龍騎と竜人 仮の契り

その3

父の思い

 

父の思い

 

「少しは落ち着いたようだな……。やれやれ、儂ももう10回ばかりイかせてもろうたが、とてもとても、これは一日では終わるまい……」

 

 明け方近くか、大岩の周りに滴る精汁の匂いを自ら味わいながら、ダイラムが独りごちる。

 

 そこへ近付くのは、1人のドラガヌ族。

 魔導の力ゆえか、その接近にはすでに気付いていたかのように、軽く手を上げるダイラム。

 

「ほう、ダイラム殿も、まだまだお盛んなようですな」

 

 その者も、あたりに漂う濃厚な性臭は、天幕の中の若き二人のものよりも、この場においてはダイラムの足下に溜まった大量の汁からのものと理解しているのであろう。

 

「これはこれは、リンバル殿。さすがにリハルバ殿が心配になられたか?」

「心配ということではありませんが、それでも気にならぬといえば、親としては嘘になってしまいますな。

 息子の話では一日で、とは聞いてはおりましたが、あの二人であればおそらくは一晩一夜では終わらぬものかとも思い、幾許かの食料と飲み物も持ってきております」

 

 ダイラムが座る大岩のもとへ顔を出したのは、リハルバの父、リンバルであった。

 一族のもの同士でもあまり共有はしない『契り』の場所についても、リハルバから事前に聞いていたのだろう。

 剥き出されたままのダイラムの巨大な逸物や撒き散らされた精汁をいささかも気にせぬリンバルの様子は、異種族ではありながらもその根を一つにしているゆえであろうか。

 

「ほっほっほ、それはありがたい。案の定、一晩ではまったくおさまらぬ様子ですな。

 リンバル殿のご想像通り、若者同士、かなりやり合っておりますぞ。

 結界内とはいえ、この年の私が若者達の『気』に煽られて、このざまですじゃ」

 

 周囲に撒き散らされたダイラムの大量の精液と精気には、先ほどからリンバルも疾うに気が付いている。

 

「なんの。ダイラム殿がいまだ精気溢れる証拠ではございませぬか。いや、この場に漂う師の精気と精汁の匂いで、私の方も興奮してしまいますな」

 

 見ればリンバルの下腹部からも、リハルバに負けず劣らずの長大な生殖器が勃ち上がっていた。

 

「その……、失礼な質問であれば申し訳ないが、リンバル殿はかつてのノルマドとの『契り』には、もう縛られておられぬのですかな?

 あるいはノルマドとの『契り』を終えた後、一族の中でそのような特定の相手の方がおられる、などということがあるのでしょうか?」

 

 他種族の文化的な禁忌に触れるかもしれぬ問いを、ダイラムが慎重に行う。

 丁寧ではあれど正直なその質問に、リンバルが答える。

 

「私はこれまでに3人のノルマドと『契り』を結んで来ました。

 どの男達とも、草原を駆け巡り、天空を舞い、実に素晴らしい日々を過ごすことが出来た。

 私はもう、この背に誰を乗せることも無いとは思いますが、ある意味それは、あなた方から見れば『自由』と言われる状態なのでありましょうな」

 

 リンバルの言葉は、ドラガヌとノルマドの男達の間で交わされる『契り』について、改めての深い洞察を、ダイラムにももたらしたようである。

 そしてその言葉には、今現在、己を縛る交情相手がいないという事実をも、ダイラムへと伝える意味合いが含まれていた。

 

「教えていただき、誠にありがとうございます、リンバル殿……。

 ドラガヌの一族として、あなたも感じておられたそれほどの思いを、天幕の中のリハルバ殿もまた、胸に込められておられることでございましょう。

 若きリハルバ殿のここに至ったその決断を、同行を願った者の一人として、大変深く、そしてありがたく、受け止めておりますぞ」

 

 正直なダイラムの気持ちであった。

 一人のドラガヌとして、それほどの思いを『契り』に対して持つであろうリハルバが、グリエラーンという新たな相手を『己の背に乗せる』意を示してくれたこと。

 そのために提起された『仮の契り』とは、おそらくは己の『心』との折り合いを付けるための、リハルバという一人の若者に取って、ギリギリの選択であったはずだ。

 

「あやつにとっても、大きな、そう、大きな決断であったのだろうとは思っております。

 そして、あなた様やグリエラーン殿との旅は、過酷であるも、あやつには大きな意味を持つものとなることでありましょう。

 親としては我が子の成長とは、嬉しくもあり、また寂しいものでもございますが……」

 

 ゆっくりと、ダイラムの横へと腰を下ろすリンバル。

 場に漂うダイラムと若き二人の精気。

 ダイラムの下腹部から放たれた多量の精汁。

 さらには会話を交わすことでのみ到達する、互いの存在への尊敬と思慕。

 

 それらが皆、己の逸物への活力となる二人である。

 それぞれの族としての人生を、長きにわたって過ごしてきた二人にとって、敬愛と情欲は、同時に成立する。

 互いの逸物を見やれば、スリットの奧から上がってくる潤滑体液が、既にその肉棒をしとどに濡らしているのであった。

 

「先ほどのリンバル殿のお言葉は、他者との肌の触れ合いに制約が無くなったものと、このダイラムは受け取りました。

 儂も二人の精気に当てられてしまい、なかなかこの身の滾りを抑えきれないでおりまする。

 リンバル殿が構わぬのであれば、儂が口にて、その勇ましきものをお慰めしてよろしいですかな?」

「恐れおおくも、願ってもないことです。そして、私もまた、ダイラム殿の逸物をしゃぶり、その汁を飲ませていただいてよいでしょうか」

「もちろんですぞ、リンバル殿。ではまず、儂の口から味わってもらいましょうか」

 

 岩を降りたダイラムが、両脚を開いて腰掛けるリンバルの股間へとその顔を埋める。

 リンバルのそれは、根元と先端の膨らみは、およそリハルバのものを凌駕するほどの逸物であった。

 根元から先端まで、それこそぐるりと2周りもしようかというその『捻れ』は、断面が三角に近い形状のエッジ部分が、挿れられた器官にとっては最大の悦楽をもたらすこととなるだろう。

 

「んっ、むっ、おおっ……。ダイラム殿の口中の、なんと心地よきこと……」

 

 魔導探究への渇望からか、若年時より各地を訪い、その先々で数多の種族との親交を深めてきたダイラムである。

 放浪の己の身からの責任として性的に恒常的な関係を結ぶことは考えず、また、そのためか否か、大半の情交相手は同性であった。

 膂力体力にほとんどの他種族に優る竜人として、相手の快楽を最大限に引き出す技を駆使するその情交は、一度相手をした者達から『この地に来られれば、またの逢瀬を』と、熱望されるほどの『業人(わざびと)』でもあったのだ。

 

「私も己の手以外では、久しぶりなので……。こ、これは、すぐに……」

「いつでもよろしいですぞ、リンバル殿」

「ああっ、もうっ、イってしまう……。口にっ、ダイラム殿の口に、ああっ、果てるっ、果ててしまうっ……。イッて、イってしまうっ……」

 

 若者達に比べれば、さらに静かな吐精であったと言えよう。

 それでもダイラムの口中へと放たれたリンバルの粘り気のある液体は、気を抜かずに飲み込まねば溢れてしまうほどの量であるのだ。

 

「ドラガヌの方の汁は初めて飲ませていただいたが、この身が滾るほどの、実に素晴らしいものですな」

「ありがとう、ダイラム殿。ダイラム殿の口を味わえたなど、この地では末代までも語り継がれるほどの誉れとなりましょう」

 

 いささか大げさな物言いではあったが、リンバルとしてもそれほどの心地よさであったことは間違いないようだ。

 

「では、今度は私が。既にかなりの吐精をされておられるようだが、まだまだ打ち止めではございますまい」

「このくらいの吐精で息が上がるようでは、竜人としては名折れとなりますな。さすがに天幕の中の二人、リハルバ殿、グリエラーン様の若さには負けますが」

 

 笑いながら答えるダイラムの逸物がその声と共に上下に震え、これまでに噴き上げられた雄汁と先露をさらに辺りに撒き散らす。

 

「おお、これが竜人の逸物。この瘤の連なりがスリット内を掻き回せば、さぞやたまらぬものとなりましょうぞ。

 ダイラム殿の精汁の匂いもたまりませぬな。では、私の技をもご堪能くだされ」

 

 リンバルの口吻がダイラムのそれを呑み込み、緩やかなリズムを刻み始める。

 畳まれたドラガヌの羽が、上下に揺れる。

 下腹部から上りゆく快感に、ダイラムが天を見上げる。

 

「おおう……。これはたまりませぬ……」

「ノルマドの男達とも、幾度も幾度も、その精を飲み合ったものですしな……」

 

 寿命、という観点で見ればノルマドとドラガヌの一族の間には、かなりの開きがあった。

 それを互いに理解した上で、ノルマドの狼獣人達はその生涯をかけて、ドラガヌの龍騎達はその間の肌の触れ合いをただ一人の背中を任せる男へと託して、『契り』を結ぶのだ。

 ノルマドの若きラルフを『最初の相手、初めての人』として『契り』を結んだリハルバが、どのような『想い』を持ち、グリエラーンの『それ』を口にし、今そこの天幕の中で再びの『契り』を行っているのか。

 リンバルの何気ない、それでも過去形で話される言葉にこそ、その深き願いを考えずにはおれないダイラムである。

 

「ああ……。心地よう、心地ようございますぞ、リンバル殿……」

 

 吐精への集中を促すためか、リンバルからの返事は無い。

 口吻には収まりきれぬダイラムの逸物。その根本はリンバルの手で握られ、上下に烈しく扱き上げられる。

 先端から二つ目までの膨らみを呑み込んだ口中では、膨らみとくびれ、精汁を流す溝をその舌が複雑に舐め回し、口蓋と歯の裏に押し付けられる先端が、さらなる刺激を与えられる。

 

「ああっ、イきますぞっ、リンバル殿っ……。リンバル殿の口にっ、口に、イきますぞっ、イくっ、イくっ、イくっ……!!」

 

 すでに二桁の吐精を済ませたとは思えぬほどの大量に噴き上がるダイラムの精汁が、リンバルの喉を打つ。

 粘りの強いその汁をごくごくと飲み上げるリンバルの喉が、淫猥に上下する。

 己の逸物をねぶり上げるドラガヌの頭にそっと手をやるダイラム。

 天幕の『中』とはその激しさに違いはあれど、『外』におけるそれもまた、慈愛に満ちたものであった。

 

「実に心地よき吐精をすることが出来ましたぞ、リンバル殿」

「お一人での見守りの、少しは気晴らしになりましたでしょうか」

 

 もしやこのリンバルもまた、息子リハルバとノルマドのラルフとの『初の契り』を見守った経験があったのか。

 ダイラムのような結界を結ぶことは出来なかったであろうが、その間、無防備になる若者達を、リンバルや一族のものが気にかけぬ訳でも無かったことであろう。

 

「幾晩続くか分からぬことではありますが、このダイラム、ご子息とグリエラーン様のすべての逐情を見守り、守り通すことを誓いますぞ」

「あなた様ほどの方に見守られながらの『契り』を行う我が息子に、親として、また一族のものとして、誉れと誇りを感じております。

 どうぞ最後まで、二人の『契り』を見守ってくだされ」

「この私も、いったい何度吐精することになるかは分かりませぬがな。リンバル殿のその想い、必ずや果たしてみせましょうぞ」

 

 笑う老魔導師と壮年の龍騎の男の間にも、暖かな気持ちの交流と信頼の証が見えるようであった。

 

 天幕から離れるリンバルを見送り、持ち込まれた食料を少しばかり口にしたダイラムは、この後もまた、若者達のさらなる情交を見守ることとなる。