賢馬人一族と新しき淫獣の出現

その4

邪神降臨

 

邪神顕現

 

「ここからが『魔の森』という奴か」

「おそらくはケンタウロス達も、すでに我々の接近には気付いておるはず。堂々と訪いましょうぞ」

 

 ノルマドとケンタウロス達の乱交が行われている広場からローが立ち去り、半日もした頃か。

 結局は三日間にもわたる『契り』を終えたグリエラーンとリハルバであった。

 

 グリエラーンがリハルバの背にその身を預け、ダイラムは浮遊魔法で浮かせた身体をリハルバの父リンバルによる牽引により、魔の森へと向かったのだ。

 ドラガヌの力を借り無事に森へと到着した一行に対し、リンバルは自らの仕事はここまでだと、その美しい羽を広げ、己の森へと帰っていく。

 そこには息子リハルバへの信頼と、ある程度の『試し』の意図もあるのやもしれぬ。

 

「それにしても植生が不思議なところだな。明らかに近くの森林地帯とも違う植物群層で形成されている。

 それにあの色彩豊かな鳥、嘴の曲がりがすごい奴が、生態系のかなり上位の位置にいるな」

「色の違いがすごいが、形状からすれば同一種なのだろうなあ」

「あの鳥、草原とドラガヌの森では、まったく見たことが無い」

「ガズバーンでもそうだ。あれほど直立した形で木の枝に止まるのも、特徴的だな……」

 

 リハルバとグリエラーンの会話に出て来た鳥は、鸚鵡(おうむ)の一種か。

 大陸東部から北部にかけてはほぼ見られない、通常はより低緯度の熱帯森林に生息しているはずの鳥類である。

 

「なんでもケンタウロス達はもともと、より緯度の低い地域から移ってきたとの言い伝えもあるようですな。不思議なことに、この森はそのときの彼らの生息地のなごりをなぜか留めておるのでは、とのうわさも聞いたことがございます」

「ドラガヌ達のところに比べると、湿度がかなり高い気がするが、リハルバはどう思う?」

「ああ、グリエル。私もそこが気になったところだ。これでよく周辺の地域気候とのバランスを取っていられるな、と」

 

 森の中を歩む一行は、樹木と下生えの一つ一つを確認しながら進んでいく。

 

「推測に推測を重ねてのものではありますが、もしかするとケンタウロス族の持つ魔導の力、とやらが影響しているのかもしれませぬな」

「私は魔導力というものは、どちらかと言えば我々の心や肉体への影響力の強いものだと思っていたんだが、周辺環境への経時的な影響も存在すると?」

 

 グリエラーンの言葉は王宮を後にする前であれば、その語尾に『先生?』との一言が付け加わっていたのだろう。

 

「西方での海洋型、水棲型の獣人族との話しの中で、そのような話題が出たことがありましたな……」

「ああ、確かにそのタイプの一族であれば周辺環境と自らの肉体の相互作用のコントロールも必然となるわけか……」

「まあ、詳しい研究がなされている分野でもありませんので、何が真理かまでは、なかなか分からぬことだと」

 

 リハルバは口を挟む余地が無いと分かっているのか、周辺への警戒を高めつつ進んでいく。

 

「それにしてもケンタウロス達の生活の気配も一向に見えぬし、ダイラムの魔導探知にすらかからぬとは、何か我々の進路が間違っていたのでは無いか?

 それともノルマドの民のように、季節毎に集落を移動させるなどの方策を取っているとか……?」

「ふむ……、精度は落ちますが、少し網を広げてみましょうか……。おや、これは……。な、なんだ? い、いや、あれとは違う……」

「ダイラムっ! どうしたっ?」

 

 身をかがめ、足下の大地に手を伸ばしたダイラムの様子に身構えるグリエラーンとリハルバ。

 

「東南の方向にかなりの生命エネルギーの昂ぶりが感じ取られるのですが……」

「ともかく、向かおうっ!!」

 

 それまでは周囲への警戒を続けながらの踏破行が、一気にその速度を上げる。

 竜人グリエラーンとダイラムの走行に、陸上ではその敏捷性が発揮しにくい龍騎リハルバが追従出来ているのは、ノルマドと共に『草原を征くもの』としての暮らしがあったためであろう。

 

「こ、これは、いったいどうしたことだ……?」

 

 数多のケンタウロス達とノルマドの数人が絡み合う広場に辿り着いた一行が目にしたものは、ある意味ガズバーンの大広間で行われているあの忌まわしき肉宴にも似た交わりであった。

 宴としてはその盛りが過ぎたのか、多くのもの達は疲労ゆえの半睡眠半覚醒の状態のようにも見える。

 

 性臭と種族特有の汗の匂い。

 そのむわりとした低地広場に充満した気配は、手触りすら感じさせるほどの濃厚なものだ。

 

「グリエルっ、あのノルマド達は、ゲルにいた者達だっ!」

 

 数多のケンタウロス達が、珍しくも横たわる中、数人の狼獣人の姿も見える。

 ぐったりとしつつもその股間だけはいきり勃つノルマド達は、リハルバの知り合いでもあった。

 

「ま、待てっ、リハルバっ!」

 

 思わず駆け寄ろうとするリハルバを、グリエラーンが咄嗟に止める。

 その頭に去来するものはーーー。

 

「ダイラムっ、あれはっ、ガ、ガズバーンでの、あ、あれか……?」

 

 グリエラーンの懸念は、目の前で繰り広げられているそれが、ダイラムの遠見の力で見通した、ガズバーンの王宮で父や戦士達が巻き込まれているであろう、ワイバーンによる肉宴と同質のものであるのかどうなのか、という点である。

 

「いえ、グリエラーン様、あのときのものとは大きく違います。男達の意思は他の者からの汚染で濁ってはおらず、己の意思は明瞭なままのようですな。

 とにかく肉欲による情交への思念のみが非常に強くなっております。

 精神的な支配の影響下にあるわけでは無く、ただひたすらに己の欲望の発散を願っている状態、と言えましょうか……」

 

 ダイラムの持って回った言い方に気付いたのか、リハルバが割って入る。

 

「それは……。ここにいる全員が、原因は分からないが『発情』している、と受け止めていいのでしょうか?」

 

 この若き龍騎の言葉が一番端的に状況を表していたのであろう。

 互いの肉棒を口にし、手にし、ノルマド達の尻には長大なケンタウロス達の逸物が挿入されたまま、だらしなくも大量の汁にまみれている。

 そこここで聞こえる呻きは、それぞれの射精や肉動に伴い漏れ出しているようではあるが、ケンタウロス達に比べれば、ノルマドの男達の疲労がより強く見えた。

 

「介抱が必要なものもいるようだ。ダイラム、ケンタウロス達の文化でこのような形で何か儀式性のあるもののことについては聞いたことがあるか?」

「いえ、少なくとも私が見聞した中ではございませぬな」

「彼らの中に我らが立ち交じることで、何らかの危険が発生するような『気配』は、この場にあるや否や?」

「それも特には見られませぬ。男達の頭の中にあるものは、ひたすらな射精欲だけである、と言えましょう」

「では、ケンタウロス達とノルマド達の身体安全の保全にかかる事案として、我々も介入しよう」

 

 グリエラーンの言葉は、竜人帝国の皇位継承権を持つものとして、慎重さと博愛の立場から出たものだ。

 万が一、種族ごとの『文化的な儀式』としてこの状態が形作られているのであれば、そこに介入することは他文化への敬意を失する行いとなってしまう。

 また、ここにいるもの達の身体的な危機を黙って見過ごすこともまた、巨大な帝国の運営をを誇りとする竜人としての矜恃に関わる大きなことなのであった。

 

「大丈夫か? 肉体的に損傷のあるものはいないか?」

「誰か、ケンタウロスやノルマドの中で、話せるものはいないか? 私はガズバーン帝国皇帝グルムの嫡子、グリエラーンだ」

 

 累々と重なり蠢く、ぐったりとした肉体。

 朦朧とした意識の中で、その屹立した逸物だけがビクビクと上下に振り立てられる様子は、やはりかなり『おかしな』状況であった。

 

「あ、あんたらは……?」

 

 かろうじてその上半身を起こしたのは、まさにケンタウロスの族長ベルクであった。

 

「ガズバーンの竜人か……。ああ、済まん、だんだん頭がはっきりしてきた……。俺はこの森の頭のベルクという。

 この……、ああ、この状況を端的に言えば、欲情しきったノルマドの連中の精気に、俺達も巻き込まれたってことだな……。

 ああ、そうだ、昨日からの俺達は、もうどこか、正気を失っていた……。あんたらがまだこの影響を受けてないんなら、ノルマド達をまずはここから、引き離してくれ。

 あいつらも俺達に何十回もヤられて、相当参ってるはずだ……」

 

 ベルクの言葉に従い、広場にいた4人のノルマドを取りあえずはケンタウロス達から遠ざけるグリエラーンの一行である。

 

「グリエラーン様、リハルバ殿、ノルマドの4人は魔導の力で回復出来ぬものか、少し試してみましょう。

 お二人は、先ほどのケンタウロス、ベルク殿から、もう少し詳しい状況を聞き出してくだされ」

 

 食糧倉庫としてでも使われているのか、簡易的な建物へと失神状態のようなノルマド達を寝かせた一行である。

 

「ああ、頼む、ダイラム。ただ、これはなにやら近くにいるものにも影響するようだ。私自身もこんなときなのに興奮してきている……。リハルバ、そっちはどうだ?」

「済まん、グリエル。私もだ……。ややもすると、生殖性器が、スリットから飛び出そうだ……」

「この私にも少しばかり……。まあ幸いなことに、このノルマドの者達からは『陰』や『邪』の気配は感じませぬ。が、とにかく用心して、事に当たりましょう」

 

 ノルマド達を心配そうに見遣ったリハルバが、グリエラーンとともにケンタウロスの族長ベルクへと話を聞きに再び広場へと向かう。

 

「さて、儂はここでノルマド達を少し探ってみようかの……」

 

 ぐったりと横たわる4人のノルマド達。

 その全身はケンタウロス達の精汁にまみれ、尻穴はおそらくは一昼夜にわたり巨大な逸物を受け入れ続けたことによる腫れと熱を帯びている。

 ドロドロとした体液が漏れ出るその肉腔を心配そうに見遣りながら、ダイラムの暗緑色の鱗状の皮膚に覆われた手が、狼獣人達の額へとかざされる。

 

「これは……。これほどまでの状態になっても、まだ情欲の滾りがおさまっておらぬのか……。

 これは、い、いかん、こちらも巻き込まれる……」

 

 ダイラムのスリットから、ノルマドのものたちよりも倍以上にもなる、長大な逸物が飛び出していた。

 ノルマド達の意思と記憶を『探る』魔導行為そのものが、ダイラムの肉体へとその『意思』をフィードバックしてしまうのだ。

 

「へへ、あんたも俺を犯してくれるのか?」

 

 横たわるノルマドの1人がうっすらとその目を開いていた。

 その瞳に映るのは自分達を攫おうとした竜人と同じ姿のものであるはずなのだが、それを不思議とするはずの思考が上手く回らないでいる。

 

「ああ……。あんたのチンポ、龍騎のに似てるな……。俺も何十回も何百回も、ドラガヌのチンポでイかせてもらってるんだ……。

 頼む、頼むから、あんたのチンポで、俺の腹ん中、掻き回してくれ……」

「ああ、俺も、俺の口に、あんたの汁をくれ……」

「あんたの肉穴に、俺のを挿れさせてくれ……。その白いスリットを、犯させてくれ……」

 

 ゆっくりとした、疲れきった動きではあるのだが、半覚醒のままのノルマドの男達が、ダイラムの肉体へと群がっていく。

 体力・身体能力的にはノルマドの数人であれば十分に対応できるはずのダイラムではあるのだが、ノルマド達を傷付けてはいけない、保護しなければならないとの思いと、自らその意思への『潜り込み』を為そうとした矢先の出来事に、咄嗟の対処が出来なかったのか。

 

 4人の狼獣人に押し倒されたダイラムの身体が、揮発した薬物の影響を強く受け始めていた。

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

「ケンタウロスの族長、ベルク殿。ノルマドのもの達は私達の魔導師が見てくれている。

 あなた方も魔導力は一定あるとは聞いているが、なぜにこのような事態になってしまったのか、よかったら聞かせてもらえないだろうか?」

 

 まだ調子の戻らないベルクの前に、グリエラーンとリハルバが戻ってきていた。

 

「ああ、礼を尽くしてくれてありがとう。

 とにかく始まりがはっきりしない出来事ではあったのだが……。

 最初は森に逃げ込んできたノルマド達を観察し、その後にこちらが包囲した上で声をかけた。

 とにかくその時点で既に彼らは欲情しきっていて、この森に来るまでにも互いの肉欲の処理を重ねながら辿り着いたとのことだったのだ。

 おかしいと思いながらも詳しい話を聞こうとしたら、もう彼らの方からこちらに色気をこいてきたというわけだ。

 我らの中で精神探査の魔導力に長けるものにも確認したが、単に肉欲の虜になっているだけで、いわゆるこちらをなにか陥れようとする意思は見受けられないとの報告でな……」

 

 最初は少しばかり気を遣った話しぶりであったベルクの言葉が、少しずついつもの調子へと戻ってきていく。

 

「ああ、その点は我々の魔導師も同じことを言っていた。いわゆる『邪気』のようなものは感じられず、ひたすらに発情しているだけのようだとな」

 

「ああ、俺達の見立てもそうだった。

 そうなるとまあ、恥ずかしい話で俺達も好き者の集まりではあるんで、ここでの乱交がおっぱじまったと言うわけだ。

 そう言うことで俺達にも何が何やら分からぬ状態のまま、こうなっちまったっていうのがホントのところだな。

 ただノルマドの奴らと交わる中で、何やらガズバーンとの絡みで薬を盛られたのどうのとも言っていたんだが、とにかく断片的で分からなくてな。

 

 俺の見立てでは、竜人と龍騎のあんたらは俺達を助けてくれようとしてるようだし、ノルマドの連中の話に出て来た奴らとは違うような気がしてるしな。

 あ、これは俺の直観って奴だが、これはこれで俺達は自分の意思決定にそれなりに反映させてる『能力』の一つだ」

 

「初めて会う我々に、種族能力の開示をしていただけたこと、いたみいる。

 ベルク殿の察しの通り、ノルマドのゲルを襲ったガズバーンのものと我々はまったく立場も目的も違うし、どちらかと言えば敵対関係にあると言っていいだろう」

「なるほどな……。まあ、その話も詳しく聞きたいところなんだが、俺自身も含め、まだまだ皆の肉欲がおさまってない。

 あんたらと違って俺達は自分で、その、まあ、性欲・肉欲の『処理』をすることが難しいんだ……」

 

 ノルマド達に『盛られた』薬物は、おそらくは狼獣人専用とも言えるほどの効果を持ったものだと考えられた。

 それでも族としての隔たりの大きいグリエラーンやリハルバ達よりも、ノルマドと同じく哺乳トーテムを祖とするケンタウロス達にとって、よりその『効き』はいいのだろう。

 長大な逸物を聳やかせたままのベルクが、申し訳なさそうに呟く。

 

「いや、我らにもかなりの影響が出ているな、これは……。私もリハルバも何発か抜かねばおさまるまい……」

「グリエル、私の方はあなたが目の前にいるためそれは構わないのだが、ダイラム殿はどうしているであろうか?」

 

 グリエラーンとリハルバの呟きにハッとするベルク。

 

「ああ、ノルマド達の面倒を見てもらってる魔導師か! 狼の奴らの方が影響力は強いし、体液を浴びてしまえばなおさらだ。彼らはどこに?」

「森の奥の方にいったん隔離しようと倉庫のようなところに連れて行ったのだが……。あなた方の居住地を勝手に動き回るのもどうかと思うし、よければ一緒に見に行ってくれぬか、ベルク殿」

「ああ、分かった。ちと、その、アレが勃ったままで申し訳ないが……」

「? 生理現象に謝る必要はなかろう、ベルク殿。我らのスリットも、すでに蜜を湛え始めている」

 

 互いに首をひねる会話ではあったようだが、緊急性の方が勝ると判断したのか、ベルクとグリエラーン、リハルバがともにノルマド達とダイラムの下へと向かうことになった。

 

「こ、これは……」

 

 簡易倉庫に辿り着いた一行が目にしたものは、4人のノルマドに蹂躙される、ダイラムの姿であった。

 

「大丈夫ですか、ダイラム殿!」

 

 リハルバはかなりの動揺を見せていたが、ある程度の予測をしていたものか、グリエラーンとベルクはそこまでも無いようだ。

 当のダイラムそのものも、そこまでショックを受けているようでは無い。

 

「いや、振りほどこうと思えば出来たのですが、今のノルマド達では受け身を取ることも叶わぬかと思い、されるがままとなっておりました。

 まあ、私の欲望もかなり刺激を受けておりましたゆえ、ちょうどよかったと言えばそうかもですな」

 

 からからと笑うダイラムにホッとするリハルバ。

 グリエラーンにおいては元々そう心配もしていなかったようにすら思える。

 

「しかし、ノルマド達の性臭もたまらぬな、リハルバ……。お前ももう、勃起してきているじゃないか」

 

 見ればグリエラーンもリハルバも、情交を続けるノルマド達の昂ぶりに巻き込まれたか、スリットから猛々しくもその生殖性器が飛び出し、その根本からはとろとろとした潤滑体液が溢れ出していた。

 

「あんたらも欲情しちまったようだな……。魔導師さんよ、ここに及んではもう大丈夫だとは思うんだが、ノルマド達のこの肉欲の昂ぶりは、その、本当に特に危険というものでも無いんだよな?」

 

 それは質問と言うよりも、同意を求めた問いであったろう。

 

「ああ、情を交わすにあたってかなり『深い』ところまで入ってみましたが、彼らにこちらを傷付ける意図はまったく無いと言ってよいでしょうな。

 体力的なことで言えば、先ほどの儂のように、我らやケンタウロス族の方が、より暴力を行使する側になるじゃろう。

 そこに気を付けさえすれば、彼らが落ち着くまで、今しばし、皆で楽しんでもよいとは思いますがな」

 

 身繕いをしながらのダイラムもまた、そのスリットから覗くは長大な逸物。

 

「おお、魔導先生のお墨付きが出たぞ! あんたらもさっきの広場に戻って、その、俺らも含めて楽しまないか?」

 

 顔を見合わせるグリエラーンとリハルバではあるが、『契り』を成した相手としか交わることは出来ないのではあれど、その視覚や聴覚で他の者達の情交を楽しむことは、なんら意に介さぬようである。

 

 ふらふらと、それでも股間からは先汁を垂らすノルマド達を含め、再び広場へと戻った一行。

 

「グリエラーン様、リハルバ殿。お二人は互いに交わるしかなさりようが無いとは思いますが、このダイラム、ノルマド達との深き交わりにてこれ以上堪えることは、もう出来ませぬ。

 目の前にて失礼じゃが、彼らの情交に加わらせていただきます」

 

 グリエラーンの返事を待たずして、ダイラムが肉の饗宴へとその身を投じていく。

 

 うつ伏せになったノルマドの尻にスリットから勃ち上がるダイラムの生殖性器がずぶずぶと埋まり、持ち上げた上半身ではベルクの何十センチもある逸物を扱き上げる。

 ビクビクと震えるその肉棒を抱き締めるようにして己の腹で擦り上げながら、その舌先では亀頭先端をねぶり回していくのだ。

 

「ああ、竜人のチンポが俺の尻に……。ああっ、すごいっ、中でっ、中で動いてるっ! あっ、あっ、当たるっ、当たるっ……!」

「おおっ、竜人の鱗で、鱗で、擦られるのがっ、た、たまらんっ! もっとっ、もっと擦ってくれっ! あんたの鱗で擦ってっ、亀頭をしゃぶってくれっ!!」

 

 ダイラムやグリエラーン、リハルバ達に比べればいささか肉欲を表に出すことに『羞恥』を感じていたようなベルクではあったが、ことここに至っては、自らの欲望を口に出すことに躊躇いは無くなったようだ。

 

 ケンタウロスもノルマドもしばしの休息がその身の回復を促したのか。

 しばらくの微睡みの後、己の射精欲、肉欲に忠実に従い、その口で、手で、尻で、互いの逸物を食らい、しゃぶり上げ、絞り上げていく。

 そこここで再び聞こえ始めたよがり声が、周囲の情欲をさらに昂ぶらせ、その声は多重唱のごとくに響き合っていくのだ。

 

「出るっ、あんたの尻にっ、またっ、出すっ、出すぞっ……」

「ああっ、あんたの汁でっ、俺の腹がパンパンに張っちまうよっ……。すげえっ、すげえ幸せだっ、俺っ……!」

「何発やっても、何発出してもっ、あんたが欲しいっ! もっともっと、犯らせてくれっ!」

「何度でも来いっ! 全部飲んでやるっ! あんたの雄汁っ、全部俺が飲み干してやるっ!!!」

 

 彼らを見つめるグリエラーンとリハルバもまた、スリットから垂れ落ちる潤滑体液をじゅるじゅるとすすりあげ、双方向での交尾をなさんとしていた。

 

「ああ、グリエルのが私の中に……。そして私のものが、グリエルの中に……」

「リハルバ……、この『挿れ合い』のなんと心地よいことなのか。ああ、互いの根本が押し合って、スリットと肉壁の締め付けで、もう、もうたまらないぞっ……」

「私もだ、グリエルっ。あっ、あっ、いいっ、気持ちいいっ!!!」

 

 彼らが肉宴を再開し、どれほどの時間が経ったものか。

 

 20人(頭?)近いケンタウロス、4人のノルマド、1人の龍騎と2人の竜人。

 疲れを知らぬケンタウロス達においても、その吐精のペースがわずかに鈍ってきた頃。それでも彼らは互いの肉体を、精液を、その舌を求め、手を伸ばす。

 それぞれの交わりが爛れたように続く中、さらに彼らの情欲を高めるかのような生暖かな風が吹くーーーー。

 

「気を付けよっ!! 皆のものっ!!!」

 

 ダイラムの突然の一喝が、男達を一瞬の正気に戻した。

 

「ほう……。ワイバーンの媚薬の気配をたどってきてみれば、なんともはや面白き交わりが始まっていたものだな……」

 

 広場の中空に浮かぶは、淫蕩な笑みを湛えた黒獅子の姿ーーーー。

 

「ア、アスモデウスっ!!」

 

 グリエラーンの声が響く。

 竜人2人と龍騎が一気に正気に戻り、魔導の力を己の肉体に纏ったとき、ケンタウロス達がようやくその目を広場の上空へと向けた。

 

「見るなっ! 見てはいかんっ!!」

 

 ダイラムの喝もむなしく、一瞬でその意思を奪われていくケンタウロス達。

 族長のベルクだけは、グリエラーン達との直接な接触と事前の話から、なんとか目を逸らしていたようだ。

 

「あ、あれがアスモデウス……。こんな、こんな圧倒的な……、あんな『モノ』に、我らがどうしたって、敵うわけが無い……」

 

 族長としても、『賢馬人』と呼ばれるほどの『智』を持つものとしても、己の理解の範疇を超えた、目の前に『ある』圧倒的な『存在』と『力』。

 それは今の時代のどれほどの戦力を、どれほどの魔導力を集めたとしても、歯牙にもかからぬほどのものであると、一瞬にして『体感』出来てしまうほどの、彼我の隔たり。

 

「ほう、お前は竜人の国にいた……。まあよい、もはや過ぎたことだ。さて、お主がケンタウロスの族長か。

 やはり一族の頭たるもの、なかなかによい『気』をしておるな……」

 

 グリエラーンにチラリと視線をくれたアスモデウスであるが、その興味も一瞬のものだったようだ。

 ケンタウロスの族長、ベルクを見遣る邪神の瞳が、淫蕩に輝く。

 

 なんとか動ける龍騎と竜人が一塊になり、ダイラムの結界形成に力を貸す。

 

 宙に浮かぶアスモデウスの顕現体がふらふらと広場の上空を漂った後に、ベルクを正面に見据える位置に止まっていた。

 

「これはこれは……。その深き思考と『気』の昂ぶりは、なかなかのものなるな……。ワイバーンもよき遊びを思い付いたもの」

 

 アスモデウスの『声』が響く度に、広場のあちこちから男達の情欲にまみれた吐精の呻き声が上がる。

 邪神の『淫の気』に呑まれた男達に取り、射精そのものは『淫の気』を高める一過程に過ぎず、吐精そのものでその行為がおさまる訳も無い。

 

「こ、これが、あんたの『力』なのか……」

 

 暴発しそうな己の逸物の動きをなんとか堪え、食いしばった口から荒い息を吐き続けるベルク。

 それはかつて急襲を受けたガズバーン皇帝、グルムの姿にも似て。

 

「私を正面に見据えて、その堪えようはさすがに一族を束ねるものか。よきかな、よきかな。まさに我が『仔』を成す相手として、これほどの強者のあること、ここに我とお主の喜びとしよう」

 

 その君臨を王宮にて許したグリエラーンとダイラムに取って、アスモデウスの文言の一言一句が、怖ろしいまでの悍ましさに包まれていた。

 そしてその『淫の気』を正面から受け止めるベルク。

 

「屈せぬぞ、アスモデウスとやら……。私は、お前の、こ、こんな……」

 

「こんな、とは無礼な言葉ではあるな。では、この私が直接お主に触れてみようぞ。淫欲とも呼ばれる我の力を、とくと味わうがよい!」

 

 ゆるり、と近付く黒獅子の姿に、指1本すら動かすことが出来ぬベルク。

 ダイラムの魔導詠唱でなんとか己の『正気』を保つ3人のことなど、まるで見えていないかのようなアスモデウスの動きであった。

 

「ここまで近付きても『折れぬ』とは、いと素晴らしきこと。では、我の与える愉悦を、存分に味わうがよい」

 

 黒獅子の尾がベルクの下腹部へと伸びる。

 アスモデウスの淫蕩な笑みがこぼれ、その漆黒の獣毛に覆われた尾の先が、動けぬベルクのいきり勃った逸物に触れた。

 

「ああああっ、出るっ、出ちまうっ……」

 

 おそらくは今回の邪神の降臨以降、初めてその精神体が直接の接触を許したのが、このベルクであった。

 それほどまでにその『種族を率いる者』としての矜恃と精神力の高さを、このケンタウロスの族長は持ち得ていたのである。

 

「お主らの情交では、1度目2度目などはそれこそ『上澄み』にしかならぬようだな。では幾度もの吐精にて吐き出された『精気』にて、我もまた交わることとしよう」

 

 アスモデウスとベルクの頭上に、三度目の黒球が現れる。

 この場にいる男達の中でそれを目にした者はグリエラーンとダイラムだけではあったが、リハルバもまた彼らの話からそれがなにを意味するかは理解したようだ。

 

「また新しい眷族を、淫獣を生み出すというのか……」

 

 グリエラーンの言葉には、かつての己の経験から導き出される慟哭に満ちていた。

 

 アスモデウスの、その黒獅子の姿をした邪神の尾が揺らめく度に、幾度もの吐精を繰り返すベルク。

 その瞳からはすでに意思の光が失われ、自らが体感している悦楽にのみ従う傀儡への道が開かれていく。

 

「ベルク殿……」

「今は動くときでは、いや、動けるときではござらぬ、グリエラーン様……」

 

 細かく震えるグリエラーンの肩を抱くリハルバもまた、ダイラムの言葉を理解している。

 たとえこの場で今現在『正気』を保っている3人であっても、それはアスモデウスの関心が『今は』ベルクに向けられているからだけのこと。

 その意識がほんのわずかでもこちらへと向き直せば、瞬く間にこの身の自由が奪われてしまうのは明らかであった。

 かろうじて3人が寄り添うことが出来たのも、邪神の自分達への『関心の無さ』の恩恵であったに過ぎないのである。

 

「そろそろ良い『気』が溜まってきたようだな」

 

 瞬く間に幾度もの吐精を繰り返す、族長ベルク。

 その足下へと垂れ落ちる大量の精汁が、その粘性の高さゆえにねっとりとした白濁塊を形作ってさえいく。

 

 アスモデウスの黒球の横に、おぞましくも美しい、白く濁った同じような球が現れていた。

 

 そしてその2つの球が近付き……。

 

 広い範囲の木々が大きく撓み、あまりの『淫の気』に身を潜めていた鳥達が一斉に飛び立つ。

 爆音と生暖かな風が通り過ぎた広場に、また新しき淫獣が生み出されていた。

 

「ほう……、ケンタウロスとやらの馬体の方での顕現となったか……。お前のような『仔』は、私の記憶の中でも初めてだな……。

 ん、お前は、喋れぬのか……?」

 

 生み出した一方の『親』であるアスモデウスに取っても、その『仔』の性状は分からぬものらしい。

 その姿は背丈はケンタウロス一族とそうも変わらぬ、しかしその姿は完全な馬体の『仔』であった。

 かろうじて獣である『馬』との違いは、頭部に突き出す2本の角か。

 アスモデウスと同じく漆黒の獣毛に包まれた『それ』が、あたりの気配を探るようにその視線を動かしていく。

 

「ふうむ……。このような眷族はまことに初めてだな。ほう、どうやら『淫気』の扱いに長けておるようだな。

 ふむ、お前を『バイコーン』と呼ぶことにしよう。バイコーンよ、この場の『淫の気』で、少し遊んでみよ」

 

 言葉を通ぜぬとも、邪神とその眷族は何かしら通じる手段を持ち得ているのか、バイコーンと名付けられたその新しき『淫獣』が、広場で爛れたような情交を繰り返していたノルマドとケンタウロスの一組に目をやった。

 

「ああああっ、いくっ、またイくっ……」

「な、なんだっ、急に締め付けがっ、ああっ、出るっ、出るっ、出るぞっーーー!!」

 

 場に漂う『淫の気』を操れるのか、バイコーンの眼差しを浴びた者達が次々と吐精を繰り返していた。

 

「ふむ、己が発した『淫の気』では無くとも、扱うことが出来るのか……。これはもしや……、バイコーンよ、この場の『淫の気』を、払うことは出来るのか?」

 

 その瞬間であった。

 それまで漆黒の体毛に覆われていたはずのバイコーンの全身が、まさに『純白』のそれへと変化したのだ。

 

「んんっ、これはっ……!」

 

 なんとその変化はアスモデウスにすら、『驚き』を与えていた。

 バイコーンのその真白き頭から天を指す2本の角が振り払われると同時に、あたりに漂っていた『淫の気』=『邪神による精神支配』が、一気に『払われた』のだ。

 

 邪神とその眷族による『淫の気』とは、肉欲の喚起のみにあらず、受けた者の『精神を支配する』その力こそが、忌まわしきもの、悍ましきものとして捉えられている。

 

「ほほう……。我の『淫の気』を、欠片すら残さぬほどに吹きやるか、バイコーンよ……。

 これはこの者どもの記憶は消しておかぬと、後々ちと面倒なことになるやもな……」

 

 アスモデウスがその黒獅子の口から、ふうっとあたりに吐息を散らす。

 己が現れた、という記憶を消し去ることで、『淫の気』を操るバイコーンに関しての記憶をも、広場にいた男達から消し去るつもりなのだろう。

 そしてその瞬間、アスモデウスの顕現体、黒獅子の姿も広場の上空から文字通り『消え去って』いた。

 

 広場にいた者でかろうじてその精神操作から逃れ得たのは、魔導障壁を身に纏っていた、ダイラム達だけである。

 

「あっ、お、俺達はなにを……?」

「さっきまで、別の奴とヤってたのに、な、なんだ? どうした?」

「何か憑き物が落ちたような……。これはあまりの興奮に、記憶が飛んだのか……?」

 

 そこかしこでノルマドとケンタウロス達が、ぶんぶんと頭を振っている。

 互いに欲情していたこと、今もその名残があることは理解できているのだが、しばらくの間の記憶の断絶による、交情相手の変化や吐精の具合などが、『繋がらない記憶』として認識されたのだ。

 

 自らの魔導障壁に包まれる中、それに気付いたダイラムも驚きを隠せない。

 

「こ、これは、アスモデウスの『淫の気』を、強き精神支配を、あの淫獣は『完全に払う』ことが出来るのかっ!!」

 

 真白きバイコーン、広場のあちこちで正気を取り戻しつつあるケンタウロスとノルマド達、さらにはグリエラーンとリハルバ、ダイラム。

 そのもの達のいる広場に微妙な『間』が出来た瞬間、高台の茂みから猛烈な勢いで駆け下る一人のケンタウロスがいた。

 

「掴まれっ!」

 

 その脚の速度を一切緩めることは無く、グリエラーン達へと突進していく馬人は、ここ数日密やかに広場を監視し続けていたローその人であった。

 

 咄嗟の判断に優れるグリエラーンが、一瞬にしてその『意』を読み取る。

 

「リハルバっ、ダイラムもっ!」

「逃げますぞっ、リハルバ殿っ!!」

 

 少しばかり上体を屈めたローの両腕が、竜人二人と一人の龍騎を担ぎ上げる。

 その1人の賢馬人は、恐るべきその膂力腕力により3人を抱えた姿のまま、あっという間に森の奥へとその姿を消したのであった。

 

「ふむ、まあ、あれらは別に構わぬが……。バイコーン、お前の力はなかなか面白きもののようではあるな……。黒き肉体のときには『淫の気』を扱い、白きときには『払う』ということか……。

 ふむ、ふむ、またこれも面白きことかな。

 ワイバーンやフェンリルらが、どのように動くかも、含めてな……」

 

 邪神にとっては、己の『淫の気』をかき消すその力さえ『面白き』ものであるのか。視覚的に存在を消したはずのアスモデウスの『意思』がバイコーンには伝わったようだ。

 この場にもしワイバーンがいれば、眷族同士の争いにすらなるはずのバイコーンの持つ『力』であったのではあるが。

 

「まあ、良い。お前もまた、自由に動いてみよ。またさらに『面白きこと』が見つかるかもしれぬからな」

 

 その瞬間、既にケンタウロス達からの視界からは消えていたアスモデウスの精神体も、かき消すかのようにその『存在』を何処かへと移したようだ。

 アスモデウスが『いたはず』の空間をしばらく見つめていた白き淫獣バイコーンが、静かな足取りでやはり広場を後にする。

 

 記憶と意識を操作され、状況が飲み込めぬままのケンタウロス達とノルマド達もまた、己の肉体と広場のあちこちに溜まる大量の精汁と体液に、困惑した頭を整えられずにいたのであった。