三日目となった。
勇蔵は、昨日、思いもよらずに男達の前でセンズリを披露することとなった公民館に再び訪れていた。
座敷にはすでに踊りの連の連中が揃っている。
総勢で15人ほどであろうか。厄晴れを済ませた連中と聞いてはいたが、全体的には50代を中心とした壮年の男達の集団のように思える。
思い思いに畳に座る男達を目の前に、勇蔵は継生氏に促されて挨拶をすることになった。
「皆さん初めまして。田所勇蔵と申します。
今回、こちらの連のお話しを聞き、ぜひともお仲間に入れていただきたいと、日高継生氏はじめ、重黒木昭一さん、日高好雄さんの見聞にて、皆さまにお目通りの次第となりました。
本日、よろしくご見聞のほど、よろしくお願いいたします」
継生さんの教わった口上を皆の前で宣言し、頭を下げる。
てっきり「けんぶん」は「検分」だと思っていたのだが、色々話しているとここいらでは「見聞」のことらしかった。
「勇蔵さんの男らしい噴き上げも昨日見せてもらい、うちの連に相応しい人と、儂ら3人も思うちょる。
本日、皆にもよお見聞きしてもらい、うちによお当たるか、見てくんないまし。
もっとも見聞は後にするかい、まずはいつもの練習からしてえと思うが」
継生さんの話しに皆が一斉に立ち上がり、普段の踊りの衣装にと着替え始める。
座敷のそこここで男達が素っ裸になっていく。
ちらちらと目の端に映る男達の肉体はいずれも日々の労働に鍛えられたずっしりとした肉感に溢れ、背の高い低いはありながらも筋肉と脂肪がよい具合に馴染んだ「いい身体」に思えた。
これらの男達が皆、裸になり互いの肉欲赴くままの行為を行うのか、そう思うだけで勇蔵は己の逸物が容積を増そうとしてしまうのを、どこか他人事のように感じてしまっていた。
素っ裸の男達が一列に並び、係りのものから装束一式を受け取っていく。
着物と帯に褌と足袋、ひょっとこの面と手拭いが渡され、勇蔵も身に付けていく。
思いの外強く締め上げられる面の紐が喰い込む痛みと視野の狭さが、どこか日常とかけ離れた状況であることを意識させる。
市内で見たそれとは違い、ここでは白い着物に赤い褌と、色味が逆になっているのが特徴のようだ。
「色が五十嵐さんのところなどとは逆ですよね」
「もともとは褌と面のみで踊っちょったらしい。その名残かんしれんなあ」
「そういう部分も含めて、全国に広まっているのとは違うんですね……」
衣装を着けた男達の用意も調ったようだ。
まずは通常の踊りの練習が行われる。
連の真ん中に入った勇蔵も周りの男達の仕草を見ながら、なんとかこなしていく。
テンテコテン、テンテコテン、テンテコテンテコテンテコテン
ティーリリリ、ティーリリリ、ティーリリティーリリティーリリリ
幾度も繰り返されるフレーズは、やはりどこかもの悲しさに満ちている。
曲調と異なる振り付けは、継生氏達の話しを聞けばさもありなん。せんずりと男同士の交合を模したものだと納得出来るものだった。
縄を手繰るように見えた手の動きは明らかに棒状のものを扱く動きであり、突き上げられる腰の動きは前の男の動きに連動している。
中腰で踊り続けることがかなりの体力を消耗することを、勇蔵は初めて知ったのだった。
40分ほど、男達の指導を受けながら踊り続け、へとへとになった頃だった。
これなら外の踊りの同好会でもあることだろうと思えた練習が、一通り終わったのだろう。
「それでは勇蔵さんの見聞を始めようけ」
継生氏の一言で座敷の雰囲気が変わる。
男達が次々と面を取り、着物を脱いでいく。
勇蔵も倣い、赤い越中褌一つの姿となった。
扇形に腰を下ろした男達の中、勇蔵1人が立ち上がっている。
手際よく足下に引かれた新聞紙は、畳が雄汁で汚れるのを避けるためだろう。
その意図を察知することだけでも、勇蔵の興奮がいや増していく。
「勇蔵さんのセンズリ踊り見せてもろうて、皆が大丈夫やと思うたら、いつもんごつ全員で楽しもうかい」
昨日の3人からは、とにかくおどけた踊りで皆の笑いを誘え、馬鹿になったつもりでセンズリして、最後は名前を名のりながら立派にイケと、さんざん言われていた。
まあ、実際には度胸試しのようなものであり、そこには「淫靡さ」が入り込む余地は無いようにも思われたのだが、好雄さんの「そん後があるかいな」との一言が引っかかっていた。
踊りの囃子が小さく流される中、いよいよ勇蔵のお披露目が始まる。
「田所勇蔵、皆さんの目の前で豪快にセンズリさせていただきます。
囃子唄もございますので、皆さん、手拍子お願いします!」
勇蔵が昨日、同じこの場所で披露した歌を大声で歌い出す。
まずは褌を着けたまま、囃し唄を覚えてもらう算段だろう。
「チンポ、チンポ、男のチンポ。チンポ一番、気持ちいい!
せんずり、せんずり、男のせんずり、せんずり一番、気持ちいい!」
大声で歌う勇蔵の姿に周りの男達がどっと笑う。
「自前で唄まで用意してくるとは気合いが入っちょるな!」
「これで褌取ったら、てーげー男らしいやろう」
単純な節回しだ。
男達もすぐに覚え、いよいよ次の段階に進めとの雰囲気になる。
「取ーれっ、取ーれっ、取ーーーれっ」
男達が囃し立てる。
言わずもがなの、褌のことだ。
勇蔵はぐっと丹田に力を込め、褌を解き放った。
「おお、勇蔵さんのが勇ましゅう、勃っちょるぞ」
「こんな山奥で、男に見られてても勃つなんてのは、てーげースケベな証拠だなあ」
前垂れを突き上げていた勇蔵の勃起が広間の外気に晒される。
先走りすら浮かべようとしているそれは、観衆に向かって1つ目の睨みを効かせ、湯気すら立ちそうな気合いに満ちていた。
男達から次々に発せられる卑猥な掛け声は、勇蔵をますます燃え立たせてしまう。
その股間は見られれば見られるほど、見せれば見せるほど、囃し立てられれば囃し立てられるほど、ガチガチと堅く勃ち上がり、勇蔵が腰を振る度に、先端から細かな水滴が飛び散っていく。
「あいつ、チンポ振り立てる度に、ガマン汁が飛び散っちょるぞ!」
「このまま腰振ってるだけで、もしかしてイくんじゃ無かろかな?」
1人の男が言いだしたことが、座敷にいる他の男達にも受けたのだろう。一斉に、まるで確定事項のような声の雪崩となって、勇蔵に襲いかかった。
「よし、このまま俺達の前でテテンゴでイケたら入会してもらう。気前よく、ぶっ放せよー」
「右手で握ったら、手は動かさんで腰を振るだけでイってしまえてー」
そのときの勇蔵の心持ちは何に喩えれば良かったのだろうか。
男としての矜持と羞恥心とが、渾然一体となった境地で、萎えることを知らずに勃ち続ける己の逸物。
衆人監視の中、1人だけ裸で、最後の褌すら身に付けることを放棄されられる屈辱。
しかしそこには、初めて感得する恥ずかしさと開放感、プライドの入り混じった確かな昂奮が充ちていた。
手のひらに唾液を垂らし、自分の肉棒をぐっと握り締める。
1人己で扱き上げる行為とは明らかに違う快感が、股間から脳天へと突き抜ける。
男達に囃されるままに、勇蔵は右手で作った円筒に己の肉棒を突き入れるように腰を前後に振り続ける。
大声で戯れ唄を歌いながら、その節回しに合わせて出し入れを何度も繰り返す。
「チンポ、チンポ、男のチンポ。チンポ一番、気持ちいい!」
右手で作った肉の筒に、へこへこと腰を動かし肉棒を突き入れる。
頭上に掲げた左手は目立つようにひらひらと動かし、滑稽さを誘う。
がに股に開いた両足を踏みしめ、腰を動かす様が男達の面前で披露される。
「ぐるっと回って尻も見せてみぃ」
男達の1人から声が掛かる。
唄を止めないよう、腰の動きを止めないよう、勇蔵が半回転し、たくましい背中と尻を皆にさらす。
「チンポ突っ込む度に、金玉もぶらぶらゆれちょる」
「ケツもたくましゅうて、いい男やな」
尻の間から覗く睾丸の動きすら男達の笑いを誘い、一瞬も止まらぬ尻の力強い動きには賞賛の声が上がった。
存分に尻の動きを見せつけた勇蔵が再び前を向いた。
畳に敷かれた新聞紙に飛び散る先走りが次第に紙面を濡らしていく。
精一杯に歌い上げる勇蔵の息の上がり方、金玉の張り付き具合、先走りの垂れる様に男達が最後の時を予感する。
「イきそうか?」
「イくなら、堂々とイかんといけんぞ!」
「あっ、あっ、イきそうですっ! イッて、イッていいですか?」
やはりここでも許可を求めてしまう勇蔵。
「イけっ、気持ちよう、イけっ!!」
「あっ、イキますっ!
男、勇蔵、皆さんの前で、センズリかいて、雄汁を出しますっ!
イくっ! イキますっ!! イくっーーーーーー!!!!!!」」
昨日と違い、受け止める者のいない雄汁が蛍光灯の光を反射し、噴水のように打ち上がる。
敷かれた新聞紙を遥かに越え、およそ人の身長ほども先へと飛んだ汁の痕跡に男達がどよめく。
「おおっ、てーげー出たな!」
「汁ん匂いも、てげ強い」
「男らしゅうして、いい射精やったな……」
むわりと立ち昇る独特の性臭は、居合わせた男達にとっては芳しいものとして受け止められているようだ。
「こんげよいセンズリしてくれた勇蔵さんを、うちん連に入れてんかまんかな?」
「かまんかまん!」
「入ってもろうて、一緒に楽しむといいっちゃが」
これもまた昨日と同じく、へたりこんだ勇蔵を尻目に継生さんが仕切っていく。
男としての精一杯の裸踊りとセンズリに、勇蔵の加盟は認められたようだ。
「いっぺんイッた勇蔵さんにはきちいけど、俺っ達はこれからになるかい、まーた頑張ってもらおうけ」
継生氏の声かけに男達が一斉に褌を外した。
勃ち上がった全員の逸物が、勇蔵の裸体にその1つ目を向けている。
勇蔵と男達の夜は、実に長いものになりそうだった。
了