山寺の一年 続・不良青年更生寺院顛末記

その5

 

その5 再びの、1年後

 

 あれからの1年。

 すげえ長かったのか、短かったのか。

 

 年が明けてしばらくしたら、継男さんが一年の修行を終えて、家族の元に帰っていった。

 本人もまだまだこの寺にはいたかったみたいだけど、親御さんが身体を少し悪くされてきてて、悩んだ末のことだったらしい。

 下山することを継男さんが決めてからしばらくは、寺中の人達が名残を惜しむように部屋にやってきて、みんなで夜遅くまで継男さんと一緒に楽しんでた。

 合同乱会には必ず顔出すからって、お兄さんと一緒に山を下りていく継男さんを皆で見送ったんだ。

 

 そして、俺が親父とおじさんにさらわれるようにしてこの寺に放り込まれた日から一年後、親父とおじさんが迎えにくるその日。

 道円和尚と俺がその日を前にしてどんな話をしたのかは、前に聞いてもらったと思う。

 その日を俺は、寺が用意してくれた部屋で2人を迎えることになったんだ。

 

 寺では普段は六尺褌と白い作務衣だけで過ごしてたけど、この日は来客用なのか、俺には藍色の作務衣が渡されていた。

 ただ、この作務衣、あの『香』の匂いがすごく染みついてて、もう羽織っただけで俺の褌の前袋が盛大に盛り上がることになる。

 

「良円さん、これって……」

「ああ、お前のこの寺の一年を伝えるのに、分かりやすくていいだろう? 道和から話を聞いて、お前の親父さんもこの寺の内情は知っていると聞いている。俺の言ってる意味は、、分かるよな……?」

 

 ああ、そうなんだよな。

 道和おじさん(親父の兄貴だ)は、この寺のOBでもあって、それを聞いた親父がおじさんと一緒になって俺をこの寺に連れて(ほとんど拉致みたいなものだったけど)きたんだ。

 この寺で俺がどんな一年を過ごしたのか(おじさんは当然のこととして)親父に分かってもらうには、これほど『分かりやすい』ものは無いんだなって。

 

「阿闍梨とは話したみたいだが、お前の腹ん中はもう、決まってるんだろう? その気持ちは、今日になってみて、揺らいではいないか?」

「……、良円さん、大丈夫です。俺、親父とおじさんにまずは謝って、そしてここに連れてきてもらったことに礼を言って、そして、この寺でもっと修行したいって、言おうと思ってます」

 

 良円さん、道円阿闍梨の右腕って言われてる人。

 毎月の総身改めのときには進行役で、古参の僧侶の人達の牽引役でもある。

 そんな良円さんが、俺の肩をがしっと掴んで言ってくれた。

 

「親父さん達の顔を見たら、今のお前の気持ちも変わってしまうかもしれん。そういう奴も俺達は見てきた。だが、それはそれで本人が選んだ道だ。たとえどんなことになっても俺達はお前の選択を尊いものとして受け止める。それだけは忘れるなよ」

「ありがとうございます。では、親父達に、会ってきます」

 

 正成さんと継男さんが、ハグしてくれて、頑張れって。

 何を頑張るかってことではあるけど、気合い入れろってことだよな、これ。

 

 俺、道円和尚の部屋にも寄って、頭だけは下げてきた。

 和尚とはもうしっかり話はしていて、分かってくれてるって思ってたし。

 

「失礼します」

 

 俺、親父とおじさんの待つ部屋に、入っていったんだ。

 

「翔平……、お前、その、逞しくなったな……」

 

 座卓も何にも無い、畳の部屋。

 親父とおじさんが、来客用の少し厚めの座布団に腰を下ろしてた。

 俺、ここに来たときよりも体重では20キロ近く増えてた。確かに逞しくなったって、思うだろうな、親父。

 それでも90キロを軽く越す皆にはまだまだ追いついて無かったんだけど。

 

 俺、2人の前にきちんと座り、まず、頭を下げる。

 

「親父、道和おじさん。久しぶりです。でも、まず、俺に謝らせてください」

「…………」

「…………」

 

 顔を見合わせる2人。

 

「俺、本当に馬鹿でした。親父やお袋、おじさんにも心配ばかりかけて、自分がふらふらしてること、仲間と連んで悪さをしてるだけのあの姿が、親父達の目にどんなふうに映ってたのか、どう親父やお袋が思ってたのか、まったく想像出来てなかった。

 そして、俺のそんな振る舞いが、親父やお袋をどんなに傷付けてきたのか、まったく分かってなかった。

 本当に済みませんでした。謝っても謝りきれるものでも無いけど、少なくとも、あのときの俺の生活が、謝らなきゃいけないものだとは、この寺の一年で学ぶことが出来ました」

 

「翔平、お前……」

 

 親父、涙ぐんでるっぽかった。

 でも、俺、もっともっと、言わなきゃならないことがたくさんあった。

 

「俺、親父とおじさんが、俺をここに連れてきてくれたことに感謝してます。

 最初は確かに戸惑って、驚いたけど、この寺で学ばせてもらったのはとにかく『人と人とが思い合い、助け合う』ことの心地よさでした。

 俺はこの『人と人』とが互いの存在をプラスにするなんてことが、一年前まではまったく分かってなかったんだと思う。どっちかというと、当時の仲間の中だけでのマウントを取り合ったり、傷付け合ったり、そんなんばっかりだった。

 でも、ここに来て、人が人の隣にいること、互いを傷付けずに触れ合えることを知って、そしてそれが自分に取っても『心地よいこと』『気持ちいいこと』なんだってことを知ることが出来た。

 そのきっかけを作ってくれた、親父に、おじさんに、そしてそれを決断してくれたここにいないお袋にも、すごく、本当にすごく感謝してます。

 ありがとうございました」

 

 何度も深く、頭を下げる俺。

 

「分かってくれたんだな、翔平……。あんな、人攫いの真似事のような形でお前をここに放り込んだ。でもそれは、お前がきっと変わってくれる。そう思ってのことではあったが、万が一ここに『馴染めなかったら』、と、思わない日は無かったぞ、翔平」

 

 道和おじさん、親父の肩を叩きながら、言ってくれる。

 

「そして、このことは親父やお袋には申し訳ないことなのかもしれないけど、俺、ここで、この寺での修行をもっと続けていきたい、もっと学んでいきたいと思ってます」

 

 ついに言ってしまった俺。

 たぶん、親父には『きつい』『つらい』言葉なのかも、決断なのかもしれないってのは、分かってた。

 

「え、それって、修平、お前……。家には帰らないってことなのか?」

「親父、ごめん……。でも、その通りなんだ。俺、ここでもっともっと、人同士の温もりのやり取りを学んでいきたいし、将来、この寺に来た連中にそのことを伝える人になりたいって、今はそう、思ってる。

 

「それは、その、この寺での色々を、お前も、その、『そうなってる』って、ことなのか、翔平……?」

 

 親父、道和おじさんから『ここのこと』を聞いてるんだよな。

 お袋に伝えてるかは分かんないけど、普通に考えて『そう思う』のも、当たり前だと思う。

 

 こっくりと頷く俺に、戸惑うように、俺と道和おじさんに何度も目を遣る親父。

 親父、ホントにごめん。

 お袋に伝えなきゃならないってだけでも、そうとう『きつい』ことなんだってのも、俺、分かってる。

 俺はまた、2人の前で頭を下げる。

 

「道成……、俺も『そう』だというのは一年前に話したよな。なかなかに受け止めづらいことだとは思う。でも、それもまた翔平が変わるための必要なものだったってことも、分かってやってくれないか」

「兄さん……、翔平……。私は、私は……

 

 野間道成(みちなり)、俺の親父。

 野間道和(みちかず)、俺のおじさん。

 

 おじさんは俺のことを親父から頼まれたとき、『自分がこの寺で経験したこと』も話してるはず。

 それはもしかしたら、俺があんなでなかったら、一生親父にも言わなかったことかもしれない。

 

「親父、本当にごめん。

 ……、いや、これは謝ることでは無いのかもしんないけど、やっぱり受け入れにくいことなんだとは思う。

 でも、今の俺は、もう『こう』なんだ。

 そのことだけは、親父には分かってほしい。

 嫌ってくれてもいい。嫌だと思ってくれてもいい。

 ただ、自分の息子が『そう』なんだってことだけは、頭の隅に置いててほしいんだ」

 

 俺、良円さんから言われたことを思い出しながら、2人の前に立ち上がった。

 訝しげな親父の前で、どこか納得してるようなおじさんの前で、俺、紺色の作務衣をばさりと脱いだ。

 

「翔平、お前、それ……」

 

 親父の目の前に、俺は褌の股間を見せつけるようにして立っていた。

 先端にはもう先走りの汁が滲んでいるに違い無い。

 これが『今の俺』であり『この寺で一年を過ごした俺』なんだってことを、親父に分かってほしかった。

 

「道成、俺から話としては聞いてても、目の前で見ればやはり驚くよな。だが、翔平と同じで、俺も『そう』なんだ」

 

 道和おじさんも立ち上がって服を脱ぎ出す。

 100キロを越してるガタイは、すげえカッコいい。

 俺、でも、一年前は『怖い』って思ってたんだよな、色んなことがあって。

 

 おじさん、ボクサーブリーフ一つの姿になった。

 そしてその股間が、俺と同じで、すげえ盛り上がってて。

 

「兄さん、翔平……」

「これが今の『俺達』だ。見ておいてくれ、道成」

 

 おじさんが俺の前に進んでくる。

 ああ、そういうことなんだって、道成おじさんも『ここ』で過ごした人なんだってのが、俺にも伝わってくる。

 俺、自分の褌を外し、おじさんのボクブリを脱がせてしまう。

 その意味、親父にも伝わったようだった。

 

「そんな、甥と伯父で、そんな……」

「血のつながりとかは関係無いんだ、道成。この寺で俺や翔平が学んだことは、そういうことでは無かった。

 目の前にいる『人』と、どうやって『情』を交わし合えばいいか、そのことをひたすらに学んできたんだ」

 

 俺が言いたかったこと、伝えなきゃいけなかったことを、おじさんが言ってくれてる。

 それにも応えなきゃと思ったし、作務衣に染みこんだ『香』の効き目が、俺とおじさんを、そしてきっと親父をも、その身の内を昂ぶらせてたんだ。

 

「しゃぶらせてもらいます、おじさん。気持ちよく、イってください」

「な、なんて、なんてことを……」

「道成、分かってやってくれ。翔平が自分の『今』を、お前に伝えたがってるんだ」

 

 俺、おじさんのぶっといのを口に含む。

 勃ったのは初めてだったけど、風呂に一緒に行ったときとかに、確かに普通でもデカいなとは思ってたそれ。

 おじさん、俺の魔羅しゃぶりに先走り出し始めてくれてて、そのことがすげえ嬉しかった。

 

「ああ、兄さん、俺は、俺は……、どうすればいいんだ……」

「見ててくれればいい。お前の魔羅も、ここの『香』でおっ勃ってるはず。さすがに翔平がしゃぶるのは無理かもしれんが、どうしようも無くなったら、俺がイかせてやるから」

「そんな、そんな、兄さん……」

 

 おじさんのをしゃぶりながら、おじさんと親父との話を聞いている俺。

 たぶんおじさんの言う通りで、親父も作務衣から立ち登る『香』と、目の前のこの状況で、勃ててはいるはずだった。

 それほどまでにこの『香』は『効く』し、だからこそ、この寺での最初のハードルを、俺もまた乗り越えることが出来たんだ。

 

「おうっ、いいぞっ、翔平っ!! イくぞっ、お前の口にっ、イくぞっ!!」

「んぐっ、むうっ、んっ、んんっ……!」

「イくぞ、イくっ、イくっ!!!!」

 

 おじさんの宣言に、俺は手と口で必死に応えるしか無い。

 おじさんのデカい尻がひくつく度に、大量の濃い雄汁が、俺の喉奥に何度もぶつかってくる。

 

「イッたのか、兄さん……。そして、飲んだのか、翔平……」

「うん、道和おじさんの精液を、俺は飲んだ。おじさんが気持ちよくイッてくれたこと、おじさんが俺の口に出してくれたこと、それが全部、俺に取っても『気持ちいい』し『心地いい』し、そして、俺もまた『性的に感じる』ようになっちまってる。

 変な話だけど、この姿を、親父に見てほしかった。親父に知っておいてほしかった。

 俺のこの寺での一年が、俺を『こう変えた』、そしてそれは俺にとって『気持ちがいい』ことなんだってのを、分かってほしかったんだ」

 

「道成、ある意味『普通』に生きてきたお前には分からないことだらけかもしれんし、理解することを拒否したいって思いもあるだろう。だが、翔平の言う通りなんだ。今の翔平の在り様をただただ、受け入れてやってくれ。兄である俺からも、それだけをお前が分かってやってほしいと、願ってる……」

 

 おじさんが裸のまま、親父の肩を抱いていた。

 それを拒否して無い親父。

 少しは分かってくれたんだろうか。

 

「正直、分からんことが多すぎる。うちの奴にもどう伝えていいか分からんし、結局は言えないのかとも思う……。

 だが、少なくとも翔平が一年前のお前と『変わる』ためには、この寺でのこういう『変化』が必要だった、兄さんと同じ意味での『変化』が必要だった。

 その二つは、セットだったんだって、受け入れるしか無いんだろうな……」

 

 親父、肩を落としてはいたけど、俺の目を真っ直ぐに見て言ってくれた。

 そのことが、俺、ホントに泣きそうになるぐらいに、嬉しかった。

 

「ああ、そうだ……。ありがろう、道成……」

「親父、俺、俺……。本当にごめん。でも、親父が言った通り、おじさんが言ってくれた通り、今の俺が『こう』なんだし、それを俺はぜんぜん後悔してないし、むしろ喜んで毎日を生きていってる。

 そしてそんな毎日を、この寺でもうしばらく続けていきたい。

 そう思って、そう願ってるんだ」

 

 

 こうして、この寺での一年を過ごした俺の、親父達との対面はほぼ終わりになった。

 身繕いを済ませ、親父を抱くようにして車へと戻るおじさんが、俺にこっそりと言った。

 

「ホントは道成の魔羅も、しゃぶりたかったんだろう、翔平?」

「実は、そうです。親父って意味とは違って、1人の男の魔羅として、俺、しゃぶりたかった」

「さすがに実の親子だと色々考えちまうだろうな……。あいつのは俺が車ん中ででも、扱いてイかせてやっとく。どうせ『香』が効いたままじゃ、帰れんだろうし」

「よろしくお願いします、道和おじさん」

「よろしく、はよかったな。今年の合同乱会は俺も顔出すから、そんときを楽しみにしとくぞ」

「俺も楽しみです。そんときは……、おじさん、俺の尻も、存分に味わってください」

 

 おじさんもこの寺のOBなんだ。

 たぶん、親父とのことも、お袋にどう伝えるかも、いい感じでやってくれるんじゃ無いかって、俺、他力本願にも思ってた。

 親父とおじさんに手を振って、俺の一年後の一日が、やっと終わったんだ。

 

 

「親父さんと道和には、しっかり伝えられたようじゃの、翔平」

 

 道円阿闍梨が、俺の肩に手を置いてくれてる。

 

「はい、阿闍梨様。俺、ちゃんと言えたと思います、今の俺を、ちゃんと伝えられたと思います。

 そして、明日から、いや、今日からも、またこの寺での修行に励みたいと思ってます」

「うむ、同室の2人も、お前の報告を心待ちにしとるじゃろう。早く戻ってやって、正成と耕一に、伝えてやれ。あの2人の喜びも、またお前の中に再び帰っていくじゃろうからな」

 

 そうだ、そうなんだ。

 人の喜びを己のものとし、自らの喜びを人と共にする。

 山門に掲げられた『他者功利』の4文字が、俺、ああ、そうなんだって納得することが出来てた。

 この寺で『他者』と『己』を、互いに『利』することが出来るよう、そんな僧呂になっていきたいって、本当に思えたんだ。