賢馬人一族と新しき淫獣の出現

その7

講義

 

講義

 

 ダイラムとロー、グリエラーンとリハルバが互いにその性欲の導くままに身を任せた情交は、およそ半日近くにも及んでいたようだ。

 

「済まなかった、ダイラム殿……。キツかったろう……」

 

 さすがに数十回の吐精を繰り返したローの逸物は、最大時に比べればいささかながらその容積を減らしてはいた。

 それでもノルマド達との交わりの前、平常時には下腹部の陰茎鞘にその全長が収まっていたはずの『モノ』は、勃起時の半分ほどの長さを維持したまま腹肉に張り付かんばかりにしてその姿を隠さぬままである。

 

「さすがに少々、背中がやられたようですな」

 

 苦笑しながら答えるダイラムの背を見やれば、絶え間ない上下動とその摩擦により、大岩に擦れた龍鱗の幾らかが無惨にも剥がれ落ち、うっすらとした血の滲みすら出来ている。

 龍鱗と言えども魚類のそれとは違い、あくまでも爬虫類状の硬質化した皮膚ではあるのだが。

 

「ああっ、済まないっ、済まないっ、ロー殿っ、グリエラーン殿っ、あなたの同族を、本当に、本当に済まないっ……」

「気にされますな、ロー殿。この傷も、ケンタウロスの、ロー殿の情を受けきった勲章のようなものでございましょう」

 

 少しばかりしかめた顔をしたダイラムではあるが、その顔はどこか満足気な趣と、激しい情交を終えた充足感に満ちていた。

 すかさずリハルバがダイラムの背に手を当てたのは、ドラガヌの森で幾らかの治療薬などを調達していたゆえか。

 その背に当てた布が真っ赤に染まる。

 

「俺はっ、俺はこれだから……。やり始めると、相手の姿が見えないことをいいことに、思うがままにヤってしまうのだ……。済まない、本当に済まない……」

「本当に気にされますな、ロー殿。我らの肌は強い。この程度の傷、如何ほどのものでございましょうか。なに、大丈夫でございますよ」

 

 柔やかに返事をするダイラムではあったが、ローにとっては自らの行いで相手の肉体を傷付けてしまう己の情動の激しさが、常々からその心の錘となっていたのか。

 前足を折り、ダイラムに頭を下げるロー。

 その肩に手を伸ばしたのはグリエラーンであった。

 

「ロー殿、我ら竜人が『大丈夫』と言ったのなら、それはもう、言葉通りに受け止めてもらっていいことなんだ。

 たとえダイラムがその背中に痛みを感じていたとしても、私とリハルバがずっとこの耳で聞いていたのは、決して痛みを嘆く声では無く、あなたとの情交に、歓喜の雄叫びを上げていたダイラムの声だったのだぞ」

 

 一般的な慰めとは違う切り口に気を削がれたのか、ローがため息と笑いの混じった言葉を返す。

 

「……まったく、何度も言わせてもらうが、あんた達の『色事』に関しての考え方って言うのは、俺らとホントに、本当に違うんだな」

「そのあたりも、互いにより深く知り合っていき、話しをしていく中で、分かり合えていくのではござらぬかな」

 

 リハルバに手伝ってもらいながら身繕いを整えたローが、ケンタウロスの頬へと手を伸ばす。

 

「ダイラム殿、グリエラーン殿、リハルバ殿。分かった。もうこの件では俺は心を悩ませぬことにする……」

「それで、それでよいのですぞ、ロー殿。私もまた、ロー殿との交わりを最大限に楽しませていただいたのです」

 

 どこか吹っ切れたようなローが立ち上がり、今度は自分の番だと言うように、語り始める。

 

「その、目の前で見させてもらってこんなことを言うのもなんだが、俺は俺であんた方のことをもっと理解したいと思っての質問と思って聞いてくれ」

 

 顔を見合わせながら、頷くグリエラーン達。

 

「その、まあ、俺とダイラム殿の交わりを見ながらの、その、なんだ……。グリエラーン殿とリハルバ殿との『アレ』なんだが、その、なんというか、俺はあんたらのソレって、もっと激しいもんだと思ってたんだが、違うのか?」

 

 あれ、それと繰り返すローは、やはり情交を他の表現で表すことに、まだまだ慣れておらぬのか。

 

「激しい、というのは、身体全体の動きのことを言っているのか、ロー殿?」

 

 質問の意味を一瞬分からなかったようなグリエラーンが、あっと気が付いたかのように質問で返す。

 

「ああ、まあ、そうだな……。なんというか、『おとなしい』とか『静か』と言うとは違うのかもしれんが……。その、あんたらも俺達も、その、『扱く』とか、『摩擦』ってのが、イくための大きな条件ではないのかと、俺は思っていたんだが……?」

 

 ローから見れば抱き合ったままわずかに下腹部を擦り合わせるだけに見えたグリエラーンとリハルバの交わりに、自らがダイラムに行った大腰小腰の『動き』とは大きな違いを感じているのだろう。

 

「ああ、そうか、そうだな……。うーん、見てもらったが早いかもしれんな、リハルバ」

「ああ、そうだな。そのあたりは私らドラガヌとラルフ……、ノルマド達との『違い』でもあることだしな」

 

「ドラガヌとノルマドとの違いって、まあ、違うもんは違うんだろうが、その、なんと言うか、性器の勃起と射精っていう『仕組み』は同じもんじゃ無いのか?

 あ、いや、なんというか、種族としての禁忌に触れる話だったら言ってくれ」

 

 ローもまた、族長の血を引くものの一人であることの表れであった。

 この世界、多種の人獣類がともに暮らすがゆえの、互いの微妙な気遣いもまた『当たり前』であったのだ。

 

「ああ、そのあたりは我らには特に無いので大丈夫だ、ロー殿。まあ、百聞は一見にしかずとも言うし、私とグリエルの逸物を『見て』もらえば、すぐに分かるだろう」

 

 驚いたことに、リハルバとグリエラーンが互いのスリットに手を伸ばし、さらにはその口吻を近づけたまま、ぬるりと伸びた舌先で相手の口中を舐め回し始める。

 

「え、あ、いったい、な、なにを……?!」

 

 竜人達の性規範については、一定の学びを得てきたはずのローではあったが、一段落したと思えた情交の再開には驚いたようである。

 

「たまらんな、グリエル」

「ああ、また催してしまうな、リハルバ」

 

 向き合った二人のスリットが徐々にその割れ目を盛り上がらせていく。

 内容物の『外』に向けての張りが昂ぶり、潤滑体液がしたたり始めたのはすぐのことだ。

 

「やらしいな、あんた達……」

 

 見つめるローの逸物も再びその偉容を現していくのは仕方の無いことだろう。

 それもまた昂ぶりの材料となったのか、ついに龍騎と竜人の逸物が、弾けるようにその全容を現した。

 

「ああ、さっきはもう身体を重ねていてよく分からなかったが、あんた達のは『そう』なってるのか……。

 白くて艶々してるし、俺達のモノとは確かにだいぶ違うな……」

 

 他種族との交流が盛んとは言えないケンタウロス一族にあたり、族長の息子としての一定の知識は持ちながらも、実際に有鱗目をトーテムとする種族の生殖性器を目にするのは初めてのローである。

 

「我々のような総排泄腔、スリットを持つ種族の逸物は、あなた方哺乳系統の族とは違い、生殖性器の全体が筋肉で出来ているんだ。

 ゆえにあなた方のような海綿体という組織への血液流入による容積体積の増加現象を表す意味での『勃起』ということは起こりえず、この大きさのまま通常時はスリット内に格納されている。

 それが情欲の昂ぶりとともに基底部の筋肉の収縮が起こり、外側に『向きが変わる』ことでスリットを押し広げ、飛び出してくることになるんだ。

 そしてその状態のことを、あなた方が使う言葉と同じく、我々は『勃起』と呼び習わしていることになる」

 

 再び行われる生理学の講義とも言える説明が、今度はグリエラーンによって進められていく。

 

 帝国に伝わる数多くの文献から学んだ知識は、医療・文化・習俗含め、実に広く深い範囲を扱っていた。

 この部分は主に口伝で他種族の文化的接触を知るリハルバやロー達に比べれば、『正確さ』という点においてはグリエラーンに軍配が上がるのは間違い無い。

 しかしそれもまた、皇帝嫡子における帝王学の保障という、非常に特殊な条件下のものでもあったのだが。

 

「そして皮膚と粘膜によって肉竿と亀頭が分けられるあなた方の生殖性器と違い、我々のそれは全体が粘膜で覆われている」

「ああ、つまりは全部が全部、俺達の亀頭と同じってことになるんだな……」

「ああ、そういうことだ。単純な比較が出来ないのはもちろんなんだが、その全長であなた方が亀頭粘膜で感じる快感を味わってるんだと思う」

「そう言われると、激しい摩擦で無くてもイっちまえる、射精できるってのは、分からん話しでも無いってことか……」

「それだけでなく、たぶんこれが、あなた達のソレとは一番の『違い』かな、とは思うんだが……」

 

 下腹部に力を込めるグリエラーンとリハルバ。

 二人の生殖性器を熱心に見つめていたローが、思わず声を上げた。

 

「う、動かせるのかっ?!」

 

 血液の赤さをわずかに内包した白い粘膜に覆われた肉棒という点では同じだが、長さ、太さ、形状の違う竜人と龍騎、2本の逸物。

 

 根本、中程、先端と三段の膨らみを持つ『太さ』が目立つグリエラーン。

 根本と先端に大きな膨らみを持ち、断面であれば角の取れた太い三角形にも見える肉茎が根本からぐるりと『捻れた』ような形を見せる、リハルバのそれ。

 

 それぞれの逸物が手も触れずに、左右上下に慣性を生じさせぬようなコントロールされた動きを呈し、さらには先端が独立した関節を持つかのように折れ曲がり、その角度をぐるりぐるりと変えさえしていく。

 その凶悪とまで言えそうな可動能力を持つ器官が相手の肉腔に挿入されれば、果たして囲まれた肉壁をどのように刺激することになるのか。

 二人の逸物の形状とも相まって、それが凄まじいばかりの悦楽を引き起こすだろうということを想像するのは、誰にとっても実に容易いことだろう。

 

「いや、初めて知ったぞ、こんなこと……。俺達はせいぜい、その、尻に力を入れるみたいにして、ナニをビンビン跳ねさせる、あるいは『向き』の多少のコントロールぐらいしか出来ないんだ……」

「ほっほ、ロー殿のその『動き』も、私めが存分に堪能させていただきましたぞ」

 

 混ぜっ返すダイラムは、驚くローを見てどこか楽しげだ。

 

 グリエラーンに続いて、リハルバが話の続きを引き受けていく。

 

「我らの生殖性器の可動については、あなた方には『指の動き』となぞらえてもらうのが、一番近い感覚かとは思う。

 といっても関節や腱があるわけでは無いのだが、なかなか上手く伝えるには難しいものだな。

 もちろん我らドラガヌの者がノルマドの者達とその尻を使って楽しむときには、出し入れがメインになることもあるし、スリットを持つ系統が近い種族とも抽挿による刺激を楽しむこともある……」

 

 グリエラーンをチラリと見遣るリハルバである。

 

「グリエルともそのようなやり方をすることもあるが、互いのスリットに挿れ合っての交わりのときには、わずかな体動と互いの肉棒の動きとで、どれだけ相手の『中』を刺激し合えるか、との楽しみ方をすることの方が多いとは言えるな……」

 

「その、なんというか、いや、あんな動きが出来て、それで『中』をいじられるとなると……。確かに、確かに逸物の扱き上げだけでの吐精では物足りないと思うのかもしれんな……」

 

 どこか感心したようなローの言葉でもある。

 

「我らとて、互いの手による逸物の扱き合いや、他族との肛門を使った交わりでも十分に感じているし、それゆえの射精も極みに至るまでの快感はとても心地良いものと感じているが……。

 それとは別にもう一つ、私はあなた方との肉体構造の違いに由縁することがあると、私は思うものがあるのだが」

 

「まだ『違い』があるというのか?!」

 

 これ以上の何かがあるのかと、さらに驚きを重ねるロー。

 

「これはもうロー殿も、ダイラム殿のスリットで十分に楽しまれたこととは思うのだが……。

 ダイラム殿のような竜人、同じく私達ドラガヌのような総排泄腔を持つ種族は、そのほとんどがスリット内のかなりの部位もまた、生殖性器として『動かす』ことが出来るのだ。

 これはラル……、ああ、ノルマドの尻、おそらくはあなた方ケンタウロス族もそうであろうが、肛門部の一番外側の括約筋にのみ収縮と寛解が行うことの出来る哺乳トーテム系の種族との、大きな違いでもあるな」

 

 ケンタウロスやノルマドらの肛門及び直腸を使った交わりにおいては、随意筋としてはあくまでも肛門括約筋のみが『締め付ける』動作を行う部位となろう。

 それよりも『先』へと侵入した部位については、あくまでも腸壁とその粘膜の『密着度合』、もしくは腹圧の変化による腸内形状の圧迫による『出し入れの際の抵抗感』が、挿入した側の快感獲得への条件となるべきものである。

 

「ああ、それでダイラム殿の腹の中が、あのように心地よいものだったのか……。

 あの締め付けは、ケンタウロス同士の交わりや、ノルマドの連中のそれとは確かに違い、根元から先端まで、すべての部分に締め付けと脈動を感じさせてもらった……」

 

 感心したかのようなローの返事ではあるが、同時にそれは官能的な記憶をも呼び覚ましているようだ。

 

「入口、中、奧、横、それらすべてにおいて、締め付けや緩めも含めて、慣れたものであればまさに『自由自在に』動かすことが出来るし、それと生殖性器そのものの動きが組み合わされば、体動がほとんど見られない交接においても、たまらぬ愉悦を味わうことが出来るのだと、私は感じているんだ……」

 

 グリエラーンの、まさに『そのとき』を思い出したかのような呟きに、どこか照れすら見せているのはやはりリハルバの若さゆえか。

 

「いや、あんたらといると、本当に色々と勉強させてもらえるんだな……。

 というか『知っていること』と、『分かること』の違いがこれほどとは、この森の外の世界を知らぬ俺には、そのあたりがかなり衝撃的だったよ。

 まあ、あんたらの禁忌の無さ加減には、俺もおいおい慣れていきたいとは思ってるがな」

 

 笑いながら話すローの言葉に、グリエラーンとダイラムは初めて『先の見通し』への言及があったことに気付いたようだ。

 

「して、ロー殿。ダイラムがあなたの性的な欲求に十分に対応できることが確認できた今、我らからの先の提案、共に世界を巡る旅に同行していただきたいとの思いには、応えていただけるのであろうか?」

 

 いつの間にか、グリエラーンとリハルバの生殖性器はそれぞれのスリットへの格納されている。

 その口調の変化に何か感じるものがあったのか、ローもまた居住まいを正す動きが見られた。

 

「その問いへの返事と重なることでもあるのだが……」

 

 ローの雰囲気の変化に、リハルバ、ダイラムもまた気付いたようだ。

 

「俺から改めて、3人に、いや、ダイラム殿にか、お願いしたいことがある」