その1 他者功利
「離せよっ、親父っ!! なにすんだよっ!! これ、ほどけよっ! 離せってばっ!!!」
「もう、どうにもならんのだ。おとなしくしとけ、悪いようにはせん」
「親父っ!! おじさんっ!!! なんなんだよっ!! 俺をどうしようって言うんだよっ!!」
「観念しろ、翔平。俺も道成の奴も、もう堪忍袋の緒が切れたって奴だ」
俺、もうなにがなんだか分からなかった。
その日は夜中の3時近くになって遊んでた連中と分かれ、夕方まで寝とこうかと2日ぶりに家に帰ったんだった。
まだ寝入って1時間ぐらい。たぶん、一番眠りの深かった時間だろう。
なんかおかしいなって目が覚めたらさ、俺、手足縛られて、布団の上にごろって転がされてた。
部屋の灯りはもうばっちり点いてて、俺の視界には、息を上げてる親父と、親父の兄貴、つまり俺からするとおじさんの2人が俺を見下ろしてたんだ。
「な、なんなんだよいったいっ! 俺をどうしようって言うんだよ」
「おい、まだ早朝だ。家を出るときうるさくされると近所の人に怪しまれる。道成(みちなり)、猿ぐつわも噛ますぞ」
「道和(みちかず)兄さん……。すまん、さすがに俺にはそこまでは無理だ……。兄貴に頼んでいいか?」
「まあ、実の息子の口を塞ぐのはきついだろうな。俺がやる。そのバンダナをよこせ」
俺、野間翔平(のましょうへい)、19才だ。
名前の方は、あの有名な野球選手とたまたま同じで、すんげえからかわれること多くって、もう勘弁って感じ。
まあ、中学ん頃からなんか家にいるとむしゃくしゃすること多くて、けっこうやばい連中と付き合ってた。
さすがにすげえ犯罪みたいなのはしなかったけど、そんなことやってたらまともな連中は寄ってこなくなるし、そうなるとますます『そういう』連中とばかりつるむようになるしさ。
まあ、高校も一番下んところ無理矢理入らされて色々あったけど、なんとか卒業証書はもらったんだぜ。
そんなこんなで仕事も今来てる道和おじさんからの紹介で自動車の整備工場にちょっと勤めたけど、一ヶ月もしないで飛び出して、そっからはまただらだらしてた。
そんな矢先、寝耳に水って言うのか、こういうの?
とにかく親父とおじさんとに、俺、手足縛られて丸太みたいに転がされてんの。
おかしいだろ、こんなのさあ??
俺を見下ろしてんのは野間道成(みちなり)っていう俺の親父と、その兄貴になる道和(みちかず)おじさん。
おじさん、親父より二回りぐらい身体デカくて昔からちょっと怖かったんだよな。
最初に就職したとこもおじさんの口利きだったんで、ばっくれたときにはすげえ怒ってたって話。そういうのもあってこっちからは最近は近付かないようにしてたんだけど、親父とは仲よくてさ。
今日もたぶん、俺が帰ってくるのを待ってて示し合わせてたんだと思う。
結局俺、両手を後ろに、足も膝と足首と縛られて、もう丸太みたいになっちまってる。
口もバンダナきつく巻かれて、うなり声ぐらいしか出せなくなってるし。
「すまんな、翔平。こんなことになっちまって」
「う、うううう、うぐっ……」
「悪く思うな、翔平。道成の奴もお前の母さんも、お前のことを思ってのことなんだ……」
そう言うと、おじさん、手足縛った俺を1人で肩に乗せて、かなりデカ目のおじさんのバンに連れ込んじまったんだ。
「目的地は遠いぞ、時間もかかる。翔平、もう根性決めて、そこでおとなしくしとけ」
運転席のおじさんが、後ろに転がされてる俺に声をかけてくる。
後部座席はフラットになるように座面が横になってて、親父は転がされた俺の身体のあちこちが痛まないようにと色々世話してくれてる感じで。
しばらく走って、車はたぶん、高速乗ったみたいだった。
最初の方は俺もなんとか縄がほどけないかとか、色々やってたよ。
ただもう、途中で諦めちまったってのが、ホントのところ。
ここまでする、されるって、たぶん親父もおじさんも『かなりの』ことなんだろうし、俺、暴れて疲れもしてたし、すげえ眠さもあったりで、もうどうでもよくなってきてたんだと思う。
それからもう、何時間かかったんだろう。そろそろ俺、ションベンしたいんだけどって、ちょっと思い始めてた。
そのあたり、俺の隣で座ってる親父も分かってたんだろうな。とんでもないこと言い出したんだ。
「その、小便したかったら尿瓶もあるからな……。さすがに縛られたまんまじゃトイレも立ちションも出来んだろう」
いや、その縛ったのほどくのが筋だろう、こういうときって?
俺、それ聞いて、また唸り声上げちまってたんだけどさ。
ションベン漏らすのだけは絶対嫌だって思って、でも親父の前で尿瓶にするのもアレだって思って、けっこう俺、踏ん張ってたんだと思う。
高速下りた感じの後も、そっからも3時間ぐらいは走ってたんじゃないかな。
やっと、というか、停まった車からおじさんが下りたのが分かったんだ。
ドアが開いて見えたのは、とにかくすげえ山の中ってことだけ。
高速下りてからしばらくして上ってる感覚はあったんだけど、こんな山奥まで、って、これ、歩きとかじゃ絶対無理なとこだ。
「道円(どうえん)和尚様、ああ、今は『阿闍梨様』と呼ばせてもらうのがいいのでしょうか? このたびはお世話になります。後ろに手足縛って連れてきてます」
「長旅じゃったろう。ああ、何人かで運ぼう。小便も行きたかろうし、まずは便所に連れてってやれ」
おじさんが『和尚』って話しかけてるの聞いて、どっかの『寺』かな、とは思ったんだけど、俺、正直、そのときは相手がとにかく小便のこと気にしてくれてたのにホッとしてたんだ。
とは言ってもさ。結局便所まで何人かのえらくガタイのいい坊さんみたいな連中にひょいひょいって、まるで荷物みたいに運ばれて。
ちらちら見てるとまさにでっかいお寺さんみたいなとこなんだけど、トイレだけは最新式みたいなのでちょっとびっくりしてた。
そしたらさ、いきなりズボン下ろされて。
そんなこんなで俺のチンポ、そいつらの1人に握られてさ。
いや、縛られてるから確かに自分じゃどうしようも無いんだけど。
こんな奴等に握られて、とは思ったけど、とにかく我慢してたんだからけっこうな量が出ちまった。
終わったら終わったで、振ってちょっとペーパーで拭いてって、妙にこいつら手慣れてて。
ああ、こういうの、何度も繰り返してるんかなあってさ。
また荷物みたいに運ばれて、さっきの車んところ。
俺はデカい坊主頭の連中に囲まれて、後ろ手持ち上げられながら一応立ってた感じで。
たぶん、親父達、互いの自己紹介してたんだと思う。
「はい、父親の野間道成と申します。息子がこれからお世話になります」
「道和から聞いておるとは思うが、この寺に息子さんを預けるという意味は、分かっておられるのかな、道成殿?」
「はい……。兄も何も隠さずに話してくれていると思いますし、ここでの『修行』で何が為されているかも理解しているつもりです。最初に話を聞いたときには驚きもしましたが、私自身、兄がこちらに入山した前後の変化をよく知っている。あのときの驚きと、その後の兄の様子、その変化を見ていて、とにかくお縋りするしかないと心を決めました。本当に、本当に、よろしくお願いします」
なんか親父の緊張っていうか、嗚咽みたいなのも聞こえてきてさ。
話の内容はちんぷんかんぷんだったけど、とにかく俺がこの寺に預けられて、しばらく娑婆には帰れない、そんな話だったと思う。
こりゃ、そうとうヤバいところに連れて来られたんだ。俺、どうなるんだって、もうそんなことばっか、考えてた。
「それでは、野間翔平の入山儀式を始める。断髪までは家族も同席することが出来るが、どうされますかな?」
「はい、許されるところまでは、この目に焼き付けておきたいと思ってます」
「では、山門をくぐることを許可しよう。みな、準備にかかれ!」
なんか、親父と話してた偉そうなおっさんが呼びかけたらさ。また俺の周りに4、5人の坊さんみたいな奴等が集まってきて。いや、後から考えると結局は全員坊さんで合ってたんだけど。
とにかくここの連中、みんなガタイがいいっていうか、オフんときのプロレスラーかボディビルダーかって感じで、タイマンでも絶対敵わない感じがしちまってた。
そいつら、縛られてる俺をまたひょいっと担ぎ上げて、でっかい木造の門をくぐっていったんだ。
「ううっ! うううっ!!!」
離せって言いたいのに、猿轡を噛まされてるせいで言葉にならない。
山門って言うのか、なんかデカい門の上には『利巧者他』って書いてあったと思うけど、ちらっと見えただけだったし。
それでもなんか、学問の仏さんかなんか祀ってあるのかなって。
門の中はけっこう広い庭っていうか、砂利が敷いてある空き地って言うかさ。
そこにブルーシート敷いてあって、真ん中にはけっこうデカ目の椅子が置いてあるんだ。
ここで初めて親父達に縛られた縄をほどいてくれたんだけど、やっぱりそうなると精一杯の抵抗をしようって暴れたくなるじゃん。
でもまあとにかく周りの坊さん達に囲まれたまま、両手両脚を掴まれちまってて、もうホントに身動き一つ取れなかった。
で、結局はそのえらくしっかりした椅子に、胸と腹、膝上膝下、両手は椅子の背に回されて、また縛られちまう。
こんなのヤクザ映画の拷問のときみたいじゃねえかって、なんとかしようとするんだけど、これがまた頑丈な椅子で、下の方も重そうな一枚板になってるみたいで、もうホント、びくともしない。
「これより野間翔平、19才を、この剛健寺に迎え入れる入山の儀を執り行う。まずは断髪じゃな」
俺の前にいる偉そうな坊さん、そう、見た目じゃ爺さんなんだかオッサンなんだか分かんない坊さんが、周りに指示を出した。
見たところ、一番ここで偉そうではあるし、とにかくもう、そのガタイがすごいっていうか、プロレスラー揃いの連中の中でもとりわけデカくて、分厚くて毛深くて。なんかもう、外国人みたいにすら思えてたんだ。
あ、これ、こいつらからは、俺、逃げられねえわって、なんか俺、このときにはもう、本能的に悟っちまってたんだと思う。
断髪って、たぶん周りの坊さん達みたいに坊主頭にするってことだよな。
俺、知り合いんところで、この前、金髪に染めててさ。
親父とか最初見たときには固まっちまってたんだけど、自分ではけっこう気に入ってた。
で、その頭にさ、容赦なくバリカン当てられて、バリバリザリザリって。
ああ、もうこれホント、シャレになんねえとこに来たんだって思ったんだ。
もう5分もかからず、あっと言う間だったんだと思う。
こんときは自分じゃ見えなかったけど、後から鏡見たら、もう完全に気合い入った高校球児か極道かって感じに。
眉も半分剃ってたから、極道の方が近かったのかもしんないけどさ。
バリカン当たってる途中で、俺、なんかもう、唸るのも、カラダゆすってなんとかしようって気も無くなっちゃって、最後はおとなしくしちまってた。
諦めとか、無念さとか、親父やおじさんがここまでするのかとか、これもう家に帰るとかじゃ絶対ねえな、とか。
もうそんなのが一緒くたになってさ。
抵抗する気も、逃げようとする気も、バサバサ落ちてく髪と一緒に、俺、落っことしちまったんだと思う。
「ここから先は、ご家族の方もお帰り願うことになるが、よろしいかな? 道和は、意味が分かっておるじゃろう?」
「はい、道円和尚様。よく分かっております……。道成、後はもう全部お寺様にお任せして、帰るぞ。この前、説明した通り、この先は、たとえ家族であっても次に顔を見ることが出来るのは、早くて1年後だ」
「ああ、兄貴……。分かってはいるが……、やっぱりな……。いや、すまん。俺の方が甘えちまってるな」
「翔平に最後に声かけてやっとけ。けっこう、そういうのはこいつの中に残るぞ」
親父が椅子に縛り付けられてる俺の前に来た。
「ああ……。翔平、俺も母さんも、卒業してもふらふらしてるお前がとにかく心配だったんだ。兄貴に前から相談というか、愚痴ってたんだが、俺達のほとほと困ってる様子で、兄貴も世話になってたというこの寺のことを、やっと教えてもらった。
もう俺も母さんも、それにすがるしか無いと思った。
こんなことになって、実の親父が息子を縛り上げて攫うなんて、許されることじゃないし、許してくれとも言えんのは分かってる。
だがな、だがな。俺も母さんも、お前にどうにか、どうにか立ち直ってほしいと、それだけを願ってるんだ。
俺達のことを一生嫌ってくれて構わん。
それでも、ただただ、真っ当な生き方をしてくれと、それだけを考えている。
それだけは、それだけは分かってくれ。
1年経って、お前の顔をまた見ることが出来たとき、ぶん殴ってくれて構わない。だから、だから、とにかく、とにかく、真っ当な生き方だけ、それだけを、お前にと、俺は思ってる」
親父、泣いてた。
怒った顔は見たことあったけど、泣いた顔は初めてだったと思う。
泣きたいのは俺の方だ、ってのもチラッとは考えたけど、とにかくもう、俺の頭ん中も、ぐちゃぐちゃだったんだ。
「それでは、道円阿闍梨に皆さん。翔平をよろしくお願いします。1年後のこの日、また迎えに来ます」
「この者が残りたいと言えば、それも叶わぬことになるが、それも承知しておるのじゃな」
「はい、阿闍梨様……。私自身が、その道を選んだことは、覚えておいででしょう。寺のしきたりも、何もかも、すべて理解し、父親にも話してあります」
「うむ、では、ここからは寺の者のみにての入山儀式となる。ご家族の方は、ここから先は、ご遠慮いただく。では、1年後に」
「はい、では1年後に……。翔平、俺も変われた。今はそんな気持ちになれないかもしれんが、お前も必ず変われる。とにかく、頑張れ!」
俺、道和おじさんの言葉、半分泣きながら聞いてたんだと思う。
俺、たぶん、根性無しなんだ。なんだか急にそんなふうに思えてきた。
たぶん、親父やおじさんの方が、今に限って言えば、たぶん、絶対、根性座ってる。
そんな感じがしたんだ。
崩れそうになる親父の肩を支えて、道和おじさんが何度も振り返りながら門を出て行くのを見てた。
ぎいーっと、重い音を立てて、でっかい山門が閉められちまった。
「さて、ちとおとなしくはなったようじゃが、今手足の縛を解けば、また暴れ出すじゃろう。その前に、香を聞かす。服を脱がせて、皆で用意しろ。
相坊は前に言ったとおりの『正成(まさなり)』で行く。少なくとも3回はイかせるのじゃぞ」
「はい、道円様。この翔平が、幾度でもイきたくなるよう、励みます」
コウヲキカス? アイボウ? イカセル?
いったい何のことを言ってるんだ、こいつら?
しかもそのとき、俺を椅子に縛り付けた連中がでっかいハサミを持ってきてさ、俺が着てた服をバサバサ切り刻み始めた。
俺、また唸ってカラダを揺すろうとするんだけど、周りの連中もぜんぜん気にしてないようで服を切っていく。
そうこうするうちにさ、俺、ホントにもう、素っ裸にされちまった。
家から連れ出されたのが早朝だったから、時間的にはまだ昼過ぎぐらいだったんだと思う。
天気もよくて、俺の全身、日が当たってた。
周りの連中はなんか和風の白い服着てるんだけど(後から作務衣って言うって知った)、俺だけ1人、素っ裸で椅子に座らされてるって、なんかもう冗談かなにか、頭が付いていってなかったんだと思う。
「翔平、お前だけを裸にするわけでは無いのだ。みな、僧衣を脱ぎ、翔平に応えよ」
偉いおっさんが命じた。
するとそこにいた坊さん達全員が、服を脱ぎだしたんだ。
いや、ちょっと違うか。近くの人の服を脱がせだしたんだ。
何人かが手際よく脱いだのを片付けていくし、しかも全員が、その、真っ白な六尺褌って奴、締めてるし。
そういえば、道和おじさんもよく褌してたなって、ちらっと思ってた。
で、坊さん達、30人ぐらいはいたんじゃないかな。
ほとんどがもう、すげえガタイしてる。
背の高い低いとか、毛深いとかそうじゃないとかは色々なんだけど、頭もつるつるだったり高校生みたいな坊主頭もちょこっといたりで色々なんだけど、とにかくみんな、すげえ身体なんだよな。
何人かまだ普通っぽい人もいるんだけど、それでも172センチに66キロの俺なんかより、絶対体重すげえよなって人ばっか。
俺、こんなに囲まれてて反抗できるわけねえよなって、男としての本能がもう、びびっちまってた。
周りの連中を睨み付けるようにして、俺、精一杯気合いは入れてたつもりだけど、もうそれもどこまで保つかなって感じで。
でさ。ちょっとよく見てたら、連中のさ、その褌の前のとこがさ、そう、全員、すげえ盛り上がってるんだ。
あれって、もう、全員が勃起してるってことだよな?
俺の目、見間違ってないよな?
しかも、これも見間違いかと思うんだけど、男達全員、その、尻のところにさ。
後ろの紐みたいな感じで尻を通ってるところがさ、なんかこう、その、変なんだけど、なんかケツの穴んとこに、何か入ってる?
そんな感じでさ……。
あれ、なんだろう? ってのと、まさかな? ってのと。
よく見つめる暇も無い内になんか色々進んでいってて、俺、もう何がなんだか分かんなくなってた。
「みな、読経と香の用意を。
打合せの通り、正成(まさなり)、相坊となるお前が埒を上げさせてやれ。耕一(こういち)と継男(つぐお)が補佐に付け」
「はい、よい気を翔平がやれるよう、努力いたします」
裸で座らされてる俺の前に、褌締めただけの3人の坊さんが出てきたんだ。
正面には俺と同じぐらいの背の高さなんだけど、たぶん体重は軽く90キロ越えてるんじゃないかって感じの、すげえでっかく見える人でちょっと年上かな。
偉そうな坊さんに呼ばれてた『アイボウ』って、『相棒』のことなのか。
で、その、たぶん『正成(まさなり)』って言われてた人。
その後ろに2人、1人は俺と同い年ぐらいじゃないのかな。
頭は剃ってるんじゃなくて、俺がさっきやられたみたいな坊主頭で、背は俺より低いけど、それでも80キロぐらいはありそうな感じ。たぶんやり取りからして『継男(つぐお)』って呼ばれてた人。
もう1人はけっこうチビなんだけど、もうすんげえ全身毛深くて、もっさもさな感じの人だった。70キロちょっととは思うけど、たぶん身長が160も無い感じで、なんか全身筋肉の塊って感じ。『耕一(こういち)』って呼ばれてる人だと思うけど、たぶん20代後半かなって。
「翔平君、君がこれからされること、たぶん生まれて初めてのことだと思う。僕がとにかく君を気持ちよくさせるから、気持ちよく射精したまえ。全部飲んであげるから、心配しなくていい」
は?!
ナニ言ってんの、この人?!
俺、自分が裸とか、周りの連中がみんな褌姿とか、そういうのさえ忘れちまうほどにびっくりしてた。
「なんだよ、射精って?! こんな縛られてんのに、勃つわけないだろっ!!」
当然だよな、俺の言葉。
「まあ、最初はそう思うと思う。でも、大丈夫だよ。これから君にこの寺にだけ伝わっている特別なお香の匂いを嗅いでもらう。そうするともう、全身どこを触られても感じるし、得られる快感も自分や女性とやっていたときのものの何十倍にも感じられるはずだ。あ、君、女性、いや、女性でなくてもいいんだけど、セックスの経験はあるのかな?」
俺、半グレみたいな生活してるけど、実は童貞なんだ。
女にモテるより、連れの連中とわいわいしてるのが楽しかったし、なんか女絡むと色々めんどくさくなってる奴を結構見てたからさ。
何も言い返さない俺を見て、向こうもははんって思ったらしかった。
「初めてだとしたら、もう感じ方もすごいと思う。何度イッてもいいんで、とにかく頭からっぽにして、快感だけを味わってくれよな」
そういって『正成』って人、俺の前にしゃがみこんだ。
「香を聞かせよ」
その声と同時だった。
後ろからいきなり、俺の顔の真ん前に白いハンカチみたいなものが差し出されて、口と鼻を覆うように押さえつけられる。
甘くて、重い。
そんな匂いだった。
一嗅ぎして、これ、ヤバい奴だって分かった。
全身の毛穴が開く。
たぶん同時に、黒目も開いていったんだと思う。天気がよかったせいもあるけど、周りの風景がホワイトアウトするみたいにいきなり眩しくなっていく。
頭と身体が、熱湯と氷とを同時に浴びたみたいに、すげえ敏感になっていくのが分かる。
俺、下の方を見なくても、自分のチンポがぐいぐい勃ち上がっていくのが分かってた。
「うう……、うあ、あああ……」
これ、だめだ。
逆らうとか、反抗するとか、そんな言葉で無くって、気持ちよくて感じて、よがり声を上げちまうことになる奴だった。
「一嗅ぎで、もうすごいだろう? この『香』は、この寺にいるものにしか使えない。それがどういうことか、すぐに分かるようになる」
全身が毛深い『耕一』って人が、俺の耳元で囁く。
俺、もうそれだけで全身に鳥肌が立つぐらいに感じちまってた。
そう、せんずりするときの、自分で先走りを先っぽに塗りつけてぬるぬるするときの、あの『快感』を、全身で感じちまってたんだ。
「始めるよ、翔平君。存分に感じたまえ。僕の口でイく快感を味わうことが、この寺で君が味わう最初の悦楽になるんだ」
もうそのとき、俺、俺の下半身の前にいる正成って人が、なにをしようとしてるか分かってたんだと思う。
というか、もう俺、『早くやってくれ!』って思っちまってたんだと思う。
「うああああああああっーーーーーーーーー!!!」
俺の勃起したチンポが、ぬるりと正成って人の口に吸い込まれた。
じゅるじゅると、たっぷりとした唾液がまぶされながら、舌と唇、口の中のあらゆる部分を使って俺のチンポが責められていく。
「ああああああっ、ダメだっ、すぐっ、こんなされたらっ、すぐイッちまうよっ! あ、あんたの口にっ、口に出ちまうよっ!!」
「出していいんだよ、翔平。俺も最初のとき、あっと言う間にイかせてもらって、そのときのこと思い出すだけで、先走りがだらだら出るんだ。ほら、イけっ! 正成さんの口に、イッちまえっ!!」
継男って人が、耕一さんとは反対の耳に囁いてくる。
もう、その息がかかる耳たぶが、しゃぶられてるチンポが、いや、縛られてるはずの手や足の縄の感触さえも、俺、感じちまってた。
「ああああああっ、イくっ、イくっ、ダメだっ、イくっ……」
「イけっ、翔平っ、イけっ、イけっ!!」
「あっ、イくよっ、ダメだっ、イくっ、口ん中にっ、俺っ、は、初めてなのにっ、そんなっ、口とかっ、口に出しちまうっ! ああっ、イくっ、イくっ、イくーーーーーーっ!!!!!」
「たっぷり出したようだな。正成、どうだった?」
「初物、存分にいただきました。当然、まだガチガチですので、続けます」
「うむ、ここからはみなで読経しつつ、耕一と継男も責めに加われ。
「はい、了解です」
え、イッてすぐに続くの? って思いと、まだまだ出したり無いって思いとが、俺の中でごちゃまぜになってる。
普通だとあれほどの勢いと量でイっちまったら、いわゆる賢者タイムが来そうなもんなんだけど、自分でもまったく萎える気配が無いのが分かってた。
それぐらい、あの『香』って奴の効き目、すごいのが分かってたんだ。
「なむからたんのう とーらーやーやー なむあーりーやー ぼーりょーきーてー
しーふーらーやー ふじさとぼーやー もーこーきゃーるにきゃーやー……」
一斉に周りの連中がお経を唱え始める。
低いその独特の音色とリズムが、なんか俺、すごく気持ちよかった。
そしてそして、自分でもびっくりしたのが、俺の両側から耕一と継男って人が、俺の胸、乳首をいじってきたときだった。
「うわああああっ、なんだっ、これっ! 俺っ、ち、乳首がっ、そ、そんなやられるとっ、ああああっ、ダメだっ、感じるっ、感じるっ!!!」
「こっちも初めてらしいな。香を聞いた後の乳首責め、効くだろう? ここで修行を積めば、乳首の刺激だけでもイけるようになる。もうそうなると、乳首責め無しの悦楽なんぞ、考えられなくなるぞ。お前は感度も良さそうだ。ほら、魔羅もしゃぶってもらって、何度でもイケよ」
耕一さんの解説? も、俺、ほとんど耳に入っていなかった。
この状態でしゃぶられたら、またあっと言う間にイっちまう。
そんなことばっかり、考えてたんだと思う。
「ああああっ、またっ、またイくっ! 嘘だっ、こんなに早くってっ、ああああっ、ダメだっ、イくっ、イくっ、またイッちまうっ!! イくっ、イくっ、イくっーーーーー!!」
たぶん、最初にしゃぶられ始めてから5分も経たないうちの2発目だったと思う。
それからの俺、低く聞こえる読経のリズムに合わせて、15分もしないうちにもう5回もイっちまった。
それほどの早さでの、回数、回復、発射。
俺、もう、ホントに生まれて初めてのことだったんだ。
「初打ちで7回とは、ここしばらくでは記録モノだよな」
「この前は継男も頑張ったけど、お前は5回だったっけ?」
「あはは、はい、そうでした。といっても、夜まで入れたら10回以上出させてもらいましたよ、俺も」
「まあ、次の勤行時間には金精様の差し入れもあるし、こいつは何度ぐらいイくかなあ……」
「体力もありそうだし、合計15回ぐらい、イけるんじゃないか?」
あっと言う間のすげえ量の射精に、さすがに俺のチンポもぐったりしてきてた。
それでもいわゆる『小さく』なるんじゃなくて、太さはそのまんま、固さだけが維持できなくなったみたいな感じでさ。
たぶん、ちょっとしたことあればまたすぐに勃起するって分かってたし、一番の問題は、俺の頭がもう『それ』のことしか考えられなくなってたことだと思う。
とにかくもう『出したい』『イきたい』『感じたい』ってのが頭ん中ぐるぐる回ってて、俺がさらわれてきたみたいにしてここに連れてこられたこと、家や友達んとこには当分戻れそうにないこととかも、全部が全部、吹っ飛んでしまってたんだ。
そんな俺を、たぶんもう縛る必要も無いって分かってたんだと思う。
さっきの3人が縄もほどいてくれて、寺の中の風呂に連れてってくれた。
そこで初めて、俺、この寺がどんなとこで、どんなことをされるかを知ることになったんだ。