「そうか、聡太さんから、話、聞いたか……」
「はい。それで、店長や陸朗先輩からもちょっとどんなだったか聞いてみたくて、返事は待ってもらってます」
「陸朗が帰ってきてから、しっかり話そう。ただ、お前、俺と陸朗の話聞いて、『やっぱり止めます』ってのもあるのか?」
「……、俺、たぶん、腹は決めてるッスよ」
「……、わかった。2時過ぎにはあいつも戻るだろう。そんとき話そう」
「了解ッス。午前の分、頑張ります!」
朝から店長に、昨日親父から聞いたことを話したんだ。
それで、同じ神子経験者の陸朗あんちゃんも一緒に話ししようってなった。
祭り、神事そのものはここら辺の景気っていうか、色んなことをよくしようと思ってのことだろうし、そのあたりは親父や店長達も複雑な気持ちなんじゃないかって、一晩考えて、俺、思ったんだよな。
俺、親父の帳面、昨日そのまんま借りてさ。けっこう遅くまで見てた。
そこには祭りや神事のこと、すげえ細かく書いてあって、親父もものすごく勉強っていうか調べたっていうか、そういうのもなんかすげえって思ってさ。
それだけ真剣っていうか、親父も『そんな目』に遭ってるはずなのに、ずっと神社や地域に関わってるのって、そこにはなんかあるんだろうし。そう考え出すと、店長や陸朗あんちゃんも毎年の神社の祭りや、なんか行事あるとすげえ頑張ってるなあって。
それ、親父が話したようなひどい目にあっても『この場所』や、『ここの人達』『神社』が嫌いになってないってことだろ?
そこらへん、店長達の話し聞くと、なんか分かるんじゃないかなって思ってる。
俺、親父を困らせたくないってのはまずあるんだけど、それよりなにより、なんでそんなふうに思えるのか、みんな嫌な思いしてるはずなのに、なんで今でも神社や祭りに関わってるのか、そこらへん、知りたいんだ。
「じゃ、店長。配達行ってきます!」
「おう、気をつけてな」
午前で大丈夫なところの配達と注文取り、いつものように俺、荷物台付けたチャリにまたがって出かけることにした。
色々あっても、やっぱり、まずは仕事頑張らなきゃだよな。
週末前だし、けっこう大変なんだ。なんといっても水物運んでるって緊張感もあるわけだし。
「おう、仁太……、って、ごめんごめん。もう『山崎さん』だな」
「関屋さん、そんな、仁太でいいっスよ」
「まあ、野球んときと言い方変えると変だし、仁太でいいっか」
「俺の方もそっちが気が楽ですってば」
商店街で小料理屋やってる『関屋潮(せきやうしお)』さん。
なんか親父の話だと、関屋さんも神子経験者だったってことなんでそのあたりも興味あるんだけど、神子が受ける洗礼?みたいなもん考えると、確かに話題にしにくいなあってのもちらっと考えたりでさ。
まあ、うちの店のお得意さんでもあるし、ぼちぼち聞いてけばいいかなって思って、今日はまずはいつもの配達と注文のことを済ませることにする。
「えっと、ビール2ケース、日本酒3本、焼酎2本、これで良かったっスかね?」
「ちょっと待てよ。えーっと、うん、OKOK。あ、これ、火曜分の注文書いといたから」
「ありがとうございます! 了解ですっ!」
「日曜日の練習、仁太も来るんか?」
「行きますよー。さすがに店長んとこにいたんじゃ、サボれ無いッスー」
「ははは、そうだよな。高校んときとは、えらく違うだろ?」
「さすがに部活と比べると楽っていうか、楽しいッスよね。それまではクラブチームだったんで、高校は段違いにキツかったッス」
「まあ、おっさん達が酒飲むためにやってるようなもんだから、お前も気楽にな。ストレス解消が一番だ」
「そうっすよね。俺はまだ酒はあれだけど、すんげえ楽しいッスよ」
「お前らの世代って、そこらへん、ちゃんとしてるよな。俺らんときとか、仕事しだしたらもう、飲んでたぞ」
「そうはいっても、やっぱ、大っぴらなとこじゃ怖いッスよ」
「ま、俺の店も、外っちゃ外だな。そういうことにしとこうか」
練習や試合のあったときの打ち上げ、関屋さんの店でやること多いんだよな。
カウンターと追い込みあって、仕切り外すと20人ぐらいの宴会出来るので、ちょうどいいし。ただそうなると関屋さん自体は営業日で無くても仕事しないといけないことになるわけで、そこらへんはみんな気を遣って手助けしながら回してる感じ。
店長が監督ってのもあるけど、そういうのは支え合うっていうか、個人に負担がなるべくかかんないようにはしてる気がする。高校までのノリとは全然違うよな、やっぱり社会人のチームだなってのは、俺、すごいって思ってるんだ。
「じゃあ、日曜日はよろしくお願いします!」
「おう、俺も参加するから、監督にも言っといてくれな」
「了解ッス!」
関屋さん、40手前って話しだけど、まだ独身なんだって。
いまどき40代で1人の人はぞろぞろいるからそれはいいんだけど、お店が基本1人でやってるので、それは大変みたい。
がっちり太めって感じで、たぶん店長より体重あるんじゃないかなあ。野球も上手くって、サードとかレフトでばしって決めるときはかっこいいよ。
陸朗あんちゃんとも仲良くて、ちょいちょい店にも顔出してくれるお得意さん。まあ、このあたりの飲み屋さんはみんなそうって言えばそうなんだけど、野球で繋がってる分、店長ともわいわいやってるから、そういう意味ではいい兄貴分って感じなんだと思う。
さすがにチャリだと一回で運べる量に限りがあるので、週末控えてる週の後半の配達は何度も得意先と店の往復になる。
まあそんなに広い町でも無いから、陸朗あんちゃんと2人戦力だとけっこう早く終わるかなって。夕方配達にしないといけないところもあったりするから、そこはどうしても遅くなるけど、毎日ってわけじゃないので、夕方前には俺の仕事はだいたい終わるってのがほとんどかな。
親父の金物屋も夜は開けてないので、夕飯は早い方だと思うよ。
で、午前中の配達分終わって、ちょうど昼頃に店に戻ったら、陸朗あんちゃんももう帰ってきてた。
2人で伝票の突合して、発注までかければ午後の配達まではゆっくり出来る感じ。
飯食い終わったら話そうって店長言うので、事務机のとこに3人集まっての昼飯になったんだ。
「ちわーす! 監督、陸朗、仁太、邪魔します!」
「あっ、関屋さん! こ、こんにちはっ??? さっきはどうもっした!」
そのときだった、店の引き戸ガラガラって開けて、関屋さんが入ってきたんだ。
「おう、済まんな、潮。ああ、仁太に話してなかったのか。配達行ってもらったから、てっきり話してたとばかり思ってたんだが」
「へへ、ちょっと驚かせたかったですしね。あ、仁太、俺が神子やったってのも聞いてるんだろ。そんでもって俺を入れて、監督と俺、陸朗が神子やってから丸賀谷に残ってる3人なんだ。もちろんお前の親父さんもだけど、聡太さんは監督の一代前の神子ですよね?」
「ああ、そうだ。聡太さん、俺、潮、陸朗と続いて、7年前は別の奴だったんだが、そいつはその後に町を出ちまったからな。聡太さんの後の神子が、これで全員集合ってことになる。今日は午後は仁太にみんなでレクチャーってことで、集まってもらったんだ」
びっくりだけど、確かに7年に一度、それも一人だけって考えると、何十人とかいるわけじゃ無いんだよな。
親父の後だけでも4人しかいないってのも、なんだか不思議な感じ。
まあ、結局全員よく知ってる人だってのも驚きだけど、それだけこの『神子』やった人が、この丸賀谷で色々頑張ってるためなのかもって思ったんだ。
「で、今年は仁太ってわけで、俺、びっくりしましたよ」
関屋さんが感心したみたいに言うのはなんでだろう。
「聡太さん、まさか自分の子どもにやらせるとは思ってもなかったっていうか。いくらやり遂げた達成感があるお役目っていっても、身内がやるとなると、聡太さんもかなり複雑だったんじゃないかなって」
「まあ、それは俺も感じてはいたんだが、このところ、とくに仁太あたりの子どもの人数がすごく減ってるのはお前も知ってるだろう。小学生あたりはまた増えてきてるみたいだがな」
やっぱり、親父が俺にって思ったのは、周りからもびっくりされてたんだ。
俺が逆の立場だったとして、自分の子どもにさせるかって言われると、やっぱり躊躇うよなって思う。
自分の子どもが、大人達によってたかってチンポや金玉、それこそ拷問みたいにやられるって、たまんないだろうし。
「あ、それにまだ、仁太が完全に受けたってわけじゃないんだぜ」
「え? そ、そうなんスか???」
関屋さん、不思議がってるな。
「あ、関屋さん。でも、俺、もう半分以上は引き受けようと思ってはいるんスよ。なんてったって親父が俺に頭下げて頼み事するなんて初めてのことだったし、俺もいっぱしの社会人になって、根性あるんだぞってとこも見せたいですし。
ただ、ちょっと俺なりに気になることがあって、店長や陸朗先輩に聞いてみたい、確かめてみたいことがあったっス。それで親父にも『返事ちょっと待ってくれ』って言ってるっスよ」
関屋さんと陸朗あんちゃん、ふーんって感じで頷いてるけど、やっぱ、ちゃんと言わないと分かんないよな、これ。店長にはちょっと言っといたんで、たぶん説明の中で話してくれるとは思うんだけど。
「でな、最初は仁太の覚悟決めさせるためにも、俺やお前達、神子のときにいったいどんなことされたのか、仁太にきちんと伝えておきたいと思ってな。
仁太、お前のその『質問』って奴は、その後でも大丈夫か?」
「はい、それで構わないッス。まず『神子』が受けるキツい奴、聞かせてください」
店長、それで経験者みんな集めてくれたんだ。
「ああ、じゃあ、経験としては一番近い陸朗、お前から話してやれ。神事そのもののことは仁太も聡太さんから聞いてるだろうから、慣らしの行のこと、メインにな」
「店長、分かりました。……、仁太、今から俺がやられたこと話すけど、引くなよ」
「大丈夫ッス。親父がつけてた帳面借りて、けっこう色々読んではきましたから」
「慣らしの行はだいたい7月の中頃から始まるんだ。一ヶ月かけて、神子予定者のチンポと金玉をいじめ抜く、まさにそんな感じだったな……」
陸朗あんちゃんの話し、俺、聞いてて涙出ちゃったんだよな。
なんか悔しさとか、あんちゃんの凄さとか、色んな感情がぐちゃぐちゃになっちまった。
で、これもまとめると、こんな感じになったんだ。
●陸朗あんちゃんは14年前、俺と同じ18才のときに神子になった
●当時の氏子は神事の全員そろったときで20人ぐらい
●慣らしの行には毎回10人ぐらいが参加
●慣らしの行の最初の一週間は、とにかく行の間ずっとしごかれて、しゃぶられて、でも射精はコントロールされてイかせてくれなくて、家でもせんずり禁止って言われて気が狂いそうになった
●その間、玉や亀頭をとにかく刺激されて、いぼ付きの軍手やガーゼ、ナイロンタオルなんかにローションたっぷりつけたのでひたすら責められる
●毎日そんなのをやられてると、いつも亀頭が腫れてる感じになって、それこそ一日中、なんでもないときにでも勃起してしまうようになった
●自分のチンポと玉を責められるのと同時に、行に参加してる先輩達のチンポしゃぶらされて、全員の精液を毎晩飲まされた
●2週目からは一日、といっても慣らしの行そのものは夜の7時から9時までって決まってて、その2時間の中で何回もイカされるようになった
●同時に玉もすげえ責められて、潰れる寸前まで強く握られたり、二枚の板で挟まれたり、なんか針がついてるような器具で責められて、睾丸が腫れ上がる感じがした
●でも痛みや腫れがおさまると、なんでか射精したくなる欲求がそれまでの倍以上に感じるようになった
●たぶん、2週目の7日間だけでも50回ぐらいイかされた気がした
●男達の精液は、行の間、ずっと飲まされ続けていた
●3週目に入ったら、最後に亀頭を刺激に強くして、多少の刺激ではすぐにはイけないようにしてやるって、色んなものをチンポや金玉に塗られた
●このとき使われたのは、覚えてるだけでも『カラシ』『ワサビ』『ラー油』、ナイロンタオルでさんざん責められた後に『粗塩』、金玉に『肩こりとかで使う塗り薬』、そして一番キツかったのは『すりおろした山芋』
●特に山芋にたっぷり浸された後の亀頭をナイロンタオルで責められたときは、痒いのと気持ち良さと、そして痛みとが全部いっぺんに襲ってきて、死ぬかと思った
……。
すごい話しだった。
俺が泣いちゃったの、分かるだろ?
俺が全然知らないところで、あんちゃんがそんな目に遭わされてたなんて、俺、もうどうしていいか分かんないぐらいに腹が立って、でもそんときの俺、まだガキだったわけで、もし知ってたとしてもどうしようもないわけで。
そんな俺見てて、店長が言うんだ。
「端から聞いてると腹も立つだろうし、自分がそうされると思うと恐くもあるだろう。だが、お前のことは俺達全員のことを聞いてから、決めるといい。陸朗はだいたいいいか? じゃ、次は潮、お前のときのこと、付け加えることとか陸朗の話に出なかったこととかもしっかり伝えとけ」
「はい、監督……。つっても、だいたい陸朗が言った感じだっと思いますよ。俺んときで、少し違ったのは……」
関屋さんの話しで陸朗あんちゃんと違ったのとかは、こんな感じだった。
●関屋さんは21年前、18のときに神子をやった
●関屋さんのときから、最初の占いのための射精では、10人目までは氏子1人につき3分、11人目からは1分の責めとインターバル2分に変わった
●慣らしの行で自分のときにキツかったのは、竿や玉の訓練だっていって、全員から何度も金玉を指や竹竿やすりこぎで叩かれたことだった
●チンポも玉も最初は真っ赤に腫れ上がって、小便するたびにすごい痛みで便所に行くのが恐くなった
●それでも陸朗あんちゃんと一緒で、腫れが引いたらそれまでの何倍も精液の量や射精したいって気持ちが増えた気がしてる
●チンポや玉に塗られたのはだいたい陸朗と一緒だったが、自分のときはラー油はなくて、虫刺されとかに使う薬塗られて、これも玉が燃えるように熱くなって、ヒリヒリして、大変だった
関屋さんの話もすごくてさ。すりこぎでチンポ叩かれるって、それもう、ホント拷問じゃん。
「潮も陸朗も、色々思い出してつらかったろう。済まなかったな。最後は俺だな」
店長の話、聞いてた俺、たぶん、全身震えてたんだと思う。
●店長は30年近く前、16のときに神子をやった
●もう働いていたとはいえ、まだまだガキだったので大人達への反発もあって、かなりイキってた
●そんなのもあって、チンポや金玉責める前に何度もぶん殴られたり、儀式のためってのを越えてのいじめみたいな感じも強かったと思う
●ガーゼやタオルとかじゃなくって、店長のときはそのあたりの砂と油をまぜたものを下腹部に塗られて、チンポも玉も一緒にジャリジャリやられて、すげえ痛かった
●木賊(とくさ)の茎を乾かしたもので亀頭を擦られて、毎日、チンポのあちこちが出血してた
●血が出たところのかさぶたが剥がれたらまた木賊で擦られて、その繰り返しで亀頭は確かにデカく、刺激には強くなった
●店長が一番キツかったのは、横になって金玉とチンポの先、それに臍の下の3カ所に同時に灸を据えられたときだった
●熱いのと痛いので振り落としたくなったが、何人もからのし掛かるようにして押さえ込まれて、火傷するギリギリまで据えられてた
●あれだけは二度と受けたくない仕置きだったが、終わったら勃起がおさまらなくて、確かに精力増強にはなったように思う
●おそらくだが、俺の親父のときはもっとすごい責めをされていたと思う
「木賊ってのの話しは、親父もしてくれました。親父は『血が滲んだみたいに』ってぼかして話してくれたけど、ホントはもっとすごかったんスね……」
「ああ、俺のときでも家で風呂に入るのさえ恐くなるほどだったんだ。聡太さんは、もっとひどかったんだと思うぞ。ただ、それでも、お前に今年の神子をやってほしいって思いもあるんだとは思うがな」
もう、すさまじすぎて、俺、吐き気がするほどだったんだ。
ホントにこれ、拷問みたいなもんだよな。
でも、この後、最後に店長が言った言葉がその拷問みたいな責めの話しより、もっとすごいもんだったって記憶がある。
なんていうか、痛みとか怪我とか、そんなのと違う、そう『神子』をやり終えた男達の、『心』の話しだったんだ。