第6章 親父さんの家へ
夏休みが終わり学校が始まると、磯に遊びに行こうとすると、どうしても夕方からの夜になってしまう。土日も部活がある日は行くことができない。
日没がどんどん早くなり10月も終わりのころになると、褌一丁で磯遊びというには寒くなってきたし、親父さん自身は磯には昼間しか姿を見せないから、しばらく会うことが出来なかった。
夏の間あれだけ親父さんの裸を見ていたのに、姿を見られなくなるというのはつまらないものだ。
その不満の中には、親父さんに自分の男としての日々の成長を見せることで感じていた、性的な高揚感が得られないという思いがあったのだと思う。
秋を迎えた毎日の中、俺はしばらく親父さんと会えていないことに、今まで以上に寂しさを感じていた。
夏休み終わりに近かったあの日、生まれて初めての射精を海中で、しかも親父さんの手でやってもらったという興奮で、自分にも毛が生えたことを報告するどころではなかったのだ。
正直、改めて親父さんに見てもらいたいという気持ちが残っていた。まあ、毛よりも先に、もっと重要な射精を見てもらったのだから、誇らしくはあったのだけど。
11月になり、日曜日などにたまに磯まで散歩に出てみても、そこに親父さんの姿はなかった。
友達や。近所の漁師さん達に訊いても、「そう言えば、もう二ヶ月も見かけないなあ。今までそんなことなかったんだが。」
そう言う答えしか返って来なかった。
初冬を過ぎた夜は寂しい。親父さんと会えない日々は余計に寂しく感じられた。
俺は赤褌を胸に抱えると、親父さんの家を訪ねる決心をした。
両親も、もし具合でも悪くされていたら心配だから見に行ってきないよ、と後押しをしてくれたので、思い切って近所の人達に家をきいて回ることにしたのだ。
それでも、なかなか親父さんがどこに住んでいるのかを詳しく知る人はいなかった。何件か、小笠原さんという名前で、年齢はこのくらいで、背丈は、、、と、特徴を言って見ると、ようやくあの崖の下にある小屋みたいな小さな荒屋のようなところに住んでいる人では、ということがわかった。
近くの魚屋に親父さんが釣った魚を仕入れていたところが見つかり、そこであの辺に住んでるだろうという情報を得ることができたのだ。
秋の夕方は早く日が落ちるので、5時でも辺りはすでに真っ暗だった。
海岸から結構遠い小さな崖の下に、親父さんの家があった。
崖をおそるおそる降りると、台風でも来たら吹っ飛んで行きそうな小さな家がぽつんとあった。家と言うよりも小屋と呼んだ方がいいかもしれない。
ぼんやりとした灯りが窓から漏れていた。
人のいる気配は感じる。
アルミサッシの枠の玄関口で呼び鈴を探したが見つからなかった。
俺は勇気を振り絞って、薄い玄関の扉をごんごんと叩いて声をかける。
「親父さん、いますか? 俺です。赤褌借りた……」
しばらくは返事がなかった。
帰ろうとしたそのとき、
「おうっ。坊主か? どうした?」
親父さんの声がした。
まずは親父さんの声が聞こえて、安心した俺だ。
「あのう、最近海で見かけないからみんなが心配しているんです。病気なんじゃないかって。」
俺は親父さんの顔を見るまでは、本当に心配していた。痩せ細ってふらふらになった親父さんが出てきたらどうしようか、なんて考えていた。
「そりゃすまないな。俺は大丈夫だ。」
また少し間があって
「まあ、とりあえず、勝手に中に入ってくれ。」
親父さんの声は玄関から遠く、奥の方の部屋から聞こえた気がした。
何か今は手が離せない事情があるのだろう。
勝手に入れと言われるがままに、俺はガタガタするドアを開けて中に入った。
玄関には何足か靴があった。俺は注意深く脇の方に自分の靴を押し込み、なるべく静かに家に上がった。
玄関のすぐ横に台所があり、その向こうのドアに親父さんはいるらしい。
「親父さん、いいですか? 入りますよ。」
すぐには返事がなかった。しばらくして聞こえてきたのは、
「ああ、いいぜ、」
という、かすれたような親父さんの声と、それにまとわりつく、喘ぐような声だった。
俺はなぜかドキドキして、そっとドアを開けた。
目に入ってきたのは、ベッドが一つ。親父さんは苦しそうな声を出し、寝ているようだ。
やはり、具合が悪かったんだ。
俺は心配になって、ベッドに駆け寄ろうとした。
だがそのとき、豆電球一つの弱々しい灯りの下でよく見ると、親父さんの逞しい両脚が持ち上げられているのが見えた。
親父さんの高くあがった脚の間に、知らない男の人の裸の身体が入りこみ、なにやら二人で動いているのが見えた。
ベッドの上で行われている、男同士の行為。
俺はそれが、なにか見てはいけない行為であることを、咄嗟に感じ取った。
「あ、あの、あの、すみませんでした。帰ります。」
「待てよ。帰らなくていい。」
自分でも慌てふためいてしまい、言葉をかけて帰ろうとすると、親父さんの上に乗っている男が声をかけてきた。
男の声に、親父さんの声が続いた。
「坊主、遠慮しなくていいから、こっちに来てくれ。俺のこと、見て行ってくれるか。」
俺に手招きする親父さんと、その上に乗っている男の人が、同時に俺を引き止めた。
俺は何がどうなっているのかわからないまま、言われたとおり親父さんの顔の辺りまで近寄っていく。
親父さんの上に乗っていた男は親父さんから身体を離すと、俺の横に移動した。
思っていたよりずっと大きな図体をしていて、親父さんより若いことは確かだった。
まず、混乱した頭を整理しなくてはいけなかった。
二人は何をしていたのか?
そもそも何故、二人とも裸なのか。
親父さんは具合が悪いから、この男に看病してもらっているのか?
何からどう訊いてもよいのかわからず、俺は呆然とベッドと部屋を見渡していた。
親父さんが起き上がり、相手の男にお茶を出すように頼んでいる。
「そうか、心配して来てくれたのか。嬉しいなあ。」
俺が人に聞いてまで家を探し出し、訪ねてきた理由を話すと、無精髭が笑った。
どうやら深刻な病気とかではないらしい。
「何で磯に来なくなったのかって、みんなが心配して。」
俺は泣きそうになりながら、親父さんを見つめた。
親父さんは静かに、言葉を選びながら答えてくれた。
夏休み最後の日、台風の影響で波が荒れた日、親父さんは磯に子ども達が来ていないか心配になって見に行ったそうだ。
誰もいないことを確認し、自分の家に戻る途中で突然高い波が来て、思い切り岩に打ち付けられてしまったという。
血だらけになりながらも何とか岩場から離れたところにたどり着き、そこで倒れてしまっていたときに、偶然彼が親父さんを発見し、家に連れ帰ってくれたこと。
その後、毎日のように看病に来てくれたこと。食事の支度や、腕の骨や肋骨も折れていたので、身体を拭いたりの身の回り、トイレなど下の世話までしてくれたこと。
男も独身ということで、半分一緒に住むような間柄になったこと。
そんなこんなでの、この間の色んなことを話してくれた。
俺は事情がわかってほっと安心したのと同時に、親父さんと裸で過ごしている男の人が、なぜかとても気になってしまっていた。
話も一段落済んだんだろう。
「腕が折れたら、せんずりもできないからな。」
親父さんは、俺にニヤリと笑いかけた。
「あの人がせんずりの手伝いをしてくれるわけですか?」
俺は多少嫉妬を感じたのと、怪我が心配だったのとが入り混じった口調で訊いた。
「君が来てくれたら、君にも頼んだかもしれんな。」
親父さんは笑いながら、彼が出してくれたお茶を俺にも勧めてくれた。
「もう怪我は大丈夫なんですか?」
「ああ、もうすっかり元気だ。まだ痛むけど、自分のちんぽは自分で扱けるようになったし、そろそろ磯にもまた出向こうかと思ってたところだ。」
そう言うと、俺の方に股を開いて座り、すでにおっ勃っていた自分のちんぽを握ると扱き始めた。
「ほら、元気だろ?」
それを見ただけで、俺もたまらなくなってきた。
当然俺自身のちんぽも勃ってくる。
その様子を見たもう一人の男が声をかける。
「君のことは小笠原さんから聞いてるよ。せっかく来たんだ。一緒にやろうぜ。」
そう言って、俺のシャツやらズボンやらをあっという間に剥ぎ取ってしまった。
これで、全員、三人の男達がみな素っ裸になったわけである。