「……その、信治さんはコレからだれかとまたヤられるんですか?」
俺は独りになるのが寂しくて、おそるおそる信治さんに尋ねてみる。
祭りというハレの日から日常というケの日への切り替えが、まだ上手く自分で出来ていないのだ、ということも何となくは分かっていた。
信治さんが分かっているさ、という風な顔で答える。
「良さんから『浩平が不安になるかんしれんけん、よかなら朝までおってやってはいよ』て、言われとるばい。
あん人はあぎゃんゆっくりしとらすばってん、色々分かっとらすけんな」
俺が単身で移住してきた昨秋から、良さんや信治さんはじめ、青年団や役場の連中も、みなが本当に良くしてくれたと思っている。
新参者で年も若くない俺に白沢さんの権立(ごんだち)という祭りの主役をさせたのも、おそらくは村の成員として周囲が納得するための通過儀礼としてのものだったのだろう。
身体中にゆっくりと染み込んだ蒸留酒の酔いもあったのだと思う。
俺は急に込み上げて来た人恋しさと、信治さんや良さん達が新参者の俺のことをずっと気にかけてくれているということを改めて知った感動らしきものに、涙を流しはじめていた。
大役を果たした、という思いがバタバタした直会までの時間では消化しきれず、今頃になって浮き上がってきたのかもしれなかった。
炬燵の片側に座っている信治さんの方へと身を寄せた俺は、ボロボロと涙を落としながら信治さんに抱き付いた。
俺を受け止めた信治さんは何も言わずに俺の背中に手を回してくれる。
ゆっくりと身体を横たえる信治さんに合わせ、俺達は座布団の上で横になる。
2人の脚だけが炬燵布団に入ってはいたが、ストーブの熱はすでに部屋を軽く汗ばむほどまでに暖めていた。
急に泣き出し、抱き付いてきた俺を、信治さんの厚い胸と腹が受け止めている。
しばらくの間、背中を黙ってさすってくれる信治さんの胸で、俺は嗚咽を漏らしていた。
「浩平も、きつかったつばいな……」
ひとしきり泣きじゃくった俺が落ち着いたのを見計らってか、胸に俺の顔を押し付けたまま、信治さんが柔らかく声をかけてくる。
「去年から、浩平もホントにきつかったつばいな。
浩平が、なんさまがまだしてくれとるていうこつは、おっ達もよお分かっとるけん。
百姓もそぎゃんだろうし、村んことにもなんかあっとすぐ顔出してくるっっし、今日ん祭りんごたる男同士のいやらしかこつも、最初はたいがなたまがったろて思うたい。
おったいも村から外からの人ばいるって話しば聞いたときには、たいがな色々話しおうたばい。なんさまこまか村だけん、男にしろ女にしろ、1人もんにしろ家族もんにしろ、馴染んでもらうとにどぎゃんすっとよかろて思うちな。
街のもんにはすぐには分かってもらえんどばってん、おっ達はずっとこぎゃんして暮らしてきとるとだけん、そっば変ゆっとはおかしかて言うもんもおったしな。祭りの権立(ごんだち)も、ちいっと昔なら他所から来たもんにさするなんてのは考えられんだったつばい。
そっでんおっ達の世代までは良さんが、上の世代のもんのところには良さんの親父さんがな、一軒一軒の家に行かしてな、こんままじゃおっ達の暮らしとるこの村そのもんが無うなるて話して回らしたったい。
ようよこしみなの意見の固まったつは、去年の春だったつばい。
こっからもなんかいらんこつば言い出すともおるかもしれんし、おっ達のなかでん意見の違うとの出てくっかん分からん。
ばってん、浩平はなんも心配せんでよかけんな。
さっきも言うたばってん、浩平が一所懸命色々してくれよっとは、おっ達もみんな分かっとるけん。
こまか村で色々あるて思うばってん、おっ達みんなで『こぎゃんこまか村にわざわざ来てくれたもんば、みなで支えちやらんでどぎゃんすっとや』て、決めとるけん。
なんも心配せんでよかけんな……」
信治さんの話を聞いた俺は、ここ数ヶ月の間、忙しさにかまけて放っておいてしまった自分の寂しさや不安が雪崩のように降りかかってくるのを感じていた。
弱音を吐いてはいけない、過疎化対策のためにと小さな村として少なくない金をかけてくれている恩義に報わないといけない、そんな思いがあったのだろう。
祭りの緊張がほどけてしまい、良さんや信治さん達が見越していた己へのきめ細やかな処遇のことを聴いて、そのすべてが一気に噴き出したのだ。
信治さんの包み込んでくれるような抱擁に一度は止まっていた涙が、また流れ出す。
それでもその涙は、先ほどまでの行き場のない感情の発露としてのそれとは違っていたのだと思う。
俺はそのとき、この村の男達に、目の前にいる信治さんに、なにか俺が俺であることを、俺が信治さん達の期待に応える気持ちを持っていることを、どうしても伝えたいという思いがこみ上げてきていたのだ。
「信治さん、俺、この村の本当の住人になりたいです。
信治さんや良さん達だけでなく、誰もがこの俺のことを、胸を張ってこの村の男だと言ってくれるように、一生懸命頑張ります」
「浩平は、もう一所懸命がまだしよるばい。
青年団のもんは白沢さんばやり通した浩平は、もうおんなじ仲間てみな思うとるたい。
年寄りん連中には色々思うとも、言うともおるかもばってん、ちいっとずつ分かり合っていくとよかっだけん。
百姓は身体ば壊したらなんもならん商売やけん、無理ばせんで、よこいよこいしていくとよかっだけんな」
俺はもう何も言えず、ひたすら信治さんの身体に抱きついていた。
自然と2人の身体は引き合い、胸と腹が、下半身が密着する。
互いの股間がごろごろとぶつかり合うほどに堅くなるのに、そう時間はかからない。
「布団敷くので、泊まっていってもらっていいですか?
俺、朝まで信治さんと一緒にいたいです。
そして、信治さんが良ければ……」
俺が少し言いよどむ。
「おっがよかなら、なんな? なんばしよごたっとや?」
2人の間に流れる空気の変わり目に、もう笑いに変えても構わないと判断したのだろう。信治さんがにやにやとスケベそうに笑いながら尋ねてくる。
「俺、信治さんといやらしいことをしたい。
信治さんのぶっといチンポを扱いて、しゃぶって、信治さんにイってほしいし、信治さんのを飲みたいです。
俺のも信治さんに扱かれて、しゃぶってもらって、信治さんと一緒にイきたいですっ!」
「おっも浩平とよかこつばしよごたるばい。
2人とも、昼間も色々しとるばってん、まだ何回かは出来っどけんな」
普段は炬燵のある部屋とは別の部屋で寝ているのだが、今日ばかりは裸になるためにもストーブの効いたこの部屋でと、俺が布団を運び込む。
炬燵を隅に押しやり敷き布団を広げると、2人とも我先にと素っ裸になる。
青年団の中では毛深い方の俺と信治さんだ。
顔や手に秋口の日差しの名残がある程度の俺に比べ、信治さんはまるでタンニングマシンでも使っているのではと思えるほどの色黒だ。全身を覆う黒々とした体毛とむっちりとした肉質が与える陰影が、肉感的な佇まいを醸し出す。
骨太で手足が短い骨格に農作業で鍛えられた筋肉と脂が乗り、ラグビーのポジションに例えればフロントローとまでは言えないにしても、スクラム二列目を支えるロック体型とでも言えばいいのだろうか。
股間から突き出た逸物は赤黒く怒脹し、浮かび上がる血管が太い幹の周りをうねうねと取り囲んでいる。
子どもの拳ほどにも見える先端はてらてらと濡れ光り、ぱっくりとした割れ目は覗き込めそうなぐらいに深く切れ込んでいた。絶えることなく溢れる先汁は、腰の位置から床までの途切れることのない細い流れを作り出している。
2人とも膝立ちになり、すでに勃ち上がっている互いの肉棒を竿相撲でもするかのように押し付け合う。ぬるぬるとした先走りのぬめりを相手の亀頭に塗り付ける。
「ああ、チンポの気持ちんよかなあ。
浩平も毛深かかけん、抱き心地のサワサワして、こっちもよかなあ……」
「信治さんや団のみんなのがっしりした肉体に抱かれると、もう、俺、それだけでチンポが勃つようになってますよ。
皆さんに責任取ってもらわんといかんですよね」
俺がわざとらしくする誘導尋問に信治さんも乗ってくれる。
「そぎゃんこつは当たり前たい。
今日はおるとだけばってん、月待ちんときは毎月みんなして楽しみよるけんな。
今月んとは浩平が初めて参加すっとだけん、みんなで浩平が楽しむっごて色々すって思うけん、浩平も楽しみにしとかなんばい」
「籠もりのときのとにかくイかされまくるとか、最終日の全員に尻をヤられるとか、あれ以上のことがあるんですか?!」
話に聞いた限りではせいぜい男達同士での乱交かと思っていたが、どうも毎回それなりの趣向を凝らすらしい。
「籠もりんときは、浩平はずうっと『してもらう』側だったけんな。たぶん今月は浩平が『してやる』側になるとじゃなかつかとも思うばってん、まだ半月あるけん色々みんなで話して決めるけん、楽しみにしとかなんたい。
浩平もこぎゃんこつがしたか、あぎゃんこつばしてもらいたか、っていうとのあるなら、誰っにでんよかけん言わんといかんばい」
「そりゃあもう楽しみ過ぎますけど、まずは今日は、信治さんとゆっくりしたいです」
「浩平はそぎゃんところも正直でよかなあ」
笑いながら信治さんが唇を寄せてくる。
話は終わり、ここからは信治さんの言う『いやらしいこと』が始まる時間なんだろう。
俺はキスの予感に目を瞑る。
来る、と思っていた俺の唇には信治さんの吐息だけが届いた。
「浩平、目ば明けなっせ」
え? と思い目を明けると、焦点を合わせるのにとまどうほどの近さに信治さんの顔がある。
「おっも先輩達から教わったつばってん、キスばするときやお互い扱きあってイくときとか、普通は目ばつぶってしまうたいな。
そぎゃんときにな、目ばつぶらんで相手の目ばしっかり見とくと、これまで感じたこつが無かごたるよか気持ちになっとたい。
浩平にも俺が感じとるごたるよか気持ちば感じて欲しかけん、目ば明けちから、キスばしょうごたっとたい」
初めて聞く話だった。
独り身の男達の間での欲望処理、快楽追求からの始まりと思っていたこの村の男同士の関係の中でも、それなりにかそれゆえにか、互いの気持ちを尊重する習わしがあるのだろう。
信治さんの言葉に俺は黙ったまま肯くと、目の前の細い目を見つめながら唇を寄せていった。