよっ!」
話してる間も玉をゆっくりと揉み上げてくる。先走りでぬめる肉棹をゆるゆると扱かれるのにも、もう俺は堪えられなくなってきてた。
「よおし、すぐにイかせてやるから、また俺のも頼むぜっ!」
センジは潤滑油に手を伸ばす時間も惜しんでか、自分の唾液をジュルジュルと俺の肉棒に垂らすと、そのゴツい手のひらで俺の根元を握り、激しい扱き上げを始める。
亀頭を含む口は主に潤滑油代わりの唾液を補充するために先端を含んでるようだ。それでも熱い粘膜に擦られる先端は気持ちいい。
金玉の付け根と雁首までを往復する手のひらが、数回に一度、ズルッという感じで亀頭を握りつぶすように鰓の段差を乗り越える。
もちろんわざとヤってるセンジのテクニックだけど、そのたびに腰を引きそうになる快感が脊髄を駆け上がる。
ついさっきまで太いセンジの逸物をしゃぶり上げ、自らも滾りきっていた俺は、呆気なくその時を迎えてしまう。
「あっ、ああっ、もうっ、イくっ、イっちまうっ、センジっ、イっていいかっ? 俺っ、イっていいかっ?」
「よしっ! イけっ、イけっ、カムリっ、イっちまえっ!!」
「イくっ! イくっ! センジに扱かれてっ、俺っ、俺っ、イっちまうっ!!」
センジが扱きはじめてから考えても、本当にあっと言う間だったと思う。
センジの名を呼び、俺の名をセンジが呼ぶ。
それがもう、たまらなかった。
涙が出そうになるぐらい、たまらなかった。
「へへ、すげえイってくれて、嬉しいな。
それだけ俺の扱きが気持ちよかったってことだもんな」
胸まで飛んだ俺の精液をズルズルと旨そうに啜りながら、センジがにこにこと話しかけてくる。
センジは俺とのときも、他のみんなと一緒にヤるときも、いつも周りの奴のことを「気持ちよかった」「嬉しい」「すげえよ」って、色んな台詞で褒めまくる。
これってたぶん、なかなか出来ないよなって思う。
自分のタイミングとちょっとズレたりとか、一緒にイこうって流れで相手が堪えきれなかったりとかって、よくあるだろ?
そんなとき、俺の目の前にいるこいつは、いつも笑って相手に絶対恥ずかしいとか申し訳ないって気持ちを起こさせないようにフォローしてる。
それが伝わるからこその人気者なんだろうけど、いつもちょっとだけ、それを俺だけに言ってほしいって思う自分がいたりする。
そして俺は、そんな自分が、すごく嫌いだった。
そんな俺の思いになんぞ気付いてもいない風なセンジをもう一度椅子に座らせると、俺も再度、口と手の刺激を加え始める。
俺は対面位での口腔接交でもセンジぐらいの長さならなんとか口吻(マズル)内に全長をおさめることが出来る。センジが褒めてくれたように根元を締め上げながら喉奥で先端を刺激するワザは、けっこう評判だ。
たぶん5分もかからなかったと思う。
センジの奴、二回目もすぐにイってくれて、たっぷりと飲ませてくれた。
互いの汁を丁寧に舐め上げて、俺達は食堂へと向かった。
「おいおい、飯前にもうやってきてるんかよ。
センジは仕方ないにしてもカムリまでとはなあ」
同じ猪族の仲間がいるテーブルに食べ放題のトレイを持って行くと、案の定周りの連中から声がかかる。
シャワー浴びてきたわけでもないし、やっぱりバレるよな。
「うん、この感じだとセンジが2、3発、カムリが1発ってところか。
どうせ飯の後も何発かやるんだろうし、俺達も混ざっていいか?」
さすがに犬族には負けるが、俺達猪族も他の種族に比べれば鼻はかなり効く方だ。
種族特性ではあるけれど、元々の口吻(マズル)上部から鼻腔にかけてのヤコブソン器官の発達に加えて、広い鼻鏡(はなかがみ)そのものにも強い臭感知能があるのが強みなんだろう。
個々人の体臭や精液臭も精密な嗅ぎ分けが出来るし、訓練をちゃんと受けてれば一定の体調変化も察知出来る。種族違ってても相手の匂いを過去に一度でも味わっていれば、臭覚記憶もかなり蓄積出来るし。
このあたりは犬族と俺達だけの特権というか特技というか、屋外の風上にいたりしたら無理だけど、そこまで空気の流れが強くない空間であれば、だいたい同じ建物に誰がいるか、知らない人でもどの種族が何人いるかぐらいの情報であれば普通に分かってしまう。
そのあたり、別の種族の連中と話してるときとかは、逆に気を使うかな。
犬族みたいに未知の匂いを追跡する能力すらそこまで無いが、それでも猿族や熊族、人族に比べると臭覚での弁別能力は高い。
獅子族相手だと向こうに生理活性物質(フェロモン)散布能ってチートがあるのでどっちにしろ攪乱されてしまうけど、まあ戦場で獅子族直接追跡なんてことはまず有り得ないのでその点はマイナスされるってことでも無いしな。
「すまん、今日は朝昼夕って2回ずつ、合計6発で上澄みは抜いちゃってるから、夜中はカムリとじっくりヤりたくてさ。
明日は班全員でヤろうぜ」
皆に軽く返すセンジの答えが、なんだか嬉しい。
「さすがにセンジも三日目にもなるとちょっとは落ち着いてきたか。
昨日まではひどかったもんなあ。お前、実際にSOT出たら、フェロモン酔いでえらいことになるんじゃないか」
食堂中が一斉に笑った。
結局、その夜はセンジが4発、俺が3発出して、やっと互いに眠りについた。
肛門接交の話とかもしてたけど、王との接交に取っとけよって言いながら俺の口と手の刺激だけでイってくれた。
翌日は王との体液交換に備えて俺の訓練は休み。
居室で本でも読みながら過ごしてはみたければ、やはり落ち着かない。
夕方上がってきたセンジや同じ班の連中と盛ったけど、みんな大事な儀式を明日に控えている俺に気遣ってか、俺が2発イっただけで全体としては解散になった。
俺以外の連中は別部屋で続きになったようだけど、センジは「明日、お前がビビんないように」って、俺と一緒に部屋に残って同じベッドで寝てくれた。
それが俺への優しさなのか、センジとしてみれば敬愛する王への別の面からのアプローチなのか、俺には分からない。
夜になり、もう数時間後には始まる王との交わりを思って緊張と期待と興奮がごっちゃになってる俺に、あいつが言う。
「初めて直接フェロモン嗅がせてもらって、あんなに気持ちも肉体も昂ぶるって、ホントにもうスゴいからな。
緊張で勃たないかも、なんてのは全然気にしなくていいから。
お前もアレ経験したら、絶対に王様に付いていくってなるから。
俺がそうだったから、絶対そうなるから」
こいつこんなに頭悪かったっけ、って思うほどの繰り返しと間の抜けた台詞なんだけど、あいつの俺への励ましがいっぱい詰まってると思うと嬉しかった。
そこに含まれる、センジの、偽り無い、それゆえに純真=狂的と言えるほどのセンジの、「王」への賞賛に、ほんの少しだけ嫉妬してる自分がいることを、俺は知っていたけど。
いよいよ王との交わりの朝、俺の順番はその日一番の朝からのものだった。
当たり前と言えば当たり前だが、教官の話では1日に幾人もの「儀式」をこなす王に取って、この時間帯での行為は生理活性物質(フェロモン)の放出濃度が一番高くなるのだという。
普段の訓練では身に付けている胸当てや手甲、脚絆もすべて外し、股間を押さえる黒い褌一つで王の居室へと向かう。
熊族で占められているいるはずの警備の親衛隊の姿も見えないのは、儀式の内容を慮ってのことなのだろうか。
重たげな扉の前に立った俺の逸物が、通路にかすかに漏れ出る王の生理活性物質(フェロモン)にすら反応し、収縮性のある前袋に収まらなくなるほどに勃ち上がっている。
ノッカーを鳴らした俺が吠えるように尋ねる。
「今期新訓練兵、ガイホウ・カムリ、参りました。
入室してもよろしいでしょうか」
「扉は開いている。ガイホウ・カムリよ、入りなさい」
王の、低い、ゆったりとした落ち着いた声が聞こえる。
俺は重たい扉を開け、俺自身を変えてくれるはずの儀式を執り行うため、滾り始めた己の身を部屋の中へと進めていった。