「……、それとこれが、たぶん俺達の心に残った一番のもんだと思うんだが……。潮も陸朗も言わなかったがな。俺や潮、陸朗も、そして仁太、お前の親父さんも。『神子』をやった奴には確実にある『変化』が起こる。
もしかすると、その『変化』の方が、俺達が受けた痛みや責めよりも、ひどいことだったのかもしれんと思ってる」
いったい何のことだ?
ちょっと見たら、関屋さんも陸朗あんちゃんも、顔が引きつってるようにも思えた。
たぶん2人とも、思い当たることがあるんだと、俺、思った。
「俺や潮達には、事前にそれを言ってくれる人はいなかった。聡太さんも当然そうだったと思うが、もしかして自分だけかも、って思いはあったのかもしれん。これまでそのことについてちゃんと話したことも無いしな。
だが、今度ばかりは聡太さんの実の息子であるお前、仁太が矢面に立ってるんだ。きちんと話しておこうと、俺は思ってる。
こっから先の話、仁太、お前は聞きたいか?
もしかしたら、これを聞いたら、お前が俺達や、聡太さん、そう実の父親に対しての『見方』が変わっちまうかもしれん。それでもいいんだったら、聞いておけ。知ってるだけで、だいぶ『後のこと』が楽になるとは、思う」
店長、拷問の中身話してるときよりも真面目な顔になってた。
たぶんこれ、きちんと受け止めないと行けない奴だって、俺、思った。
「言ってください、店長。俺、どんなことでも、受け止めます。たとえ、親父のことだって、しっかり聞いて、しっかり考えたいです」
「よし、わかった。潮も、陸朗も、いいな?」
「はい、大丈夫です」
「はい……、監督の言わんとすること、俺も分かってます。仁太も、仁太も知っといたがいいと思います」
店長の言葉にあんちゃんも関屋さんも、頷いて唇引き締めてる。
2人にとっても、かなり『キツい』話しなんだ。
「仁太、お前がやることになる、いや、やろうとしている『神子』って奴は、確実にその経験したものの『心の在り様』って奴を変えちまう。
一つはたぶん、お前が俺にも言ってくれた親父さんや俺達がなぜそんな目にあってまで、丸賀谷のことに頑張るかってことだ。
これはある意味簡単な話だ。
慣らしの行に耐え、儀式当日のイかず勃起と何度もの射精に耐えた後、これまでの神子が背負ってきたものが分かった気がするようになる。
7年ごとに繰り返されるこんな苦行、結局は『みんなのため』って思い込まなきゃ、やってられないんだ。そしてそれをやり遂げた自分にはすげえ自信がつくし、周りの連中の目も変わってくる。
それを味わっちまうと、なんかこう、自分が苦労したことが無駄では無かったなって、喜びっつーか、どっか快感みたいなもんになるんだな。
それともう一つ。
こっちが潮や陸朗も感じていながら、お前に話さなかった、いや、話せなかった心の変化だ」
なんだろう、なんだろう。
俺、これまでの話しの中で、一番恐いって思っちまってる。
「よく聞けよ、仁太。あのとき、もうだいぶ昔の話しだが、『神子』として受けた慣らしの行と祭り当日の神事、それをやり終えた俺はな、あのときの俺と同じように何かに耐え忍んでる男を見ると、自分の魔羅が勃っちまうようになった。
男がシゴかれたり、気合い入れられてるのを見たり聞いたり、いや、考えるだけで、俺は勃起するようになっちまったんだ……」
勃起? 男が男を見て、それもシゴキや気合い入れ見て、チンポが勃つ?
そんなこと、本当にあるんだろうか。
でも、店長がそんなことでわざと嘘言うはずなんかありえなかったし、冗談を言う雰囲気でもまったくなかった。
俺、話してくれた店長の目、見れなかった。
店長も、遠い目っていうか、なんていうか、諦めにも似た、なんかそんな感じだったんだ。
「そんなはず無いって思うだろうな、仁太……。
今から証拠を見せてやる。
お前に神子の、慣らしの行の話しをして、俺はもう、勃起しちまってる。魔羅がおっ勃っちまってるんだよ。
そして、こんな話ししてると、俺はせんずりして、自分の魔羅から汁飛ばしたくなってるんだ」
店長、いきなり立ち上がって、俺の前に来ると、いきなりズボンを下ろしたんだ。
履いてたトランクスもすぐに膝までざっと下ろすと、そこにはカンカンに勃起した、店長のチンポがあった。
「潮、陸朗、お前達も『そう』なんだろう。仁太に見せてやれ」
「うっす」
「分かりました、監督」
店長が話す中、もう覚悟を決めてたのか、2人とも短い返事をして立ち上がる。
関屋さんが入ってきたとき、後ろ手に引き戸は閉めてるとはいえ、鍵はかけてないはずだ。
「見ろ、仁太。俺、お前に『行』の話ししてたときから、チンポ、もうギンギンだったんだ。俺が神子のとき、店長にも扱かれて、しゃぶられて、何度もイかされた。そのこと思い出して、俺、今、勃起してるんだ」
陸朗あんちゃん、ズボン脱いだらもっさりした茂みから、ずる剥けのチンポがにょきって上向いてる。腹に着きそうな勢いで、天を突いてるんだ。
「俺もだ、仁太。見ろ、これが神子をやった俺達の、嘘偽り無い姿だ。俺も店長と一緒で、今すぐにでもせんずりして、射精したい。お前の見てる前でも、猿みたいに自分の扱いて、雄汁出したいって思っちまってる。
慣らしの行の話しに、神事のときの焦らされた上での最初の射精、その後は何度もイかされたときのこと思い出して、せんずりしたいって、思ってるんだ」
関屋さん、店の掃除の後かなんかだったのか、Tシャツとハーパン姿だったんだけど、上も下も全部脱いじまった。
3人の中では一番でっかいチンポが、先っちょがもう先走りで濡れて光って、すげえむわっとした匂いが広がる。それぐらいもうずっと勃起してるんだ、興奮してたんだってのが、見ただけで、匂っただけで分かるチンポだった。
「仁太、俺達の話を聞いて、そしておっ勃った俺達の魔羅を見て、それでも『神子』を引き受けるかどうかは、お前が決めろ」
「店長、それって、親父も『そう』なんかな……」
俺、頭がついてってないのは分かってたけど、それでも親父も神子の経験者だってのだけは、やっぱり気になってたんだと思う。
「ああ、おそらくだが間違いないだろう。聡太さんのときは俺のときよりさらに責めも過激だったはずだ。
その分、『行』と『儀式』をやり終えたときの達成感もすごかったはず。あの苦痛と快感のせめぎ合いを経験した男が、その後、普通の男の感覚でいられるはずはないと、俺は思ってる」
親父も、いや、親父が、もしか俺が行や儀式で責められてるのを見たら、そして、それを想像したら、親父もこの『俺』で、チンポを勃てることになるってことだ。
ぜんぜん、想像出来なかった。
親父が、俺のこと思ってチンポを勃てる?
親父が、俺のこと思って、せんずりする?
どうしていいか、分からなかった。
腹が決まってた、そう自分でも思ってたけど、もっとすごい話しだった。
俺が思ってた以上に、この『神子』を引き受けるって、すごいことだったんだって、店長達の話しを聞いて、やっと分かった。
それでもそんなことを聞かされずに引き受けたみんなに比べたら、俺、すごい恵まれてるんだろうなってことも理解出来た。
でも、俺、やっぱり『やりたい』って思った。
思い直した。
店長とこで働き始めて、俺、ますますこのあたりのことが好きになってることが分かってた。
どこそこで声掛けてくれるおっちゃん達。
おばちゃん達はスーパーでニコニコしながら買い物して、このところ増えてきてるガキんちょ達も、みんな大声出しながら走り回って。
たぶん、神社支えてる人達、商店街の人達、ここに住んでる人、仕事や学校で来てる人、みんなちっちゃな幸せを支え合って、生きてるんだ。
そんなちっちゃな、ホントにちっちゃな『幸せになりたい』って願いをなにか目に見える形にするのが、たぶん、祭りであり、神事なんだって、俺、思った。
いじめみたいに責められても、陸朗あんちゃんがいる。関屋さんがいる。
この地域でずっと生きてきてる、親父が、赤嶺さんがいる。
それだけで、俺が立つスタートラインは、この何十年かの中でも一番整えられていた。
「店長、いや赤嶺さん。関屋さん、西村先輩。
俺、今年の『神子』やります。
行も儀式も、全部やりきって、店長達みたいな、親父みたいな『男』になって、この丸賀谷を支えていきたい。そう決めました」
「ホントに、本当にいいんだな、仁太」
「はい、俺、『神子』やります。話し全部聞いた上で、俺が、自分の気持ちで決めました」
俺の答え聞いて、店長ちょっと棒立ちになってた。
その後、ズボン引き上げて、でもベルトまでは止めずに、ドサッと椅子に腰を下ろす。
関屋さんもあんちゃんも、チンポ出しっぱなしはさすがに無いよなと、身繕いしながらまた椅子に座ったんだ。
「これだけの話し聞いて、よく決めてくれたな。氏子の1人としても、礼を言う。本当にありがとう、仁太。どうする、聡太さんには俺から知らせておこうか?」
「いや、俺から伝えます。すみません、今、電話いいですか? 早いほうがいいと思うんで」
「ああ、聡太さんも安心するだろう。電話、いいぞ」
俺、短縮に入れてる親父のスマホを慣らす。
たぶん、今日その話しするって親父も知ってるからなのか、すぐに声が聞こえた。
「仁太か?」
「うん……。親父、俺、『神子』やるの決めたよ」
「もう良治達から、話し聞いたのか?」
「うん、色々聞いた。聞いた上で、俺、やるって決めた。親父にすぐ言いたくて、電話したんだ。ごめん、仕事中に」
「馬鹿が、こういうのに仕事もへったくれもあるもんか……。本当に、いいのか? 良治達から俺の話しも出たんだろう? 気持ち悪いとか、変態とか、そんなの大丈夫なのか?」
「全部聞いた上でって言ってるだろう! 俺、親父のことも店長や関屋さん、陸朗あんちゃんのことも、ますます尊敬はしてるけど、変態とか気持ち悪いとか、ぜんぜん思ってないから。
そりゃ、色んなことでチンポおっ勃つって話しには不思議だなって思ったけどさ。それでも、俺、親父や店長みたいに、この町のことずっと考えていける男になりたいって、話し聞いて思ったんだ。
だから、やる。
俺から『やらせてくれ』って言ってるんだ。それでいいんだろ、親父?」
親父、電話の向こうで泣いてるみたいだった。
よかったよな、電話で。直に言ってたら、俺もたぶん、おんおん泣いてたと思う。
「わかった。今度の総代会でお前に決まったことを報告する。7月1日に発表って形になるし、慣らしの行は7月の15日からになると思う。俺は行にはまったくかまえないし、それは良治も同じだ。そのあたりもよく話し聞いといてくれ」
「分かった、親父。俺、親父や良治さんとのこと、すげえよかったって思ってる。じゃあ、夕方に」
「ああ、ありがとう、仁太。本当に、ありがとう」
親父との電話、3人ともしっかり聞いてた。聞いてくれてた。
「確か店長は年の関係で行にも儀式にも直接の参加は出来ないんスよね」
「ああ、そうだ。行から先、お前の身体に触れるのは25才から厄年前の男だけだからな。潮がギリギリ、後は陸朗だけだ。それも潮は仕事の関係で、行にも毎日参加出来るわけじゃない」
「監督すみません。来月からは水曜の休みもなくして、また日曜だけの休みにしようと思ってて」
「バカモン、仕事が一番なのは当たり前だ。ただ、陸朗じゃ氏子の男達を抑えきれんだろう。どうしても年齢順ってのはあるからな……」
「ごめんな、仁太。俺がもちょっとしっかりしてりゃ、お前を守ることも出来ると思うんだが……」
関屋さんは儀式当日は参加するけど、行のほうは日曜とかの動けるときだけ。陸朗あんちゃんも参加する氏子の中ではまだまだ若いほうって感じなので、結局は俺自身の男としての力量でこなしていくしか無いんだよな。
もっとも、神子ってたぶんそれが狙いの1つだと思うし、地域で動ける人間をどう作っていくかのシステムの1つなんじゃって思えてきた。
それに応えられるかどうかは、俺次第ってわけで、俄然、なんかやる気っていうか、頑張らなきゃなって気持ちがわき上がってくる。
単純なのかな、俺。
「そうと決まれば……。まだ行の開始まで二ヶ月近くあるわけですし、監督、俺達で仁太のために、行の『練習』してみませんか?」
関屋さんの話しに、みんなの頭にはてなマークが浮かぶ。『行』の練習って、なんだろう?
『行』そのものが祭り当日の『神占の儀式』の練習みたいなもんだから、さらにそれの練習って?
みんなの疑問に答えるように、関屋さんが説明を始めたんだ。
「単純な話しなんです、監督、仁太。俺達みたいな『神子』経験者にとって一番肉体的にキツかったのは『慣らしの行』のときですよね、監督、陸朗?」
「ああ、そうだな。『行』に比べたら『神占の儀式』そのものは寸止めの後の射精、後は何度もイって、みんなの精液飲んでって、そんなもんは『行』を済ませて後にはへのかっぱみたいなもんだ」
「俺もそうでした。もちろん『儀式』も終わったときには泥のように疲れてたけど、なんかもっとやりたいっていうか、イきたい、出したいみたいなのも確かにあった気がします」
関屋さんの話しに監督もあんちゃんも答えてる。
「で、その『行』、仁太の立場になれば普段なかなか顔を合わせない男達から乱暴されるってイメージになると思うんです。それを俺達、元からの顔見知りでかつ『神子』経験者で、『こんな感じだぞ』って再現しておく。
それをやっとけば、仁太もかなり安心して『行』を受けることが出来るんじゃないかって思って」
「なるほど、『行』が始まる前に免疫を付けとくってわけだ。俺なんかじゃ、まったく考えつかなかったな」
関屋さんの話、なるほどと思った。
かなり具体的には聞いたけど、やっぱり一度『味わっておく』っていうのは、だいぶ不安を和らげてくれると思う。
「俺、それ、やられてみたいです。
店長、関屋さん、陸朗先輩、俺のためにって言ったら申し訳ないスけど、『練習』お願いします!」
俺、3人に頭下げた。
これやっとけば、だいぶ違うはず、そう思えたんだ。
「わかった。昼には俺達もなかなか時間取れないから、まずは今度の日曜、練習の打ち上げが終わった夜に、潮んとこの店でどうだ」
「了解です。打ち上げはいつも2時間でかっきり締めてもらってるんで、片付け考えても8時には始められますよね」
野球チームの練習は月2回、日曜日の朝からなんだけど、打ち上げはその日の夕方5時から2時間くらい、だいたいは関屋さんとこのお店でやってるんだ。
元々日曜は定休日なので、その分関屋さんは大変だけど、準備も片付けもみんな手伝うから割と早仕舞い出来る。
「仁太もみんなも、いいな。練習っていっても神さんの儀式の話しだ。生半可な気持ちじゃダメだからな。日曜は気合い入れていけ」
「うーっス!!!」
店長の言葉に、俺達3人、意気揚々と答えたんだった。