セオリオとアレク
「なあ、そのアレク……。この後、お前の部屋に行っていいか?」
テーブルを片付け終わったセオリオが、アレクに小さく声をかけた。その厳つい顔付きはなぜか紅潮し、まさに欲情にまみれた雄の表情となっている。
こくりと頷くアレクに、セオリオの顔がさらに蕩けた。
団員で一番年若いベルは、片付けの後、早々に自室へと戻ったようだった。
アレクの部屋で、すでに全裸となった2人。
同い年に入団した2人は、現在の第二騎士団に配属される前からの付き合いがあり、ボルグの部隊に配属後、3ヶ月にわたった辺境調査の折には、毎夜その逞しい身体を重ね合い、ときにはバーンやバルガスをも交えた肉宴を繰り返していた。
今では互いの肉体に残る傷痕を、目をつぶっていてさえその唇で辿れるほどの仲である。
「食事をしているときから、お前のこれが欲しかった……」
セオリオがアレクの剛直を握りしめ、呟いている。
「セオリオ、俺もだ……」
同じように相手の怒張を扱き、その先端から溢れる露を旨そうに舐めるアレクではあるが、その内心はまだ揺れている。
”確かに俺は、セオリオの逸物を咥えたい、しゃぶりたい、尻穴で味わいたいと思ってる……。だがそれ以上に、もっと毛深く、もっと凄まじい匂いのするレイの、いや、獣人達の巨大な逸物を、欲しがっているんだ……”
自らが知らぬうちに獣人達の混合精液を飲まされた他の団員達と違い、アレクには自分が犯された明確な対象が存在している。それは狼獣人のレイであるとともに、彼から聞かされた獅子獣人、牛獣人、犬獣人のまだ見ぬ姿であった。
レイの企みに加担したアレクと、情欲の対象が定まらず我が身の火照りとのみ思う団員達との間には、大きな心情の乖離が生じていたのである。
「キスしながら、扱き合おうぜ……」
セオリオのかすれた声が耳に届き、その響きの官能に震えるアレク。
しかし彼には、その行為ですら物足りなく思うであろう自分の欲情が、浅ましく惨めなものにさえ思えていた。
それでもアレクの右手がゆっくりとセオリオの股間へと伸びる。
目の前の逞しい肉体に己の火照りをぶつけるしか、今のアレクには選択肢が無いのだ。
わずかにセオリオの方が上背はアレクには及ばないようだが、その肉厚の身体、体重だけで言えばセオリオの肉体に軍配が上がるだろう。
互いにそのずっしりとした上体を預け合い、唇を奪い合うかのようにして重ねる2人。
扱きもしない肉棒からとろとろと溢れ出る我慢汁が、2人の興奮を見事に表している。
「ベルの奴は、1人で大丈夫かな?」
ふと気が付いたかのように、アレクが呟いた。
己が獣人達の精液を飲ませた騎士団員達。
団長のボルグはその潔癖さからも、火照りを収めるにも1人で己が逸物を扱き立てるだろう。
バーンは先ほどの様子であれば、バルガスの部屋へと押し入ったのかもしれぬ。
自分達2人がこの状態であるということは、一番若くその性欲の昂ぶりに翻弄されるはずのベルが、1人取り残されているのではなかろうか。
「あ、ああ……。奴には、その、バーンさんがいるからな……」
「どういうことだ、セオリオ?」
熱に浮かされたようになった頭でも、セオリオの言い回しに引っかかるところがあったのだろう。
乳首を舐め回そうとしていた上半身の肉体を少しばかり押しのけ、アレクが詰問する。
「ああ、アレクは知らなかったのか……。俺もベルから聞いて、びっくりはしたんだが……」
「だから、なんなんだ。バーンさんとベルに、何かあるって言うのか?」
一時的にせよ、アレクの獣人の精液による昂ぶりを、ベルとバーンの関係への興味が凌駕したのだろうか。
珍しくもアレクの口調が荒いものとなっている。
「ベルも副団長も、別に隠してるわけじゃないって話だったから、構わないか……。この前、ベルを『バーン副団長とヤってないのはお前ぐらいだぞ』って、からかったんだ」
セオリオも一度きちんと話しておいたがいいとの判断か、アレクに向き合い座り直す。
「それで?」
「そしたらあいつ、さらっと言いやがって」
「なんと?」
「バーン副団長、ベルの奴の実の親父ってことだそうだ」
「え、ええ?! それ、副団長も知っててのことなのか? ベルがうちにいることも?」
「ああ、ベルの方から副団のいるこの分隊を希望したそうだ。副団はもちろん、団長も分かった上での配置ってことだった」
「だからか……。さすがにあれほど好き者のバーン副団長も、実の息子に手は出せないってことか」
さも納得したかのように頷くアレク。
「いや、それとはちょっと違うらしい」
「は? どういうことだ?」
「いや、なんでも双方ヤル気は満々らしいんだが……」
「実の親子なのに、か……?」
セオリオの言葉に驚くアレク。
この世界の現状のシステムからしても、アレクの反応・感覚はほぼ大多数のものも同じ反応をすると見てよいものだ。
もっとも、何事にも例外はあるのではあったが。
「ベルからしても、この団に入って初めてバーンさんと身近に接したってことだったが、ますます惹かれてる自分がいるって話しだった」
「言ってることが分からんぞ」
「ああ、俺もよく理解は出来なかったんだがな。ただ、すぐに『はい、ヤりましょう』、ってはいかなかったらしい」
「さらに分からん」
アレクもまた、セオリオの話しに混乱していた。
セオリオもまた、ベルの話しをすべて理解しているわけでは無いようだが。
「なんでもベルの方から『自分が槍で親父から1本取れたら、そのときに褒美としてヤって欲しい』って言ったそうだ」
「副団から1本って、それかなり時間がかかるだろう。実質的には拒否ってことじゃないのか?」
「いや、ベルの野郎の中では、この一年のうちに、って気合いを入れていたようだ」
「確かにあいつ、筋はいいとは思うが……。それにしても親子でヤりたがっているってのがもう、すごいな……」
「まあそう言っても、俺でも親父がバーンさんみたいなあんないい男だったら、ちょっといいなって考えるかもな」
この時代において、雌雄間の受精受胎については、性交交尾という先史時代と同様の営みが行われてはいるのだが、胎児の成長、及び乳幼児の育成教育については、先史時代とはかなりの違いが生まれていた。
妊娠が判明した時点で雌性個体よりの受精卵の取り出しと人工子宮での生育切り替え、妊娠38週を過ぎた時点での『出産』と、選定された家族による育成が行われている。
それらは6種族が生まれた時代以前より自己再生産可能な人口細胞(ナノデバイス)が人類の間に行き渡り、ヒトの経済的眼目であった財産の再分配システムと、出自を問わない教育環境の整備が目的によりシステム化された社会制度ではあったが、それゆえに実子実親の概念が非常に薄いものとなっていることは否めない。
近親間の生殖に繋がる交尾性交への禁忌として、親子関係、生殖ツリーの記録と告知はシステム化されているため、実母と実息子、実父と実娘の性的な関係は現在でも一定タブー視されてはいるが、触法とは言えない(避妊等の努力義務より)ため、少数ではあるが子の成人後においての性的・生活パートナーとしての存在はあり得ていた。
中でも生殖可能性のない同性間の性的パートナーについては、社会的な一定の理解もあるため、ここでのバーンとベルとの関係が否定されることではないというセオリオの認識もまた、特別視されるほどのものでもなかったのだ。
「その、それは、今日の雰囲気だとバーンさんがベルと、今、その、ヤってるってことなのか?」
「まあ、考えられないことじゃないってことだよ。お前もベルがバーンさんに憧れてる、それもあの屈強な肉体を含めてのことってのは、日頃のベルの奴見てれば分かってただろう?」
「あ、ああ、確かにそうだが……。それはあくまであの2人が親子ってことを知らなかったから、単純にそう思ってただけで……」
「別になんか問題があるわけではなし、俺達だってなぜかこんなにエロい気持ちになってるんだ。ベルの奴も若いし、バーン副団も色気強いし。ありえることじゃないかなって思って、飯の後も俺はわざとベルの奴をお前とのことには誘わなかった」
「お前も色々考えてたんだな……。ベルの、あいつの部屋で、バーン副団とベルが、今頃……」
「そう考えると、ますます興奮しないか?」
お預けにされたセオリオが、待ちきれなくなったのだろう。
にやりと笑うと、再びアレクの唇を奪う。
その熱情はたちまちアレクへと伝染し、2人の汗ばんだ裸体が絡み合う。
「あっ、すげっ、セオリオっ。もっと、もっと扱いてくれっ!!」
「こうか? こうか? アレクっ、俺のもっ、もっと強く、めちゃくしゃにしてくれっ!!」
「セオリオっ、たまらんっ! しゃぶっていいか? お前のチンポ、しゃぶっていいかっ?」
「しゃぶり合い、するぞ、アレク!」
「ああ、横になろう、セオリオっ!!」
各部屋に用意された寝台は、男2人が優に横になれる大きさの代物だった。
もともと鍛えられた騎士団員達である。その彼等が複数で同衾することを前提に作られているのだ。
相手のがっしりとした尻肉に手を回し、互いの股間に顔を埋める2人。
夕食後の汗の噴き出た肉体から漂う雄臭と、下腹部の茂み、とりわけ金玉の裏側から立ち上る性臭が、むわりと2人を包み込む。
身長と同じく長さで言えばアレクの逸物にわずかばかり分があるが、根元から中頃にかけての直径ではセオリオのそれが圧倒的な太さを誇っていた。
互いに二握りしても余るその長大な逸物を、熟したプラムのような先端を、舐め、しゃぶり、先走りと唾液に濡れる分厚い手のひらで扱きあげる。
時にはもっさりと茂った陰毛に鼻を突っ込み、肉棒の根元から滲み出る汗をねぶり尽くす。ごつごつとした血管がまといつく肉竿を下から上へと舐め回し、びくびくと脈動する尿道海綿体のひくつきをその舌で堪能する。
尻にも味わいたいが、こうなってしまったら、まずは互いの口に上澄み1発をぶっ放したい。
そんな2人の思いが高まった瞬間だった。
「おーい、お取り込み中悪いが、ストップストップ。お2人さんとも、まだイかないでくれよ。お楽しみはこれからだぜ」
「にしても、タウロさんの『魔法』、すごいな……」
「ああ、いくらなんでもここまで気付かせずに近寄れるって、なあ」
寝台で痴態を繰り広げるアレクとセオリオの耳元に、囁く声。
それまでまったく感じなかった獣臭が、突然室内に広がっていることに気付く2人。
視線を上げることすら出来ず、2人の逞しく若い肉体が硬直する。
その寝台に影を落とすのは、こちらも若い獅子獣人の2人。
よほど親しい者で無い限り見分けがつかないほどに似通った2人は、レイの元で育てられた獅子族の双子、レオンとライドであった。