父の決意
「健和、やってやろう。俺達のドジョウ、見事に捕まえて、こいつらに見せつけてやろう」
「親父……」
「健和、耳を貸せ」
健幸が息子の耳に口元を寄せ、なにかを伝えている。
不条理なこの状況への怒りでなく、見ているものが本当に驚くような踊りをしよう。そのためにも真剣にやれ。
そのような檄であったのであろうか。
健幸の囁くような言葉に込められた決意に、なにか重いものを感じた健和は、敷島を見つめながら静かに頷いたのだった。
カラオケが再びセットされ、聞き慣れた安木節が広間に響く。
一度目の踊りでは怒りと恥ずかしさにうつむきがちだった健和の顔が真正面を向き、健幸にいたっては、なんと剽軽な笑みさえ浮かべていた。
ドジョウすくい、男踊りとして伝わるそれは、沼田でドジョウを掬う男のその動きを剽軽に、滑稽に強調し、鑑賞者の笑いを誘うことを主眼としている。
同じドジョウを掬うという動きを舞踊としての美しさに転化追求した女踊りとは、その目的からして違うものだ。
踊りの構成としては、まさにドジョウをすくう一連の動作を再現したものであり、ドジョウすくいの現場へ向かう男の姿から、ぬかるむ足下でドジョウを探し、ザルですくうまでの流れ。さらにはすくったドジョウをなんとか捕まえようと、ヌルヌルと逃げるドジョウを両手で掴み、腰の入れ物まで落とし込むという動き。
最後にドジョウとの捕り物で跳ねた泥を手で拭うと、ますます汚れる顔を表現する。
明治後期から普及したというその踊りは、上級者が演じれば「顔に付いた泥さえ見える」と言われるほどの、臨場感を醸し出すものだった。
会場に流れる軽快な曲をバックに、健幸と健和、父親とその息子が素っ裸のまま、広間の正面へと歩み出る。
がに股で腰を前後に大きく振るその動き方は、明らかに股間のものを強調した笑いを誘う動きだ。
その二人の股間は、その大小、皮に包まれているかいないかの違いはあれど、勇ましく勃ち上がっていることに変わりはない。
「よっ、御両人っ!!」
「短小包茎チンポと、ズル剥けぶっといチンポ、見事だぜー!!」
「さっきとは、社長も息子さんも、なんか顔付き違うな……」
どっと笑う社員達を尻目に、二人の踊りが続く。
二人の真剣さと、それゆえに股間や局部の強調された動きも、はっきりと見ているものに伝わっている。
これまで見ていた健幸のそれとは明らかに違うその動きに、若い社員達のざわめきもいささか違ってきたようだ。
『出雲名物~、荷物にならぬ~♪』
お囃子に導かれ唄いが始まれば、沼田に到着した男がザルを両手に持ってドジョウを探し始める。
社員達の前を右へ左へと、尻を高く掲げ、ひょこひょことした足取りで何度も往復する二人。
たくましい尻肉の間にちらちらと見えるのは、年相応の落ち着きとぼってりと垂れ下がった健幸の金玉と、股を広げた瞬間にだけ見えるまさに瘤のように張り付いた健和のふぐり。
一箇所に留まり、ドジョウを探す動作のときには盛り上がった尻肉が上下に小刻みに振られ、それは見る者を双丘の奥、千尋の谷へと誘う怪しげな動きのようだ。
鍛えられた健和の盛り上がった尻肉と、股間から肛門周りに続くみっしりと茂った黒毛の目立つ健幸のそれと。
背筋と大臀筋、それを支える両足の太さに、労働に鍛えられた男の膂力が見えた。
いつの間にか若者達の野次は止み、銅鑼と鼓に合わせた手拍子が広がっていく。
『俺がお国で~、自慢のものは~♪』
ドジョウを見つけた男がなんとかザルの上にと泥をすくう様子を演じる二人。
ザルを正面にすくい上げるたび、上背の違う二人が背筋を伸ばし、それぞれに蹲踞のような姿勢を取る。
両足の膝を限界まで開ききった横綱土俵入りのときのようなその姿勢ゆえに、座敷に座った観客にとって、目線の先に何らさえぎるものなく届く二人の限界まで勃ち上がった逸物が飛び込んでくる。
股間から垂直に突き出す健幸の朝顔のつぼみのようなその先端から、ズル剥けで臍まで届こうかという健和のぱっくりと割れた鈴口から、散々な腰振りと羞恥心の生む興奮に畳にまで糸を引く先走りが垂れ落ちている。
もうなにか一刺激加われば、男としての精を漏らしてしまう。そんな状態にまで、二人の興奮が昂ぶっているのだ。
沼田に突き立てたザルを、すくい上げるが空だった。
踊りとしては何度も繰り返すことで誘われる、滑稽な笑い。
その中で、毎回のすくい上げの際のザルの角度、沼田に突き入れる細かな角度の違いをつける健幸と、ただ一つの動きを繰り返す健和。
親子二人の共演で、踊りに対しての年季の入り方の違いに気が付く社員達。
「社長の踊りって、実はすげえんだな……」
「社長一人のときは分かんなかったけど、息子さんのと比べると違いが分かるわ、こりゃ」
「なんかちょっと、二人の踊り、かっこよくないか?」
少しずつ少しずつ、野次の中身が変わってきている。
「俺はもしかしてこれまで『やらされてる』というだけの受け止めで、本気で踊りに向き合ってなかったんじゃないか」
自らのそんな思いに気付く健幸。
男達の視線には、まだまだ半分以上は好奇のそれが混ざっている。それでもその中に、なにか別の色合いが増えてきていることには健幸も気が付いていた。
『愛宕お山に~、春風吹けば~♪』
曲と踊りがクライマックスを迎え、いよいよ、逃げようとするドジョウを両手で腰の籠へ移すところにかかってきた。
子どもの頃から社員達と一緒にドジョウすくいを踊る父親を見てきた健和にとっても、ここが演技の見せ所ということは分かっている。
本来の踊りであれば、ぬるぬると逃げ惑うドジョウを上へ上へと、左右へと、なんとかしっかり握り締め籠までへと移す一連の流れに、踊り人の力量が問われる名場面だ。
敷島の策略とはいえ、ぬるぬるとしたドジョウをいかに「それらしく」見せるかは、たとえその「握るもの」が違っても、真剣にやり遂げる。
健幸のその決意は、息子健和にも十分に伝わっているようだった。
踊りの合間に互いの手にたっぷりと垂らしたローションのぬめりに、それだけでまた股間の逸物をビクビクと跳ね上げる二人。
先ほどから勃ちっぱなしではあったが、これまで手による刺激を受けることの無かった肉棒が、このぬるぬるとした感触に耐えることが出来るのか。
年若い健和にとってはその考えに至ってしまったことだけでも、垂れ流す先走りの量が倍にも増えてしまう。
いよいよ、ドジョウを手にする瞬間。
まずは父健幸のものに、健和が手を伸ばす。
観客によく見えるよう半身になった父の指ほどの逸物を、その大きな手でぬるりと包み込む。
「うっ……」
その声が届いたのは、健和の耳にだけだったかもしれない。
そこに含まれている響きには、は意表を突かれただけでは無い、どこか官能的なそれが混ざっていることに健和も気付いていた。
皮に包まれた健幸のそれを、もじゃもじゃと陰毛の茂る根元から両手で交互に握り絞る健和の手のひら。
ぬるりぬるりとしたその刺激に、健幸の背筋を射精へと向かう寂寞感が駆け上がる。
連れ合いを亡くした後、男手一つで一人息子を育てる中、他人の手で触られる経験などこの二十年近くはご無沙汰だったのだ。
同性とはいえ、多くの者達に見られている自分の局部。
短小包茎と、自分でもどこかにコンプレックスを持っていた逸物。
久しぶりに味わう人の手が、実の息子のそれであること。
そのすべてが、この数ヶ月、敷島の策略で密かに肥大化していた羞恥を官能と覚える健幸の性癖の変容に、強烈な刺激として働きかける。
刺激に慣れていない包皮の中の亀頭が、中まで入り込んだローションにヌルヌル、くちゅくちゅと揉み上げられる。
「あっ、出るっ、出るっ、健和っ、すまんっ……」
「親父っ、ごめんっ、ごめんっ……」
「ああっ、出るっ、精子がっ、出るっ……」
囁くように交わされる二人の会話であったが、その股間で何が起こったかは、見ている者達にとっては明らかだ。
「すげえっ、社長さん、あっと言う間にイッちまったぞっ!」
「先っぽ包まれてても、精子、どっぷり出てくるんだな……」
「実の息子にしごかれてイくって、どんな気持ちなんだろうな……」
「みんなに見られてイくって、すごくないか? 俺だったら、緊張して絶対出来ない気がする……」
若者たちが言うように、本当にあっと言う間の出来事だった。
視線はあくまで観客へと向けながら、小声で父の健闘をねぎらう健和。
対しての社員達の声には、少しばかり賞賛の響きさえ出てきているようだ。
にゅるりにゅるりと根元から先端へとしごき上げる自分の手の動きが射精を誘う直接のものであることは、自らも毎夜のようにその行為を行う健和としても十分に理解していた。
それでも、実の息子である自分の手が父親のそれを射精という行為に導いたことは、健和も予想していたこととはいえ、どこか現実を夢かと思わせるような官能を伴っていたのだ。
「交代するぞ」
小さく、だが、きっぱりと言う健幸の声は、射精直後の倦怠感を吹き飛ばすような決意に満ちている。
父親の言葉に、やはり覚悟を決めた健和が、天を突く己の太竿を、ぐんとみなの眼前に突き出す。
「息子さんも、社長に握られてイッちまうのかな」
「あれだけおっ勃ったチンポさらせるって、なんか、すごい……」
「俺たちだったら、あんなに堂々と出来るんかな?」
若者達の声が健和の耳に届く。
それはもはや、アスリートが自分の競技の瞬間を競技場に轟く拍手で迎えるあの瞬間のような昂ぶりを、若く豊かな体躯にもたらしている。
お囃子と唄いが遠くに聞こえる。
社員達に広がった拍手が、会場の空気を揺らす。
健幸の両手が、健和の勃起へとかかった。
「あふぅっ……」
その瞬間に漏れた健和の声は、先ほどの父親のものと同じく、官能の響きを纏っていた。
もはや衆人の前での吐精は、この親子に恥辱ではなく、喝采を浴びる行為へと変貌していたのかもしれなかった。
『私しゃ雲州~、浜佐陀~生まれ~♪』
「あっ、それはっ……」
健幸が、息子の逸物をぐいっと握りしめた。
踊りで表される、上へ上へと逃げるドジョウの動きを健和の肉竿で再現しようというのだろう。
ぬちゃりぬちゃりと、ローションにまみれた両手を交互に使い、引き絞られたふぐりからぶりっと剥けた亀頭までを何度も何度も扱き上げる健幸。
逃げるドジョウを追う動きそのものに、上下に、左右にと細かな変化をつけたその動きは、見ている者達にまさにそこに太い天然ドジョウが見えるかのような、絶妙な動きだった。
血管が松の根のように浮き上がる肉竿と、赤黒くはち切れそうに膨れあがった亀頭が、金型を作り続けた父の黒い染みが残る指で握られ、ローションと先走りが混じり合った汁が泡立つほどの勢いで扱かれる。
先ほど健幸のそれをしごいていた健和の場合は、健幸のペニスの小ささゆえに、一度片手で扱いたものを次の瞬間にはもう片方の手で握り直すほか無かったのだった。
だが、ここでの健幸は、健和のその堂々とした長さ太さのある逸物を、まさにドジョウを捕らえるかのように、両手での連続されたしごき上げを展開する。
「あっ、俺っ、親父っ、も、もうっ……」
父親の肩をがっしと掴み、最期が迫り来たことを健和が伝える。
こちらもまた、父親と同じく、しごき始めてからあっと言う間のことだ。
普段は己の手で力任せに扱き上げ、せいぜい溢れ出る先走りで亀頭を慰めるぐらいで済ませていた健和の逸物が、父親の手とはいえ、たっぷりとローションを湛えた手のひらで連続した両手しごきを受け、我慢の出来ようもあるはずは無かったのだ。
「おい、もう息子さんもイきそうだぞっ!」
「俺なんか、みんなの前に出ただけで萎えちまいそうなのに……」
「すげえ、父親にしごかれてイくなんて、すげえっ、すげえっ!!」
カラオケから聞こえる安木節が、最期の節を回す。
本来であればどじょうを籠に入れ、鼻に飛んだ泥を拭う仕草のタイミングはずが、二人続けてのしごき上げで、タイミングはずれてしまっている。
囃し立てる若者達はすっかりとその声をひそめ、健和の、そう自分達と年もそれほど違わぬ体格のいい青年の射精の瞬間を見逃すまいと、その視線を一点に集めていた。
「親父っ、イくっ、親父の手でっ、俺っ、イくっ、イッちまうっ!!
ああっ、俺っ、イくっ、イくーーーーっ!!!!」
息子にだけ聞こえた父の最期の声とは違い、健和のそれは宴会場すべての者の耳を震わせるほどの、まさに『雄叫び』であった。
その声の響きに劣らぬ吐精の勢いは、最後の瞬間、見事な放物線を描き間歇泉のリズムを刻む。
およそ近くにいた者達の頭上に降り注ぎいだ見事なその白滝は、濃厚な若い雄の匂いを会場全体へと広げていった。
「うおー、すげえっ!! 親子二代の子種ばっちし噴き上がったぞっ!!!」
「おーい、みんな、西山社長と息子さんの二人に、盛大な拍手送ろうぜっ!!!!」
先ほどまでとは宴会場全体を包む雰囲気は、まったく違ったものと変化していた。
タイミングよく、カラオケの再生も終わる。
会場は万雷の拍手に包まれていた。
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…………
……………
翌日の株式会社OHARAの社長室である。
「敷島っ!! 昨日の宴会、お前が言っていたのとは違う感じになってしまったじゃないか!」
「社長、昨夜は申し訳ありませんでした。親子二人で辱めようとしたんですが、息子が来たことでかえって西山社長の度胸が据わってしまったようで……」
「次からは息子は呼ぶな。すくなくとも西山社長の方は、羞恥心で興奮するようになってきてるんだろう」
「はい、どうやら二人とも薬を飲まされていたことには気が付いてないようです。西山社長の方はこれまでの辱めで、他人に見られることで確実に興奮するようになってきてると思います。そろそろ薬無しでも興奮するかどうか、次回は社長一人を呼んでやってみます」
「頼むぞ、敷島。久しぶりのタイプなんだ。あれを落とせれば、ボーナス出してやる」
「ご期待ください、小原社長……」