搾精される狼獣人(短編Ver.)

その5

 

その5 悦楽

 

 乳首、ふぐり、尻、そしてなによりも図太い喜三郎の肉棒がその硬度を無理やりに保たされたまま、数時間が過ぎていった。

 強制的に吸引させられているフェロモンと相まって、物理的に与えられる快感が喜三郎の思考を射精という肉欲の解放のみを指向するようにと蕩けさせられていく。

 

(イきたい、イきたい、イきたい。

 もう何十回寸止めを繰り返されてるんだ……。

 頭が、もう、射精のことしか考えられない。

 イきたい、イきたい、イかせてくれ、ああ、もう、もうイかせてくれ、豚田さん……)

 

 乳首への刺激がもう少し強くあれば。

 尻の奥をもう一突きされれば。

 ふぐりに加わる圧力がもう少し強ければ。

 そして、肉竿を刺激上げる上下運動が、最後の一扱きを加えてくれれば。

 

 数分ごとに襲ってくる猛烈な射精感。

 だがその狂おしいまでの欲望の高まりは、中枢神経の興奮を敏感に察知する計測機器により、実に見事な『寸前』の状態でプラトーのままで維持されてしまう。

 

「ああ、あと一扱き、あと一突きしてくれれば……。イきたい、イきたい……。何でもするから、イかせて、イかせてくれっ、豚田さん……。私を、私をイかせてくれっ……」

 

 録音録画されていることは分かっていた。

 それでも口にせざるを得ないほどの射精への渇望は、また別の『意識』すらを喜三郎の脳髄へと刻み込んでいく。

 

(豚田が帰ってくれば、射精出来る。射精を許してもらえる)

 

 自らを拘束監禁し、このような状況に追い込んでいるはずの男の帰還を『待ち望んでしまう』こと。

 その専門的知識による理性的な脳内への警告以上に、豚田の装置群による肉体と精神に与えられる『刷り込み』は、実に強力なものであったのだ。

 

 いったいどれほどの時間が過ぎたのか。

 

 何時間もの放置監禁で時間の感覚が失われていた喜三郎ではあったが、おそらくはもう真夜中を過ぎた頃合いであったのか。

 ガチャリとしたドアの解錠の音が、敏感になっている喜三郎の耳に届く。

 

「あ、あ、豚田さん……。イかせてくれ……。何でもするから、豚田さんの言う通りに、何でもするから、イかせてくれ……」

 

 この数時間で刷り込まれた『豚田という存在』への希求力は、すでに喜三郎の正常な判断力を奪っていた。

 涎を垂らすほどまでに発情した喜三郎の瞳が、豚田の顔をまるで何年も恋い焦がれた待ち人かのように見つめ、そこから発せられるはずの視線を求めてしまう。

 

「だいぶいい感じに仕上がってきとるようですな。さて、こっからは次のステップに行きましょか」

 

 すべての装置のスイッチをいったん切った豚田が、喜三郎の前に立つ。

 がくがくと顎を震わせ、必死にその視線を豚田へと注ぐ喜三郎。

 射精への欲望に染まったその視線をにやにやとした下卑た笑いで受け止める豚田。

 

「嗅覚が五感の中では一番辺縁系に近い部分、本能に近い部分に影響するのはご存じでっしゃろ、喜三郎はん。

 そこでさんざんイかず勃起の寸止め喰らっとった喜三郎はんに、ワシの体臭と精液の匂いを混ぜたんをたっぷり嗅いでもらいながら、待ちに待った射精をしてもらおうかと思とります。

 ついでに、ワシの濃い汁も味わってもらいましょ。

 あんさん、ワシの匂いを嗅いだだけで、もうこのデカいチンポがおっ勃っておっ勃って、イきたくてイきたくて仕方ないようにしてあげますさかいな」

 

 狼獣人に特異的に作用する同属の性フェロモン。

 さらにはこのためにすでに用意していたものか、豚田の分泌する体臭と濃厚な精液の匂いを数十倍に濃度を高めたもの。

 

 この2つをブレンドした液体を染みこませたカプセルが、喜三郎の鼻腔へと詰め込まれる。

 呼吸をするだけでこれまでの数十倍の効果をもつその揮発性の物質が、喜三郎の肉体へと取り込まれていく。

 さらにはこれも取ってあったものか、射精の際の体温度すら保たれている濃厚な豚田の精汁が、喘ぎ声を上げ続ける唇の端に垂らされていく。

 

「ううっ、うあっ、こ、これだけで、い、イきそうに……」

 

 豚田がふと気付いたように、喜三郎の股間を甚振るシリンダーへと手を伸ばした。

 

「最初の一発目は、ワシの手と口でサービスしときまっしょ。

 これで、あんさんの中で、ワシの存在と射精の快感が強く結ばれるはずでっしゃろ」

 

 スイッチが入れられ、乳首と睾丸、尻を責める装置が一斉に動き出す。

 豚田の分厚い手のひらが喜三郎の逸物を扱き上げ、その先端が猪族の深いマズルに呑み込まれる。

 

 乳首を責め上げる細かなシリコン毛。

 下から包み込まれるような揉み上げが喜三郎の双玉をごろごろと甚振っていく。

 直径6センチ、長さ28センチにまで増大した張り型が、尻を穿つ。

 下腹部をまさぐり、肉棒を扱く豚獣人の手。

 その舌は亀頭をねぶり、鈴口に差し込んだ舌先を強烈に震わせる。

 

「ああっ、全部っ、全部感じるっ!!

 イきたいっ、イきたいっ、豚田さんっ、イかせてっ、イかせてくれっ!!」

 

 じゅくじゅくとした淫猥な水音。軽い機械のうねり。

 天井の鏡には、四肢を拘束され、全身と股間を機械と豚田に嬲られる己の姿。

 口中には初めて味わう豚獣人の精液。

 鼻腔から全身へと広がる強烈な性臭と体臭。

 筋肉と脂肪のブレンドされた見事な肉体をまさぐる手のひら。逸物をしゃぶり上げ、扱き上げる豚田の口。

 

 聴覚、視覚、味覚。嗅覚と触覚。

 聞こえるもの、目に見えるもの、舌と喉の味わい。匂いと肌。

 

 それらすべてが『豚田という濃厚な雄の存在』と、喜三郎のひたすらに待たされ昂ぶらされた『雄としての射精の快感』とを結びつけていく。

 

「ああっ、豚田さんっ、もうっ、もうっ、イくぞっ!

 あんたの口にっ、ああっ、イくっ、イくっ、イってしまうっ!」

「ようし、イけイけ。ワシの口ん中に、たっぷり出しいや。飲んでやる。あんたの汁を、全部ワシが飲んでやるからのお」

 

 荒く激しく、喜三郎の胸が上下する。

 一呼吸ごとに鼻腔のカプセルからの強烈なフェロモンと匂いが狼獣人の肺を満たし、その喉にはどろりとした雄汁がたらし込まれていく。

 乳首と睾丸への愛撫は延々と続き、尻肉の間で前後運動をする張り型はよりいっそう膨れ上がる。

 全身から伝わる快感がこのときばかりは止まることを知らず、すさまじい勢いで扱かれる肉棒が、ついにその最期の刻を迎えた。

 

「ああああっ、イくっ、イくっ、イくっ!!!

 出すぞっ、豚田さんっ! あんたの口にっ、ああっ、出るっ、出るっ、汁がっ、ああっ、汁があっ、出るっーーーーーーー!!!!」

 

 動きを止めた豚田の喉奥に、何時間にもわたって溜め込まれ、煮え滾ってきた喜三郎の精汁が打ち付けられていく。

 ヒト族のそれよりははるかに多いその量は、およそ80ccにもなろうかというところか。

 ごくごくと飲み干す豚田ではあるが、徐々に勢いを弱めたその噴き上がりの最後の数回の分は口中にたっぷりと溜め込んでいるようだ。

 

「半日責められ続けた後の射精は、どうやった? 喜三郎はん?

 ついでにこっちのは、あんさんが飲んでくれるやろ?」

 

 用意されたビーカーには300ccほどの、まさに湯気を上げそうな豚田の精液が注がれていた。

 なんと豚田の射精では、一度にそのぐらいの量の噴き上げが普通なのである。

 猪の血を引く豚獣人の平均精液量はもともと200ccというすさまじいものではあるのだが、豚田においてはさらにそれを上回る量の精液生産能力が通常となっていた。

 

 ビーカーの中に口中に溜めていた喜三郎の精液をだらりと垂らす豚田。

 太い人差し指で粘性の高い液体同士を混ぜ合わせ、その指先をべろりと舐め上げる。

 

「喜三郎はんとワシの精汁、よお熟してブレンドも旨いもんやわ。

 水も飲ませてもらえんと喘ぎ続けて、喉も渇いたやろ? たっぷり飲みいや」

 

 どろどろと太い糸を引く白濁液が、喜三郎の口中へと流し込まれていく。

 吐き出そう、と思う意思を、乾燥した喉と飲水出来なかった肉体の水分を含む液体への渇望が上回る。

 ごくごくと飲み干す喜三郎にとって、およそ8時間ぶりの液体は、はたして甘露であったものか。

 

「ワシの臭いんのを飲ませても、もう全然萎えへんな。刷り込みもバッチシ決まったようですな。

 となると、椅子から下ろしても、もう逃げへんやっしゃろ? 喜三郎はん?」

 

 各部位に接続された装置を外し、喜三郎の肉体を拘束台から下ろす豚田。

 130キロを越す狼獣人の身体を軽々と扱えるのも、150キロの体重を支える筋肉のためか。

 大きなソファーベッドに座らされた喜三郎の瞳に、徐々に光が戻ってきた。

 

「あ、わ、私は、私は……」

「あんさん、ワシの匂い嗅ぎながら、ワシの精液飲みながら、ぎょうさん雄汁出しはったで。えろう気持ちよかったやろ? 喜三郎はん? どっこも痛いとこも、キツいとこも無いはずや。

 ワシの機械は、ただただ、あんさんを気持ちよおすることだけに、特化しとるさかいな」

 

 冷静に考えれば、豚田の説明の通りなのであった。

 射精寸前での刺激停止という、雄の本能に逆らうその所業こそは地獄とも思えるほどの苦悩を生むのだが、そこから与えられてきた『刺激』そのものは、快楽と悦楽の究極の在り様であるのだ。

 

 もしもこれが互いの同意の下で『プレイ』として行われたものであったとすれば、果たして己が感じた先ほどの放埒の悦楽が、これほどのものであったのか。

 喜三郎の中に恐ろしいまでの疑念が沸き起こる。

 

「私は、私は、これを……。あなたに甚振られ、凌辱される『自分』を、楽しんでしまっていたのか……」

「あんさん、もう『視られる』快感は存分に感じておったんやろ? そっから『触られる』『いじられる』のを気持ちええと感じるようになるんは、そお遠いこっちゃない。

 ワシの機械でさんざん嬲られて、ワシの舌でイかされた喜三郎はん。あんたにはよおけにその『素質』があったってことなんよ。

 ワシが色々集めたあんさんの情報では、もうそれが丸わかりだったさかいな。

 ジムで大勢に視られるんのも、温泉で素っ裸の雄同士で見せ合うのも、あんさん、勃起寸前に感じとったんやろう?」

 

「あ、あ、私は……。私はそんな……」

「ワシの前ではもうなんも隠さんでええし、もっともっとスケベになって楽しみや、喜三郎はん。

 ほれ、ワシの脇の下、匂い、嗅いでみいや」

 

 ソファの横に座った豚田が片手を上げ、そのむわりとした熱気の籠もる脇の下に喜三郎の顔を押し付ける。

 押しやろうとする喜三郎の動きがすぐに停まり、かえって己のマズル(口吻)の先端、鼻腔を押し付けるように動いてしまう。

 何時間も炙り続けられた情欲を解放した瞬間、その肉体感覚すべてに『刷り込まれた』豚田の存在。

 とりわけその『体臭』と『性臭』は、まさに本能レベルで喜三郎の肉体と精神に『染み渡って』しまっていた。

 

「はっはっ、もうワシの匂いから離れられんようやな。

 こうなったら監禁も、拘束も必要あらへんやろ? ここに来て楽しむのもよし、あんさんのとこにワシが行くのもよし。

 そんな毎日が、『当たり前』になるんやで。ワシも喜三郎はんも、存分にこれから一緒に楽しもうな」

 

 相好を崩す、という表現が当たっているのか。

 猥雑さと好色さ、さらには純粋な喜び。

 あらゆるものが混ざり合った豚田の笑みが、そこにある。

 

 うんうんと頷く喜三郎は、はたして発声による『匂い』の逃しすら惜しんでいるようであった。

 

「チンポもまたビンビンになっとるで。あんさんの体力なら、10回や20回の射精じゃよお萎えへんやろうしな。

 ワシ、しゃぶらせたりケツを使ったりももちろん好きなんやが、ワシの匂いでチンポびんびんにした連中が堪えきれんでせんずりしたり、あの機械に繋がれてイかせられたりするのを視るんが、何より楽しみでな」

 

 これが互いの肉体を重ね合わせる『性交』であれば、ある意味『慣れ』や『飽き』が生じることやもしれなかった。

 ただこの豚田の性癖は『シチュエーション』への拘りと、年長の雄性個体の矜恃と情欲の葛藤を『眺める』ことによる興奮という意味で、様々な『物語』を紡ぎ出す『終わりの無い』悦楽の壺と化している。

 

「ワシの脇の匂い嗅ぎながら、自分で扱いてええんやで、喜三郎はん。あんさんはもう、ワシの匂いと精液味わえるなら、なんでも出来るやっしゃろ?」

「ああ、たまらん……。あんたの脇のこの匂いが、あんたの体臭が、それをもう思うだけで、頭の中が全部射精のことだけになっていく……」

「ええんやええんや、それで。痛いこともキツいことも、なんもあらへん。

 ただただ、気持ちようなって、気持ちよう射精して、そんであんさんに何にも悪いことおまへんがな」

「ああ、ただ気持ちよく、ただ気持ちよく、射精を、射精をしたい……。あんたの匂いに包まれて、そして、この逸物から、たくさん汁を出したい……」

 

 精汁と豚田の唾液にまみれた逸物を扱き出す喜三郎。

 何時間も嬲られたそれは、またすぐに放埒の瞬間を迎えそうであった。