その3 採用が決まって
水曜日、スマホで受信できるわけだから別に出て動いてても構わないんだけど、なぜかやっぱりアパートでパソコン付けて待つ俺。
昼前になるかなと思ってたら、もう9時過ぎにはメールが来る。
で、無事合格。
これまでの流れからして大丈夫だろうとは思ってたし、あんな妙な試験受けさせられてダメってなったら、怒るというか怨む奴とか出てくるんじゃと要らぬ心配などしてしまう。
諸塚君、どうだったんだろうと思ってたら、メール来て10分もしないうちにSNSのDM受信音が鳴る。
『受かってました!』
目出度い報告なんだけど、こっちがもし落ちてたら、ということまでには頭が回ってなかったみたい。
つうか、この一言だと、本人、きっと嬉しがってるんだよな、あんなことされたのに。
幾らか予測してた俺とは前提が全然違っただろうに。
こっちも合格伝えて電話鳴らしていいか聞いたらOKとのこと。
「お互いおめでとうだな。その、俺はまあ、そのまま行くつもりだけど、諸塚君はどうする?
あんなこと採用試験でやるとこだと、入ってからもかなり大変だと思うけど」
「あれから色々考えたんですけど、部活の延長って考えれば、まあいいかなって思えちゃって。せんずり競争とかはよくやらされてましたし、脱ぐのも分かってりゃ別にそう抵抗無いですしね」
「ああ、俺もそこらへん、同じかなあ。俺は高校んときは陸上の投擲してたけど、そっちは何やってたん?」
「高校までラグビーだったんですよ。全国とか行けるレベルじゃ無かったけど、そこそこ厳しかったんで、割とあの手のノリ、慣れてるっスね」
ん、なんか俺、そこらへんにちょっと引っかかるものが。
「諸塚君も、エントリーシートに部活のときのこととか色々書いた感じ?」
「ああー、ですです。サイト見てもなんかそんなふうな感じのとこみたいな気がしてたんで、強制せんずりやらされたとか、部員全員でのせんずり大会のこととか、ノリノリで書いちゃいました」
なんか、こう、モヤモヤしてた霧が晴れてく感じも。
俺と諸塚君の共通項、その割り出しが出来そうだよな、これ。
「俺もそんなもんかな……。じゃあ、同期ってことになるので、よろしくな!」
「こっちもです! つか、三股さんがいてくれて、後半もまずは落ち着いて入れたし、終わってからもアレで一人そのまま帰ってたら、かなりキツかったと思うし、ホントありがとうございました!」
「あ、受諾メールどうする? 金曜午前中までに返信くれってなってたけど?」
「後のスケジュールも分かるんなら早めに教わってた方がいいので、もうこの後すぐ送っちゃいましょうか?」
「了解! 俺もそうする。じゃ、またなんかあったらいつでも鳴らしてくれてイイから」
「了解ッス! あー、なんか、三股さんと一緒っての、俺、ホント嬉しいです。これからもよろしくお願いします!」
「こっちのセリフだって、それ。じゃ、また!」
うん、諸塚君も、もしかして五ヶ瀬さんと並ぶ、天然の『たらし』かもしんないと、声聞きながら思った俺。
やれやれとは思ったんだけど、昔襲われたような猛烈な『嫌気』とかは全然感じないんだよな。
高校時代んときはやっぱ色々あって、その『嫌気』の方が上回るときもあったんだけど。
ま、その辺は俺が大人になったってことなのかもとか、一応思っておくことにする。
話した通りに受諾メール送ったら、それこそすぐに入社日や事前のオリエンテーション、さらには新人歓迎会の日程まで送ってきた。
10月1日が正式入社日で、その前の一週間が事前オリエンテーション。この部分は時給発生のバイト状態。
事前研修もあるけども、入社後1ヶ月ぐらいは座学中心の実務研修になるようだった。
迷ったけど、五ヶ瀬さんにも連絡。
メルアド、会社発行の奴ではあったけど、前もエントリーした後にやり取りしてるから、もし見られても大丈夫じゃ無いかと思ってさ。
そしたら五ヶ瀬さん、また向こうから電話くれて。
「おう、おめでとう。俺もホッとしたよ」
ホントに五ヶ瀬さん、嬉しそうだった。
「ありがとうございます。
ただ、脱ぐとか勃起させられるまではちょっと聞いてたんですけど、最後のあれには、驚きましたよ」
「だよなあ。あれで驚かれなかったら、こっちが困るとこだった」
「いや、そういう意味では無くて……。まあ、いいか。あ、その、こんなこと聞いていいかどうか分からないのでダメだったら言ってください。
6人受けた中で、いったい何人受かったんですか?」
さすがにちょっと間が開いた。
「三股君なら知っておいてもらっても構わんかな……。どうせ諸塚君ともすでに連絡取り合ってるんだろう?
今期の採用は君と諸塚君の2名になってる。彼からも受諾が来たので、同期ってことになるな」
やっぱりな、と思うことしきり。
「あー、なんかそんな感じはしてました……。分かりました、事前研修から、よろしくお願いします」
「おう、待ってるぞ。ああ、事前研修、書いてたとおり初日でもスーツとか要らんからな。ラフな格好でいいんで」
「あの『平服で』って書き方、『礼服じゃ無くていい』って意味なんで、次からは書き方変えといたがいいかもですよ」
「さっそくダメ出しかい。まあ、君のそういう『ちゃんとした』ところに俺が惹かれたってのもあるかもな。あ、だったら服のことは諸塚君にも伝えといてくれ」
「分かりました。では、また」
「ああ、社長含め、みんなして待ってるぞ」
うん、やっぱり『たらし』だこの人。
だいたい、電話口で『惹かれた』とか言うかね、普通。
で、相変わらず俺の方はそれを、なんとなくニヤついて受け取っちゃってるんだけど。
9月の最終週まではまだ10日ぐらいあって、バイトとしてはどうしようと思ったんだよな。
どっちにしろこちらからもリーダーには報告しないといけないだろうし、週明けの月曜から顔出すことにした。
「えー、受かったんだ! おめでとう!」
「ありがとうございます。正職でも配送入るんで、そのときはまたお願いします」
「うん、正職様をこき使ってやるから、覚悟しとけよ」
「了解です!」
試験日前からもうシフトは止めておいてもらったのが幸いしたかも。
このタイミングで正職の人と鉢合わせしたら、なんか変な感じになりそうでさ。
一応、バイトリーダーの人達にって菓子折りは持ってったけど、バイトそのものは100人以上いるんで、後からヤバかったかなとか思う俺。
こういうこと考え過ぎるのが、たぶん、体育会系人とはズレてく原因ってのも分かっちゃいるんだけど。
……って考えて、五ヶ瀬さんとかとのやり取りがなんで俺が心地良く感じるのか、ちょっと分かった気がした。
たぶん、あの人とかここの会社の人、上下のノリは凄え体育会的なんだけど、少なくとも『相手が何か考えている』ってことは、前提になってるんだ。
電話をかけていいか事前に文字のやり取りで確認したり、何か行動起こすときも一応の確認は取ってくれてる感じもしてた。
そのあたりが年齢が関わってるせいなのか、いわゆる『社風』みたいかものなのかは、そのときの俺には分からなかったけど。
『入社おめでとう!!』
なにこのノリ?
事前研修初日、諸塚君と打合せてポロシャツにして初の出社。
そしたらもう、ホワイトボードが飾り付けてあって、いや、入社日は一週間後なのに。
「おめでとう! これからよろしく!」
「うちみたいなところ選んできくれて、ありがとう。一緒に頑張っていこう!」
「おいおい『みたいな』ってのは余分だろう。うちを選んでくれてありがとうな。色々あると思うけど、頑張ろうや」
なんかもう、今日が新歓の宴会かと言うノリ。
10時集合だったので何人かはもう配送や営業に出てて、たぶん事務所に残ってるのは半分ぐらいだったんじゃないかな。
「おいおい、どうせ口だけで言っても覚えきらんだろう。職員表は渡しとくから、お前らも少し落ち着け」
五ヶ瀬さん、やれやれって感じになってる。
「高鍋さんと箕六以来、久しぶりの新人なんでこっちも興奮しますって」
あ、そうなんだ。
そう言えばこの前の流れ、毎年採用なら昨年度の人とかに紹介したはずだよな。
諸塚君も覚悟はしてるんだろうけど、思ってた以上の盛り上がりには驚いたようだ。
「あー、午前中は俺と社長でのオリエンテーションだ。昼は社内の様子見せたいから、そんときに色々聞けや、お前らも」
「了解ッス!」
社内で普通に『お前らも』って、まあ、ここじゃそれが『普通』なんだろうけど。
「うるさくて済まんな。昼までは会議室でやるから、そっちに座っといてくれ」
五ヶ瀬さんに言われた会議室。
つっても『部屋』じゃなくて、あくまでも『事務所全体から見える(見通せる)』『スペース』だった。
当然、よっぽどの小声で無きゃ話す内容も聞こえるんだけど、それがもうここでは『普通』らしい。
楕円のテーブルに五ヶ瀬さんと社長、諸塚君と俺。
お茶のペットボトル、五ヶ瀬さんが持ってきてくれたのがちょっと意外だったな。
「最初は色々書類関係を終わらすぞ。その後、君達2人を採用したことに関して、社長から伝えたいことがあるんでな。
昼には早出の連中が帰ってくるので、この事務所がどんな雰囲気になるのか、一番に見てもらいたいと思ってる。
で、昼を少し遅めに取っての休憩。
最後2時からは社員用に用意するユニフォームの採寸、4時までが今日の予定になる。
時給出るのはここまでだが、もし2人がいいなら午後便の連中の出迎えしてくれるとあいつらも喜ぶと思うぞ」
何にしろ、先の見通しがつくように事前に色々と説明してくれるのは、俺みたいな考え方のもんには凄えありがたい。
そこを飛ばされると、なんかイラつく自分の性格もいかんのだろうけど。
「健康診断書、免許関係、口座関係書類と確認用捨て印、雇用保険の奴は2人とも受給中じゃ無かったよな……。マイナンバーと緊急連絡先と……。
うん、こんなもんか」
なんか専門の事務の人とかいるかと思ってたんだけど。
「ああ、もちろん雇用の部分ではそっちで処理してもらうんだが、社会保険とかけっこうクルクル変わるからな。
俺も事務的にも関わっとかないと、教育担当なのに嘘教えるとかなっちまうだろ?」
システムとしてそうしてるのか、五ヶ瀬さん自身がそうしてるのかは分かんないけど、そのあたりは素直に凄いと思う。
「おし、その事務との確認してくるから、後は社長の話を聞いてくれ」
五ヶ瀬さんが席を外す。
「では、改めましてだな。この、株式会社自転車便運営会社『バイス便!』の代表取締役社長の『椎葉信三郎(しいばしんざぶろう)』だ」
立ち上がっての握手。
「三股太志です。よろしくお願いします」
「諸塚充典です。よろしくお願いします」
ニコッと笑う社長。
もう四十手前だったと思うけど、ややもすると五ヶ瀬さんより若く見える。
タッパもここの中では高い方って感じで、175センチぐらい? 体重は3桁ありそうだけど、どうなんだろう。
短く刈り上げた頭が爽やかで、なんか諸塚君がはにかんでるっぽい。
そしてやっぱり、目を見はるほどの太股の太さが圧倒的だったんだ。
「まずは改めて、三股君、諸塚君、うちを就職先に選んでくれてありがとう。
そして、私からは君達に一つ謝らないといけないことがある」
「あ、別に試験の時のことなら僕も諸塚君も気にしてませんので」
社長に謝らせるのもあれかと思って、一応すぐさまのフォロー。
諸塚君も頷いている。
「ん、いや、試験の内容については俺は誇れるものだと思ってるんだがな」
ありゃ、外れた。
「謝らないといけないというのは、試験中、2人ずつの小グループに分けた人選そのものだ」
「???」
「もう諸塚君も三股くんがうちのバイトを長年やってて、五ヶ瀬とも懇意だったことを知ってるだろう?」
「そして諸塚君も三股君も、最初にやったペーパーテストと、その後の即答問答での解答内容や時間は当然として、答える際の君達の表情態度、声色も、複数のスタッフで確認させてもらっていた。
そしてその結果、おそらく我らの求める人材であろう、そしてそのことを本人がプラスに受け取ってくれる、つまり合格を伝えれば就職先として選んでくれる、と判断したのが、君達2人だったんだ」
諸塚君は、あまりよく分かってないようだ。
俺はなんとなく予想していたこともあって、声に出して確認してみる。
「それは、グループ分けの時点ですでに合格者、すなわち僕と諸塚君が決定していたということですか?
逆に残りの4人の人達には、あの時点ですでに可能性がなかったのだと」
諸塚君もどういうことか、気付いたようだ。
「あ、と、ということは、もしかして、あの最後の服とか、その、勃起させるとかの試験って、その、もしかして……」
「ああ、諸塚君。君が想像する通りだ。あの脱衣指示から先の試験は、残りの4人にはなされずに解散となっている。
三股君は、あの日のうちに予想してたというわけか」
「試験当日にはそこまで考えてませんでした。
エントリーシートに部活や運動歴の詳細記入欄があったときに、んん? とは思っていましたが、諸塚君と試験後に話して彼がラグビー部で色々と経験をしていることを知って、それなりに確信した次第です。
配送に耐える身体かどうかは実際に体力測定した方が確実でしょうし、部活での肉体体験、性的体験等まで聞く必要は無いでしょうし。
あのあたりはハラスメント撲滅のためと言うよりも、経験した内容と、それに対して個人的にどんな思いを持っていたのかを吟味するものだったのかと、後から気が付きました」
「五ヶ瀬君も言ってたが、そのあたりの分析力はさすがだな……。
まあ、何を言っても言い訳にしかならないんだが、君らの真剣さを逆手に取るようなことをして、本当に申し訳なかった。
この通りだ。謝らせてくれ」
なんと社長、テーブルの横で土下座しようとしてる。
他の社員の人達が見て見ぬ振りをしてるのは、自分達も同じ経過を辿ってきたせいなのか。
言葉を失ってる諸塚君。
俺は頭を下げた社長に駆け寄った。
「頭を上げてください、椎葉社長。謝るんなら、俺達で無くて、その場で途中で帰ることになった4人の人にですよ!」
おや、という感じで社長が顔を上げる。
彼が思っていたものとは違う言葉を、俺が発したようだった。
諸塚君が気が抜けたように椅子に座ったまま、ぽつりと呟く。
「よかった、本当によかった……」
「諸塚君、よかったとは……?」
社長がまさにハテナマークを頭上に浮かべて尋ねる。
俺も同じ疑問を持っていた。
「だって、あの脱がされたりとか勃起しろとか、最後は社長にしゃぶられてイかされちゃったとか、あれ、俺達だけで済んだってことでしょう?
俺とか三股さんはまあその、部活とかでそういう雰囲気とか経験してるからいいものの、あの人達、休憩時間に話してたらみんなすごく優しそうないい人達でしたもん。
俺、たぶん馬鹿だから人の気持ちとかよく分かって無いスけど、万が一、あれでここに嫌なイメージ持って試験会場出ていく人がいたら、嫌でしたもん……」
正直、俺には無いものの見方だった。
たぶん社長も五ヶ瀬さんも同じだったと思う。
いつの間にか五ヶ瀬さんが経理らしき人と一緒にテーブルに来てる。
「お前ら、2人とも凄いな……。いやまあ、前半終わった段階で、諸塚君含め2人選んだ俺達も凄かったと言うことにしとこうか」
社員さんたち、机に座って後ろを向いたまま、ガッツポーズする人が何人か。
たぶん、当日、会場に来てた人達なんだろう。
社長、俺と五ヶ瀬さんに促されて立ち上がり、椅子に腰を下ろす。
「気は済みましたか、社長?」
「ああ、こればっかりは自分の口から言っとかないと、ずっと引っかかるしな」
仲良いのかもしれんけど、五ヶ瀬さん、言い方が。
「あー、五ヶ瀬に出してもらった分の書類は、全部大丈夫だったぞ。こっからは会社からの書類の方だ。
雇用契約書兼労働条件通知書、こいつは研修期間中に目を通してもらって署名捺印、一通ずつ互いに持ち合う奴だ。
守秘義務関連の契約書が2通、配送に使う連絡機器とアプリやGPS関連機器の取扱説明とそれぞれの貸与条件確認契約書、後はこっちのマイナンバーの受領確認証か。
まあ、後からも色々出てくるかもだが、とりあえずこの1週間で処理してもらうのはこのくらいかな。
一つ一つは五ヶ瀬からも説明あると思うんで、紛失だけはしないでくれよ」
五ヶ瀬さんとさっきまで打ち合わせてた人、とにかくゴツい。というか、デカい。
なんて言うか重量級の重量挙げ選手とか、ラグビーの前の方の人とかそんな感じ。
この人『高千穂猛虎(たかちほたけとら)』さんって言って、経理担当の43才。社内で一番年上。
後で聞いたら167で100キロ軽く超えてるって。
赤のポロシャツ、鍛えてるのが丸わかりの大胸筋や腹の出具合も凄いんだけど、その乳首のところ、なんか突起みたいなのがくっきり浮かび上がってて。
「気になるかい?」
俺の視線に気付いた高千穂さん、ニヤッと笑って。
「疑問はすぐに解決しとかないとな」
なんとポロシャツ脱いじゃった。
もう、圧倒的なバルクと日焼けした肌が、エロいというか凄いというか。
案の定、両方の乳首に、なんかこう真っ直ぐなピンの両側に丸いのが付いてるみたいな、かなり太いピアスが貫通してる。
「うわ、これ、痛くないんですか?」
「ああ、一番最初に貫通させるときは痛みがあるが、後は途中途中でピアスの太さを増していくときに少しあるかな。
だがな、慣れてくるとその痛みみたいなのが、すごく気持ちよくなるんだぜ」
俺はさすがに固まってるけど、諸塚君が、興味津々。
「触ってみていいぞ」
「い、いいんですか?!」
「ああ、強めに引っ張ってもらっても構わんからな」
「じゃ、ちょっとだけ……」
いや、ちょっとだけって、諸塚君と高千穂さん、ここ、昼間の企業のオフィスなんだけど。
「んんっ、そうだ……。あっ、そこを引っ張りながら、少し捻るようにすると……。ああっ、ああっ、チンポ、勃っちまう」
だからあっ。
俺がそう言おうとしたとき、さすがに見かねた五ヶ瀬さんが声かけた。
「ほら、高千穂さんも、新人君使って自分の性欲を満たそうとかしないで」
「なんだよ、おっ勃ったらチンポのも見せてやろうと思っただけなのに」
「高千穂さんの脱ぎたがりは今に始まったことでも無し、タイミング見計らってどうせ見せ付けるつもりでしょうに。ほら、今はまだ別なこと色々あるんで」
「そこらへん、五ヶ瀬は真面目だよなあ。はいはい、年寄りは身を引いとくよ」
なんなんだ、この会社。
脱ぐことは前提だし否定もしないけど、業務の流れは別ってこと?
「ああ、びっくりしただろうが、まあうちは、いつもこんな感じと思ってくれていい。
君達も部室ではマッパでウロウロしてただろうし、先輩や同輩とも、いきなりチンポの握り合いぐらいはやっとっただろう?」
いや、それはあくまでも、学生時代まででしょうが。
「ああ、なんか俺、こういう雰囲気懐かしいッスね。馬鹿ばっかり言って笑ってて、たまに先輩から雷喰らって」
「うちはあんまり雷は鳴らんとは思うが、そういうのが『社風』ってもんだろうな。昼はもっとおもしろいもんが見られるので期待してていいぞ。
あ、これが事前研修1週間のスケジュールだ。見といてくれ」
そうそう、この色んなモノが混ざった会話の感触、懐かしいと言えば懐かしいんだけど、こっちがハテナ? と思ったことが流されちまうペースでもあるんだよな。
「社長からの企業理念、それぞれの担当部署からの専門用語及び職業倫理の解説、配送用機材の使い方、配送体験と実地における交通法規の習熟……。
座学だけでもけっこうあるんスね」
「諸塚君、キミ、ちょっとうちの会社について、軽く見てないか?」
「軽くは見てないっスけど、面白いなあ、凄えなあとは思ってるッスよ」
……。
うん、やっぱり諸塚君、ここの人たちとは馴染み早そうだ。